永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(189)

2008年10月13日 | Weblog
 10/13  189回 

【朝顔】の巻】  その(11)

 お話が続きます。
 
 「藤壺の中宮は、私をひどく疎遠になされておいででしたので、細やかには御様子を拝したことはありませんでしたが、御所においでの時は、それでも私を頼りになる者と思し召してくださいました。私も宮をお頼り申し上げておりましたが、目立ってご聡明さをお見せにならないながら、いつも満足のゆくように、何事もやりおおせて下さったのでした。」

お話はさらに、
「君こそは、さいへど紫のゆゑこよなからずものし給ふめれど、すこしわづらはしき気添ひて、かどかどしさのすすみ給へるや苦しからむ。前斎院の御心ばへは、またさま異なるにぞ見ゆる。さうざうしきに、何とはなくとも聞こえ合わせ、われも心づかひせらるべき御あたり、ただこの一所や、世に残り給へらむ。」
――あなたはね、さすがに中宮の姪だけあって、ご立派なようですが、少し嫉妬心があって、気が強くていらっしゃる、その点が難といえば言えるでしょうね。朝顔の君のご性分はまた少し違っておいでのようです。心さびしい時に、格別のことはなくても便りを交わしあい、相談しあい、こちらも何かをして差し上げねばと思わずにはいられないような、優れたお方は、この先、もうこの方一人だけになったようです。――

紫の上は、
「尚侍こそは、らうらうじくゆゑゆゑしき方は人にまさり給へれ。浅はかなる筋など、もて離れ給へりける人の御心を、あやしくもありける事どもかな」
――朧月夜の君こそは、才気もおありになり、奥ゆかしい点は誰よりも勝っておられます。浮気めいた点など受け付けない御気性でしょうのに、妙な噂がたったことですね。――

源氏は、その言葉に、「そうですね。あでやかに美しい女の例としては、やはり引き合いに出したい方ですね。われながらあの方には、お気の毒で残念なことがたくさんありました。」と、尚侍(ないしのかみ)を思い出されて涙を落されるのでした。

「この、数にもあらず、貶め給ふ山里の人こそは、(……)人はすぐれたるは難き世なりや。」
――あなたが、ものの数でもない人と軽蔑しておられる明石の御方は、(身分の割には、ものの道理をわきまえているようですが、何分にも気位が高く、まあ、そのことは見て見ないようにしています。わたしは、お話にもならないような女とは関係をもったことはありませんよ。)女というものは、優れたものはめったに居ない世の中ですね。――

こんな風に昔、今のお話に夜が更けていくのでした。

◆写真:思い出の中の藤壺 風俗博物館

ではまた。