「移民政策」がアベノミクス "第四の矢"になり得る理由
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「移民受け入れ」をするべきかを巡る議論が、今後ますます活発になりそうだ。
政府は不足する労働力を補うため、外国人を「技能実習制度」でより多く受け入れる。今国会でも、関連法案の成立を目指している。
また、4月18日付朝日新聞が発表した世論調査結果が話題になった。
「永住を希望して日本にやってくる外国人を、今後、移民として受け入れることに賛成ですか。反対ですか」という質問に対して、移民に賛成が51%、移民に反対が34%。賛成が反対を上回った。
アベノミクス挫折の背景に「人口減少」
この「移民受け入れ」は、株高以外に成果を挙げられず、行き詰まり感のあるアベノミクスの"次の手"になりうる。
アベノミクス「第一の矢」(金融緩和)、「第二の矢」(財政出動)の効果を打ち消してしまったのが、昨年行われた消費税増税だ。
増税が強行された背景には、「日本の人口が減り、少子高齢化する中、税率を上げなければ社会保障を維持できない」という危機感があった。弊誌は、「消費増税では税収は増えない」「現在の社会保障は維持できない」と訴えてきたが、人口減少に対する危機感自体には異論はない。
先月行われた統一地方選で、大きなテーマとなった「地方消滅」。これも「人口減少」問題の一環だ。
「日本は、これ以上経済成長できない」と主張する悲観論者は、規制緩和やインフラ投資などの成長戦略に反対する。悲観する理由として、彼らが最初に挙げるのも「人口減少」だ。
日本経済の"諸悪の根源"ともいえる「人口減少」。その対応策として、最も直接的なものが、「移民受け入れ」だ。
移民受け入れは「第三の矢」にも通じる
アベノミクス「第三の矢」(成長戦略)の主眼は、規制緩和を進め、新たなビジネスモデルやイノベーションが生まれやすい環境を生むこと。人口も工場も増やす余地が少ない先進国では、「いかに新事業を創造するか」こそ、経済成長を主導する。
この課題に対しても、「移民受け入れ」は答えとなる。
本誌4月号にも登場した歳経済学者のリチャード・フロリダ氏は「クリエイティビティ(創造性)が経済成長を促す」と主張する。そして、様々な移民を受け入れている地域と、経済成長率が高い地域には、高い相関性があると主張している。
アイデアの基本は、「異種結合」だ。考え方の多様性や国際的な発想が、新たな創造性の源になる。
「移民受け入れ」は、アベノミクス「第三の矢」が目指すところにも通じる。まさに、「4本目の矢」としてふさわしい。
「移民への抵抗」が強い日本
しかし、日本では「移民受け入れ」への抵抗感はまだ根強い。
一つは経済的な不安だ。今月行われた英国での総選挙では、移民政策見直しを推進する保守党が勝利した。背景の一つには、「移民が雇用を奪っている」などという国民の不満があった。これを見て「やはり移民を受け入れて、いいことはない」と感じた日本人は多いのではないか。
また、「イスラム国」問題を見て、「移民を受け入れれば、イスラム教徒が多く入国し、テロにつながる」と危惧する人もいる。さらに、歴史問題などで距離が開きつつある中国・韓国からの移民増で、安全保障が脅かされると危惧する声もある。
「移民のリスク」vs「人口減のリスク」
こうした問題をどう捉えればいいのか。
もちろん、移民政策の具体的方策を間違えば、上のような問題が起きるリスクもある。しかし今の日本に取っては、「移民という選択肢を排除してしまうことのリスク」のほうが高い。
例えば、「外国人が農村に来ると集落が荒れる」と心配する前に、集落が消えてしまうことを心配しなければならない。
まずはマクロの視点から幹となる方針を立て、それに伴うリスクは個別に対応していくべきだ。「人口減少の解決」が本論なら、「移民受け入れに伴う諸問題の予防・解決」が各論だ。
これは、原発の議論とも似ている。「エネルギーを石油に依存することの経済的・国防上のリスク」と、「どこかの原発が被災し、放射能が撒き散らされるかもしれないリスク」を冷静に比較しなければならない。前者が本論で、後者が各論だ。
日本は早い段階で「移民受け入れ」の準備を始めるべき
では、想定される諸問題はどう解決すればいいのか。
例えば、欧州の移民政策の問題として、社会に溶け込めず、雇用が得られないといった理由で、移民の2世、3世が不満を持ち、暴動などを起すというものがある。その教訓は、移民やその子供に、充分な言語教育・職業訓練が与えられなかったことだ。日本は、教育制度の確立とセットにして、「移民受け入れ」をするべきだ。
また、「どの国からどれだけの移民を受け入れるか」を決めることは、国家として当然の主権だ。安全保障の観点から、反日教育の影響が強い国からの移民数を大きく制限することも可能だ。
移民の受け入れを前提とした上で、各国の教訓を充分に生かしながら、諸問題を各個撃破できる。
日本は早い段階で「移民受け入れ」の方針を固め、こうした具体的な研究に入るべきだ。(光)
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