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中国人気ネット小説「全職高手」~記念画集発売で同人・コスプレが盛り上がる

2014年03月27日 | エンタメの日記
中国にはオタクがたくさんいます。いわゆるACG(アニメ、漫画、ゲーム)が好きな人は非常に多いです。しかし中国国産オタクコンテンツは決して豊富とはいえません。この10年の間に全国的ブームとなりオタク人気も高かった中国製コンテンツといえば、小説「盗墓筆記」くらいなのではと思います。「盗墓筆記」はネット小説サイトから始まった作品ですが、紙媒体の小説も記録的なセールスを達成し、作者の「南派三叔」は連載期間中(2006年~2011年)は連続して作家売上ランキングのトップをかざっていました。
「盗墓筆記」は中国の古墓をあばく「墓掘り」たちの物語で、考古学と中国史とオカルトがミックスされた冒険劇です。題材の性質上男ばっかり出てくる話でした。
「盗墓筆記のサイン会に訪れる人の10人中9人が腐女子」と吹聴されましたが、これはウソだと思います。普通の男性読者の方が遥かに多いです。しかし「盗墓筆記」の同人誌が流行ったのは事実です。小説の連載が終了しブームが下火になりましたが、ピーク時は全国各地でオンリーイベントが開催されました。
■「盗墓筆記」舞台版。中国全国で巡回公演中。映画化、ドラマ化、アニメ化など様々な多メディア展開が囁かれていましたが、舞台化が先に実現しました。


「盗墓筆記」の規模には至りませんが、中国の同人界で流行っている中国産コンテンツがあります。やはりネット小説で、「全職高手」という作品です。ネット小説サイトの大手「中文起点網」で現在連載中です。
中文起点網「全職高手」(作者:蝴蝶藍):小説サイトリンク

「全職高手」はオンラインゲームのプロゲーマーたちの物語です。ただし「ソードアートオンライン」のようにゲームの世界に入り込んでしまうといった類のファンタジーではなく、プロリーグチームに属する職業ゲーマーたちが、チームの優勝をかけて戦うというお話です。
プロゲーマーは日本では馴染みのない存在ですが、お隣韓国はプロゲーマーの先進国です。韓国のプロゲーマーはタレント的な存在で関連メディアも発達しており、ビジュアルやパフォーマンスも華やかで俳優さながらのイケメンプロゲーマーも多いです。スタークラフトだけでもイケメンゲーマーのランキングができるくらいに沢山存在します。
中国のオンラインゲーム界の成熟度は韓国には遠く及びませんが、オンラインゲーム人口自体は世界一と言われています。正確なデータではありませんが、少なくとも3000万人はオンラインゲーム人口がいるという分析があります。中国プロゲーマーがどれくらいいるかというと、これも正確なデータは見つからないのですが、1000人くらいなのではと言われています。
中国はPC/モバイルオンラインゲーム産業の推進に力を入れており、「eスポーツ」のことも比較的頻繁に取り上げられます。「eスポーツ」(中国語では“電競”)とは、ゲームをアミューズメントというよりは、反射神経や判断力を競う一種の競技として捉える考え方で、アメリカや韓国ではスポンサーが高額の賞金を設ける大規模な「eスポーツ」大会が企画されています。中国では米国オンラインゲームの「WarCraft」(中国名:魔獣世界)が爆発的に流行った時期があり、その時代に世界大会に進出して好成績を残し、国内でも有名になった中国選手がいます。(北京オリンピックの聖火ランナーにもなったSkyなど)

小説「全職高手」は、「栄耀」(GLORY)というオンラインゲームのプロリーグが作品の舞台になっています。主人公は25歳というプロゲーマーとしては“高齢”で、かつて3年連続チームに優勝をもたらしたものの、チームから解約(引退)を余儀なくされ、一からチームを作りなおすというストーリーです。ゲーム「栄耀」(GLORY)にはプロプレーヤーが約200人存在するという設定になっています。小説の中には決勝に進出する約10チームが登場し、各チームに5~10人選手がいるので、登場人物は多いです。作中ゲーム「栄耀」(GLORY)はフィクションですが、既存のいくつかのオンラインRPGをモデルに取り入れていると言われています。小説の中でキーポイントとなるのはオリジナルの設定で、いまの技術では実現が難しいような設定もあります。
作者本人がゲーマーだったため、ゲームの描写が細かく、ゲーム産業の背景、ゲーマーたちの生活習慣などが非常にリアルに描かれているのが面白いです。しかし、それよりも、この物語の魅力は何といっても、個人ではなくチーム単位でゲームを競い合っているところです。団体スポーツの感覚に近いです。チーム内のコンビプレーや作戦力、団結力などで勝敗が左右されたり、各チームにキャプテン、副キャプテン、エース、ベテラン、新人、コンビ、ライバルなどが存在し、その人間関係に萌要素がふんだんに含まれているのです。あえて言えば、本当にあえて言えばですが、「黒子のバスケ」に似ています。一度は栄光を掴んだ主人公がゼロから出直すという設定や、「黄金の世代」と呼ばれるスター選手軍団が存在したり、敢えてイレギュラーな体制を取る個性的なチームがあったり、黄瀬を彷彿させる人気キャラがいたり・・・。

「全職高手」は決してオタク(腐女子)に媚びた作品というわけではないのですが、同人人気が出ました。やはり題材の性質上、男ばっかり出てくる話ではあります。コミケではコスプレをする人が増え、ネットでは同人イラストが流れ、bilibili動画ではMADが話題になりました。
極めつけに、2013年11月には公式から「記念画集」が発売されたのです。これがなんと、ただの公式キャラクターブックというものではなく、複数の絵師さん(同人挿絵画家)のイラストをセレクトした画集なのです。公式小説サイト自らがpixivのような企画をするのは珍しいです。この記念画集が素晴らしい出来栄えでした。編集は作者と連載元が行っており文章も添えられているので、これを見れば「全職高手」の作品世界が一覧できる作りになっています。画集の出版までのプロセスも非常にユニークで、ネット上で個人スポンサーを募るというやり方が取られました。これは中国出版界初の試みと言われています。「全職高手」はネット小説なので、日本のライトノベルと違って挿絵があるわけはありません。文字表現からビジュアルを拾うしかないので、統一されたビジュアルイメージがないキャラクターも多いです。そのため「記念画集」に収録されている同人イラストはかなり自由度の高いものとなっています。

■2013年11月24日上海の同人イベント「COMIC UP」で「全職高手」記念画集発売。作者のサイン会も実施。会場内には長蛇の列ができました。


参考ニュース:「起点中文網「全職高手」記念画集人気爆発。http://www.beareyes.com.cn/2/lib/201312/03/20131203178.htm 

■2014年3月15日のイベント「COMIC UP13.5」での特設コーナー。


■「全職高手」記念画集。定価89元。頁数112ページ。


「全職高手」はもうすぐ原作のネット連載が完結すると言われています。この春は各地で「全職高手」オンリーイベントが予定されています(杭州4月6日、上海5月17日)。一般的にいって、連載が終わるとブームが一気に沈静化する傾向があるので、いまがいちばん楽しいときです。小説サイト「中文起点網」は、同分野のサイトの中では最大手のひとつですが、コンテンツとファンを育てる企画に力を入れています。個人スポンサー募集制により書籍出版、画集発行などを推進していますが、「全職高手 記念画集」ほどの成功例が簡単に次々と生まれるわけではなさそうです。
「中文起点網」の出版個人スポンサー募集サイト:「圓夢」活動
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