おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

男はつらいよ 奮闘篇

2024-04-24 07:01:44 | 映画
「男はつらいよ 奮闘篇」 1971年 日本


監督 山田洋次
出演 渥美清 倍賞千恵子 榊原るみ 森川信 三崎千恵子
   前田吟 太宰久雄 笠智衆 佐藤蛾次郎 光本幸子
   ミヤコ蝶々 田中邦衛 犬塚弘 柳家小さん

ストーリー
春三月。残雪の越後を旅する車寅次郎は、集団就職のために別れを惜しむ少年とその家族を見て故郷を想い出してしまった。
一方、柴又には、寅の生みの親である菊が三十年振りで「とらや」を訪れた。
しばらくして菊は帰ったが、そこに寅が帰って来た。
そして、さくらと一緒に宿舎の菊を訪ね、再会した嬉びも束の間、寅の結婚話が元で喧嘩になってしまった。
菊は、そんな寅に終始気を使うさくらに感謝しつつ京都へ帰った。
寅もこのことが原因でまた柴又を去った。
その旅で寅は、津軽から紡績工場へ出かせぎに来ている、頭は弱いが純真で可愛い少女花子と知りあったのだが、彼女は工場になじめず、故郷に帰りたいと寅に相談した。
寅は旅費としてなけなしの金をはたき、道に迷った時は柴又を訪ねるよう住所を教えた。
数日後、柴又に戻った寅は、津軽に帰らずおいちゃんの店で働いている花子を見てびっくりした。
ある日、突然花子が寅さんのお嫁になりたいと言う。
その気になった寅は、早速さくらに相談した。
さくらは、おにいちゃんが幸せになれるならと賛成したが、おいちゃん、おばちゃんは、生れてくる子供のことを考えて猛反対である。
そんな時、花子の身許引受人と名乗る福田先生が、突然紡績工場から行方不明になった花子を引き取りに来て、花子は寅の不在中に福田先生と共に津軽へ帰っていった。
それから数日後、失意の寅は置手紙を残して柴又から消えたが、さくらは、直感で津軽にとんだ。
さくらの勘は当り、バスの中で偶然に寅と出会った。
窓の外には、まだうっすらと雪を残す津軽山脈の向こうに真赤な夕陽が沈もうとしていた。


寸評
面白さはあるのだが何か釈然としない思いが残る。
多分それはヒロインの花子(榊原るみ)が知恵遅れの少女だったということに起因していると思う。
寅次郎の母親であるお菊(ミヤコ蝶々)が久しぶりに登場し、寅と帝国ホテルで面会する。
言い争いとなり、お菊は寅に身障者でも知恵遅れの子でも嫁になる者が出てきたら喜んでやるとののしる。
お菊が発した言葉はテレビでは禁止用語と思われるような言葉で重くのしかかってきた。
知恵遅れだということは度々語られ、語られること自体は少女が実際にそうなのだから違和感はないのだが、生まれてきた子はどうなんだのような会話は健全娯楽作品としてはいかがなものだったか。
僕は素直な気持ちで笑うことが出来なかった。

花子は知恵遅れなので「わたし寅ちゃんのお嫁さんになろうかな」などと言ってしまうのだが、純情な寅次郎はその言葉をまともに受け取ってしまう。
花子は親切な寅さんになついているのだが、本心は別の所にある。
それがはっきりするのは、おばちゃんとヨモギ摘みにでかけた土手で、田舎に帰りたくないのかと聞くおばちゃんに花子が「寅ちゃんがいつまでも居ろというの」というシーンだ。
花子は嫌々「とらや」で働いているわけではないが、親切な寅次郎に遠慮しているのである。
花子は純真な少女だが、寅を相手としたヒロインとしては余りにも若すぎる。
マンネリを打開するためだったのかもしれないが、どうも花子の設定には無理があったような気がしてならない。
山田洋次の作品としては後に「息子」や「学校Ⅱ」で身障者を取り上げているが、本作ではまだそこまでの昇華を見せていない。

さくらの兄思いは相当なもので、お菊と会った時に今の言葉はひどいとお菊に詰め寄る。
お菊はさくらが寅のことを心底思ってくれていることを知り感謝する。
ジーンとくる場面だ。
一方で、さくらは皆が反対する結婚話を応援するような気持になり、おばちゃんからは寅のことだけではなく花子の幸せも考えてやらねばならないと意見される。
さくらはお兄ちゃん一筋なのだ。
それでも、寅が「花子は津軽に帰った方が幸せだというのか!」と怒鳴った時に、何も言えない者の中にあってたった一人「そうよ」と毅然と言い切れるのも妹さくらならではなので、羨ましい限りの妹だと思う。

最初と最後では盛んに津軽弁が話される。
その土地の人を活写しているが、地方を表すには方言が一番だし、生の方言はやはり真実の雰囲気がある。
言語指導によって話される方言とは一味も二味も違う本物の魅力があった。
津軽の田舎で花子は学校の臨時職員として生き生きと働いている。
寅次郎もその姿を確認したのだろう。
自殺をほのめかす内容のハガキを出した寅次郎だが、すっかり元気になって「死ぬわけないか!」と明るい。
変わり身の早いのも車寅次郎なのである。