Annabel's Private Cooking Classあなべるお菓子教室 ~ ” こころ豊かな暮らし ”

あなべるお菓子教室はコロナで終了となりましたが、これからも体に良い食べ物を紹介していくつもりです。どうぞご期待ください。

ダマスクローズ 123

2020年09月30日 | ダマスクローズをさがして ― Ⅲ

その他の日本自生の薔薇又は原種薔薇 (日本のレッドデータ検索システム(https://ikilog.biodic.go.jp/Rdb/env)から以下引用させていただきました。

                             

Rosa fujisanensis (Makino) Makino  フジイバラ

わが国の本州、中部地方と紀伊半島それに四国北部に分布、日本原種

Rosa fujisanensis (Makino) Makino

=Rosa fujisanensis var. glabristyla Koidz.

=Rosa fujisanensis var. setifera Koidz.

=Rosa luciae var. fujisanensis Makino

=Rosa multiflora

=Rosa oligantha var. fujisanensis (Makino) Koidz.

     

   

                      http://bcaweb.bai.ne.jp/sashiba/turusyokubutu/hujiibara.htm

   

花柱は柱状で多毛

                     

頂賞葉は側小葉とほぼ同大萼筒、奇数羽状複葉で、楕円形の小葉が7~9枚つき、縁には細かく鋭い鋸歯がある

                     

托葉は腺鋸歯縁

       

                       

フジイバラの特徴

樹形  山地の日当たりの良い林縁や疎林などに生え、高さは2mほどになる

花期  6月~7月

花   直径2.5cmの白い花、短い円錐花序に1~20花

花柱  柱状で多毛

雄しべ 多数で黄色

小花柄 横に開く

葉   頂小葉と側小葉はほぼ同じ大きさ

萼筒  奇数羽状複葉で、楕円形の小葉が7~9枚つき、縁には細かく鋭い鋸歯がある

萼片  卵状紡錘形
托葉  腺鋸歯縁

苞   披針形、腺歯縁

ローズヒップ 球形の偽果で、秋に赤く熟す

 

都道府県名

上位分類群

科名

和名/学名

RDBカテゴリ名

統一カテゴリ

愛媛県

離弁花類

バラ

フジイバラ
  Rosa fujisanensis

準絶滅危惧(NT)

準絶滅危惧種

大野ヶ原では約20〜30個体あるものの、寒風山のものは数個体のみ確認されているだけで、産地は点在する。植生の遷移による被圧、開発による減少が懸念されます。

https://www.pref.ehime.jp/reddatabook2014/detail/09_07_006020_5.html 

 

 


ダマスクローズ 122

2020年09月28日 | ダマスクローズをさがして ― Ⅲ

※3 Rosa chinensis Jacq. ロサ キネンシス、コウシンバラ、 月季

貴州省、湖北省、四川省の中華人民共和国中部を原産地とする薔薇です。

Rosa chinensis Jacq.

=Rosa bengalensis var. chinensis Pers.

=Rosa borbonica Hort.Monac.

=Rosa chinensis var. chinensis

=Rosa chinensis var. manettii Dippel

=Rosa chinensis var. viridiflora (Lév.) Dipp.

=Rosa indica Focke

=Rosa indica Lour.

=Rosa indica Redout

=Rosa indica var. vulgaris Redout

Rosa montezumae Humb. & Bonpl.

=Rosa montezumae Humb. & Bonpl. ex Red. & Thory

=Rosa nankinensis Lour.

=Rosa roulettii Correvon

=Rosa sinica L.

変種

Rosa chinensis var. longifolia (Willd.) Rehder

Rosa chinensis var. minima (Sims) Voss

Rosa chinensis var. semperflorens (Curtis) Koehne

Rosa chinensis var. spontanea (Rehder & Wils.) T.T.Yu & T.C.Ku

品種

Rosa chinensis f. chinensis

Rosa chinensis f. mutabilis (Correvon) Rehder

Rosa chinensis f. viridiflora

     

   https://sites.google.com/site/meddbase/database/r/rosa-chinensis-jacq

   

     http://powo.science.kew.org/taxon/urn:lsid:ipni.org:names:732029-1

  

               花柱は突きだし出し、ほぼ雄しべと同長、短毛がある

     

             花托筒は卵状球形~洋梨形 、無毛

       

    托葉は葉柄に接合し、全縁にしばしば短い腺毛がある、先は尖鋭形。

       

         棘は曲がっていて扁平、多数~無いこともある

         http://mikawanoyasou.org/data/kousinbara.htm

    

小葉は3~5枚、まれに7個、葉裏は帯緑色、葉表は暗緑色、しばしば光沢があり、広卵形~卵状楕円形、両面ともほぼ無毛、基部はほぼ円形~広楔形、縁は鋭鋸歯、先は長い尖鋭形~鋭形。

       

           ローズヒップは赤色、卵形~洋梨形

        https://www.ootk.net/cgi/shikihtml/shiki_2450.htm

 

Rosa chinensis Jacq.の特徴

花    5個の半二重~二重、4~5枚、束生又はまれに単生、基部は楔形、先は凹頭

花の大きさ 4-5cm

花の色  赤色~ピンク色~白色

花托筒  卵状球形~洋梨形 、無毛

萼片   5枚、早落性、卵形ときに葉状、表面は無毛、裏面は長軟毛が密生し、縁は少数分裂し、先は尾状

花柱   突き出し、雄しべの約半分の長さ、短毛がある

花柄   長さ2.5~6㎝、ほぼ無毛又は短い腺毛がある、苞は1~3個、線形、無毛、縁は腺毛があるか全縁、先は鋭形

香り   ほとんど無い又は、すがすがしい甘い香り

花期   花は5月が最も多く、年中咲き、茎の先に1-数個つく

ローズヒップ 赤色、卵形~洋梨形、直径1~2㎝

樹形   高さ1-2mに成長

棘    緑色、基部が太くなった茎に、少し鉤状となった扁平な刺を散生する

葉    葉は長さ6-14㎝、羽状に長さ2.5~6cm、幅1~3cmの小葉が3~5枚付く、まれに7枚、長楕円形、楕円形、または広楕円形、鋭尖頭または鋭頭、基部は広いくさび形か円く、ややふぞろいな鋭鋸歯縁、両面無毛、ときに葉軸や小葉の中肋に沿って鉤刺がある、葉裏は帯緑色、葉表は暗緑色、しばしば光沢がある

托葉   葉柄に接合し、全縁にしばしば短い腺毛がある、2/3まで葉柄につき、ふちに腺毛がある。托葉下の対の刺はない、先は尖鋭形

薬用   花と実は、生理不順、生理痛、甲状腺の腫れに効能があるとされ、伝統的な中国漢方薬として使用される

 

和名の庚申(こうしん)とは干支(えと) の庚申(かのえ・さる)の日を意味し、ほぼ2ケ月に1回くる。花が庚申ごとに長期間咲き続けるという意味で、コウシンバラという。中国名の月季花も同様の意味。中国から古い時代に渡来し、日本でも古くから栽培されている。チョウシュンカ(長春花)は古名。
中国の観賞用のバラで、世界中で広く栽培されている園芸種であり、バラの園芸品種の基になる重要な種でもある。また、花と実は古くから中国漢方薬とされている。園芸種は学名がRosa chinensis Jacq. var. chinensis と整理されている。貴州省、湖北省、四川省に自生する一重の5弁花を変種var. spontanea としている。

 

 


ダマスクローズ 121

2020年09月26日 | ダマスクローズをさがして ― Ⅲ

Rosa luciae Franch. & Rochebr.  リュウキュウテリハノイバラ

九州南部から南西諸島に分布、海岸沿いなどで地面を這うように自生、落葉低木。
Rosa luciae Franch. & Rochebr.

=Rosa luciae f. glandulifera (Koidz.) H.Ohba

http://www.furusato-tanegashima.net/sk/name-ra/ryukyuterihanoibara.html

                   

      

      

    

                         

    

                     

http://jpnrdb.com/search.php?mode=spec&q=%A5%DE&k=06&disp=thumb&pageID=7&s=jpd

 

花   真っ白で、直径は約3cm、花びらは薄く、翌日には散ってしまう

花の香り 花に近づくと、快い天然の香り

枝   無毛で長さ3~5mmの鈎形のトゲがある

葉   互生

ローズヒップ 10~11月に赤く熟す


テリハノイバラの品種としてリュウキュウテリハノイバラとトゲナシテリハノイバラ Rosa luciae Rochebr. et Franch. ex Crép. f. ohwii (Oishi) Yonek.があります。

 

都道府県名

上位分類群

科名

和名/学名

RDBカテゴリ名

統一カテゴリ

鹿児島県

離弁花類

バラ

リュウキュウテリハノイバラ
  Rosa wichuraiana var. glandulifera

準絶滅危惧

準絶滅危惧種

https://www.gbif.org/occurrence/2429461921

 

 

 

 


ダマスクローズ 120

2020年09月24日 | ダマスクローズをさがして ― Ⅲ

※2 Rosa luciae Franch. & Rochebr. テリハノイバラ 

日本では、宮城県以西の四国、九州、琉球に分布し、海岸や河川敷の礫地、造成地、山間部のブナ帯の裸地や草原などに自生。アジアでは、朝鮮、中国本土、台湾、フィリピンに分布します。

Rosa luciae Franch. & Rochebr.

