永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(887)

2011年01月27日 | Weblog
2011.1/27  887

四十六帖 【総角(あげまき)の巻】 その(64)

 中の君の口惜しいご様子に、大君は、

「人なみなみにもてなして、例の人めきたる住ひならば、かうやうにもてなし給ふまじきを、など、姉君はいとどしくあはれと見奉り給ふ」
――中の君を人並み以上にかしづきお世話もして、住居も世間並みであったならば、匂宮もこのようにひどいお扱いはなさいますまいに、と、姉の大君は前より一層中の君をお可哀そうにお思いになるのでした――

 そしてつくづくと、

「われも世にながらへば、かうやうなる事見つべきにこそはあめれ、中納言の、とざまかうざまに言ひありき給ふも、人の心を見むとなりけり、心ひとつにもて離れて思ふとも、こしらへやるかぎりこそあれ、在る人のこりずまに、かかる筋のことをのみ、いかで、と思ひためれば、心より外に、遂にもてなされぬべかめり」
――もし自分も生き長らえるならば、きっとこういう目に遇うに違いない。薫が何やかや言い寄られるのも、私の気を引いてみようとのお考えに違いない。自分一人でいくら無関心を装っても、なだめすかすには限りがあるというものでしょうし、側の老女たちが性懲りも無くこのような事(結婚)ばかり、何とかしようと思っているようなので、思いがけず私もいつか結婚させられてしまうかもしれない――

「これこそは、返す返す、さる心して世をすぐせ、とのたまひおきしは、かかる事もやあらむのいさめなりけり、さもこそは憂き身どもにて、さるべき人々にも後れたてまつるらめ、やうのものと人笑へなる事を添ふる有様にて、なき御影をさへ悩まし奉らむがいみじさ、なほ我だに、さるものおもひにしづまず、罪などいと深からぬ前に、いかで亡くなりなむ」
――(亡き父君が)この事こそ繰り返し繰り返し、そのつもりで用心して世を送りなさいと遺言されたのは、このような事もあろうかとのお諌めだったのでした。このように不幸な身の上で、頼みとする両親にも先立たれ申されたのでしょうか。姉も妹と同類だと世間の物笑いの種を重ねるようなことになって、亡きご両親にまで、ご迷惑をおかけする悲しさ、やはり自分だけはそのような苦労をせず、罪などあまり深くないうちに、どうにか死んでしまいたい――

 と悩み沈んで、お心持もひどくお辛そうで、お食事もまったくお取りになりません。

◆こしらへやる=こしらふ=なだめすかす、機嫌をとる。

◆(在る人の)こりずまに=(ここの老女たちが)懲りずまに=性懲りもなく

◆やうのもの=やうなり=他のものと同じである意を表す。

では1/29に。

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