あるニヒリストの思考

日々の思いを綴る

人間は自らによって動かされている。(自我その108)

2019-05-05 15:27:39 | 思想
2011年3月11日、東日本大震災が起こった。周囲の人たちが力尽きて濁流に呑まれ、自らも死を覚悟した人たちの中で、運良く助けられた人がいた。そして、助けられた後で、炊き出しや支援物資などで、命を長らえることができた。彼らは、異口同音に、「私が、今、生きているのは、他の人たちに助けられたおかげです。私は、自分で生きているのではなく、他の人によって生かされているのです。」と述べている。この言葉には、偽りは無いだろう。この言葉には、周囲の日本人、そして、日本人全体に対する感謝の思いがこもっている。しかし、被災者の多くが、他者の支援・救援によって助かったのは事実だが、その前に、彼らには生き延びようという強い意志があったはずである。生き延びようという強い意志があったからこそ、他者の支援・救援が力になり、助かることができたのである。生き延びようという強い意志が無ければ、そのまま諦め、他者の支援・救援を受ける気にならなかっただろう。しかし、生き延びようという意志と言っても、本人が生み出したものではない。人間、誰しも、常に、人間の深層心理(心の奥底)には、生き延びようという意志が、必ず存在する。図らずも、このような最悪な状況に身を置くと、深層心理が興奮するので、そこで、明瞭に、強く、生き延びようという意志が、(表層心理で)意識化されるのである。それで、生き延びようという強い意志と表現したのである。そもそも、ニーチェが、「意志は意志できない」と言うように、人間は自ら意志を作ることはできない。つまり、意志は、表層心理で、意識して、作ることができず、深層心理に、本人が無意識のうちに、既に存在しているか、深層心理が新しく作り出すしか無い。表層心理にができることは、環境を変えて、深層心理が意志を生み出しやすいようにすることである。例えば、明日テストなのに、自分の部屋で、机に向かっていても、勉強する気が起こらない場合は、音楽を流すとか、窓を開けるとか、図書館に行くなどして、環境を変えてみることである。「俺は意志が弱い。」と嘆いてみても、何にもならない。東日本大震災の被災者たちが、生き延びようという強い意志を持てたのは、表層心理がもたらしたものではなく、図らずも、突然、苦しい環境に置かれたからである。誰しも、先天的に、深層心理に、生き延びようという意志を持っている。それが、大震災という環境変化の中で、深層心理が興奮し、強い意志となって顕在化したのである。すなわち、深層心理が興奮し、生き延びようという意志が強くなり、表層心理が、それを意識化し、生き延びることに向かって、力強く進んでいったのである。そして、他者の支援・救援もあり、助かることができたのである。つまり、最初に、深層心理が環境に反応し、動き、それが行動に繋がったのである。しかし、それは、東日本大震災の被災者だけに言えることではなく、全ての人の日常生活の行動も、最初に、深層心理が環境に反応し、深層心理が動き出すことによって起こるのである。さて、それでは、人間には、先天的に、深層心理に、どのような基本的な意志が備わっているのだろうか。端的に言えば、深層心理には、四つの基本的な意志が備わっている。一つ目の意志は、これまで述べてきたような、生き延びようとする意志がある。これは、他の意志に比べて断然強い。だから、人間はなりふり構わず生きていけるのである。二つ目の意志は、対自化の意志である。対自化の意志を持った人間のあり方を対自存在と言う。対自化とは、物や動物や人を見ると、その用途や利用方法を考えることである。人に対しては、動きが読めないから、その人が何を考えているかまで探ろうとする。三つ目の意志は、対他化の意志である。対他化の意志を持った人間のあり方を対他存在と言う。対他化とは、周囲の人が自分をどのように見ているか探ることである。好評価・高評価が与えられていると思うと満足できるが、悪評価・低評価の場合、心が深く傷付くのである。人間が、苦悩するほとんどの原因は、自分は周囲の人から悪評価・低評価を与えられていると思うからである。四つ目の意志は、共感化の意志である。共感化の意志を持った人間のあり方を共感存在と言う。共感化とは、対自化や対他化の枠を離れ、周囲の人と固定した心の交流を結ぶことである。友情によって結ばれている親友、愛情によって結ばれている恋人や夫婦、信頼によってる結ばれている親子や部下上司や同僚などがそれである。共通の敵を持つことによって結ばれている味方もそうである。しかし、共感化は、自らを無防備にしているという不安感があるから、相手に不審の念を抱くと、すぐに共感化の意志が崩れ、対自化と対他化が始まる。このように、人間は、いついかなる時でも、深層心理に、四つの基本的な意志を持し、深層心理が四つの基本的な意志に基づいて環境に反応し、心を動かし、それが行動へと繋がっていくのである。