永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(1028)

2011年11月19日 | Weblog
2011. 11/19     1028

四十九帖 【宿木(やどりぎ)の巻】 その(89)

「あはれなりける人かな、かかりけるものを、今までたづね知らですぐしけることよ、これよりくちをしからむ際の品ならむ、ゆかりなどにてだに、かばかり通ひきこえたらむ人を得ては、おろかに思ふまじき心地するに、ましてこれは、知られたてまつらざりけれど、まことに故宮の御子にこそはありけれ、と見なし給ひては、かぎりなくあはれにうれしくおぼえ給ふ」
――何と可憐な人かな、これ程の女であったのに、今まで尋ねのせずに過ごしてしまったとは。これよりも劣る身分の女でも、亡き大君のゆかりでさえあれば、これだけ似通っている人をいい加減には思うまい。ましてこの人は、認めてはいただけなかったにしても、真実八の宮のお子さんであったのだ、と薫はお考えになりますと、この上もなくあはれに、
うれしくお思いになるのでした――

「ただ今もはひ寄りて、世のなかにおはしけるものを、といひなぐさめまほし。蓬莱までたづねて、かんざしのかぎりをつたへて見給ひけむ帝は、なほいぶせかりけむ。これは異人なれど、なぐさめどころありぬべきさまなり、とおぼゆるは、この人に契りのおはしけるにやあらむ」
――たった今でも浮舟のそばに這い寄って、「あなたはまあ、生きていらしたのですね」と慰めてさしあげたい。道士をやって蓬莱山まで尋ね、形見のかんざしだけを手に入れてご覧になった玄宗皇帝は、それだけではやはり胸が晴れ晴れとはしなかったであろう。浮舟は大君ではないけれど、きっと気晴らしになるに違いないという気がするのは、この人に前世からの宿世がおありにあったのでしょうか――

「尼君は物語すこしして、とく入りぬ。人のとがめつる香を、ちかくのぞき給ふなめり、と心得てければ、うちとけごともかたらはずなりぬるなるべし」
――弁の君は、しばらく物語などをして、すぐに自室に戻ってしまいました。先ほど浮舟の女房たちが不審に思ったあの香りから、近くに薫が忍んでおいでになると心得ましたので、くつろいだ話もせずじまいだったのでしょう――

「日暮れもて行けば、君もやをらいでて、御衣など着給ひてぞ、例召しいづる障子口に、尼君呼びて、有様など問ひ給ふ」
――日もようやく暮れかかりましたので、薫もそっとそこを出られて、御衣などをお重ねになり、いつもお呼び出しになる障子口に尼君を呼んで、あちらの様子などをお訊ねになります――

「折しもうれしくまで来合ひたるを、いかにぞ、かのきこえしことは」
――ちょうどよい折に来合わせたものだが、いつぞや言って置いたことは、どんなものだろう――

 と、言いだされます。

では11/21に。

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