転妻よしこ の 道楽日記
舞台パフォーマンス全般をこよなく愛する道楽者の記録です。
ブログ開始時は「転妻」でしたが現在は広島に定住しています。
 



ゲバントホールで午後3時から、ザラフィアンツの演奏会を聴いた。
93年のポゴレリチ・コンクールの2位入賞者であるという、
コンクール歴から私はこの人を知り、注目するようになった。

印象としては、とても「濃い」音楽だった。
私は「濃い」ものにとことん付き合うような聴き方が、
元来、嫌いではないのだが、
きょうのは、完全に心地よく浸れる「濃さ」ではなかった。
それはザラフィアンツが悪かったというのではなくて、
多分、ピアノが最高の状態ではなかったことと、
ゲバントホールという狭い空間にも関わらず、
ザラフィアンツが手加減なしの音量で弾いていたことが、
その主な原因だったと思う。

私が後ろのほうに座ったのも、かえって失敗だったかもしれない。
どうも、不必要な音がたくさん混じった状態で聴くはめになった、
という気がしてならなかった。
後部に行くほど、エコーがかかった感じに近かったのではないだろうか。
もう少し広いホールで、ほどよく音が吸い込まれる状態だったなら、
印象がかなり違っていただろうと思う。

プログラムは、前半がベートーヴェンのテンペストと作品110、
後半がリストのロ短調ソナタと、ラフマニノフのエレジーとVRポルカ。
ベートーヴェンで彼の学究的な成果を聴かせて貰い、
最大眼目はロ短調ソナタで、これを堪能しつくし、
エレジーで雰囲気に浸ったあと、ポルカで発散して終わる、
・・・・・・・・・・というのは、私のほうの「つもり」で、
実際の演奏は、そうではなかった(^_^;。

テンペストからして、予想以上に長大な演奏だった。
あの可憐な筈の三楽章が、あんなに長かったのは初めてだった。
一音一音を追求する、というアプローチは、
ポゴレリチに似ていないこともなかった。
ただポゴレリチのような圧迫感や緊迫感は無かった。
ザラフィアンツの人柄のゆえかもしれないが、
重厚な音づくりをしても、聴衆を疲れさせる音楽ではなかった。

最後のV.Rのポルカを聴きながら思ったのは、
もしザラフィアンツのリズム感が、もっとタイトで、
パーカッシヴな面白さを表現してくれる要素があったなら、
私はもしかしたら彼にぞっこん惚れ込んでいたかもしれない、
ということだった。
飽くまで私の好みの問題だが、ザラフィアンツ氏のリズム感は、
私の思っているものとは少し、違ったのだ。

プログラムは全く同じでもいいから、
次回は、もっと広い会場でこの人を聴いてみたいと思った。
彼の音を受け止められる空間の広がりがあれば、
ザラフィアンツの追求していた音が、もっとよく伝わるのでは、
という想像をさせられた演奏会だった。

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