Basionym of(正名として選ばれたシノニム)

≡Rosa luciae var. wichuraiana (Crépin) Koidz.

 

  ローズヒップは、長さ8-10mmの球状で、10〜11月に赤く熟し光沢がある先端に花柱や萼片の一部が残る

                               

葉は厚く、縁にあらい歯牙、表面は光沢ある深緑色で、裏面は淡緑色、頂小葉と側小葉はほぼ同じ大きさ、両面とも無毛、側小葉には柄はほとんどない。

 

萼片の内面に短毛が密生する 

托葉は、緑色で下部が葉柄と合着し、ふちに先端が腺になった鋸歯がある

                                 

雄しべは、多数付き、花柱は柱状に合着し、有毛

https://matsue-hana.com/hana/terihanoibara.html

 

Rosa luciae Franch. & Rochebr.の特徴

花    枝先に3~3.5cmの白い5弁花が数個集まって付く

雄しべ  多数、花柱は柱状に合着し、有毛

萼片   内面に短毛が密生する

香り   清々しい甘い香り

花期   6~7月

ローズヒップ 長さ8~10mmの球状になり、10〜11月に赤く熟し光沢がある先端に花柱や萼片の一部が残る、偽果のなかに入っているそう果は、長さ4〜5m、薬効がある

棘    枝は無毛、長さ3〜5mmの鈎形の刺がある

葉    互生の長さ4〜9cmの奇数羽状複葉で、厚く、円形または広卵形の7~9枚の小葉からなり、縁にあらい歯牙、表面は光沢ある深緑色で、裏面は淡緑色、頂小葉と側小葉はほぼ同じ大きさ、小葉は長さ1~2cmの楕円形または広倒卵形で、ふちには粗い鋸歯がある、先端は丸いものが多いが、尖るものもある、両面とも無毛、側小葉には柄はほとんどない。

托葉   緑色で下部が葉柄と合着し、ふちに先端が腺になった鋸歯がある

樹形   常緑つる性低木。主幹は根から放射状に地面を這い、つるが他の立木に絡みつくことが多い

                                                     

ノイバラとテリハノイバラは次の僅かな点を除いては非常に似ています。

テリハノイバラの托様には鋸歯があること。柱頭が有毛であること。根元の小葉の大きさがほぼ等しいこと。一方、ノイバラの托葉は深く裂け、赤い蜜腺があること。柱頭が無毛であること。根元の小葉が小さいこと。その他の、花の大きさ、ローズヒップの大きさ、花期等は環境、土壌に影響を受けてしっかりとした基準にはなりません。

 

 


ダマスクローズ 119

2020年09月22日 | ダマスクローズをさがして ― Ⅲ

Rosa multiflora var. adenochaeta (Koidz.) Ohwi ex H.Ohba ツクシイバラ (筑紫薔) 

四国、九州、朝鮮半島南部、中国中西部などに分布する、学名から判るように、ノイバラの変種です。

Rosa multiflora var. adenochaeta (Koidz.) Ohwi ex H.Ohba

≡Rosa multiflora var. adenochaeta (Koidz.) Ohwi

 

        

https://nishiki-kankou-navi.com/sightseeing/tukushiibara/

http://www.pharm.kumamoto-u.ac.jp/yakusodb/detail/003636.php

花序、花柄、萼に紅色の長い腺毛が密生する、特に花序は真っ赤になる程密生する

          

        

花   淡紅色または白色で、直径3~5cm

        

     

小葉は5~7枚、深緑色で粗い鋸歯があり、ノイバラと異なり小葉に光沢がある、葉軸は無毛で腺毛が生える

     

        

      

https://blog.goo.ne.jp/pea2005/e/8ea5706766b8a1a93ecaea8a000595be

ローズヒップ 直径5-8ミリ長さ8~10mm程

 

Rosa multiflora var. adenochaeta (Koidz.) Ohwi ex H.Ohbaの特徴

樹形  母種のノイバラより全体にやや大きい、野原や草原、道端、河川敷などによく生え、森林に出ることはあまりない、刈り込まれてもよく萌芽し、雑草の性格が強い

花   淡紅色または白色で、直径3~5cm

花期  5~6月

花序、花柄、萼に紅色の長い腺毛が密生する、特に花序は真っ赤になる程密生する

小葉  5~7枚、深緑色で粗い鋸歯があり、ノイバラと異なり小葉に光沢がある

葉裏の毛は少なく、葉軸は無毛で腺毛が生える

ローズヒップ 直径5-8ミリ長さ8~10mm程

 

都道府県名

上位分類群

科名

和名/学名

RDBカテゴリ名

統一カテゴリ

徳島県

離弁花類

バラ

ツクシイバラ
  Rosa multiflora var. adenochaeta

絶滅危惧Ⅱ類(VU)

絶滅危惧Ⅱ類

 

http://jpnrdb.com/search.php?mode=map&q=06030562361

 

バラ栽培の土台として適していたため、盗掘や河川環境の変化に伴い減少傾向にあます。現在自生している場所は少なく熊本県球磨郡錦町の球磨川河川敷で唯一、群生したツクシイバラを見ることができることから2004年に熊本県ではレッドデータブックに絶滅危惧種II類として登録しました。

 

 

 


ダマスクローズ 118

2020年09月20日 | ダマスクローズをさがして ― Ⅲ

ここからは日本、東アジアに自生する野生種が登場します。学名表記する機会が増えてきますが、その中に省略した命名者名が出てきます。一括ここにご紹介しておきます。参考になさってください。

 

Boulenger  George Albert Boulenger (1858/10/19-1937/11/23)

C.A.Mey.    Carl Anton von Meyer (1795/04/01-1855/02/24)

Crép.       François Crépin (1830/10/30-1903/04/30)

Franch.      Adrien René Franchet (1834/04/21-1900/04/15)

H.Ohba   大場 秀章 (1943/07/14-)

J.C.Wendl.  Johann Christoph Wendland (1755/07/17-1828/07/27)

Koidz.     小泉 源一 (1883/11/01-1953/12/21)

Lindel.       John Lindley (1799/02/05-1865/11/01)

Makino   牧野 富太郎 (1862/05/22-1957/01/18)

Momiy.   籾山 泰一 (1904/01/11-2000/03/03)

Nakai     中井 猛之進 (1882/11/09-1952/12/06)

Ohwi    大井 次三郎 (1905/09/18-1977/02/22)

Regel       Eduard August von Regel (1815/08/13-1892/04/15)

Rochebr.    Alphonse Trémeau de Rochebrune (1836/09/18-1912/04/23)

Sav.         Paul Amédée Ludovic Savatier (1830/10/19–1891/08/27)

Thunb.    Carl Peter Thunberg (1743/11/11-1828/08/08)

 

絶滅危惧種に関するデータは、NPO法人(野生動物調査協会とNPO法人 Envision環境保全事務所、http://jpnrdb.com/aboutsite.html)が作成した「日本のレッドデータ検索システム」を使わせていただきました。

 

ここからの内容を知る上で必要な花の構造をご紹介しておきます。

 

https://kotobank.jp/word/%E8%90%BC%E7%89%87-460734 から

 

以下に述べるノイバラとテリハノイバラ、ツクシイバラ、ヤマイバラ、ヤブイバラ、アズマイバラ、モリイバラ、ミヤコイバラ、フジイバラは Sect. Synstylae ( シンスティラ節 / ノイバラ節) に属します。

これらの薔薇は、属に共通した特徴;「 白い五弁の花びらを付け、花柱は萼筒の喉部から突出する、柱状の花柱は雄しべとほぼ同じ高さである、小葉が5~9枚付く、托葉は葉柄に沿着する、ローズヒップに萼片が残る等 」を備えています。

 

※1 Rosa multiflora Thunb. ノイバラ(ノバラ、野薔薇) 在来種。沖縄以外の日本各地の山野に自生、朝鮮、中国、台湾に分布。各種バラの品種改良に使われ、園芸品種に房咲き性をもたらした基本原種です。以下の別称が存在します。

Rosa multiflora Thunb.

=Rosa blinii H.Lév.

=Rosa calva (Franch. & Sav.) Boulenger

Rosa dawsoniana Ellw. & Barry

=Rosa dawsoniana Ellw. & Barry ex Rehder

=Rosa diffusa Roxb.

=Rosa elongata Dum.-Cours.

Rosa floribunda hort.

=Rosa floribunda hort. ex Andr.

=Rosa florida Poir.

=Rosa formosana Koidz.

=Rosa franchetii Koidz.

=Rosa franchetii var. paniculigera Makino ex Koidz.

=Rosa glabrifoliolata Uyeki

=Rosa grevillei Sweet

=Rosa hiburiensis Uyeki

Rosa hollandica hort.

=Rosa hollandica hort. ex Dum.-Cours.

=Rosa intermedia Carr.

=Rosa japonica Rossig

=Rosa lebrunei H.Lév.

=Rosa mokanensis var. quelpaertensis

=Rosa multiflora f. erubescens (Nakai) Sugim.

