最判平成元年9月14日 百選24事件
① 法律行為の要素に関するものであること
意思表示の内容のうち,重要な部分のこと
② 意思表示の内容に関する錯誤であること
表示の錯誤であれば,問題なく意思表示の内容に対応する効果意思がない
動機の錯誤の時が問題
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動機の錯誤
判例:動機がその表示によって意思表示の内容になっていれば良い。
意思表示の内容になる=契約等の法律行為に取り込まれるということ。
判例は,動機が表示さえされれば,意思表示に内容になるとはしていないので注意。でなければ,個人的事情を明かしておけば簡単に法律行為を無効にできてしまうからである。
問題は,動機が表示された場合にそれが「意思表示の内容」になると認められるのはどのようなときか,そもそもここでいう「意思表示の内容になる」とはどのような意味か,である。
動機が「意思表示の内容になる」とは,動機についての誤りは表意者が本来負担すべきところ,動機の誤りを理由に95条による無効の主張を表意者に認め,法律行為を無効にするということである。本来は表意者が引き受けるべき動機の誤りの危険を相手方に法律行為の無効と言う形で引受させるものであるとすれば,動機が意思表示の内容になるとは,そのことによって利益を受ける表意者の一方的な表示では足りず,不利益を引き受ける相手方の同意(意思表示の内容となることの同意)が必要となろう。相手方のこのような「同意」をどのような場合に認めるかは意思表示の解釈の問題となろう。
動機に種類・性質に応じて意思表示になりうる場合というのは千差万別である。
① 動機が当該法律行為を行う者であれば通常関心を持つ事情であるかどうか,② 当該動機の対象となっている事実の真否を相手方がどの程度容易に知りうる立場にあるかどうか,③ 両当事者の専門知識や取引経験に差が有るかどうか,である。
① まず,問題となっている動機の種類である。
例:売買契約
目的物はなにか,目的物はその種のものとして普通の状態にあるか,目的物の価値はどの程度か,目的物の価値と代金額はおおよそ釣り合っているか,などは通常関心を持つ事情といえる。他方で,契約締結にあたり個人的に重視した事情などは,例外的に重要視された事項となりやすい。
一般的に重要視する事項であれば,当該法律行為はその事項に関する動機を実現し,またその動機にそうものであることが当然であると考えられるはずである。そのような事項につき,当事者の一方が一定の観念を抱いている事が分かれば,その当事者が法律行為はその観念に添うものになると考えている事は相手方には容易に理解できるはずであろう。従ってこのような事柄に関する動機は比較的容易に意思表示の内容と認められて良いであろう。相手方が普通に理解できるような形で表示されていれば(たとえ黙示であっても),意思表示の内容=法律行為の内容になっているといって良い。
これに対し例外的に重要視されることがあるだけの事柄は,法律行為がそれを実現し,またそれに添うものとなることが当然であるとも言えない。相手方が単なる希望の表明と受け取ることも多い。そのような動機を内容にしようというのであれば,単に表示するだけでは足りず,それが特に重要である旨を相手方に認識させる必要があろう。特殊事情の中にはその存否により意思表示の効力が左右されるとすると,相手方が大きな不利益を被るものもあろう。このような場合には,相手方の明示の了承までなければ「意思表示の内容」になったと認められない事になると思われる。
② 相手方が,動機にかかる事実の真否を容易に知りうるかどうかも問題。
意思表示に関する情報は,各当事者が自己責任で収集するもの。動機→意思表示の内容になる→動機に誤りがあれば無効に出来る,と言う事は,その動機に関する情報収集責任を例外的に相手方に転嫁することを意味する。であるならば,ある事柄について,相手方が情報収集に失敗する危険が高ければ高いほど,相手方に例外的な負担の引受を求める事は難しくなる。相手方に確実に認識させ,明示の同意を取り付けることまで必要な場合もあるかもしれない。この事は,当事者が一般に重要視するような事項であっても当てはまる事柄である。
③ 当事者の属性も問題になる。
専門家同士,非専門家同士の場合であれば,意思表示に関する事項は,各当事者が自らの責任で収集するのが原則である。この場合,情報収集の失敗を相手方に容易に転嫁すべきではない。
これに対し,非専門家と専門家の取引であって,非専門家が専門家の知見に頼る事が許される場合には,非専門家は,情報収集失敗の危険を専門家たる相手方に比較的容易に転嫁できると言える。
意思表示に関する「重要な部分」に関する錯誤であること
主観的因果関係:表意者はその意思表示をしなかったであろう
客観的因果関係:通常人が表意者の立場にあったとしてもしなかったであろう
客観的な重要性が特に重視される。
→ 当該種類の法律行為の定型的特殊性と,当事者が法律行為をした趣旨を勘案して判断。