永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(205)

2008年10月29日 | Weblog
10/29  205回 

【乙女(おとめ)】の巻】  その(15)

 大宮は気も抜けてがっかりなさって、おっしゃいますには、

「ひとりものせられし女子なくなり給ひて後、いとさうざうしく心細かりしに、うれしうこの君をえて、生ける限りのかしづきものと思ひて、明け暮れにつけて、老いのむつかしさもなぐさめむとこそ思ひつれ。思ひの外に隔てありて思しなすも、つらくなむ」
――ひとり娘の葵の上が亡くなりました後、とてもさびしく心細くておりましたときに、うれしくもこの姫君(雲井の雁)を得て、一生の大切なお宝と思って養い申し上げました。朝な夕なに老いの寂しさも慰められておりましたのに、あなたは案外思いやりのないことをなさるのが情けなく思われます。――

 内大臣は恐縮なさって、

「心の内の納得できかねます事を、そのまま申し上げただけでございます。ご養育くださった上に、ここまで成人させていただきましたご恩は、決して疎かには思いません。」と申し上げます。しかしこう思い立たれますと、後ずさりなさる内大臣のご気性ではないのです。

大宮は、残念にお思いになって、

「人の心こそ憂きものはあれ。とかく幼き心どもにも、われに隔ててうとましかりけることよ。また、さもこそあらめ、大臣の、物の心を深う知り給ひながら、われを怨むじて、かく率て渡し給ふこと。かしこにて、これより後ろやすきこともあらじ」
――人の心ほど厭のものはありませんね。幼いあの二人も私に打ち明けもせず、このような困ったことにしてくれました。まあ、それは幼い子供たちで仕方がないにしても、大臣は物の道理もよくお分かりでしょうに、私を怨んで、姫を連れて行ってしまわれます。あちらの邸だからといって、私の手元に置くより安心ということもないでしょうに。――

と、泣きながらおっしゃる。

 そこに丁度夕霧がお出でになりました。あいにく内大臣の御車がありますので、気まり悪く思われて、そっとご自分のお部屋にお入りになりました。

ではまた。


源氏物語を読んできて(年中行事・五節)

2008年10月29日 | Weblog

年中行事11月・五節(ごせち)の概略

 五節舞、五節の舞(ごせちのまい)とは、大嘗祭や新嘗祭に行われる豊明節会で、大歌所の別当が歌う大歌に合わせて舞われる、舞姫は、公卿の娘2人、受領・殿上人の娘2人という風に選ばれ、選ばれた家は名誉であった。また、女御が選ばれることもあった。
 時に雪の降る日もあり、山里ではいよいよ人の訪れもなく、寂しくなる時でもある。

 選ばれた舞姫は練習に明け暮れ、新嘗祭の前々日である丑の日の夜に宮中へ参上、直に、「帳台試(ちょうだいのこころみ)」と称して常寧殿にて天皇に練習を披露、前日の寅の日に「御前試(おんまえのこころみ)」と称して清涼殿にて天皇に練習を披露、当日の卯の日に「童女御覧(わらわごらん)」と称して舞姫に付き従う童女を清涼殿にて天皇が御覧になるなど、天皇自身からの試験も厳しかった。

 この舞は、天武天皇の時代、吉野に天女が現れて舞ったとの伝説に依拠している。五度、袖を振って舞う。袖を振るのは呪術的であり、新嘗祭の前日に行われる鎮魂祭とも同じ意味があると考えられる。

 次回から詳しくみていきます。