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【朝顔】の巻】 その(4)
さらに恨み言でしょうか、源氏は、
「齢の積もりには、面なくこそなるわざなりけれ。世に知らぬやつれを、今ぞとだに聞えさすべくやは、もてなし給ひける」
――歳をとると、このような面目ない目に遭うことです。あなたゆえに、今までにない私のやつれ方を、今こそご覧下さいとも申し上げられぬほどの、ひどいお仕打ちですこと。――
お側の女房達はみな、うるさいほど源氏をお誉め申し上げています。姫宮も秋の空の趣深い景色に、過ぎ去った(八年間)日々に、もののあわれが蘇ってきて、あの頃の源氏のお心の深さ、お人柄を思い出されるのでした。
「心やましくて立ち出で給ひぬるは、まして寝覚めがちに思し続けらる。疾く御格子まゐらせ給ひて、朝霧をながめ給ふ。枯れたる花どもの中に、朝顔のこれかれに蔓いまつはれて、あるかなきかに咲きて、にほいもことにかはれるを、折らせ給ひて奉れ給ふ。」
――憂鬱な気分でお帰りになられた源氏は、まして夜も寝覚めがちに思いつづけておられます。朝早く、御格子を上げさせて、朝霧をながめておいでになりますと、枯れた草花の中に、朝顔がそこここの草草にまつわりついて、あるかなきかの花をつけています。その中の、色もあせ、衰えているのを折らせて、かの君にお贈りになります。」――
お文に、
「けざやかなりし御もてなしに、人わろき心地し侍りて、うしろでも、いとどいかがご覧じけむとねたく。されど、
(歌)見しをりの露忘られぬあさがほの花のさかりは過ぎやしぬらむ
年頃の積もりもあはれとばかりは、さりとも思し知るらむやとなむ、かつは。」
――あのとりつくしまもないお扱いに、人目も恥ずかしく、退出の後ろ姿もどうご覧になりましたでしょうか、ひどく口惜しいことです。とはいえ、
(歌)以前お目にかかった折りのことが少しも忘れられないあなたですが、その盛りの美しさは過ぎはしないかと心配です。――
ではまた。
【朝顔】の巻】 その(4)
さらに恨み言でしょうか、源氏は、
「齢の積もりには、面なくこそなるわざなりけれ。世に知らぬやつれを、今ぞとだに聞えさすべくやは、もてなし給ひける」
――歳をとると、このような面目ない目に遭うことです。あなたゆえに、今までにない私のやつれ方を、今こそご覧下さいとも申し上げられぬほどの、ひどいお仕打ちですこと。――
お側の女房達はみな、うるさいほど源氏をお誉め申し上げています。姫宮も秋の空の趣深い景色に、過ぎ去った(八年間)日々に、もののあわれが蘇ってきて、あの頃の源氏のお心の深さ、お人柄を思い出されるのでした。
「心やましくて立ち出で給ひぬるは、まして寝覚めがちに思し続けらる。疾く御格子まゐらせ給ひて、朝霧をながめ給ふ。枯れたる花どもの中に、朝顔のこれかれに蔓いまつはれて、あるかなきかに咲きて、にほいもことにかはれるを、折らせ給ひて奉れ給ふ。」
――憂鬱な気分でお帰りになられた源氏は、まして夜も寝覚めがちに思いつづけておられます。朝早く、御格子を上げさせて、朝霧をながめておいでになりますと、枯れた草花の中に、朝顔がそこここの草草にまつわりついて、あるかなきかの花をつけています。その中の、色もあせ、衰えているのを折らせて、かの君にお贈りになります。」――
お文に、
「けざやかなりし御もてなしに、人わろき心地し侍りて、うしろでも、いとどいかがご覧じけむとねたく。されど、
(歌)見しをりの露忘られぬあさがほの花のさかりは過ぎやしぬらむ
年頃の積もりもあはれとばかりは、さりとも思し知るらむやとなむ、かつは。」
――あのとりつくしまもないお扱いに、人目も恥ずかしく、退出の後ろ姿もどうご覧になりましたでしょうか、ひどく口惜しいことです。とはいえ、
(歌)以前お目にかかった折りのことが少しも忘れられないあなたですが、その盛りの美しさは過ぎはしないかと心配です。――
ではまた。