永子の窓

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蜻蛉日記を読んできて(198)その2

2017年06月16日 | Weblog
蜻蛉日記 下巻(198) その2  2017.6.16

「さて、かのびびしうもてなすとありしことを思ひて、『いとまめやかには心ひとつにも侍らず、そそのかし侍らんことは難き心地なんする』とものすれば、『いかなることにか侍らん。いかでこれをだにうけ給はらん』とて、あまたたび責めらるれば、げにとも知らせん、言葉にいへば言ひにくきをと思ひて、『御覧ぜさするにも便なき心ちすれど、ただこれもよほしきこえんことの苦しきを見たまへとてなん』とて、かたはなべき所は破り取りてさし出でたれば、簀子にすべり出でて、おぼろなる月にあてて久しう見て入りぬ。」

◆◆さて、あの派手なもてなしをしていると言ってきたあの人のことを思い出して、右馬頭に「実際のところ私の一存にもまいりませんので、殿に催促いたしますことは、いたしにくい感じがいたします」というと、「どういうことでございましょうか。是非このことだけでも承りたいものえでございます。」と言って何度も責めたててくるので、ぜひ右馬頭が納得のいくように分からせたい、口に出しては言いにくいからと思って、「御覧に入れるのも具合が悪い気がいたしますが、ただ、結婚のことを殿に催促申し上げにくいことを解っていただきたくて」と、見られては都合の悪いところは破り取って差し出すと、右馬頭は簀子にすべりでて、おぼろな月の光にあてて、長い間見てから、部屋に戻ってきました。◆◆



「『紙の色にさへ紛れて、さらにえ見たまはず。昼さぶらひて見給へん』とて、さし入れつ。『いまは破りてん』と言へば、『なほしばし破らせ給はで』など言いて、これなることほのかにも見たり顔にも言はで、ただ、『ここにわづらひ侍りしほどの近うなれば、慎むべきものなりと人も言へば、心ぼそうもののおぼえ侍ること』とて、をりをりにそのことともきこえぬほどに、しのびてうち誦ずることぞある。『つとめて寮にものすべきこと侍るも、助の君にきこえにやがてさぶらはん』とて立ちぬ」

◆◆右馬頭は「文字が紙の色にすっかり紛れてよくも拝見できません。昼間にお伺いして拝見いたしましょう。」と言って返してきました。「もう破ってしまします」というと、「どうぞしばらくの間は破らずに」などと言って、手紙の内容を、ちょっとでも見たような顔をせず、ただ、「私が心配している時期が近づきましたので、身を慎まなければならないと人が言いますので、とても心細くおもっております。」と言って、ときどき何か、聞こえないほどの声でそっとつぶやいています。そして「明日の朝、役所に行かねばならぬ用事がございますが、助の君にその件を申し上げに、自邸からそのままそちらへ伺います」と言って座を立ちました。◆◆


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