=Rosa multiflora f. glabrescens (Honda) Sugim.

=Rosa multiflora f. glabrifoliolata Uyeki

=Rosa multiflora f. inermis (Hisauti) Sugim.

=Rosa multiflora f. inermis M.Kim

=Rosa multiflora f. pilosissima (Nakai) Sugim.

=Rosa multiflora f. platyphylla (Thory) Rehd. & E.H.Wilson

=Rosa multiflora f. quelpaetensis

=Rosa multiflora var. adenophora Franch. & Sav.

=Rosa multiflora var. adenophylla Franch. & Sav.

=Rosa multiflora var. alboplena T.T.Yu & T.C.Ku

=Rosa multiflora var. calva Franch. & Sav.

=Rosa multiflora var. carnea Thory

=Rosa multiflora var. formosana Cardot

=Rosa multiflora var. hiburiensis Uyeki

=Rosa multiflora var. legitima Regel

=Rosa multiflora var. microphylla Franch. & Sav.

=Rosa multiflora var. multiflora

=Rosa multiflora var. platyphylla Thory

=Rosa multiflora var. quelpaertensis (H.Lév.) Nakai

=Rosa multiflora var. taoyuanensis Z.M.Wu

=Rosa multiflora var. trichogyma Franch. & Sav.

=Rosa multiflora var. trichogyna Franch. & Sav.

=Rosa platyphylla (Thory) Takasima

=Rosa platyphylla Hort.Japan.

=Rosa polyantha Sieb. & Zucc.

=Rosa polyantha f. roseipetala Honda

=Rosa polyantha var. erubescens Nakai

=Rosa polyantha var. glabrescens Honda

=Rosa polyantha var. glabrifoliolata (Uyeki) Honda

=Rosa polyantha var. hiburiensis (Uyeki) Honda

=Rosa polyantha var. inermis Hisauti

Rosa polyantha var. pilosissima Nakai

=Rosa polyantha var. pilosissima Nakai ex T.Kawamoto

=Rosa polyantha var. quelpaertensis (H.Lév.) Nakai

=Rosa polyanthus Rossig

Rosa prolifera hort.

=Rosa prolifera hort. ex Steud.

=Rosa quelpaertensis H.L

=Rosa quelpaertensis Lév.

=Rosa roxburghii Sweet.

Rosa simplex hort.

=Rosa simplex hort. ex Hook.fil.

=Rosa thoryi Tratt.

=Rosa thunbergii Tratt.

Rosa thyrsiflora Leroy

=Rosa thyrsiflora Leroy ex Déségl.

=Rosa trichogyna Nakai

=Rosa wichurae C.Koch

亜種

Rosa multiflora subsp. formosana Thunb. ex Murray

Rosa multiflora subsp. multiflora

変種

Rosa multiflora var. adenochaeta (Koidz.) Ohwi ex H.Ohba

Rosa multiflora var. cathayensis Rehder & E.H.Wilson

Rosa multiflora var. cathayensis Sargent

Rosa multiflora var. mokanensis

Rosa multiflora var. platyphylla Franch. & Sav.

Rosa multiflora var. villosula F.P.Metcalf

品種

Rosa multiflora f. aglandulifera Konta

Rosa multiflora f. multiflora

Rosa multiflora f. rosipetala (Honda) Yonek.

Rosa multiflora f. watsoniana (Crep.) Matsum.

       

         

花は、枝先に円錐花序をつけ、花数が少ないと散房花序になる、花弁の先が凹む

花の色は白く、小さい五弁花を、まれに淡紅色を沢山咲かせます

花柄は、軟毛があり、ときに腺毛も混じる、花托筒(萼筒)は、つぼ形で無毛。    

                   

ローズヒップ(萼筒の肥大した偽果)は、直径6~10 mmの類球形で赤く熟して、先端に萼片が残る。

                 

托葉は櫛の歯のように、羽状に深く細く裂け、腺毛が密生している。

                       

葉軸に軟毛と小さなとげがある。

                     

葉は奇数羽状複葉で互生し、長さ2~5 cm、幅0.8~2.8cmの楕円形~卵形の小葉が7~9枚付き、根元の小葉の方が小さい、葉の縁には細かい鋸歯があり、表面は光沢がなく無毛。

                       

葉の縁に細かい鋸歯があり、裏面と葉の軸には軟毛が密生する。

                   

                           

雄しべは黄色く多数付き、花柱は合着して柱状になり無毛。

                                 

萼片は広披針形で、内面と縁に綿毛、小裂片、腺毛がある。

                               

棘は鉤形に湾曲する赤褐色で下向きのとげがある。

http://mikawanoyasou.org/data/noibara.htm から詳細な写真を引用させていただきました。

 

Rosa multiflora Thunb. の特徴

花   枝先に円錐花序をつける秋遅くまで残る、花数が少ないと散房花序になる

花の大きさ 25~30mm、花弁の先が凹む

花期  4~6月

花の色 五弁花、小さくて白い花、まれに淡紅色を沢山咲かせます

樹形  高さ1~4 mのつる性落葉低木、刈り取っても根本から萌芽し根絶が難しい、低地~山地の日当たりのよい場所で普通にみられる

花柄  長さ1.5~2.5㎝、軟毛があり、ときに腺毛も混じる

雄しべ 黄色く多数付く

花柱  合着して柱状になり無毛

花托筒(萼筒)つぼ形、無毛

萼片  広披針形、内面と縁に綿毛があり、小裂片があることも多く、腺毛があることもある

香り  やさしい芳香、蜜も多く出す、蒸留して香水の原料になります

葉   奇数羽状複葉で互生し、長さ2~5 cm、幅0.8~2.8cmほどの楕円形~卵形の小葉が7~9枚付く、葉の縁には細かい鋸歯があり、表面は光沢がなく無毛、裏面と葉の軸には軟毛が密生します、根元の小葉の方が小さい

葉軸  軟毛と小さなとげがある

托葉  櫛の歯のように羽状に深く細く裂けるのが特徴、普通、腺毛が密生し、腺毛が縁だけのものもある

棘   枝には鉤形に湾曲する赤褐色で下向きのとげがある

樹皮  灰褐色や黒紫色、若い枝は緑色か紅紫色。成木になると樹皮は剥がれてトゲが無くなる

ローズヒップ 9~10月に、直径6~10 mmの類球形で赤く熟して、秋遅くまで残る、先端に萼片が残り、やがて黒く変色する、痩果は長さ約4㎜、5~12個入る

ローズヒップには、マルチフロリンA, アフゼリン、ケルセチン、ラムノグルコシドなどのフラボノイドとリコピンを含む。 マルチフロチンAは抗生物質との併用が可能であることが解明されました。※1少量摂取しても緩下作用があります。また、利尿作用もあるといわれ、漢方では営実と称し、瀉下薬、利尿薬として日本薬局方にも記載されています。10月ごろに採取し、青味が多少残り完全に紅熟しない半熟のものが良品とされ、天日干しで乾燥して仕上げます

 

※1 武庫川女学院薬学科、森本麻友「マルチフロリンAの瀉下活性発現メカニズム解明2015.11.25」から以下『』内を引用させていただきました。

『便秘が危険因子となる疾患の予防(特に高齢者では、その半数が機能性便秘で、発症予防は極めて重要です)など、介護の現場における患者や介護者の生活の質の改善に、抗生物質との併用が可能であることが解明され今後、貢献できるものと考えられます。』

民間療法では、便秘に営実1日量2 – 10gを水400 – 600ccで煎じて、3回に分けて服用する用法が知られています。ただし、腹痛や激しい下痢を引き起こすこともあり、用量には注意が必要となるので、少量から始め、効果を見ながら増量します。腎臓や脚気の浮腫には、1日量3~5gを水300 ccで煎じて、2~3回に分服する用法が知られています。又、消炎作用を利用して、にきび、腫れ物に前記の煎液を冷まして、患部を洗ったり、ガーゼなどの布に含ませて冷湿布するのがよいとされます。皮膚の保護作用、収れん作用、抗酸化性、美白性、保湿性、皮膚細胞の活性効果をもち、化粧品成分に利用されています。

          

              マルチフロリンA

        

         営実 https://dokusogan.jp/about/shoyaku.html

※偽果、営実 木下武司、日本生薬学会第 57 回年会要旨集(徳島、2010 年)から

『』内を一部分省略して引用させていただきました。

 

『漢方では本朝経験方として營實湯(浅田宗伯『勿誤薬室方 函』に収録)があり、これももっぱら瀉法の薬方として知られている。一方、中国では『神農本草經』以来の歴代本草に必ず収載される品目であるが、中国の古典本草書、医書のどこにも瀉下薬という認識はどこにも見当たらず、日本で派生した用法であることは確実である。演者は、日本生薬学会第 57 回年会において、エイジツがどのような経緯で瀉下薬として用いられるようになったかを検討したところ、エイジツの本来の薬用部位は根であり、『本草經集注』で陶弘景が「營實は是牆薇(營實の別名)の子なり」と注釈したことにより、日本でそれがそのまま受け入れられ、ノイバラの実に瀉下作用のあることを実験的に知り得て瀉下薬として開発されたと推察した。ノイバラの実を薬用とするのは日本独自であるが、『聖濟總䤴』に「營實」を配合する処方があり、注にヤナギの木で作った臼で磨って中の“黄肉”を篩い取るとあるところから、営実仁の発生は中国医書に由来する可能性が出てきたので、本年会ではこれについて詳細に考証する。』

