民法判例まとめ13

2016-04-22 23:53:06 | 司法試験関連

時効完成後の債務承認

①  債務者は、消滅時効が完成したのちに債務の承認をする場合には、その時効完成の事実を知っているのはむしろ異例で、知らないのが通常である。

②  債務者が商人の場合でも、消滅時効完成後に当該債務の承認をした事実から右承認は時効が完成したことを知つてされたものであると推定することは許されないものと解する。

最大判昭和41年4月20日 百選41事件

・何が債務承認的行為と言えるのか

 → 書面による減額の懇願、借用証書の書換え、一部弁済、債務支払の約定、弁済期の猶予の申入れなど。示談交渉は争いあり。「何時でも示談に応じる」旨の意思表示が「承認」に当たるとされた例がある。

・時効援用権喪失の客観的範囲

 → 本件は「利息を除く元本だけに債務を減額して欲しい」という申入れをした事例であるが、利息についても時効利益を喪失するという原審の判断が維持された。

 → しかし、直ちに利息についても時効援用権の喪失を認めるべきかは問題である。時効援用権の喪失の根拠を「承認行為により債務の存在がより明確にされたから」という点に求めると、積極的に弁済表明の意思として明示された範囲でだけ時効利益を喪失すると考えることができるからである。本件では「元本に限っての弁済意思」しかなかった以上、利息についてはなお時効利益を認めるということもできたのではないだろうか。

消滅時効の起算点

①  じん肺は、肺内に粉じんが存在する限り進行するが、それは肺内の粉じんの量に対応する進行であるという特異な進行性の疾患であって、しかも、その病状が管理二又は管理三に相当する症状にとどまっているようにみえる者もあれば、最も重い管理四に相当する症状まで進行した者もあり、また、進行する場合であっても、じん肺の所見がある旨の最初の行政上の決定を受けてからより重い決定を受けるまでに、数年しか経過しなかった者もあれば、二〇年以上経過した者もあるなど、その進行の有無、程度、速度も、患者によって多様であることが明らかである。

②  そうすると、例えば、管理二、管理三、管理四と順次行政上の決定を受けた場合には、事後的にみると一個の損害賠償請求権の範囲が量的に拡大したにすぎないようにみえるものの、このような過程の中の特定の時点の病状をとらえるならば、その病状が今後どの程度まで進行するのかはもとより、進行しているのか、固定しているのかすらも、現在の医学では確定することができないのであって、管理二の行政上の決定を受けた時点で、管理三又は管理四に相当する病状に基づく各損害の賠償を求めることはもとより不可能である。

③  以上のようなじん肺の病変の特質にかんがみると、管理二、管理三、管理四の各行政上の決定に相当する病状に基づく各損害には、質的に異なるものがあるといわざるを得ず、したがって、重い決定に相当する病状に基づく損害は、その決定を受けた時に発生し、その時点からその損害賠償請求権を行使することが法律上可能となるものというべきであり、最初の軽い行政上の決定を受けた時点で、その後の重い決定に相当する病状に基づく損害を含む全損害が発生していたとみることは、じん肺という疾病の実態に反するものとして是認し得ない。これを要するに、雇用者の安全配慮義務違反によりじん肺に罹患したことを理由とする損害賠償請求権の消滅時効は、最終の行政上の決定を受けた時から進行するものと解するのが相当

最判平成6年2月22日 百選42事件

・「権利を行使することができる」

  → 「権利行使につき法律上の障害がなく」かつ「権利の性質上、その権利行使が現に期待できること」(最大判昭和45年7月15日)

・安全配慮義務違反の債務不履行に基づく損害賠償請求権における「損害」は、本来の債務が転化したものではなく、本来の給付利益とは別の「拡大損害」の事例と判例は考えているということである。

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