おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

男はつらいよ 寅次郎夢枕

2024-04-27 08:53:44 | 映画
「男はつらいよ 寅次郎夢枕」 1972年 日本


監督 山田洋次
出演 渥美清 倍賞千恵子 八千草薫 松村達雄 三崎千恵子
   前田吟 太宰久雄 笠智衆 米倉斉加年 津坂匡章
   佐藤蛾次郎 田中絹代 吉田義夫 河村憲一郎 清水将夫

ストーリー
晩秋の甲州路を今日も旅する香具師の寅は、ある旧家でその家の奥さんと雑談の最中に昔、寅と同じ香具師仲間が、この地で行き倒れ同然の死に方をした事を聞き、その墓を詣でる。
寅は急に故郷、柴又に帰りたくなり、矢も楯もなく柴又に戻ってしまった。
“とらや”に帰ってみると、二階の部屋は、御前様の甥で東大の助教授をしている岡倉が貸りており、気分を害した寅は家を出ようとする。
その時、幼な馴染の千代がすっかり美しくなって訪ねて来たので、とたんに気嫌が良くなってしまう。
千代は二年程前に離婚して、つい一ヵ月前から近くに美容院を開店したばかりなのである。
それを聞いた寅は、急に張り切り始め、毎日のように美容院を訪ね千代の面倒をみるようになる。
ところが、やっかいな事に岡倉が千代に惚れてしまったのである。
そうと気付いた寅は、岡倉の惚れた弱味を突っつき、さかんにからかう。
アメリカ留学を棒に振ってもこの恋を実らせたいという真剣な想いは重症になり、とうとう寝こんでしまった。
やがて、病いの床に寅を呼んだ岡倉は、全てを「告白」し、千代との仲をとりもってくれと懇願する。
断わりきれなくなった寅は、千代をデートに誘い話をきり出した。
岡倉の恋する気持ちを伝えようと「あらかた察しはついているんだろうけど……」と言うと、千代は寅のプロポーズと感違いしてしまい、「寅さんとなら一緒に暮したい」と返事する。
さてあわてたのは寅の方で、必死で岡倉の話を推めるが、別れたあとで何か割切れない寂しさが残った。
「ああ……しまったなァ」まさか千代が自分に好意を寄せていたなんて、と思っても全て後の祭り、寅は岡倉に報告してから一人部屋に閉籠もり後悔するのだった。
数日後、岡倉は正式に千代からの断りの返事を受けて、傷心のうちにアメリカ留学へと旅立っていった。
寅はまた再会した登と一緒に北風の中へと旅をつづけていた。


寸評
10作目にして新天地を目指したかのような作品となっている。
それは10作目にして初めてマドンナの千代からプロポーズされるという展開である。
マドンナの八千草薫に一目ぼれした東大助教授の岡倉が「とらや」の二階に下宿しており、岡倉の気持ちを知った寅次郎が、幼なじみのお千代坊に恋の橋渡しをしてやった。
千代への思いもあってモジモジしながら、やっとのことで寅は「察しがついているだろうけれど・・・」と切り出した。
寅が伝える岡倉の気持ちを、千代は寅のことだと思い了解するが、それが勘違いだと分かり、そのことをもって岡倉は失恋したことになる。

驚くのは千代がはっきりと寅次郎にプロポーズしていることである。
この後も寅次郎にそれらしき気持ちを伝える作品は時々登場したが、本編における八千草薫ほどはっきりと積極的に表現した女性は登場してこない。
幼なじみとして寅の幼い頃をよく知っていて、寅の気質を見抜いている千代は、「照れ屋なのよ、あなたのお兄さんは。小さい時からそうだったわ。人が見ているといじめたり、悪口を言ったりするけど、二人っきりになるととっても親切よ」とさくらに語る。
一見おっとりして引っ込み思案にみえるが、千代は自分の気持ちをはっきりと相手に伝える強さを持っている。
千代を演じた八千草薫は正に適役だったが、彼女のもつそのような印象の開花を、僕は後年テレビドラマの「岸辺のアルバム」(1977年放送)で見出した。
僕にとっての八千草薫は三船敏郎の「宮本武蔵」におけるお通さんだけが印象に残っていたのだが、本作と「岸辺のアルバム」によって、彼女のイメージが僕の中で出来上がったと言って過言でない。

千代は亀戸天神の境内で、「私ね、寅ちゃんと一緒にいるとなんだか気持ちがホッとするの。寅ちゃんと話をしていると、ああ、私は生きているんだなぁーって、そんな楽しい気持ちになるの。寅ちゃんとなら一緒に暮らしてもいいって、今、フッとそう思ったんだけど…」と告白する。
千代は「とらや」の面々にも同様のことを告げているのである。
しかし寅次郎は千代のその思いを受け入れない。
あんなにも結婚願望がある寅次郎なのにである。
あらゆる女性に恋をして結婚願望を示した寅が、実はギリギリのところになると結婚というものから逃げているのだと言うことが露出している。
寅は自分と一緒になることが、相手女性の幸せにつながらないことを知っているのだ。
照れ屋なのよと言った千代の言葉が効いてくる。
恋に恋して大騒ぎする寅の行動は彼のエゴイズムの表現でもある。
結婚には学歴や人格など必要でなくて、結婚して家庭を維持していくという覚悟が必要なのだ。
寅にはその覚悟がない、否、覚悟が持てない実に勝手な男なのである。
しかしその身勝手さは寅の様な男には実に都合の良いものである。
そんな身勝手さを許されない僕たちは、寅さんの身勝手さとシャイな生き方、自由な生き方にあこがれを見出してしまうのだが、ただしそれは自分もああなりたいという願望ではないのだが…。



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