帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの拾遺抄 巻第九 雑上 (四百三十九)(四百四十)

2015-10-09 00:12:23 | 古典

          


 

                         帯とけの拾遺抄


 

藤原公任撰『拾遺抄』の歌を、紀貫之、藤原公任、清少納言、藤原俊成の言語観と歌論に従って読んでいる。

公任の捉えた和歌の表現様式は「およそ歌は、心深く、姿清げに、心におかしきところあるを優れたりといふべし」という、優れた歌の定義に表れている。

公任の撰んだ歌には、品の上中下はあっても、「清げな姿」「心におかしきところ」時には「深い心」の三つの意味が有るにちがいない。

 

拾遺抄 巻第九 雑上 百二首

 

ある人の賀し侍りけるに          権中納言藤原敦忠

四百三十九 千とせふるしものつるをばおきながら ひさしき物はきくにざりける

或る女人の賀(年齢祝い)をしたときに、 (権中納言藤原敦忠・左大臣藤原時平の三男・和歌や管弦に優れた人ながら、三十八歳で亡くなった)

(千年経る、おきものの・霜の鶴をば、さしおいて、久しきものは菊ではなくて・貴女でしたなあ……千歳ふる、下這う蔓草をば・白鶴をば、さしおいて、久しきものは、菊ではなかった、あなただったなあ)

 

言の戯れと言の心

「ふる…降る…経る…振る」「しもの…霜の…下の…根元の」「つる…鶴(置物)…長寿の鳥…つる草…生命力の強い草…共に言の心は女」「おきながら…置きながら…措きながら…さしおいて…そっちのけで」「ひさしき物…久しきもの…長寿なもの」「もの…物…者…はっきり言えないもの…これ・あれ…おんな」「きく…菊…長寿の草花…言の心は女…木の花の桜などの慌しく咲き散るさまと比べれば明らか」「ざり…ず…打消しの意を表す」「けり…気付き・詠嘆の意を表す」

 

歌の清げな姿は、或るご老女の長寿の祝い歌。

心におかしきところは、ついでに、草花に負けない色香を、愛でて差し上げた。

 

公の歌集「拾遺集」雑賀の歌は、第五句「きみにぞありける」とある。聞きやすくわかりやすくなっている。ただし「きみ」は、誰をさすかはわからないが、聞き耳によっては「貴身…もの…あれ…あなたの身」と戯れるのは言葉の本性で、どうしょうもない。

 

 

清和の女七親王の八十賀、重明親王のし侍りける時の御屏風に、

竹に雪のふりかかりたるかたあるところに     つらゆき

四百四十  白雪はふりかくせどもちよまでに たけのみどりはかくれざりけり

清和の御時の女御で七の親王の母の八十歳の賀、重明親王(村上帝の御兄弟)がされた時の御屏風に、竹に雪の降りかかった絵のあるところに、(つらゆき・屏風歌にはこのような署名があったのだろう)

(白雪は降り隠すけれども、千代までの、竹の緑は・若々しい色は、隠れないことよ……おとこ白ゆきは降れば消えてなくなるけれども、千代までに・千夜までに、長の・多気の、若々しさは、常磐に・なくなることはないのだなあ)

 

言の戯れと言の心

「白雪…おとこ白ゆき…男の果ての色」「雪…白…逝き…果て」「かくす…隠す…亡くす」「たけ…竹…長…久しい…多気…元気いっぱい…多情…色情たっぷり」「みどり…緑…若々しい色」「かくれざり…隠れず…消え隠れず…なくならず」「けり…気付き・詠嘆」

 

歌の清げな姿は、八十歳、まさに長寿の祝い歌。

心におかしきところは、久しく元気で若々しいさまを言祝いだ。

 
 
『拾遺抄』の原文は、新編国歌大観(底本は宮内庁書陵部本)によった。