 

 


ダマスクローズ 117

2020年09月18日 | ダマスクローズをさがして ― Ⅲ

土佐日記(ca.934)、更級日記 (平安中期)、新古今和歌集(鎌倉時代初期)、平家物語(鎌倉時代)、方丈記(鎌倉時代)、徒然草(ca.1349)、芭蕉句集 (1666-1694)、鹿島紀行(1687)、更科紀行 (1689)、野ざらし紀行 (1698)、笈の小文 (1709)近松浄瑠璃集(1685-1716)、嵯峨日記(1753)、雨月物語(1776)、好色一代男 (1682)、好色五人女 (1686)、好色一代女 (1686年)、日本永代蔵(1688)、世間胸算用(1692)、西鶴織留 (1694)、蕪村集 (1808) の中に茨の記述は見当たりませんでした。再び茨が詩歌の中に姿を見せるのは、江戸も後期になってからです。

 http://www2.city.kurashiki.okayama.jp/musnat/plant/bungakusakuhin/index.htmlから   

訓蒙図彙(きんもうずい;中村惕斎(なかむらてきさい、1629/3/3-1702/8/19、江戸時代前期の儒学者、本草学者)によって寛文6年(1666年)に著された図入り百科事典(類書)。全20巻)巻名第十四冊/巻之二十(花草)国立国会図書館蔵

https://kutsukake.nichibun.ac.jp/EHJ/detail.html?id=1391 から

 

薔薇(しやうび)

語釈補記に、「いばら。墻蘼、牛棘、並同、総名也。今按、刺紅花、俗云、ごやおき、月季花、俗云、ちやうしゆん、月月紅、同。野薔薇、のいばら」とあります。

 

奥の細道(1702)

https://manapedia.jp/text/1983 から引用させていただきました。

心許なき日かず重るまゝに、白川の関にかゝりて旅心定りぬ。・・・・・ 秋風を耳に残し、紅葉も俤にして、青葉の梢猶あはれ也。卯の花の白妙に、茨の花の咲そひて、雪にもこゆる心地ぞする。

 

(不安で落ち着かない日々を重ねるうちに、白河の関にさしかかって旅をするという心が決まった。(昔、平兼盛が白河の関を越えた感動をどうにかして都に伝えたい)。

数ある関所の中でも(この白河の関は)三関の1つに数えられ、風雅の人が心を寄せる場所である。能因法師の歌を思い出すと、秋風が耳に残るようであり、源頼政の歌を思い出すと、今はまだ青葉である梢の葉もよりいっそう趣深く感じる。
卯の花が真っ白に咲いているところに、茨の花が咲き混じっていて、雪の降る白河の関を越えるような心地がする。)

昔の人たちは、冠を正し衣装を改めてから関を越えたということが、藤原清輔の書き物にも記されています。)

ここに描かれている薔薇はノイバラであろうと思われます。

  

美しい構図で描かれた植物は、いま見ても新鮮です。幕臣 岩崎灌園作『本草図譜』よりモッコウバラと庚申バラ。国立国会図書館所蔵。

https://intojapanwaraku.com/jpart/96470/ 

江戸時代には、身近な植物はもちろん、当時世界のなかでも独自の発展を遂げた「江戸園芸」、それに鳥獣類や魚介類など、あらゆる動植物が博物画に描かれました。

岩崎 灌園(いわさき かんえん、1786-1842江戸時代後期の本草学者。)『本草図譜』は20年をかけて作成され、1828に96巻を完成させました。

 

斑入植物 『草木錦葉集』水野忠暁(ただとし)編 1829刊 7冊のうち巻1 <特1-973>

国立国会図書館所蔵 

https://www.digital.archives.go.jp/das/image/M2013102420553505227?utm_content=buffer67455&utm_medium=social&utm_source=twitter.com&utm_campaign=buffer から

『草木錦葉集』の大半の図は関根雲停の筆で植物図鑑としての性格が濃く、斑入の植物を中心に奇品約1,000品を掲載しています。絵には右に斑入りのいちご、左に月季花、野茨の説明があります。

 

水野忠暁撰、関根雲亭画の「小不老尊名寄:こおもとなよせ、天保3年頃刊」は図柄も素晴らしいので、薔薇とはあまり関連がないですが、皆様にもご覧いただきたくて引用させていただきました。 

水野忠暁は禄がなかったということですが、よくもここまでやり遂げたものだとおもいます。一芽百両という万年青もあったようですから、これで食べていたのでしょう。万年青もいいものでしょうが、鉢との取り合わせが素晴らしいですね。今の我々にはもう備わっていない“きもの”の着付けのセンスが生かされているようです。万年青が着物を着ているようだと思いませんか。

このような植物は金を生む樹として「金生樹」と呼ばれました。栽培される草花も、椿、菊、朝顔、牡丹などさまざま。美しさだけでなく、趣向の新しさを求めて、植物を栽培し品評する趣味も広がりました。斑入りの薔薇も仲間入りさせてもらったという感ですが、こちらのほうはあまり人気がなかったようです。1750年代以降になると、それまでの樹木中心から、草の方に注目が集まってきました。松や梅、楓よりも朝顔やカラタチバナ、マツバラン、ナンテン、マンリョウ、フクジュソウなどの方が扱いやすい、それに小さく扱うことに日本人の性向があっていることが挙げられます。対象の植物が質素な姿で、昔から身近に存在していたものに日本人は共感を抱くようです。「自然を常に身近に感じて生きていたい。自然と一緒に暮らしたい。生活の一部分に自然を取り込みたい。」といった願望があるのでしょう。そう考えれば、薔薇の花は取り入れ難いと感じるのも、合点がいきます。

 

茨を読み込んだ俳句を十首選びました。個性ある茨の姿が眼前に浮かび上がります。野ばら、野いばら、茨(いばら、うばら)の花、花うばらは、季語で「夏、初夏」です。茨の実は晩秋になります。

 

花いばら古郷の路に似たるかな       蕪村「五車反古」

道のべの低きにほひや茨の花        召波「春泥発句集」   

古郷やよるもさはるも茨の花        一茶「七番日記」

茨散て水の光りや木下闇          河東碧梧桐

花いばら、ここの土とならうよ       種田山頭火 草木塔

愚にくらく茨をつかむ蛍哉        「東日記」東 史郎

野いばらの芽ぐむに袖をとらへらる     水原秋櫻子

太白星は空の王者よ花茨          碧雲居句集

野茨にからまる萩の盛りかな        芥川龍之介 蕩々帖〔その一〕

茨の実いつか夕日の沈みゐし        稲畑汀子

「野ばらは、初夏、香りのある白い五弁の小花を多数咲かせ、華やかな薔薇とちがい、清楚で新鮮な野趣がある。」という印象から「冬になって葉が落ち棘だけが目立ち、とげとげしい。」と言った受け止め方まで、野ばらの捉えかたは詠み人によって様々です。

 

 


ダマスクローズ 116

2020年09月16日 | ダマスクローズをさがして ― Ⅲ

本朝無題詩(漢詩集) 作者生没年未詳。後朱雀~白河の四朝(1036~1086)に仕える大江佐国作から

43「翫卯花」

薔薇含露争前砌 蘭蕙待秋嬾遠皐
(薔薇は露を含みて前なる砌〔みぎは:階下の石畳〕に争ひ 蘭蕙は秋を待ちて遠き皐〔さは:水際〕に嬾〔ものう〕し)

                                    

梵芳(1348-1424)筆(ぎょくえんぼんぽうひつ)蘭蕙

縦106.5 横34.5 南北朝時代 14世紀

「蘭蕙同芳」は,蘭と蕙がともによい香りを発するので,優れた人徳のたとえに用いられることに由来する。蕙は香り草の意。                 

 

今昔物語集(1120年頃)の中に一話あります。

巻13第12話 長楽寺僧於山見入定尼語 第十二から

http://yatanavi.org/text/k_konjaku/k_konjaku13-12に現代語訳があります、参考になさって下さい。

今昔、京の東山に長楽寺※と云ふ所有り。其の所に仏の道を修行する僧有けり。花を採(つみ)て仏に奉らむが為に、山深く入て、峰々谷々を行く間に日晩れぬ。然れば、樹の下に宿しぬ。

亥の時許より、宿せる傍に、細く幽に貴き音を以て、法花経を誦する音を聞く。僧「奇異也」と思て、終夜聞て思はく、「昼は此の所に人無かりつ。仙人など有けるにや」と、心も得ず貴く聞き居たる間に、夜漸く曙て白らむ程に、此の音の聞ゆる方を尋て漸く歩み寄たるに、地より少し高くて見ゆる者有り。「何者の居たるにか有らむ」と見る程に、白々と曙ぬ。早う巌の苔蒸し薋(いばら) 這ひ懸たる也けり。

