永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(180)

2008年10月04日 | Weblog
10/4  180回

【朝顔】の巻】  その(2)

 女五の宮の話は、御兄のお隠れになりましたこれからは、いよいよ微々たる有様で生きながらえて行くことになるのでしょう。
 こう話される女五の宮の何と歳をとられたことよ、と源氏はお思いになりながらも、畏まってご挨拶を申し上げます。

「覚えぬ罪にあたり侍りて、……」
――思いもよらぬ冤罪を蒙りまして、(他国に流浪いたしましたが、偶然にもまた朝廷にお仕えする一人に許していただきますと、またあれこれと暇なく、いつも気にかかっておりましたが…。)――

女五の宮は、
「……『いと清らにねびまさり給ひにけるかな。……内裏の上なむいとよく似奉らせ給へる、とひとびと聞ゆるを、さりとも劣り給へらむとこそ、おしはかり侍れ』と、長々と聞え給へば、ことにかくさし向かひて人の誉めぬわざかな、とをかしく思す。」
――「……、ほんとうにご立派におなりになりましたことよ。(御子でいらした頃にお見上げしましたとき、この世の中にこのような眩い光が輝くとはと驚いきました。その後もあまりにお美しくて、気味が悪いくらいに思われましたよ。)今上帝がまた一層あなたにお似申されていらっしゃると、人々が申しますが、しかしなんと言ってもあなた様には劣っておいででしょう。」とながながとおっしゃいます。ただ面と向っては、普通の人ならば、相手を誉めぬものなのになあ、と源氏は可笑しく思われます。

 まだまだ、お話が続きますが、そっと朝顔の君がお住いの西の対のお庭をご覧になりますと、植え込みの風情よろしく、朝顔の君のご容貌やお姿もさぞやと偲ばれて、源氏はがまんができなくなって、

「かく侍ひたるついでを過ぐし侍らむは、志なきやうなるを、あなたの御とぶらひ聞ゆべかりけり、とて、やがて簀子より渡り給ふ。」
――こう伺った機会を外しますなら、まごころが無いようですから、あちらへのご挨拶も申し上げるべきでした、と言って、簀子を通ってお渡りになります。

 朝顔の君付きの上臈女房の宣旨が、朝顔の君のお言葉をお取り次ぎしますと、よそよそしいお返事です。

◆宣旨(せんじ)=元々は、天皇のことばや命令を蔵人(くろうど)に伝える役の宮中の女官。のちに、中宮、東宮、斎宮、関白などの家でそれに相当する役をつとめる女房にもいう。ここでは上臈女房とあるので、上級貴族出の女房で、第一級の秘書方。