民法判例まとめ8

2016-04-12 17:22:43 | 司法試験関連

利益相反行為と代理権濫用

①  親権者は、原則として、子の財産上の地位に変動を及ぼす一切の法律行為につき子を代理する権限を有する(824条)ところ、親権者が右権限を濫用して法律行為をした場合において、その行為の相手方が右濫用の事実を知り又は知り得べかりしときは、民法93条ただし書の規定を類推適用して、その行為の効果は子には及ばないと解するのが相当である。

②  しかし、親権者が子を代理してする法律行為は、親権者と子との利益相反行為に当たらない限り、それをするか否かは子のために親権を行使する親権者が子をめぐる諸般の事情を考慮してする広範な裁量にゆだねられているものとみるべきである。

③  親権者が子を代理して子の所有する不動産を第三者の債務の担保に供する行為は、利益相反行為に当たらないものであるから、それが子の利益を無視して自己又は第三者の利益を図ることのみを目的としてされるなど、親権者に子を代理する権限を授与した法の趣旨に著しく反すると認められる特段の事情が存しない限り、親権者による代理権の濫用に当たると解することはできないものというべきである。

最判平成4年12月10日 百選26事件

・本判決は、①利益相反行為か 外形基準説で判断、②権限濫用か 裁量が広いので濫用となるのは限定的、③権限濫用であれば、93条但書類推適用で処理、という処理手順を示したものである。

・判例は、代理権の濫用を「代理人が自己または第三者の利益を図るため権限の行為をしたとき」と定義する。

・親権者の権限行使が「濫用」とされるのは、「親権者に子を代理する権限を授与した法の趣旨に著しく反すると認められる特段の事情」が存するとき、ということになる。「特段の事情」とはどのような場合なのか、今後問題となろう。

・法人の理事の場合など、本人が代理権の事項的範囲に加えられた制限を善意の第三者に対抗できないという規定がある(一般社団財団77条5項、197条、会社法349条5項、商法21条3項・25条2項など)。そのため判例法理の問題点は、相手方は知ることが相対的に容易な代理権の事項的範囲に関する制限については、善意無重過失でさえあれば保護されるのに、知ることがより難しい背信的意図については、過失があると保護されないという、奇妙な結果になる点にある。そこで、代理権濫用事例では、本人は悪意の相手方との関係でのみ効力の引き受けを拒める、という構成が妥当だ、という見解が出てくるのである。

 → ①代理権乱用の場合も本人に効果帰属することを前提に、悪意の相手方は信義則上、本人への効果帰属を主張できない、とする見解。

 → ②一般社団財団77条5項、197条、会社法349条5項、商法21条3項・25条2項などを類推適用する見解。

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民法判例まとめ7

2016-04-12 15:37:57 | 司法試験関連

意思表示の到達 

①  遺産分割と遺留分減殺とは、その要件、効果を異にするから、遺産分割協議の申入れに、当然、遺留分減殺の意思表示が含まれているということはできない。

 ↓

②  しかし、被相続人の全財産が相続人の一部の者に遺贈された場合には、遺贈を受けなかった相続人が遺産の配分を求めるためには法律上、遺留分殺によるほかない。遺留分減殺請求権を有する相続人が、遺贈の効力を争うことなく、遺産分割協議の申入れをしたときは、特段の事情のない限り、その申入れには遺留分減殺の意思表示が含まれていると解するのが相当である。

最判平成10年6月11日 百選25事件

・まず、遺産分割協議の申入れに、遺留分減殺請求の意思表示が含まれているかが問題となった。

 → 遺留分減殺請求権は形成権なので明確な意思表示が要求されるべきである。遺産分割協議の申入れは形成権ではないし、物権的な効果も認められていないとい。つまり両者は法的性質が異なる。

・次に、内容証明郵便が受取人不在のために留置期間経過後に返送された場合でも、意思表示が到達したと言えるかが問題となった。

→ 「隔地者に対する意思表示は、相手方に到達することによってその効力を生ずるものであるところ(民法九七条一項)、右にいう「到達」とは、意思表示を記載した書面が相手方によって直接受領され、又は了知されることを要するものではなく、これが相手方の了知可能な状態に置かれることをもって足りる」

→ 郵便そのものは返送されているので、支配圏内にあるとは言えないが、他方で、不在配達通知書により郵便が送付されたことは認識できるし、改めて受領することもできる、という特殊性がある。下級審事例では、送達ありとするものが多数のようである。

・本件では、時効の中断が問題となっている。催告による時効の中断の場合は、催告が中断事由とされた趣旨、その効果が暫定的なものであることに鑑み、催告の到達は緩やかに認定して良いとの説がある(=意思表示の類型に応じた考察である)。

 → 本件では催告事例ではなく、形成権が行使されているが、遺留分減殺請求権に関する時効の中断が問題となっており、その意味において緩やかに認定する方向性は肯定できよう。

・相手方が故意に受領を拒んでいるような場合には、130条の類推適用で到達を擬制すべきとの説もある。

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