尚を「此の経を誦しつる音は、何方にか有つらむ」と怪く思て、「若し此の巌に仙人の居て誦しけるにや」と悲く貴くて、暫く守り立る程に、此の巌、俄はかに動く様にして、高く成る。「奇異也」と見る程に、人に成て立て走ぬ。見れば、年六十許なる女法師にて有り。立つに随て、薋(いばら)は氾々(ひろびろ)と成て※、皆切れぬ。僧、此れを見て、恐れ乍ら、「此れは何なる事ぞ」と問へば、此の女法師、泣々く答て云く、「我れは多の年を経て此の所に有つるが、愛欲の心発す事無し。而るに、只今、汝が来るを見て、『彼れは男か』と見つる程に、本の姿に成ぬる事の悲き也。尚、人の身許弊(つたな)き物無かりけり。今、亦過ぎぬる年より久しく有てぞ、本の如く成るべき」と云て、泣き悲むで、山深く歩み入にけり。

其の僧、長楽寺に返て語たりけるを、其の僧の弟子の聞て、世に語り伝へたる也。

此れを聞くに、入定の尼そら此如し。何に況や、世間に有る女の罪、何許なるらむ、思遣るべしとなむ語り伝へたるとや。

 

※ 氾々(ひろびろ)と成て

氾の字は人がうつむきに成って俯している象形です。人が水に浮かび流れる(水死体)を表していますので、ここではつる状の茨がバラバラになるさまを言います。『愛欲の心恐るべし』というわけですが、ここで出てきた花はノイバラと考えられます。

 

※長楽寺

東山三十六峰の中心に位置する長楽寺は、僧尼の隠棲禅定の地で、805年桓武天皇の勅命で伝教大師を開基として創建されました。( 本尊 : 伝大師御親作観世音菩薩 )一条天皇の時代(986~1011)に絵師巨勢広高が地獄変相の壁画を描いたお寺です。山中入定(岩窟などの密室に入り、長く深い瞑想に入ったように入寂すること、深遠な瞑想に入ることで単なる死ではありません)の尼が山に入ってきた僧に男を感じてしまい、長期に渡る修行の徳功を失ってしまいますが、そこには奥深い山中で修行を重ね、その中の清浄なる地で滅すると仙人化するという大前提があってのお話です。

 

安元御賀日記 (あんげんおんがのにっき)1176年 藤原隆房著から

女院の御方の打出、唐ぎぬ、うはぎもえぎ、青むらご、色々の糸にて、さうびんのまろ※をぬひたり

 

※さうびんのまろ

薔薇丸。薔薇の花を円形に図案化した文様。

 

『安元御賀日記』は、平安時代の歌人藤原隆房(たかふさ、1148-1209)の仮名日記で、1176/3/4~6にかけて、法住寺殿(ほうじゅうじどの:法皇の御所)で行われた後白河法皇(1127-1292)50歳の御賀の様子を記しています。藤原定家(1162-1241)をはじめ数人の筆になります。内容は、3/4の暁、後白河法皇が法住寺殿へ御幸した様子を記した記述から始められ、以下3日間にわたる行事次第が詳細に記されています。本書は、隆房が少将のときの仮名日記です。 

          春日権現霊験記 巻五の第一から四段「俊盛卿事」

  

春日権現霊験記絵巻、20巻。春日権現験記又は、「春日験記」と称し、もとは春日神社の所蔵だったが、のち皇室に献納されました。1309年(延慶2)3月、左大臣西園寺公衡 ( さいおんじきんひら、1264-1315 ) が春日権現に納めたもので、藤原氏の氏神である春日明神に関する霊験奇瑞 (きずい) の数々を高階隆兼(たかしなたかかね)が描いています。俊盛の邸宅、庭に面した場面には子供たちが寝そべって読み物をし、鳥に餌をやっています。庭右寄りにコウシンバラがが咲いています。当時の貴族の館の穏やかな日常が伝わってきます。

 

 


ダマスクローズ 115

2020年09月14日 | ダマスクローズをさがして ― Ⅲ

好忠集(10世紀後半)曾禰好忠作から

121 なつかしく手には折らねと山がつの垣根のむばら花咲きにけり

379 むばらこぎ※手に取りためて春の野の藤の若枝を折りてつかねん

 ※むばらこぎ 茨の小さい木。

梁塵秘抄(1179頃)に “ うばらこぎの下にこそ、鼬(いたち)が笛吹き猿舞 (かな)で ” とありますので “むばらこぎ ”とは小さい茨のことでしょう。

  

源氏物語(1008)から

第十帖賢木

6.3.6 二日ばかりありて、 中将負けわざしたまへり。ことことしうはあらで、なまめきたる桧破籠ども、賭物などさまざまにて、今日も例の人びと、多く召して、文など作らせたまふ。

6.3.7  階のもとの薔薇、けしきばかり咲きて、春秋の花盛りよりもしめやかにをかしきほどなるに 、うちとけ遊びたまふ。

( 二日ほどして、中将が負け饗応をなさった。大げさではなく、優美な桧破子類、賭物などがいろいろとあって、今日もいつもの人々、おおぜい招いて、漢詩文などをお作らせになる。階のもとの薔薇、わずかばかり咲いて、春秋の花盛りよりもしっとりと美しいころなので、くつろいで合奏をなさる。)

 

先に引用していた白氏文集卷十七 薔薇正開、春酒初熟。因招劉十九・張大・崔二十四同飮( “薔薇(そうび)正に開き、春酒初めて熟す。因りて劉十九・張大・崔二十四を招きて同(ともに)に飲む“)の歌の中の一節、『 階(はし)の底(もと)の薔薇(そうび)は夏に入りて開(ひら)く 』が踏まえられています。

三位中将邸での負態の場面で、季節は「夏の雨、のどかに降りて、つれづれなるころ」に設定されています。ここで、考察すると、” 春、秋の盛りよりも ”とあるので、このバラは一季咲きの「ノイバラ」ではなく、当時貴族の庭先に植えられていた中国の四季咲き薔薇(庚申バラ、月季花)でしょう。

       

花は夏に入り、赤い紅、燃えるように咲いている薔薇といえば、

                      http://iwasaki.shop-pro.jp/?pid=109471154

この薔薇( コウシンバラ )でしょう。

第二十一帖 乙女7.4.4

北の東は、涼しげなる泉ありて、夏の蔭によれり。前近き前栽、呉竹、下風涼しかるべく、木高き森のやうなる木ども木深くおもしろく、山里めきて、卯の花の垣根ことさらにしわたして、 昔おぼゆる花橘、撫子、薔薇、 苦丹※などやうの花、草々を植ゑて、春秋の木草、そのなかにうち混ぜたり。 東面は、分けて馬場の御殿作り、埒結ひて、五月の御遊び所にて、水のほとりに菖蒲植ゑ茂らせて、向かひに御厩して、世になき上馬どもをととのへ立てさせたまへり。

( 北東の町は、涼しそうな泉があって、夏の木蔭を主としていた。庭先の前栽には、呉竹があり、下風が涼しく吹くようにし、木高い森のような木は奥深く趣があって、山里めいて、卯花の垣根を特別に造りめぐらして、昔を思い出させる花橘、撫子、薔薇、 苦丹(リンドウ又はボタンの花※)などといった花や、草々を植えて、春秋の木や草を、その中に混ぜていた。東面は、割いて馬場殿を造って、埒を結って、五月の御遊の場所として、水のほとりに菖蒲を植え茂らせて、その向かい側に御厩舎を造って、またとない素晴らしい馬を何頭も繋がせていらっしゃった。)

 

※苦丹

古今和歌集(905‐914)物名435に「くたに。散りぬればのちはあくたになる花を思ひ知らずもまどふ蝶かな〈遍昭〉」とあります。 「くたに」を詠み込んだ物名歌。又、『童蒙抄』に「苦丹とかく、深山にある草の名也」とありますが、何にあたるかは不明とされています。しかし、花散里の御殿は夏の趣の造りに成っていますから、薔薇はコウシンバラであり、苦丹はボタンではと、それに嵩が大きくゴミになるのはボタンの方かな?と想像します。

                                           

枕草子(1001)148段 

名おそろしきもの。青淵。谷の洞。鰭板 ( はたいた )。鉄 ( くろがね )。土塊 ( つちくれ )。雷 ( いかづち ) は名のみにもあらず、いみじうおそろし。疾風 ( はやち )。不祥雲。矛星 ( ほこぼし )。肘笠雨。荒野 ( あらの ) ら。

強盗 ( がうだう )、またよろづにおそろし。らんそう、おほかたおそろし。かなもち、またよろづにおそろし。生霊 ( いきすだま )。蛇 ( くちなわ)いちご。鬼わらび。鬼ところ。荊(むばら )。枳殻 ( からたち )。炒炭 ( いりずみ )。牛鬼。碇 ( いかり )、名よりも見るはおそろし。

( 名前が怖い感じのもの。青淵( あおぶち )。谷の洞( ほら )。鰭板( はたいた )。鉄( くろがね )。土塊( つちくれ )。雷は、名前だけでもなく、とても恐ろしい。暴風( はやち )。不祥雲( ふしょうぐも )。ほこ星。肱笠雨( ひじかさあめ )。荒野( あらの )ら。

