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【乙女】の巻】 その(1)
源氏 33歳4月~35歳10月
紫の上 25歳~27歳
秋好中宮(梅壺女御から中宮へ)24歳~26歳
明石の御方 24歳~26歳
明石の姫君 5歳~7歳
雲井雁(くもいのかり)14歳~16歳
夕霧(源氏の御子息) 12歳~14歳
「年かはりて、宮の御はても過ぎぬれば、世の中色あらたまりて、(……)前斎院は、つれづれとながめ給ふ。」
――年が改まって3月になり、藤壺の宮の一周忌の喪もあけましたので、世間でも、人々はすべて鈍色の喪服を通常の衣装に着替えて、4月1日の更衣の衣替えは、目新しい感じがします。(まして賀茂の祭りの頃は、一層、空の色も冴え冴えとして)、前斎院の朝顔の君は、亡き御父を思い出されてぼんやりとお過ごしになっております。――
源氏からは、相変わらずの御文と、朝顔の君の喪の明けにと、仰山なほどの御装束を、宣旨をとおして贈られます。朝顔の君は迷惑に思われておいでですが、女五の宮は、源氏のお心づかいを大層おほめになって、
「(……)思ひ立ちしことをあながちにもて離れ給ひしこと、など宣ひ出でつつ、口惜しげにこそ思したりし折々ありしか。(……)さらがへりて、かくねんごろに聞こえ給ふも、さるべきにもあらむとなむ思ひ侍る」
――(あなたの御父君も、源氏の君が他家にご縁を結ばれてしまって、残念に御思いでした。)せっかくの思い立ちを、あなたが無理にお断りになったことを、よく愚痴にお言いでしたよ。(けれども、故左大臣の姫君の葵の上でしたので、私の御姉上の姫ですし、とやかく口出し申す事もできませんでした。その、正妻であられる御方が亡くなられた今は、どうしてあなたが、その地位に変わられたとしても、いけないわけがありましょう。)
源氏の君が、昔にかえって、こうねんごろに望まれるのは、やはりそうなるべき御宿縁かと思いますよ。――
と、まじめにお勧めになりますのが大層厭わしく、朝顔の君は、
「故宮にも、しか心ごはきものに思はれ奉りて過ぎ侍りにしを、今さらにまた、世になびき侍らむも、いとつきなき事になむ。」
――亡き父宮にも、私は強情な者と思われてまいりましたのに、いまさら世間並の理屈に従いますなど、似合わしくないでしょう――
と、おっしゃって、取りつく島もないお返事ですので、これ以上無理はできないと女五の宮はお思いになります。ただ、このお屋敷の誰もかれもが、みな源氏をお褒めになりますので、朝顔の君は、二人の仲がいつどうなるのかと、ご心配でなりません。しかし源氏自身は、無理に突き進もうとはお思いにならず、自然とお心が解けるのをお待ちになるようでした。
◆写真:賀茂祭は、4月中の酉の日に行われる。現在は5月。
ではまた。
【乙女】の巻】 その(1)
源氏 33歳4月~35歳10月
紫の上 25歳~27歳
秋好中宮(梅壺女御から中宮へ)24歳~26歳
明石の御方 24歳~26歳
明石の姫君 5歳~7歳
雲井雁(くもいのかり)14歳~16歳
夕霧(源氏の御子息) 12歳~14歳
「年かはりて、宮の御はても過ぎぬれば、世の中色あらたまりて、(……)前斎院は、つれづれとながめ給ふ。」
――年が改まって3月になり、藤壺の宮の一周忌の喪もあけましたので、世間でも、人々はすべて鈍色の喪服を通常の衣装に着替えて、4月1日の更衣の衣替えは、目新しい感じがします。(まして賀茂の祭りの頃は、一層、空の色も冴え冴えとして)、前斎院の朝顔の君は、亡き御父を思い出されてぼんやりとお過ごしになっております。――
源氏からは、相変わらずの御文と、朝顔の君の喪の明けにと、仰山なほどの御装束を、宣旨をとおして贈られます。朝顔の君は迷惑に思われておいでですが、女五の宮は、源氏のお心づかいを大層おほめになって、
「(……)思ひ立ちしことをあながちにもて離れ給ひしこと、など宣ひ出でつつ、口惜しげにこそ思したりし折々ありしか。(……)さらがへりて、かくねんごろに聞こえ給ふも、さるべきにもあらむとなむ思ひ侍る」
――(あなたの御父君も、源氏の君が他家にご縁を結ばれてしまって、残念に御思いでした。)せっかくの思い立ちを、あなたが無理にお断りになったことを、よく愚痴にお言いでしたよ。(けれども、故左大臣の姫君の葵の上でしたので、私の御姉上の姫ですし、とやかく口出し申す事もできませんでした。その、正妻であられる御方が亡くなられた今は、どうしてあなたが、その地位に変わられたとしても、いけないわけがありましょう。)
源氏の君が、昔にかえって、こうねんごろに望まれるのは、やはりそうなるべき御宿縁かと思いますよ。――
と、まじめにお勧めになりますのが大層厭わしく、朝顔の君は、
「故宮にも、しか心ごはきものに思はれ奉りて過ぎ侍りにしを、今さらにまた、世になびき侍らむも、いとつきなき事になむ。」
――亡き父宮にも、私は強情な者と思われてまいりましたのに、いまさら世間並の理屈に従いますなど、似合わしくないでしょう――
と、おっしゃって、取りつく島もないお返事ですので、これ以上無理はできないと女五の宮はお思いになります。ただ、このお屋敷の誰もかれもが、みな源氏をお褒めになりますので、朝顔の君は、二人の仲がいつどうなるのかと、ご心配でなりません。しかし源氏自身は、無理に突き進もうとはお思いにならず、自然とお心が解けるのをお待ちになるようでした。
◆写真:賀茂祭は、4月中の酉の日に行われる。現在は5月。
ではまた。