民法判例まとめ9

2016-04-13 19:50:37 | 司法試験関連

代理権の濫用

判例:93条但書類推適用で処理する

 <判例の考え方だと具合悪い事例>

→ 法人の理事の代理権濫用事例や,営業上の代理人の代理権濫用事例の場合

代理人の背信的意図につき,過失により知らなかった場合は,保護されない(民法93条但書類推適用説)。他方、本人が代理権の事項的範囲に加えられた制限につき善意であれば,保護される(一般社団財団77条5項,同197条,会社法395条5項,商法21条3項,同25条2項など)。しかし、このことは「背信的意図」の方が相手方としては分かりにくいのに,調査義務のレベルが高いということを意味する。同時に,知る事が相対的に容易な「代理権の事項的範囲」については善意で保護されることになるので,調査義務のレベルが低いことになる。

   = 相手方保護の視点として矛盾している。

   → 本人は,悪意の相手方との関係でのみ効力の引受を拒むことができるとすべき(佐久間)

 → 法律構成その1

    代理権濫用の場合も,代理行為は本人に原則効果帰属するとしつつ,相手方は,その主観的態様の如何によって,信義側上,代理行為の本人への効果帰属を主張できないとする。

    法人の理事の代理権濫用の場合は,悪意の相手方は,本人への効果帰属主張を信義側上許されない。その他の代理の場合には,悪意または有過失の相手方は,本人への効果帰属主張を信義側上許されない。

 → 法律構成その2

    各種の代理人について,代理権の不存在を相手方に対抗できない旨の規定(112条,一般社団財団77条5項・197条,会社法349条5項,商法21条3項・25条2項など)がある。代理件濫用の場合には,代理権を濫用した代理人の属性に応じてそれらの規定を類推する,という考え。法人理事の代理権濫用や,営業上の代理人の代理権濫用については,一般社団財団77条5項・197条,会社法349条5項,商法21条3項・25条2項などを類推する。(「制限」を「濫用」に読み替え)。その他の任意代理人や法定代理人の代理権濫用については,112条を類推する(「消滅」を「濫用」に読み替える)。この場合,相手方は,自己の善意を立証しなければならないことになる。

制限行為能力者の法定代理への110条適用の可否

判例:制限行為能力者の法定代理の場合にも,110条の適用を肯定する。110条の正当理由については,本人の過失,本煮の作為・不作為は不要。

    法定代理に場合にも取引の安全は考慮すべきとの価値判断。

制限行為能力者制度の改正をどう見るか?

実は従来,この問題が議論される際に,後見人につき後見監督人が選任されており,後見人の代理行為につき,その後見監督人の同意が必要であるにもかかわらず,同意を得ないで代理行為がなされた場合(864条・865条)というかなりなレアケースが想定されていた。

では,特定の法律行為について法定代理権を付与された保佐人,補助人(876条の4,876条の9)が代理権限外の代理行為,あるいは審判の取消しによる代理権消滅後に代理行為をした(例:預金の払戻しを受けた)場合などどう考えるか。

代理権の有無・範囲は,成年後見登記で確認できるが,相手方が毎回の取引の際し,成年後見登記の登記事項証明を求める事が現実的ではない無い場合もあるし,この代理権付与については,被保佐人,被補助人の申立てまたは同意が要件とされているので,任意代理と同じような規律をしても良い,とする立場がある。本人の関与が指摘でき,110条,112条の適用に問題はないというわけである。

しかし,被保佐人・被補助人の同意等を求めたのは,保佐・補助の制度を利用するにつき,本人の自己決定権を尊重する理念に基づく。そのような同意があったという事情のみをもって,判断能力が不十分または著しく不十分な者に個別の代理行為についての表見代理の責任を負わせる意味での帰責性が承認できるとみるべきではないであろう。

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