強盗、これはどの部分から見ても恐ろしい。らんそう、ほとんどの人が恐ろしい。かなもち、これもまたどこから見ても恐ろしい。生霊(いきすだま)。蛇いちご(くちはないちご)。鬼蕨(おにわらび)。鬼ところ。荊(むばら)。枳殻(からたち)。いり炭。牛鬼(うしおに)。碇(いかり)、名前よりも、見た形が怖い。)

 

【語釈】乱騒 道長と伊周の争い。 牛鬼 西日本に伝わる妖怪で、主に海岸に現れ、浜辺を歩く人間を襲うとされています。下の絵は1700年画なので、清少納言の時代とは異なると思いますが、参考のため引用しました。

      https://archive.org/details/bakemonozukushie00 hacia 1700 Brigham Young University

 

平中物語(平安時代中期)、うつほ物語(平安時代中期)、落窪物語(900年末)、住吉物語ca,1221) の中に茨の記述は見当たりませんでした。

 

栄花物語(1014)新年の叙述赤染衛門 編から
巻第十一「つぼみ花」

船岡の子の日の松も、いつしかと君に引かれて万代を経んと思ひて、ときはかきはの緑色深く見え、甕のほとりの竹葉も末の世はるかに見え、階の下の薔薇も夏を待ち顔になどして、さまざまめでたきに

「甕頭竹葉経春熟 階底薔薇入夏開」(白居易)を踏まえています。

 

巻第十五「たまのうてな」

この御堂の御前の池の方には、高欄高くして、その下に薔薇、牡丹、唐撫子※1、紅蓮花の花を植ゑさせたまへり。御念仏のをりに参りあひたれば、極楽に参りたらん心地す

【語釈】たまのうてな 立派な御殿。この御堂 阿弥陀堂のこと。

 

※1 唐撫子   

       

カラナデシコ(唐撫子)Dianthus chinensis Linne 別名:セキチク (石竹)

https://yakusoutohana.shop-pro.jp/?pid=136456769 大阪薬科大学 薬用植物園

生薬名:クバク (瞿麦)、クバクシ (瞿麦子)
全草、種子を漢方処方薬、民間薬として利用。むくみのときの利尿に、1日量3~6グラムの瞿麦子に、水0.3リットルを加えて、煎じながら約半量になるまで煮詰めたものをこして、3回に分けて服用します。顕著な利尿作用があり、塩化物の排出量が増加します。「むくみ」のときの利尿に用います。通経薬として、月経不順に利尿剤と同様に服用します。しかし、通経堕胎の作用があるので、妊婦には用いないようにします 

枕草子などにも唐撫子の名が見られることから、平安時代当時、すでに日本に渡来していたと考えられます。江戸時代には栽培が流行し多くの品種が作られました。http://www.e-yakusou.com/yakusou/112.htm から)

 

 


ダマスクローズ 114

2020年09月12日 | ダマスクローズをさがして ― Ⅲ

伊勢物語(9世紀から10世紀)に一段ありました。短いので全文引用しました。

第六十三段(つくも髪)http://teppou13.fc2web.com/hana/narihira/ise/now/awa/ise_ns63_awa.html に現代語訳があります。参考になさってください。

 

むかし、世心づける女、「いかで心情けあらむ男にあひえてしがな」と思へど、言ひ出でむも頼りなさに、まことならぬ夢がたりをす。子三人を呼びて語りけり。二人の子は、情けなくいらへて止みぬ。三郎なりけむ子なむ、「よき御男ぞいでこむ」とあはするに、この女気色いとよし。「こと人とはいと情けなし。いかでこの在五中将(在原業平のこと)にあはせてしがな」と思ふ心あり。狩しありきけるにいきあひて、道にて馬の口をとりて、「かうかうなむ思ふ」といひければ、哀れがりて、きて寝にけり。さてのち男見えざりければ、女、男の家にいきて垣間みけるを、男ほのかに見て、
  百歳に一歳たらぬつくも髪
   われを恋ふらしおもかげに見ゆ
とて、出でたつ気色を見て、茨からたちにかゝりて、家にきてうちふせり。男かの女のせしうに、しのびて立てりてみれば、女嘆きて寝とて、
  さむしろに衣かたしき今宵もや
   恋しき人に逢はでのみ寝む
と詠みけるを、男あはれと思ひて、その夜は寝にけり。世の中の例として、思ふをば思ひ、思はぬをば思はぬものを、この人は、思ふをも思はぬをも、けぢめみせぬ心なむありける。

 

棘のある茨はからたちとよく一緒に登場してきます。ここで出てきた薔薇はノイバラでしょう。

  

女が三人の子を集めて夢物語をしているところ。二人はばかばかしそうな顔つきで席をたつが、三郎は熱心に話を聞いている(伊勢物語絵巻より)。

  
鷹狩をしている業平の一行。画面中央で業平の跨っている馬の口を取って、一人の男が業平に語りかけています(伊勢物語絵巻より)。

  


業平が女の家に行って、共に寝ようとする。白髪頭(つくも髪;「つくも」を九十九と書き、「百」の字に一画たりない「白」の字に代用し、白髪を「つくも(九十九)髪」といった)の老女が部屋に入ってきます(伊勢物語絵巻より)。

 

 


ダマスクローズ 113

2020年09月10日 | ダマスクローズをさがして ― Ⅲ

つぎに薔薇の花が姿を現すのは、

文華秀麗集((818年に、嵯峨天皇の勅命により編纂された勅撰漢詩集)の中で、814年に詠まれたこの歌の中です。淳和天皇作

此院由来人事少    此の院由来もとより人事少まれらなり

況乎水竹毎成閑     況むや水竹毎つねに閑を成すをや

送春薔棘珊瑚色    春を送る薔棘(しょうきょく)珊瑚の色

迎夏巌苔玳瑁斑    夏を迎ふる巌苔(がんたい)玳瑁(たいまい)の斑

避景追風長松下    景を避けて風を追う長松の下

提琴搗茗老梧間    琴を提(ささげて)茗(めい)を搗く老梧の間

知貪鸞駕忘囂処    知りぬ鸞駕(らんが)囂(ごう)を忘るる処を貪りたまふことを

日落西山不解還      日は西山に落つるも還らむことを解らず

( 閑院は世間との交渉が少なく、池際に植栽された竹が閑静な趣を醸し出している。春が去り、イバラの棘は赤く、夏を迎える巌の苔はウミガメの甲羅のように斑になっている。暑い日差しを避けて、風が通る大きい松の下に行き、アオギリの間で琴を提げて、茶の芽を搗く。閑静な院で充分に楽しむことを知り、日が落ちたのにも気づかない。)

      

上の絵のようにコウシンバラには棘がほとんどありません。

    

https://kobehana.at.webry.info/upload/detail/013/462/44/N000/000/020/140274955634771983228_miyakohikukipuro657.jpg.html から貴重な写真を引用させていただきました。

 

イバラの棘は赤く、鋭くとがっています。貴族の館であっても、コウシンバラを植えているとは限らないようです。イヤイヤそう断言するのは一寸早計かも。『本草図譜』(後述)にはコウシンバラに赤い棘がしっかりと描かれています。結論は先送りになりそうです。

 

菅家文草 菅原道真の漢詩文集。12巻。900年作から


巻第五418 感殿前薔薇、一絶。[東宮。]

相遇因縁得立身 花開不競百花春
薔薇汝是應妖鬼 適有看來悩殺人
(因縁に相遇ひて身を立つること得たり 花開くも百花の春に競はず
薔薇汝は是れ妖鬼なるべし たまたま看來ること有れば人を悩殺す)

897年菅原道真の作

【語釈】悩殺 殺は助辞で(悩ませる)の意を強調する語で、“非常に悩ましい“の意。

 

古今和歌集(912)巻十、物名の中に一句ありました。

さうび                            

436 我はけさうひにぞ見つる花の色をあだなるものと言ふべかりけり 

                                 つらゆき

(我は今朝、初めて見たぞ、花の色を、色っぽいものと言うべきだなあ。)という意味で、今朝とさうひ(薔薇)、あだなるものに花(とひと)のはかない盛りをかけて詠んだというのが普通の解釈でしょうが、この句の解釈はどうにも腑に落ちません。

 

紀貫之(866/872-945/6/30)は日本語の祖ともいうべき人物です。少なくとも私はそう思っています。そういう人物が詠む歌にしては、この歌をそのまま受け流すことは「あまりにも“軽”過ぎる 」という印象を受けます。

「やまとうたは人の心を種として、よろづの言の葉とぞなれりける」と言って後世に大きな影響を与えた方です。この歌は古今和歌集の中に自らが撰んだ歌です。朝帰りの女宅の前で詠んだ歌ではないはずです。古今和歌集の編纂は醍醐天皇の勅命により貫之が中心となって行った国家事業です。ただの歌ではないはずです。この歌に込められた思いとは何?でしょう。

