永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(187)

2008年10月11日 | Weblog
 10/11  187回

【朝顔】の巻】  その(9)

 朝顔の宮のお心は、
源氏のお人柄といい、優雅さといい、申し分のないお方ですが、世間一般の女達が騒ぎ立てるのと同じに扱われて、こちらの心底もみすかされるのも、ひどく具合のわるいこと。これからも人づてのお返事などは、失礼のないようにして過ごすことにしておきましょう。

 世間(男女のこと)の口やかましさを、すっかり思い知らされましたので、侍女たちにもお心を許されず、勤行に没頭されます。

源氏は、
「つれなき御気色のうれたきに、負けて止みなむも口惜しく、(……)空しからむはいよいよ人わらへなるべし、いかにせむ」
――朝顔の宮のつれないお仕打ちが癪にさわるので、それに負けてこのまま引き下がるのも悔しく、(かといって、ご自分の立場の重々しいこの頃ではあり、今さらの浮気沙汰は世間の非難もまぬがれないであろうし、それでも)空しく引き下がるのでは、いよいよもって世のもの笑いになるであろうと、迷いは尽きないのでした。――

「二条の院に夜がれ重ね給ふを、女君は、戯れにくくのみ思す。忍び給へど、如何うちこぼるる折もなからむ。」
――ついつい二条院にお帰りにならぬ夜が続きますのを、紫の上は本気で怨んでおいでになります。じっと耐えていらっしゃるものの、涙のこぼれる時がなくもないのでした。――

ある夜、源氏は、紫の上のご機嫌をとろうと、女君の御髪をかきやりながら、
「妙にお顔の色が優れないようですが、どうかなさったのですか」と、愛おしそうにご覧になるご様子は、絵にも描きたいほどの美しいご夫婦仲にみえます。

 「宮亡せ給ひて後、上のいとさうざうしげにのみ、世を思したるも、心苦しう見奉り、太政大臣もものし給はで、見ゆづる人なきこと繁さになむ。(……)」
――実はね、藤壺の宮がお崩れになられてからというもの、冷泉帝がたいそうお寂しそうになさっておいでになりますのが、気になりまして、太政大臣もおいでにならず、政務を任せる人もなくて、とにかく暇がないのですよ。(それでこちらに居られる日がなくて、あなたがそれを苦になさるのはもっともですが、安心していてください。あなたももう大人になったのですから、私の心がお分かりでしょう。拗ねていらっしゃるのも、可愛いものですが――

 源氏は、涙で濡れた髪をほぐしておあげになりますが、紫の上はますます横を向いて、何も仰らない。

◆ 写真:紫の上 風俗博物館

ではまた。



源氏物語を読んできて(斎院・朝顔の姫君の場合)

2008年10月11日 | Weblog

斎院として(朝顔姫君の場合)

 「朝顔」という名は、源氏からアサガオの花を添えた和歌を贈られたという「帚木」や「朝顔」の逸話からきており、そこから「朝顔の姫君」「朝顔の斎院」または、「槿姫君」「槿斎院」などの呼び名がある。
 
 源氏が若い頃から熱をあげていた女君の一人で、高貴の出自のため正妻候補に幾度か名前が挙がり、正妻格の紫の上の立場を脅かした。

 朝顔も源氏に好意を抱いていたが、源氏と深い仲になれば、六条御息所と同じく不幸になろうと恐れて源氏の求愛を拒み続ける。源氏とは終始プラトニックな関係だった。

 朱雀帝時代から斎院を長く続けたため婚期を逃し、そのまま独身を貫き通して、出家、物語の表舞台から消える。

◆写真 朝顔に心を寄せる源氏