おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

遥かなる山の呼び声

2021-09-17 07:23:03 | 映画
「遥かなる山の呼び声」 1980年 日本


監督 山田洋次
出演 高倉健 倍賞千恵子 吉岡秀隆 ハナ肇
   木ノ葉のこ 武田鉄矢 鈴木瑞穂
   小野泰次郎 杉山とく子 大竹恵
   粟津號 畑正憲 渥美清

ストーリー
北海道東部に広がる根釧原野にある酪農の町、中標津で、風見民子は一人息子の武志を育てながら亡夫の残した土地で牛飼いをしている。
激しい雨の降るある春の夜、一人の男が民子の家を訪れ、納屋に泊めてもらった。
その晩、牛のお産があり、男はそれを手伝うと、翌朝、去っていった。
夏のある日、その男がやってきて働かせてくれというので、男手のない民子はその男を雇うことにする。
田島耕作と名乗る男はその日から納屋に寝泊まりして働きだし、武志は耕作にすぐになついていった。
近所で北海料理店を経営する虻田は民子に惚れていて、ある日、力ずくで彼女をモノにしようとして耕作に止められ、彼に決闘を挑むが簡単にやられてしまい、それからは耕作を兄貴と慕うようになる。
民子が腰痛を訴え入院することになり、留守を預かる耕作と武志は心を通わせていく。
ある日、耕作の兄の駿一郎がやってきた。
彼は耕作が起こした事件で教職を追われていたが、耕作の行く末を心配していた。
その夜、兄の持ってきたコーヒーを飲みながら耕作は民子にここにとどまってもいいと胸の内を明かした。
季節は秋に変り、土地の人達が待ちこがれる草競馬の時期となった。
耕作も民子の馬で出場、見事、一着でゴールイン。
興奮する民子、武志、観客たちの中に刑事の姿があった。
刑事の質問にシラを切った耕作だが、その夜、民子にすべてを打ち明けた。
耕作は二年前、妻が高利の金を貸りて自殺し、それを悪し様に言う高利貸を殺して逃げ回っていたのだ。
家を出ていくという耕作に民子は止めるすべもない・・・。


寸評
北海道の牧場で男が雨の夜に一夜の宿を借りる。
翌日男は線路伝いに去っていき、冬が去り、春が過ぎて短い夏がやってくるとの文字と共に男が線路伝いに帰ってきてタイトルが表示される。
オーソドックスだが映画の世界に誘い込まれるオープニングで心地よい。
それにしても、俳優さんてすごなあとまたまた感心させられた。
倍賞千恵子さんは本当に牧場の奥さんという感じで、牧場作業の所作の一つ一つが板についていて違和感を全く感じないのだ。
どれほどの研修を積んだのかは知らないが、よくもまああのような自然体の演技ができるものだと思うのだ。

この種の映画では、先ず男と子供が心を通わすものが多いのだが、本作もその例にもれず高倉健と吉岡秀隆少年の交流が微笑ましく描かれる。
少年は母子家庭の一人息子で、男の子がたくましい男にあこがれ心を通わせるのもよくあるストーリーで、その王道に乗った演出にホッコリとさせられる。
母親が体を痛め入院したことによって、男と少年は一緒に寝ることになるが、その時男は少年時代の兄とのつらい思い出を語る。
その話が後に現れる鈴木瑞穂の兄とのやり取りの伏線となっていた。
どのようにして兄は弟の居場所を知ったのかは分からないが、兄が弟を思う気持ちがよく表現できていた。
兄は弟の罪を咎めるでもなく、恨むでもなく、「いつかは自首するだろ」と語るだけで、弟の好きだったコーヒーセットを渡して帰っていく。
二人して生きてきたであろうこと、そして兄は弟をかばい続けてきたであろうことを想像させる、鈴木瑞穂、高倉健のやりとりはいい芝居だった。
その様な関係は一方の民子にもあって、それは従弟の武田鉄矢の存在である。
民子は結婚を反対され駆け落ち同然で九州から北海道にやってきたのだが、その民子を見送ったのが仲の良かった従弟の勝男ただ一人だったということで、勝男は帰る車の中で「姉さん、可哀そうなんだよな」と涙を流す。
どちらも肉親の情をそれとなく描いたいいシーンで、僕はどちらも涙した。

あることがあって、虻田は耕作を兄貴と慕うようになるが、彼と民子が登場して耕作を見送るラストシーンも泣け、映画はラストシーンだなあと思わせる。
民子が牧場を手放したこと、子供と元気に暮らしていること、民子の面倒は虻田が見ていることなどが、それとなく耕作に伝えられる。
そして虻田は、民子が耕作の帰りを待ち続けていることも耕作の耳に入るように騒ぐ。
なんだ、これは「幸せの黄色いハンカチ」の前段なのかと思って見ていたら、本当に黄色いハンカチが民子から耕作に手渡された。
なんだか楽屋落ちの様な気もするが、同時に僕はかつての名作「家族」の後日談であるような感じも受けた。
風見武志役の吉岡秀隆君は名演技で早くもその片鱗を見せている。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