これを解くにはこの頃に詠まれていた漢詩に注目すると答えが浮かび上がってきます。

今までにこのブログで取り上げた日本の漢詩をみると“白居易”の詩に多くの影響を受けていることに気付きます。ここで取り上げた今までの漢詩の中にも、もちろん源氏物語や枕草子の中にも彼の詩が読み込まれています。なぜ彼はこんなにも日本人の心を揺さぶったのでしょう。白居易の歌を一首引用しておきます。この時代の日本人がよく知っていた歌です。色んなところで見ることが出来ます。

 

白氏文集卷十七 薔薇正開、春酒初熟。因招劉十九・張大・崔二十四同飮(薔薇正に開き、春酒初めて熟す。因りて劉十九・張大・崔二十四を招きて同(ともに)に飲む)

甕頭竹葉經春熟  甕(もたひ)の頭(ほとり)の竹葉(ちくえふ)は春を経て熟し
階底薔薇入夏開  階(はし)の底(もと)の薔薇(そうび)は夏に入りて開く似火淺深紅壓架  火に似て浅深(しんせん)紅は架を圧し
如餳氣味綠粘台  飴の如き気味緑は台に粘る
試將詩句相招去  試みに詩句を将(もっ)て相招(あいしょう)去(きょ)せん
儻有風情或可來  儻(も)風情有らば或いは来るべし
明日早花應更好  明日早花(そうか)応(まさ)に更に好(よ)かるべし
心期同醉卯時盃  心に期す同(とも)に卯時(ぼうじ)の盃に酔わんことを

                                  白居易

甕のほとりの竹の葉が緑を増したように、甕の中の酒は春を経て熟し、

階(きざはし)のもとの薔薇は夏に入って開いた。
花は火に似て浅く深く紅に燃え、棚を圧するように咲いている。
酒は飴のように濃厚な風味で、その緑は甕を溢れ台に粘り付いている。
試みに詩句で以て客を招待してみよう。
もし情趣深ければ、あるいは訪ねてくれる人もあろう。
明朝の花は今日より更に美しいに違いない。
願わくば、共に朝酒の盃を交わし酔わんことを。

【語釈】◇竹葉 文字通り竹の葉を指すと共に、酒の異称でもある。和歌の掛詞の技法に同じ。◇早花 早朝に咲く花。◇卯時盃 卯時(午前六時頃)に飲む酒。

http://yamatouta.asablo.jp/blog/2010/05/13/5084612 から引用させていただきました。

 

「四季折々の風物を移りゆく季節のなかに眺める一方、人生の短さを表現する歌が多いこと。雪月花が主題となっている歌が多いこと。平安貴族と同じ仏教徒であるとともに風流人であり、しみじみとした情趣や、無常観的な哀愁の精神の理解者であること。」等が白居易(772/2/28-846/9/8)が貴族達に受け入れられた要因でしょう。上の歌を読むとそのことが判ります。時代が近いことも共感を得られた要因の一つでしょう。

 

『菅家文草(菅原道真の漢詩文集。12巻。900/8、自ら編纂(へんさん)して醍醐天皇に献呈した)』の巻五に「薔薇」895年初夏.という詩があります。

薔薇

一種薔薇架 芳花次第開
色追膏雨染 香趁景風來
數動詩人筆 頻傾醉客杯
愛看腸欲斷 日落不言廻

一じ種薔薇の架 芳しき花次第に開く

色は膏雨に追いて染まる 香は景風を趁ひて来る

数詩人の筆を動かす 頻に酔客の杯を傾けしむ

愛して看て腸断たたむとす 日落つるまで廻らむことを言わず

【語釈】◇一種 同じ種の。◇膏雨 滋雨。◇景風 初夏に吹く風。◇趁ひて 追いて。◇廻 帰る。

 

3,4句には薔薇を相手に、薔薇の花と対峙する様が詠われています。菅原道真((845/8/1-903/3/26)は中国の詩人白居易の歌に表現された無常観をふまえた上でこの歌を作ったと思われます。貫之は、当然白居易の歌を知っていただろうし、貫之自身も同じ気持ちで中国の漢詩を読み、薔薇の花を見ていたと思われます。貫之の歌は、薔薇の花に人格を投影して花を見ることが、歌の宴のその場に居合わせた貴族達の共通の認識の上で歌われた歌であったと思われます。「我はけさうひにぞ見つる花の色をあだなるものと言ふべかりけり」は、薔薇の花を(薔薇の花は移ろいやすいものだけれど、それは美しいものだった)と純粋に歌ったものです。和歌が漢詩から脱皮した時代の瞬間を、この歌から感じることが出来ます。

          

コウシンバラ https://blog.goo.ne.jp/rocky63/e/03b52899d80d1ef866f9c8f01e1ed8d5

コウシンバラは白から薄いピンク、赤と変化に富んでいます。貫之が言うところの“ 艶めかしい花の色とは ”おそらく中国からの渡りものの薔薇、コウシンバラでしょう。道真が目にした薔薇もこのような色だったのではと想像します。「香は景風を趁ひて来る」ということですからいい香りであったと思われます。

 

和名類聚抄(931-938年に作られた、万葉仮名で読みを付けた辞書で、勤子内親王の求めに応じて源順(みなもとのしたごう)が編纂)

巻二十 草木部「薔薇[営実附]」から

本草云薔薇一名墻蘼[音微今案薇通]陶隠居注云営実[和名無波良乃美]薔薇子也


(本草に云はく、薔薇は一名墻、[シャクビ;シャクは垣根の意]陶隠居の注に云はく営実[和名むはらのみ]は薔薇の子なり)

 

竹取物語(9世紀後半から10世紀前半)の中には薔薇は見当たりませんでした。出てきそうな雰囲気はしますが。

 

 


ダマスクローズ 112

2020年09月08日 | ダマスクローズをさがして ― Ⅲ

気を取り直して、日本の古典の中にどの薔薇の花が、どのように扱われているかを調べてみようと思います。https://www.city.kurashiki.okayama.jp/musnat/index.htm “文学作品に登場する植物たち”を参考にさせていただきました。)

 

( )内は編纂年月日

古事記(712)、日本書紀(720)、出雲風土記(733)の中に薔薇の花に因む用語、語句は見られませんでした。

 

萬葉集(783)の中に二句見つかりました。

万葉集では「うばら」に「棘原」の字を宛て、刺のある小木の薮をこう呼んでいたようです。茨(うばら、むばら、いばら)は野生の薔薇を指します。

( 古来より「薔薇」に棘、茨、荊の字を当ててきましたが、薔薇の字を初めて使ったのは918年に深根輔( ふかねすけひと ) が著した、日本現存最古の薬物辞典( 本草和名(ほんぞうわみょう )です。醍醐天皇に侍医、権医博士として仕えた深根輔仁により延喜年間の918年に編纂されました。)

 

「うばら」、「むばら」、「いばら」はそれぞれ「う」、「む」、「い」を取れば「ばら」となり、これに「薔薇」の字を当てて「ばら」と読ませていますが、「薔」は元来「墻」であり、この字は穀物蔵の土垣を意味します。後に住居の垣根を指すようになりました。

「薇」は「ゼンマイ」のことでおそらく「巻き付く」の意味を持たせるために使ったのでしょう。「薔薇」は「ばら」とは元来読むことができません。「ショウビ」と音読みすることが正しいと言えます。薔薇を垣根に使ったのは、ずいぶん昔からだったと言えそうです。

 

「天平勝寶七歳乙末の二月、相替りて筑紫に遣さるる諸國の防人等の歌」
道の邊(へ)の宇万良(うまら)

の末(うれ)に這(は)ほ豆※の
からまる君を別(はか)行かむ  第20巻の4352 丈部 鳥(はせつかべのとり)

 ( 道端のうまらの枝先まで這う豆かずらのようにからまりつく
 主君のいたいけない若君。そんな君を残して別れていかなければならないのか )


当時九州筑紫の海岸線や対馬などに唐や新羅の侵入に備えて防人(さきもり)が配置されていました。この歌は上総の国(千葉南部一帯)の防人の歌です。

 

※ 豆

つるまめ、のまめの類。

        

Glycine soja Sieb. et Zucc.
=Glycine max (L.) Merr. subsp. soja (Sieb. et Zucc.) Ohashi

https://www.ootk.net/cgi/shikihtml/shiki_174.htmから

ツルマメ(Glycine soja Sieb. et Zucc.、別名、ノマメ)は、マメ科ダイズ属の一年草で、ダイズの原種。在来種で日本全土、朝鮮、中国、ロシア、アフガニスタン

に分布します。

 

「忌部首の數種の物を詠める歌一首」

枳(からたちと、棘原(うばら)刈り除(そ)け、倉(くら) 建てむ

屎(くそ)遠くまれ、櫛造る刀自(とじ) 第十六巻の3832: 忌部首 (いむべのおびと)

( からたちと茨(うばら)を刈り除いて、倉を建てるぞ。屎は離れたところでしなよ、櫛を作るお姉さん )

(https://art-tags.net/manyo/flower/ubara.html を参考にさせていただきました。)

 

どちら歌にも、詠まれている薔薇は背の低い薔薇のようです。ノイバラ、テリハノイバラのどちらかでしょう。2番目の歌は品が無いですが、お姉さん方が野ばらの実を摘んでいるのを、茶化した歌とも取れます。しかし、この頃は野原でうんこをするのが一般的だったようで、地面を這うノイバラ※1、テリハノイバラ※2だからこその光景といえます。

