無権代理人の責任(117条)
① ある者との間で契約を締結し, ② その際に顕名あり |
を主張立証する。
(損害賠償請求をする場合には,①の契約による債務の履行不能または,損害賠償を選択する旨の意思表示と,損害の発生とその金額の主張立証も必要)
責任追及された者は,
① 代理権の存在(117条1項:有権代理になる) ② 本人の追認(117条1項:有権代理と同様に扱われる) ③ 相手方による契約取消し(115条:無権代理による契約締結の事実が無くなる) ④ 代理権の不存在に関する相手方の悪意または有過失(117条2項:保護に値しない) ⑤ 当該契約をする行為能力がなかったこと(117条2項:但し,制限行為能力者が保護者の同意を得て代理したことを相手方が主張立証すれば,制限行為能力者にも責任を問える,とするのが通説) |
損害賠償義務の範囲
履行利益の請求が可能。
A:無権代理人,C:相手方とする
Cが有過失であるとき,CがAに対して709条を根拠として損害賠償請求できないか。
→ 117条の責任と709条の責任は,要件・効果が異なり,前者が後者を排除する関係には無いといえる。そこで,117条の責任追及が出来ないCは,悪意ないし有過失のAに対して,709条に基づく損害賠償請求ができると解すべきであろう。
取消権を行使したら,無権代理人への責任追及は出来ないのか。
→ 通説は出来なくなるとする。取消権の行使は,無権代理人との一切の法律関係を解消させる趣旨である,と見るのである。
→ しかし,これは取消権を行使するCの意思解釈の問題ではないか。本人Bとの不安定な関係を取消権行使により解消し,他方,無権代理人Aに対してその責任追及をする事が背理といえるのであろうか。Cが取消権行使の後に,Aに無権代理人の責任を追及する場合,AはCの取消しが117条の責任追及を断念する意思を含んでいたことを立証しなければAは責任を免れない,とすべきではないか(磯村)
本人の無権代理人相続 |
① 無権代理人が本人を相続した場合においては、自らした無権代理行為につき本人の資格において追認を拒絶する余地を認めるのは信義則に反するから、右無権代理行為は相続と共に当然有効となると解するのが相当である。 ↓ ② しかし、本人が無権代理人を相続した場合は、これと同様に論ずることはできない。相続人たる本人が被相続人の無権代理行為の追認を拒絶しても、何ら信義に反するところはないから、被相続人の無権代理行為は一般に本人の相続により当然有効となるものではないと解するのが相当である。 |
最判昭和37年4月20日 百選35事件
・無権代理人の本人単独相続型
→ 資格融合説・当然有効説(大判昭和2年3月22日)
・本人の無権代理人単独相続型(本判例)
→ 当然有効説を否定した
→ 資格併存説を採用。無権代理人の連帯保証人としての金銭債務につき(117条責任)相続の対象となる(最判昭和48年7月3日)
・所有者が他人物売主を相続した場合
→ 信義則に反すると認められるような特段の事情のない限り、売主としての履行義務を拒否することができる」(最判昭和49年9月4日)として、不動産の給付義務を否定した。
・117条の履行責任は、金銭や不特定物の給付義務は免れないが、特定物の給付義務は免れる(48年判決と49年判決を整合的に理解)
→ 元々本人は相手方からの履行請求を拒むことができ、相手方は無権代理人に対して損害賠償請求しかできなかったのに、たまたま本人が無権代理人を相続して特定物の給付が可能となったことで相手方からの117条に基づく履行請求を拒めないとして本人が不利に扱われるのは不当である。
・本人が生前に追認を拒絶した後に死亡して無権代理人が単独相続した場合、追認拒絶で本人への効果不帰属が確定したことは、無権代理人が本人を相続してもかわらない(最判平成10年7月17日)
→ 相手方は、無権代理人としての117条責任を追求することになるが、この場合、相続によって特定物の給付が可能になったとみて、117条の履行責任が問題になりうる。
→ 相続という「偶然の事情」を強調すれば、この場合も履行を拒めるこおtになろう。
→ 本人の資格が先行している場合、本人が追認拒絶できる地位と履行請求に応じなければならない地位を併有するのは、財産管理権における矛盾が生じるのに対して、この場合は、無権代理人としての資格が先行しているので、このような矛盾が生じないことから、履行請求を拒絶できないと解すべきであろう。
→ 本人の資格で追認拒絶することが矛盾的であり信義則に反するとされているのであれば、追認拒絶の効果を無権代理人が主張することが信義則に反し許されないということがあってもおかしくない。
無権代理人の本人相続 |
① 無権代理人が本人を他の相続人と共に共同相続した場合、無権代理行為を追認する権利は、その性質上相続人全員に不可分的に帰属するところ、無権代理行為の追認は、本人に対して効力を生じていなかった法律行為を本人に対する関係において有効なものにするという効果を生じさせるものであるから、共同相続人全員が共同してこれを行使しない限り、無権代理行為が有効となるものではないと解すべきである。 ↓ ② 他の共同相続人全員が無権代理行為の追認をしている場合に無権代理人が追認を拒絶することは信義則上許されないとしても、他の共同相続人全員の追認がない限り、無権代理行為は、無権代理人の相続分に相当する部分においても、当然に有効となるものではない。 |
最判平成5年1月21日 百選36事件
・「性質上相続人全員に不可分的に帰属する」とはどういうことか。
→ 追認権が相続人によって準共有され、追認が未確定無効を有効化するという処分的効果を生じさせるものなので、共同相続人全員の同意が必要(251条)ということ。
・実は本件では、本人Aが生前、無権代理を理由にAを連帯保証人とする本件金銭消費貸借契約の公正証書の執行力の排除を求める請求異議の訴え(別訴)を提起しており、「裁判所に顕著なところである」と認定されていた。これは、本人が無権代理行為につき追認を拒絶していると評価することができた事例であった。すなわち、最判平成10年7月17日型で処理ができた事例なのである。