民法判例まとめ2

2016-04-06 23:09:34 | 司法試験関連

 

制限行為能力者であることの黙秘

民法21条にいう「詐術ヲ用ヰタルトキ」とは、無能力者が能力者であることを誤信させるために、相手方に対し積極的術策を用いた場合にかぎるものではなく、無能力者が、ふつうに人を欺くに足りる言動を用いて相手方の誤信を誘起し、または誤信を強めた場合をも包含すると解すべきである。したがつて、無能力者であることを黙秘していた場合でも、それが、無能力者の他の言動などと相俟つて、相手方を誤信させ、または誤信を強めたものと認められるときは、なお詐術に当たるというべきであるが、単に無能力者であることを黙秘していたことの一事をもつて、右にいう詐術に当たるとするのは相当ではない。

最判昭和44年2月13日 百選6事件

・平成11年民法改正の影響

→ 画一的な保護はふさわしくないので、制限行為能力者の類型毎に考察する必要がある.

成年被後見人

保護の必要性は極めて高い。成年被後見人の積極的な詐術があったとしても、あまり誇張すべきではない。立法論としては、21条は成年被後見人には適用しないものとすべきであるとされる。

未成年者

成年被後見人に準じる保護の必要性がある。未成年者を相手にする訪問販売や通信販売の際に、年齢詐称や法定代理人の同意書の偽造については、「詐術」と認定することは控えるべきであるとの指摘がある。

被保佐人

事理弁識能力の程度、取引の内容(不動産か動産か)、相手方の特性(素人か専門家か)、取引に至った経緯等を総合的に判断し、保護の必要性を具体的に導き出し、その大小と相手方保護とのバランスを勘案して、個別的事案毎に「詐術」が成立するか否かが判定されるべき。本判決もそうだが、判例に登場する事例の多くは、「浪費者」(改正前では準禁治産者とされた)である。改正により浪費者は保護の対象からは外されたので、従来のように純粋な浪費者にかかわる「詐術」該当性は問題にならない。

被補助人

被保佐人に比較しても取引の相手方としては本人の行為能力に疑義を抱かないまま通り引きに応じる可能性が高い。外観上健常者と区別できない状態にある被補助人が一定の取引について同意権付与の審判を受けている事実を告げずに取引をした場合には、被補助人の言動が相手方の誤信を強めさせたとして「詐術」にあたると認定される事例は多くなるかもしれない。

建築中の建物

大審院昭和10年10月1日 百選12事件

・事案は、Aが建築に着手するも資金難となり、屋根瓦を葺き、荒壁を塗った段階にあった本件建物をXに譲渡担保に供した。Xは工事を続行し建物を完成させ昭和6年9月9日に保存登記をしたが、Aの債権者Yが、本件建物をA所有であるとして、強制競売を申し立て、昭和6年9月4日にAのための所有権保存登記がなされYが競落した。それに対してXが所有権の確認等を求めたという事例である。

・このような事案で何故独立の不動産となっていたかどうかが問題になったのか

 → AからXへの譲渡時(譲渡担保目的ではある)に本件建物が独立の不動産となっていなければ、後の工事の時点で独立の不動産となった時点でX  が本件建物の所有権を原始取得することになるため、実体法上無権利者であるAを所有者とする本件建物の保存登記は無効となることになる(原審の判断)。

 → これに対し、本判決のように、AからXへの譲渡時に既に独立の不動産となっていたとすると、Xの本件建物の所有権取得は承継取得となるため、177条の適用問題となる。XがYに自身の所有権取得を対抗するには登記の具備が必要となるが、本件ではYの競売申立てにかかるAのための保存登記が先になされているので、Xの保存登記は二重登記として無効と言うことになるのである。

・独立した不動産となる時期につき、本判決は、建物がその目的とする使用に適当な構成部分を具備する程度に達していれば不動産と認められるとし、屋根・周壁を有し、土地に定着した一個の建造物として存在するに至っていれば、床や天井が備えられていなくても良い、としたのである。

 → 本件では、「譲渡時に床がなかった」という状態が認定されているが、どの程度の状態だったのかは明らかではなく、「居住の用」に供し得たのかどうかは微妙ではある。しかし、荷物の収容は可能であったようであり、風雨が凌げて抽象的にではあれ、何らかの形で建物として使用可能性が認められるのであれば、不動産として認めて差し支えはない、という趣旨であろうか。

 → 壁のない立体駐車場やプラットフォームが不動産として登記できることから、建造物には種々のものがありうる。本判決で示された「外気分断性」が常に不動産の要件となるとは限らない。本判決の基準は、あくまでも「住宅用建物」の場合であって、問題となっている建物が独立の不動産となるかどうかは、その種別に応じ、取引上の一般緩行等を考慮して、個別に判断することになろう。

・本判決が、独立の不動産となる前の建築途中建物(いわゆる「建前」)は「動産」である、と述べている点も重要である(百選Ⅰ72事件参)。

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