おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

狼よ落日を斬れ

2024-04-21 07:30:31 | 映画
2019/1/1より始めておりますので10日ごとに記録を辿ってみます。
興味のある方はバックナンバーからご覧下さい。

2019/10/21は「誰も知らない」で、以下「タワーリング・インフェルノ」「丹下左膳餘話 百萬兩の壺」「ダンス・ウィズ・ウルブズ」「団地」「タンポポ」「チェンジリング」「地下室のメロディー」「近松物語」「父親たちの星条旗」「父、帰る」と続きました。

「狼よ落日を斬れ」 1974年 日本


監督 三隅研次
出演 高橋英樹 松坂慶子 緒形拳 近藤正臣
   西郷輝彦 太地喜和子 田村高廣 辰巳柳太郎

ストーリー
杉虎之助(高橋英樹)は御家人の総領として生まれたが、十四歳の時に家出、池本茂兵衛(田村高廣)に捨われ、無外流に似た実戦的な剣術使いとなった。
八年後、江戸に戻った虎之助は屈強の勤番侍にからまれている叔父の旗本・山口金五郎(佐野浅夫)を偶然救ったところ、幼年時代の虎之助の親代りだった金五郎はその早業に目を見張った。
またもう一人虎之助の働きに瞠目したのが心形刀流伊庭道場の後継ぎ、伊庭八郎(近藤正臣)だった。
時に、国中は勤王、佐幕の抗争が続き、京都では近藤勇(和崎俊哉)、沖田総司(西郷輝彦)ら新選組が池田屋騒動で勤王の志士を大量殺戮した頃である。
虎之助の腕を見込んだ八郎は、自分の友人が隊長をしている洛中見廻り組に力を借してくれと口説いた。
その夜、虎之助は池本の使いの僧から、礼子(松坂慶子)という女を連れて京都に来いとの伝言を受けた。
道中、箱根で二人は薩摩藩士に襲われるが、虎之助は全員斬り伏せる。
京の町は騒然としていたが、その中で虎之助の目をひく使い手に薩摩の中村半次郎(緒形拳)がいた。
半次郎の情婦となった法秀尼(太地喜和子)は、虎之助が江戸にいる時、やくざの手から救ったお秀だった。
数日後、虎之助は乞食に身をやつした池本と再会した。
池本茂兵衛は、自分は幕府の密偵で薩摩藩を探索する身であることを明かし、「お前だけは今の時の流れに巻き込まれず、次の世の中を見つめてくれ」と諭すのだった。
祇園祭の夜、池本が薩摩藩士に襲われて死んだが、虎之助に対する池本のいまわの言葉は「礼子と共に江戸へ帰れ、無駄死するな」だった。
鳥羽伏見の戦いで、八郎、沖田総司ら幕軍は、半次郎らの官軍に破れた頃、虎之助は師茂兵衛の遺志を守り、礼子と二人で江戸で愛の日を送っていた。


寸評
「狼よ落日を斬れ」と大層なタイトルで上映時間も2時間半に及ぶが、中身は随分と散漫としていてあらすじを追っているような内容だ。
三隅研次はプログラムピクチャを数多く撮っているが、「座頭市物語」などキラリと光る作品もあって手堅い監督だったが、最後の作品となった本作の演出は冴えを欠いている。
高橋英樹の杉虎之助を中心に、伊庭八郎、沖田総司、中村半次郎らの若者が親交を交えてお互いを認めながらも、幕末と言う時代の流れの中でそれぞれが敵と味方に別れて散っていく様を描いているが、一つ一つのエピソードに深みがなく、ただ単に斬り合いをやっているだけに見える。

杉虎之助はやくざに追われているお秀を救ってやり、傷の手当てをしてからお粥を与え一夜を共にする。
そのことでお秀には杉が忘れられない人となるのだが、お秀が賭場で金の代わりに体を賭けて迄して京都までの旅費の10両を工面しようとした理由が全く分からない。
尼になって突然半次郎の前に現れても何が何やら分からないのだ。
杉は師匠の池本から何度も「江戸に帰れ、次の時代に生きろ」と言われているが、何度も京にとどまってしまう。
これは池本の言う、分かっていてもどうしようもないことなのだろうか。
杉と言う男には悩みとか苦悩と言ったものが感じられない、実にあっけらかんとした男である。
もともと演技力に乏しい高橋英樹なので、この様な演技を必要としない立ち廻りの多い役柄は似合っていたのかもしれないが、そんな彼に引っ張られるように登場人物にリアル感がない。
彰義隊の一員として戦った伊庭八郎が負傷して山小屋で杉と出会う。
杉は片腕を切り落として伊庭の命を救い、江戸の婚約者の元へ帰るように説得する。
それを納得した八郎だったが、杉が水を汲みに行っている間に抜け出して榎本と共に函館に向かっている。
彼が函館に向かわねばならない心情はどうだったのかは分からず、杉への言葉もなく次のシーンでは開陽丸に乗っているので、僕はただ話が時代を追って進んでいるだけにしか思えなかった。
登場人物だけでなく、描かれている内容にもリアル感がないので、息を詰めるような緊迫感を感じることが出来ず、ただぼんやりと見ているだけの2時間半になってしまっている。

薩摩藩士村田以喜蔵が、虎之助の留守を襲い杉の妻となっている礼子を惨殺する。
残党狩りを続ける官軍の一隊の中に村田を見つけた杉は彼らに斬りかかる。
礼子を襲った三人の一人の首をはねると、その首が空中に舞い上がる。
主犯の村田に憎悪の一撃を加えると、村田の体が真っ二つに割れる。
ゾッとするより場内から笑い声が起きるシーンだが、他の作品でも見たような気がする演出だ。
池本殺害の真犯人が半次郎であったと知った杉は、西南戦争勃発で鹿児島にいる半次郎を追って鹿児島に向かい対決するがあっけなく終わってしまい、やがて西南戦争も終わり号外には西郷が自刃、半次郎戦死との記事があり、それを読んだ杉が時の流れを感じながら去っていく。
なんだかあっけない、沖田総司の死もあっけない描き方だったし、もう少し絞り込んでじっくり描いて欲しかった。
三隅研次はこの映画の翌年、54歳の若さで早逝しているのだが、これだけの尺を与えたのは長年の彼の功績に対するご褒美だったのかもしれない。