永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(1078)

2012年03月07日 | Weblog
2012. 3/7     1078

五十帖 【東屋(あづまや)の巻】 その(49)

「同じうめでたしと見たてまつりしかど、宮は思ひ離れ給ひて、心もとまらず、あなづりて押し入り給ひけるを思ふもねたし、この君は、さすがにたづね思す心ばへのありながら、うちつけにも言ひかけ給はず、つれなし顔なるしもこそいたけれ、よろづにつけて思ひ出でらるれば、若き人はまして、かくや思ひ出できこえ給ふらむ、わがものにせむと、かく憎き人を思ひけむこそ、見ぐるしき事なべかりけれ、など、ただ心にかかりて、ながめのみせられて、とてやかくやと、よろづによからむあらましごとを思ひ続くるに、いと難し」――匂宮も薫大将と同じようにご立派にお見上げしましたが、匂宮は浮舟をまったく問題になさらず気にもお留めになりませんのに、侮って押し入ってこられた事を思いますと無性に腹が立って仕方がありません。一方薫大将は、浮舟を尋ね求めるお気持がありながら、だしぬけに言いかけもなさらず、素知らぬ顔をしていらっしゃるのは、ご立派なこと。この私でさえ何かにつけて大将のことを思い出されてならないのですから、まして若い人は、
どんなに憧れることか。あの憎い少将などを婿にしたいと考えたことはまったく見ぐるしいことだった、と、この浮舟のことばかり案じられて、こうしたら、ああしたらと万事に良き行く末を思い描いてみますものの、しかしどうなるか実際は難しい――

「やむごとなき御身の程御もてなし、見たてまつり給へらむ人は、今すこしなのめならず、いかばかりにてかは心をとどめ給はむ、世の人のありさまを見聞くに、おとりまさり、賤しう貴なる品に従ひて、容貌も心もあるべきものなりけり」
――大将殿の高貴なご身分といい、御振る舞いといい、また縁組なさった女性(女二の宮)は、きっと浮舟より一段と優れた御方であろう。いったい薫殿は浮舟がどれ程の女だといって、お心に留めてくださるだろうか。世間の人の様子を見たり聞いたりしても、身分の高い低いによって、優劣というものは、容貌でも心でも定まるものであるから――

「わが子どもを見るに、この君に似るべきやはある、少将をこの家のうちにまたなき者に思へども、宮に見くらべたてまつりしは、いともくちをしかりしに、おしはからる」
――常陸の守との間に設けたわが子をみても、誰一人として浮舟に及ぶ者がいようか。少将もこの家の内ではこの上なく立派に見えようとも、匂宮と見較べれば実に見ぐるしく見えることでも察しがつくというものだ――

「当帝の御かしづき女を得たてまつり給へらむ人の御目うつしには、いともいともはづかしく、つつましかるべきものかな、と思ふに、すずろに心地もあくがれにけり」
――帝の御秘蔵の姫宮(女二の宮)を頂かれたほどの薫大将殿の目から御覧になれば、どう考えてみてもわが姫君などは何とも恥かしく、気が退けるというものだ、と思うと、北の方は訳もなくぼんやりと気落ちしてしまうのでした――

「旅の宿りはつれづれにて、庭の草もいぶせき心地するに、いやしき東声したる者どもばかりのみ出で入り、なぐさめに見るべき前栽の花もなし」
――(浮舟の)仮住まいの宿は殺風景で、庭の草も鬱陶しく、下品な東国なまりの者ばかりが出入りして、心を慰めてくれるような花々もありません――

では3/9に。


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