民法判例まとめ4

2016-04-08 23:09:58 | 司法試験関連

内心の意思の不一致

大審院昭和19年6月28日 百選18事件

・契約の成立の為には両当事者の「意思表示の合致」が必要である。その際、意思表示の客観的な合致が基準となるのか、それとも当事者が意思表示に付与した意味(内心の意思)の合致が基準となるのかが問題となる。

・今日の多数説は、当事者の意思(各当事者が表示に付与した意味)が一致する場合には、表示の客観的意味如何にかかわらず、その一致した意味内容での契約の成立を認める(第4回本試験参照)。問題は、当事者の意思が一致しない場合である。

・本判決は、意思の一致が無い限り、契約は不成立だとした。しかし、これでは一方当事者の相手方には知りえないような表示の理解によってさえ契約の成立が否定され、相手方の信頼が害されることになろう。しかも成立した契約の客観的意味内容と当事者の意思が食い違うと言う事態が生じえない事になり、95条の本来的適用場面を否定することにもなる表示の錯誤の問題の前に、契約不成立になってしまうからである)

・表示説は、契約の成否はあくまでも表示行為の客観的意味によって判断されるべきであり(契約の成立における表示主義)、この客観的意味の探求こそが意思表示解釈の目標だとする。この立場では、客観的意味と異なる当事者の一致した意思が契約の成否および内容の確定において考慮されるのは、「例外」現象にすぎない。また契約内容とされた客観的意味と当事者の主観的意味との不一致は錯誤の問題として考慮されるにすぎない、という処理になる。

・近時、表示説に対する有力な批判がある。表示説によると、契約の成否・内容の確定作業において、当事者の意思が全く考慮されない結果、当事者の何れもが欲していない契約内容が客観的意味と言う名の下で当事者に押しつけられる場合が出てくる。そこで、各当事者が表示に付与した意味が確定されるべきであり、これが一致している場合にその一致した意味での契約の成立が認められる。一致しない場合には、更に、いずれの当事者の意味付与が正当かを検討し、一方が正当と評価された場合にはその意味による契約の成立を認め、いずれの意味付与にも正当性が認められない場合には、内容の不確定ゆえに契約の成立が否定されるとするのである。

 → 本件では、譲受人が譲渡人に支払うべき金額について当事者の意思(表示に付与した主観的意味である)は一致しないが契約当時に事情に照らせば、表示は譲受人Yの付与した意味に正当性が認められる事案であった。そこでYの付与した意味に従った内容で契約の成立を認め、これと異なるXの意思については、錯誤の問題として処理すべきであったことになり、契約の成立そのものを否定した判例に立場は疑問である、ということになる。

 

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