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永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(130)

2008年08月08日 | Weblog
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【蓬生(よもぎう)】の巻  その(5)

 こうしているうちに、叔母君の夫が太宰の大貳に昇進して、太宰に下るについて、又も言葉上手に誘い出そうとします(使用人として)が、末摘花は一向に受け付けませんので、叔母は立腹して、

「あなにく。ことごとしや。心ひとつに思しあがるとも、さる薮原に年経給ふ人を、大将殿もやむごとなくしも、思ひ聞え給はじ、など、怨じうけひけり」
――ああ憎らしい。御大層なことよ。御自分一人お高くしても、こんな荒れ果てた薮原に長年住まわれる人に、源氏の大将もまさか歴としたお方とはおもわれないでしょうに。などと恨んだり呪ったりされます――

 たしかに、源氏が須磨からお帰りになって、天下を上げてのお喜びで立ち騒いでおりましたが、末摘花を思い出されることもなく月日が経っていたのでした。末摘花は今を限りのはかない源氏とのご縁だったのか、と辛く悲しく、人知れず声を立てて泣かれます。

 大貳の北の方は、「それ、言わないことか。こんなみっともない身の上の人を、相手になさる方が居るものですか。……気位ばかり高くて、父宮や母宮ご在世の時と同じに振る舞っておられるあの高慢さがお気の毒というもの」と一層馬鹿馬鹿しげに思って、

叔母は
「なほ思ほし立ちね……ひたぶるに人わろげには、よももてなし聞えじ、などいと言よく言へば」
――やはり西下をご決心なさい。……人聞きの悪いようなお扱いは決していたしませんから。などと言葉巧みに言いますが――

 末摘花は、お心の内に、いくら何でも、あれほどしみじみと情を込めてお約束されたのですもの、思い出されないことがありましょうかと、遠のいて久しい源氏に望みをかけておいでになります。泣きながら沈みきっていらっしゃるご様子は、

「ただ山人の赤き木の実ひとつを顔に放たぬと見え給ふ、御側目などは、おぼろげ人の見奉りゆるすべきにおあらずかし。くはしくは聞えじ。いとほしう物いひさがなきやうなり」
――まるで、山人が赤い木の実を一つ鼻に押しつけているようにお見えになる。御横顔などは、よほどの人でなければ我慢の出来るご容貌ではございません。詳しくは申し上げない方が良いでしょう。何ともお気の毒で言う方も口さがなく思われます。――

写真:かたばみ

ではまた。


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