永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(913)

2011年03月21日 | Weblog
2011.3/21  913

四十六帖 【総角(あげまき)の巻】 その(90)

「何人かは、かかるさ夜中に雪を分くべき、と、大徳たちも驚き思へるに、宮、狩の御衣にいたうやつれて、濡れ濡れ入り給ふなりけり」
――いったい誰がこんな真夜中を雪を踏み分けておいでになるとは、と、僧たちも驚いていますと、匂宮が狩衣姿もひどくおやつしになって、ずぶ濡れになってお着きになったのでした――

 門を叩かれるのが、匂宮のお出でらしいとお聞きになって、薫は、

「隠ろへたる方に入り給ひて、しのびておはす。御忌は日数のりたりけれど、心もとなくおぼしわびて、夜一夜雪にまどはされてぞおはしましける」
――物陰にお隠れになっていらっしゃいます。四十九日までにはまだ日数があるのでしたが、匂宮は待ち遠しく、いらいらされて、一晩中雪に悩まされながらお出でになったのでした――

 匂宮の御訪問に、中の君は、

「日頃のつらさも紛れぬべき程なれど、対面し給ふべき心地もせず、おぼし歎きたるさまのはづかしかりしを、やがて見なほされ給はずなりにしも、今より後の御心あらたまらむは、かひなかるべく思ひしみてものし給へれば、」
――今までの辛さも紛れそうな時分に違いない頃ですが、対面なさるご気分にはなれず、大君がこの匂宮の無情を歎かれたご様子が痛々しく、それとても、そのままお心を安らかにおなりになることもなく亡くなってしまわれたことを思いますと、これから先、匂宮のお心が改まったところで、何になりましょう。いまさら、と、深く思っておいでになります――

「誰も誰もいみじうことわりをきこえ知らせつつ、物越しにてぞ、日頃のおこたりつきせずのたまふを、つくづくと聞き居給へる」
――侍女の誰もが、「是非ご対面されますように」と言葉をつくしてお勧めもうしあげますので、しかたなく中の君は物越しにお逢いになります。匂宮が今までの御無沙汰を長々と言われますのを、じっとお聞きになっておられます――

「これもいとあるかなきかにて、後れ給ふまじきにや、ときこゆる御けはひの心ぐるしさを、うしろめたういみじ、と、宮もおぼしたり」
――こちらの中の君も消え入りそうなご様子で、姉君の後をお追いになるのではあるまいかと思われるほど、痛々しげでいらっしゃるのを、匂宮はたまらなく不安で悲しくお思いになるのでした――

◆大徳(だいとこ)=「だいとく」の転。 徳高く行いの清い僧、転じて単に僧侶。

◆写真:総角ゆかりの立て札


では3/23に。


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