永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(888)

2011年01月29日 | Weblog
2011.1/29  888

四十六帖 【総角(あげまき)の巻】 その(65)

 大君はお食事を全くお取りにならず、

「ただ亡からむ後のあらましごとを、明け暮れ思ひ続け給ふに、もの心細くて、この君を見奉り給ふもいと心苦しく、我にさへ後れ給ひて、いかにいみじく慰むかたなからむ、あたらしくをかしき様を、あけくれの見ものにて、いかで人々しくも見なし奉らむ、と、思ひ扱ふをこそ、人知れぬ行く先のたのみにも思ひつれ」
――ただひたすら、ご自分が亡くなられてから後の事をあれこれと朝夕考え続けていらっしゃると、なんとも心細くなって、妹君をご覧になるにつけても、たいそうおいたわしく、まして姉の自分にまで先立たれては、どんなにかひどく気落ちなさることであろう、惜しいほど美しいご容姿を、朝夕の慰めとして、何とかして世間並みに縁づけて差し上げようと骨を折る事を、私はひそかに将来の頼みとも思ったものだったのに――

「かぎりなき人にものし給ふとも、かばかり人笑へなる目を見てむ人の、世の中に立ちまじり、例の人ざまにて経給はむは、類少なく心憂からむ、などおぼし続くるに、いふかひもなく、この世にはいささか思ひ慰むかたなくて過ぎぬべき見どもなりけり、と心細くおぼす」
――匂宮がどれほど高貴なお方であろうとも、これほど中の君が物笑いになりそうな目に遇わされてしまった上では、世間に出て人並みに過ごされることも難しく、さぞや肩身も狭いことでしょう、などと思い続けていきますと、身も世もなく、私たち姉妹は何ひとつ楽しみもなくこの世を終わる宿縁なのだと、さらに一層お心細く悲しくお思いになるのでした――

 さて、

 「宮は、立ちかへり、例のやうにしのびて、と出で立ち給ひけるを、『かかる御しのび言により、山里の御ありきも、ゆくりかにおぼし立つなりけり。軽々しき御ありさまと、世人も下に誹り申すなり』と衛門の督のもらし申し給ひければ、中宮もここしめし歎き、上もいとど許さぬ御けしきにて、『大方心に任せ給へる御里ずみのあしきなり』ときびしき事ども出で来て、内裏につとさぶらはせ奉り給ふ」
――匂宮はすぐさま、いつものようにお忍びで宇治へ行こうと計画されましたのを、「このような秘密のことがおありになって、山里への紅葉狩りを急に仰せになられたのです。軽々しい御振る舞いと、世間でも陰では非難申し上げております」と、衛門の督(えもんのかみ)が、そっと御所の方にお知らせになりましたので、母君の明石中宮もたいそうお嘆きになり、帝ももってのほかの御気色で、「大体あなたが、気ままな里住いをお許しになったのが悪いのだ」との、お咎めもありまして、それからは匂宮をずっと内裏に引きつけてお置きになります――

「左の大臣殿の六の君を、うけひかず思したる事なれど、おしたちて参らせ給ふべく、みな定めらる」
――夕霧左大臣の六の君を、匂宮はご結婚をご承諾されないでいられたのですが、無理にもご縁づけなさるように、周りで一切が取り決められました――

◆ゆくりかに=おもいがけなく。にわかなさま。

◆衛門の督(えもんのかみ)=夕霧の子息で宇治遊覧の際、中宮の使いとして参った人

◆うけひかず思したる事=承け引かず=承諾したくないと思っていること

◆おしたちて=押し立ちて=立ちはだかる。無理にする。

では1/31に。


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