帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの拾遺抄 巻第九 雑上 (四百六十三)(四百六十四)

2015-10-23 00:07:23 | 古典

           

 

                          帯とけの拾遺抄


 

藤原公任撰『拾遺抄』の歌を、紀貫之、藤原公任、清少納言、藤原俊成の歌論と言語観に従って読んでいる。

公任の捉えた和歌の表現様式は「およそ歌は、心深く、姿清げに、心におかしきところあるを優れたりといふべし」という、優れた歌の定義に表れている。

公任の撰んだ歌には、品の上中下はあっても、「清げな姿」「心におかしきところ」時には「深い心」の三つの意味が有るにちがいない。


 

拾遺抄 巻第九 雑上 百二首

 

かたらひ侍りける人の久しくおとづれ侍らざりければ、たかうなを

つかはすとて                  (読人不知)

四百六十三  君とはでいくよへぬらんいろかへぬ 竹のふるねのおひかはるまで

語らって情けを交わしていた人が、久しく訪れなかったので、たけのこ(筍)を遣るということで、(よみ人しらず・女の歌)

(君が訪わなくなって、幾世経ってしまったのでしょう、色を変えない竹の古根が、筍に・生え変わるまで……貴身、おとずれず、逝くよ・幾夜、経ったのでしょう、竹の子は古根が生まれ、変わる・彼張る、ほどまで・成ったのに)

 

言の戯れと言の心

「かたらひ…語らい…情けを交わす…片らひ…傍らひ…山ばに至らず傍らにひる」「ひ…ひる…放つ…体外に出す」。

「君…貴身…おとこ」「とはで…訪わないで…訪れずに」「いくよ…幾世…幾夜…逝く夜」「いろ…色彩…色情」「竹…言の心は男」「ふる…古根…降る根…古びた根…逝ったおとこ」「おひ…生える…極まる」「かはるまで…変わるまで…彼張るまで…元気回復まで」

 

歌の清げな姿は、訪れなくなって久しい男の元気回復を願って、すくすく育った筍を贈った。

心におかしきところは、山ばに至らず傍らに放た男が、久しく、お門、擦れる気配がないので、貴身の回復を促して筍を贈った。

 

男の長寿とその子の貴身の回復を言祝ぐ歌。この歌、拾遺集「雑賀」にある。

 

 

ある男の松を結びてつかはしければ         (読人不知)

四百六十四  なにせんにむすびそめけんいはしろの 松はひさしきものとしるしる

          或る男が松の枝を結んで、女の許に・遣わしたので、 (よみ人しらず・女の返歌)

(どうしようとして、結び初めたのでしょう、磐代の松は、寿命も・待つのも、久しいものと知りつつ・ですよね……何にしようとして、ちぎり結び初めたのでしょう、磐石の女の待つのは、久しい物と一緒の汁汁よ)

 

言の戯れと言の心

「なにせんに…何のためにか…何するためか」「むすび…結び…約束…ちぎり」「いはしろ…岩代…磐代…所の名」「岩・磐…言の心は女」「松…長寿…言の心は女…待つ」「もの…漠然とした事柄…物…身の端…おとこ」「と…内容を受けていう(引用のと)…と一緒に…共同の意を表す…門…おんな」「しるしる…知る知る…充分に知る…汁汁…つゆに濡れたさま」

 

歌の清げな姿は、結ばれたからには、末永き結婚を約束する。男が贈物に添えた心。

心におかしきところは、結ばれたからには、待つのは、久しき貴身と門の汁汁よ。女の返歌。

 この歌、拾遺集「恋二」にある。片恋や忍恋の第二段階はこうなるのだろう。


 
『拾遺抄』の原文は、新編国歌大観(底本は宮内庁書陵部本)によった。