永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(177)

2008年10月01日 | Weblog
10/1  177回

【薄雲(うすくも)の巻】  その(16)

 源氏は、さらに続けて、東の院へお気の毒な花散里を移しもしたりしましたが、この方との間柄は、実にさっぱりとしたものです、などとつづけて

「かく立ち返りおほやけの御後見仕うまつるよろこびなどは、さしも心に深く染まず。かやうなる好きがましきかたは、しづめ難うのみ侍るを、おぼろげに思ひ忍びたる御後見とは思し知らせ給ふらむや。あはれとだに宣はせずば、いかにかひなく侍らむ」
――こうして都に帰りまして、冷泉帝の御後見を申し上げる喜びなどは、それほど深いものではありません。こうした好き心の方面は抑えがたいもので、あなたにも、なみなみならぬ思いを抑えてお世話申し上げておりますこと、ご存知でしょうか。どうか、せめてあわれとだけでも仰ってくださらなければ、どんなに甲斐のないことでしょう。――

 女御は、どのようにお答えしてよいものか、お困りになって、おし黙っておられますと、
「『さりや。あな心憂』とて、他事に言ひ紛らはし給ひつ。」
――「やはり、そうでございますか。情けない」とだけおっしゃって、他に話題をお変えになりました。――

 源氏は、さらにさまざまなお話をされますのに、女御はおやさしい、相槌をうたれますので、なお一層愛らしく思われて、

うた
「『君もさはあはれをかはせ人知れずわが身にしむる秋の夕風』忍び難き折々も侍りかし」
――「ではあなたも、人知れず身にしみて、秋の夕風を思う私の心に御同情ください」あなたを想って耐え難い折々もあるのですよ。――

 女御は、何とお応えできましょうか。

源氏は胸に包みきれずに恨み言をおっしゃらずにはいられなかったのでしょう。
もう少しで、間違いもお起こしになるところでしたが、女御がひどくお困りになっておいでなのももっともですし、御自分でも年甲斐もなく怪しからぬことと思い返されて、ため息をついておられるご様子に、女御はさすがに疎ましいお気持ちになられ、少しずつ奥へ引っ込んでいかれました。

ではまた。