永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(204)

2008年10月28日 | Weblog
10/28  204回 

【乙女(おとめ)】の巻】  その(14)

 雲井の雁の、お部屋との間の襖障子を引いてみますが、今夜はぴたりと閉められていて、物音もしません。姫君も目を覚ましていて、風の音が竹を渡ってそよそよときこえますのでいっそう寂しく、
(歌)
「霧深き雲井の雁もわがごとや晴れせずものの悲しかるらむ」
――霧の深い雲の中を飛ぶ雁のように晴々とせずきっと悲しいのでしょう、今のわたしのように――
(ここから、この姫君を雲井の雁を呼ぶようです)

独り言を言っておいでの様子は、若々しく可愛らしい。夕霧は気がかりで耐えられない思いで、
「これあけさせ給へ。小侍従や侍ふ」
――この戸を開けて下さい。小侍従はいませんかー―

と、小声で言いますが、物音もしません。小侍従(こじじゅう)とは、雲井の雁の乳母子(めのとご)です。雲井の雁は、独り言を聞かれて恥ずかしくて、訳もなくお顔を夜具の中に隠されます。

「あはれは知らぬにしもあらぬぞ憎きや」
――恋のあわれを知らぬでもない、わが心がままにならないことよ――

 翌朝、夕霧はお文を書きますが、雲井の雁にはむろんのこと、結局小侍従をも見つけることができず、お文をお渡しできないままに、ただただ口惜しいと思うばかりです。雲井の雁よりも、もっと、たわいのないお歳ですので、年長のような機会も作れないのでした。

 内大臣は、この件以来、大宮の邸にお出でにならず、恨みに思っていらっしゃるご様子です。ご自邸では、難しいお顔でご機嫌も悪く、正妻の四の宮に、

「中宮のよそほいことにて参り給へるに、女御の世の中思ひしめりてものし給ふを、心苦しう胸痛きに、罷でさせ奉りて、心安くうち休ませ奉らむ。」
――梅壺中宮が、格別立派なお支度で改めて中宮として参内されましたため、わが娘の弘徽殿女御が冷泉帝とのご夫婦中を悲観しておいでのようです。それがお気の毒で苦にもなりますので、こちらにご退出おさせして、のんびり休ませてさしあげようと思います。――

と、おっしゃって、急に女御をご退出させられます。そして女御に、

「つれづれでいらっしゃるでしょうから、妹君の雲井の雁をこちらに呼び寄せようと思っています。ご一緒に合奏などなさいませ。大宮にお預けしていますのは安心の筈ですが、ひどくこまっしゃくれて、早熟な人が一緒に住んでいまして、自然親しくなるのも困る年頃になりましたのでね。」などとおっしゃって、急に雲井の雁を弘徽殿女御のもとにお移しになります。

ではまた。