永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(178)

2008年10月02日 | Weblog
10/2  178回

【薄雲(うすくも)の巻】  その(17)

源氏は
「『あさましうも疎ませ給ひぬるかな。まことに心深き人は、かくこそあらざなれ。よし、今よりは、憎ませ給ふなよ。つらからむ』とて渡り給ひぬ」
――いやもう、すっかりご機嫌をそこねてしまいましたね。本当に思慮の深い方は、そんなお仕打ちはなさらないものですよ。まあこれからは、そんなにお憎みにならないでください。どんなにか辛いことでしょうから」とおっしゃってお帰りになりました。

「うちしめりたる御にほひのとまりたるさへ、疎ましく思さる。」
――女御は、その後にしっとりした源氏の香の匂いが残っていますのさえ、疎ましくお思いになります。――

さて、源氏は紫の上の住まわれる西の対にお渡りになっても、すぐにお入りにならず、物思いにふけって、端ちかくに横になっていらっしゃる。

「かうあながちなる事に胸塞がる癖の、なほありけるよ、とわが身ながら思し知らる。これはいと似げなき事なり、恐ろしう罪深きかたは、多うまさりけめど、いにしへの好きは、思ひやり少なき程のあやまちに、佛神もゆるし給ひけむ、と思しさますも、なほこの道はうしろやすく、深きかたのまさりけるかな、と思し知られ給ふ。」
――こんな無理な恋に胸を焦がすような癖が、まだ自分にはあったのだな、と我ながら思い知らされたのでした。これは不似合いな恋だ、若い頃の恋は恐ろしいほど罪深いことが多かったけれど、若気の過ちとして、佛や神もお許しになったであろうが、と
心を鎮められますのも、やはり歳の効で、恋路には危なげがなく、分別ができてきたものよ、と思い知られなさいます。――

 こののち、女御はただただ源氏を疎ましく思われますが、源氏は気強く何気ない態度で、一層親らしく振る舞われて、寝殿との間を行ったり来たりしておいでになります。
 
源氏は紫の上に、女御は「秋」にお心を寄せておいでで、あなたは「春」の曙がよいとお思いのようですね。お気に召すような管弦の遊びをしてみましょうか。実は、出家の望みもあるのですが、あなたが淋しくなりはしないかと、それがおいたわしくて、などとお話になります。
明石の御方の所へも、不憫に思われてときどきお出かけになります。

◆この巻は、原文にそって丁寧に辿ってみました。源氏と冷泉帝、紫の上の心理描写によって一層性格が浮かび上がっている巻だと思います。

これで「薄雲の巻」おわり。