永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(185)

2008年10月09日 | Weblog
 10/9  185回

【朝顔】の巻】  その(7)

 源氏は、紫の上に「女五の宮がご病気がちでいらっしゃるので、お見舞いに伺います」と、それでもお出かけのご挨拶は、なさるのでした。紫の上は、振り向きもなさらず、明石の姫君をあやして紛らわしていらっしゃる横顔が、ただならぬご様子なので、源氏は、

「あやしく御気色のかはれる月頃かな。罪もなしや。(……)とだえ置くを、またいかが」
――妙にこの頃はご機嫌を悪くしておいでですね。思い当たることも無いのですが。(あなたとあまり慣れすぎては、お目触りでしょうと、)わざとお側を離れていますのを、また、どんなふうにお疑いになるのでしょうか――

紫の上は、
「『慣れ行くこそげに憂きこと多かりけれ』とばかりにて、うち背きて臥し給へるは、見すてて出で給ふ道、もの憂けれど、宮に御消息聞え給ひてければ、出で給ひぬ。」
――「慣れてゆくのは本当に辛いことの多いものでございます。」とおっしゃっただけで、あちらを向いて打ち臥しておしまいになりましたので、源氏はそのまま見すててお出かけになるには、道道気に掛かることだと思いつつも、すでに、女五の宮にはもうお便りを差し上げてあることなので、お立ち出でになりました。――

源氏は、御前駆など内々の者だけを選んで、
「内裏より外のありきは、もの憂きほどになりにけりや。桃園の宮の心細きさまにて、ものし給ふも、式部卿宮に年頃はゆづり聞えつるを、今は頼むなど思し宣ふも、道理にいとほしければ」
――宮中へのご参内の他は、出歩くことも億劫になってきたものだが、女五の宮が頼りなげにお暮らしになっておられるのを、式部卿宮にこれまでお世話をお任せしておりましたが、宮が薨去された今は、私を頼りにとおっしゃいますので、それももっともなことで、お気の毒ですのでね。――
 このように、お付きの者にも弁解がましくおっしゃいます。人々はこそこそと、

「いでや、御すき心の旧りがたきぞ、あたら御疵なめる。軽々しきことも出で来なむ。」
――いやまったく、好き心がいつになってもお衰えにならぬのが、玉に疵と申すもの。
軽々しいと噂されるようなことも、出て来ようものを――

ではまた。