永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(1051)

2012年01月09日 | Weblog
2012. 1/9     1051

五十帖 【東屋(あづまや)の巻】 その(22)

 別の女房が、

「『いさ、この御あたりの人はかけてもいはず。かの君の方より、よく聞くたよりのあるぞ』など、おのがどち言ふ。聞くらむとも知らで、人のかく言ふにつけても、胸つぶれて、少将をめやすき程と思ひける心もくちをしく、げにことなることなかるべかりけり、と思ひて、いとどしくあなづらはしく思ひなりぬ」
――「でも、こちらのお邸(二条院)の人々はだれも噂していませんよ」「いいえ、少将の方から確かな伝手(つて)があって聞きましたもの」などと、それぞれが話しています。北の方が聞いているとも知らず、こんな風に言っているのを聞くにつけても、胸つぶれる思いで、なるほど、少将など格別のこともなさそうな男だったと思い、一層少将を軽蔑する思いになるのでした――

「若君のはひ出でて、御簾のつまよりのぞき給へるを、うち見給ひて、立ち返り寄りおはしたり。『御心地よろしく見え給はば、やがてまかでなむ。なほ苦しくし給はば、今宵は宿直にぞ。今は一夜をへだつるもおぼつかなきこそ、苦しけれ』とて、しばしなぐさめ遊ばして、出で給ひぬる様の、かへすがえす見るとも飽くまじく、にほひやかにをかしければ、出で給ひぬる名残、さうざうしくぞながめらるる」
――(匂宮は)若君が這い出して御簾の端からお覗きになるのを、お目に留めて、立ち戻って側にお寄りになります。「明石中宮のご気分がおよろしそうでしたら、すぐ帰ってきましょう。でもお悪いようなら、今夜は宿直もしなくてはなるまい。今ではほんの一晩会わずにいても気懸りなのでね」とおっしゃって、しばらくあやして遊ばれてからお出ましになります。そのあでやかなお美しさは飽かず眺められ、お帰りになられた後の名残りは、物寂しく気が滅入る心地がするのでした――

「女君の御前に出で来て、いみじくめでたてまつれば、田舎びたる、とおぼして笑ひ給ふ」
――母北の方は、中の君の御前に出て、大袈裟なほどに匂宮をおほめになりますと、御方は、まあぶしつけな、と微笑まれます――

 北の方が、

「故上の亡せ給ひしほどは、いふかひなく幼き御程にて、いかにならせ給はむ、と、見たてまつる人も故宮もおぼし歎きしを、こよなき御宿世のなりければ、さる山ふところの中にも、生ひ出でさせ給ひしにこそありけれ。くちをしく、故姫君のおはしまさずなりにたるこそ、あかぬことなれ」
――亡き御母上さまがお亡くなりになりました頃は、あなた様はまだほんの幼くて、この先どうおなりになりますことかと、お仕えする人々も、故八の宮もお嘆きになられたものでした。それが、この上なく結構な御運勢でいらっしゃいましたので、あのような山懐のさびしい宇治の里でも、ご立派に成人されたのですね。残念でしたのは姉君様のお亡くなりになられたことで、本当に諦めきれません――

 などと、泣きながら申し上げます。

では1/11に。

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