   

     

       カラタチ http://stewartia.net/engei/tree/Mikan/Poncirus.html

カラタチ(枳殻、枸橘、Poncirus trifoliata)の棘は薔薇のそれとは比較にならないくらいに鋭いですね。中国長江上流域が原産で8世紀頃には伝わっていたとされ、古くから生け垣などに植栽されていました。

『万葉集』ではウツギの生垣が。絵巻物を見ると平安、鎌倉時代には、下枝を切り落した生垣が主流になっています。生垣は枯れ枝や割り板を立てた垣根の代わりに、腐らない垣根(生垣)として作られたと思われます。平安時代頃から防犯のためにカラタチ、クコ、ウコギなどの刺がある樹木を使った生垣が現れ始め、室町時代から江戸時代前期にかけて流行しています。

少納言著 「枕草子』(1000) の205段では

『まことの山里めきてあはれなるに、いとあらあらしくおどろおどろしげに、さし出でたる枝どもなどおほかるに』と書き表しています。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jila1994/62/5/62_5_413/_pdf から 

 

 


ダマスクローズ 111

2020年09月06日 | ダマスクローズをさがして ― Ⅲ

かつての日本でRosa sambucina Koidz、つまりヤマイバラが日本の社会に浸透していた痕跡は残っているでしょうか。最初に、正倉院宝物の薬箱の中を捜してみることにします。薬種の中にペルシャ発の薔薇の実でも出てくればめっけものですが。 https://shosoin.kunaicho.go.jp/search/

  

http://www1.tcnet.ne.jp/hanahide/syujuyakutyou.htm)を参考にさせていただきました。

盧舎那仏に奉る種々薬(種々薬帳)は、奈良時代の天平勝宝八年(756/6/21)、聖武天皇崩御の七七忌に孝謙天皇・光明皇后が東大寺盧舎那仏(奈良の大仏)に献じ、同年建立された正倉院に保管したものに由来します。

「種々薬帳」に記載されている60種類の薬物の一部分を下に取り上げました。この中に薔薇の種子があります。上の絵の下欄、最初の行に“核(ズイカク)五斤”とあります。

 

麝香(ジャコウジカの雄の香のう分泌物)

犀角(サイカク・インド産クロサイの角

朴消(ボウショウ・含水硫酸ナトリウム)

蕤核(ズイカク・バラ科の成熟した果実の種子)

小草(ショウソウ・中国産の遠志をいうが現存品はマメ科植物の莢果)

畢撥(ヒハツ・インド産ナガコショウ)

胡椒(コショウ・インド産コショウ)

 

核は、中国華北地域産の扁核木(バラ科)の成熟した果実の種子、ヘンカクボク(扁核木)Prinsepia uniflora Batal.のことで、(上薬) 眼疾剤として、5斤(1115g)保存されていたようです。眼薬の他に、種子からとった油は灯用、食用としています。

プロトアクチニウム( Prinsepia uniflora)は、バラ科の(扁核木属)Prinsepia uniflora属に属し、中国固有の植物です。 中国本土の陝西省、四川省、河南省、山西省、甘粛省、内モンゴルおよびその他の場所に分布しています。海抜900メートルから1,100メートルの範囲で、主に丘の中腹と山麓で生育します。現在、栽培はされていません。Hedge Prinsepia Nut nux prinsepiae Prinsepia uniflora Batal seed ...zhanjo.com から)

     

           

もうお判りですね。Rosa sambucina Koidzとは関係のないサクランボの仲間でした。『果実の種子』という文字を見た時に気が付くべきだったのですが、「バラ科」の文字と白い花に一瞬惑わされてしまいました。Prinsepia unifloraは、現在さまざまな種がネパール、インド、中国、バングラデシュ、台湾で生育されています。

日本の文化は中国の影響を受けて発展してきましたが,ノイバラの果実を寫下剤(生薬名はエイジツ、営実)として用いるのは我が国独特の処方で,中国ではこのような用い方はしないようです。(このことについては、後で詳しく述べるつもりです)

 

 


ダマスクローズ 110

2020年09月04日 | ダマスクローズをさがして ― Ⅲ

ジョン リンドリー(John Lindley )が指摘していた最後の、R. sambucinaを取り上げます。ここから、いよいよと言いますか、日本の薔薇を扱うことになります。

野生のバラは北半球にのみにおよそ150種あります。その内、日本に自生している薔薇はアズマイバラ、オオタカネバラ、カカヤンバラ、カラフトイバラ、サンショウバラ、タカネバラ、ツクシイバラ、テリハノイバラ、ナニワイバラ、ニオイイバラ、ノイバラ、ハマナシ、フジイバラ、ミヤコイバラ、モリイバラ、ヤブイバラ、ヤマイバラがあると言われています。この中には日本の原種、かつては原種といわれていたが今は他のグループに入っている薔薇、それに他の薔薇との交雑種が入っています。今は新しい手法が導入され分類学の変革期に入っています。薔薇の本を参考にしようとすると、何を指針にしたらいいのか迷うほどです。何かと異論はあるかと思いますが、ここではGBIFの分類をベースにお話を進めていこうと思います。

 

ロサ サンブキナ(Rosa sambucina Koidz)

Rosa sambucina Koidz.       (ヤマイバラ)

=Rosa sambucina var. pubescens Koidz.

(日本原産をvar. sambucina、台湾原産を var. pubescensとすることがあります)

 

山地の林、乾燥した場所に生える半蔓(つる)性の樹高1~2mの落葉低木

分布   本州(愛知県以西)、四国、九州、台湾

 

   

      

 

https://kikusahana.exblog.jp/24035766/

Rosa sambucina Koidz.の特徴

花      5弁,柱頭に毛が多く,雄しべは多数。花柱は有毛

花の大きさ  直径4~5㎝

花柄     長さ3〜5cm、軟毛と短い腺がある

花の色    白

香り     ダマスク系の甘い香り

葉      互生,奇数羽状複葉。葉身は長さ11~15㎝。小葉は2~3対,長さ5~10㎝。頂小葉は側小葉よりもやや大きい。両面とも無毛で,表面にはやや光沢がある。裏面はやや白い。先は鋭く尖り、縁には鋭い鋸歯がある。

托葉     幅が狭く、ほぼ全面が葉柄に合着し、縁には腺毛がまばらにある。

花期     5~6月

ローズヒップ 11月頃に直径約1㎝の扁球形の赤い実が熟す

刺      鉤型で,他の植物にのしかかるようにして,大きく成長する。

 

日本に自生する他の薔薇と比較して、すぐに判別出来るほど大きい、Rosa moschata J.Herrmに近いサイズの花を付けます。

           

               Rosa sambucina Koidz.の分布

※埼玉県・東京都・神奈川県では、季節や地域により指定カテゴリーが異なりますが、本システムでは埼玉県では全県のカテゴリー、東京都・神奈川県では最も危惧度の高いカテゴリーを表示しています。http://jpnrdb.com/search.php?mode=kind&q=06&pageID=8&t=f&cd=0603056&s=scd                                                                     

Rosa sambucina Koidzの自生地(日本、台湾)、西側はRosa moschata Herrmの自生地

 

Rosa sambucina Koidzはもとから日本と台湾に自生していた薔薇でしょうか。上の地図を見ていると色んな疑問が湧き出てきます。仮に、Rosa sambucina Koidzが運ばれてきた薔薇だったらという疑問です。何時? どうやって? 何故?

 

 


ダマスクローズ 109

2020年09月02日 | ダマスクローズをさがして ― Ⅲ

ロサ アビシニカとロサ フェニシア

DNAシーケンスを使用して、Iawata et alは、Rosa x damascenaの親を明らかにしたのは既に何度か述べてきましたが、その血統の中にロサ フェニシア(Rosa phenicia)、ロサア ビシニカ(Rosa abyssinica)と又はその内のどちらかが入っているとする意見があります。そこでRosa pheniciaについてもここで述べておくことにします。

 

ロサ フェニシア Rosa phoenicia Boiss.

=Rosa arvensis var. trojana Boulenger

=Rosa chlorocarpa Fenzl & H.Braun ex H.Braun

中東の固有種で、乾燥した土壌や高温の気候条件に対して適応性があります。アナトリア人はダマスクローズの親の一つであると考えているようです。

    

               https://static.in...l.jpeg?1591974765

         

            https://static.in...l.jpeg?1497850403

    

        https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Rosa_phoenicia_fruits.JPG

 

Rosa phoenicia Botanicの特徴

花      5弁

花の大きさ  2.5cm

花托     小さくたくさん集まっている

花の色    白~淡紅色

香り     麝香

蕾      萼片に包まれている

花期     一期

ローズヒップ 楕円形、オレンジ色、10-15mmの長さ

H2.5m, W1.2mに生育

棘      短く曲がっている 

葉      3-5枚  

倍数性    二倍体

 

花の大きさが約半分ですが、Rosa moschata J.Herrmとよく似ています。

 

       Rosa phoenicia の自生地、レバノン、シリア、イスラエル、トルコ          

 https://www.nationsonline.org/oneworld/map/Mediterranean-Region-Map.htm