おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

永遠の人

2024-04-19 07:03:35 | 映画
「永遠の人」 1961年 日本


監督 木下恵介
出演 高峰秀子 佐田啓二 仲代達矢 石浜朗
   乙羽信子 田村正和 藤由紀子 加藤嘉

ストーリー
◇第一章 昭和七年、上海事変たけなわのころ。
阿蘇谷の大地主小清水平左衛門(永田靖)の小作人草二郎(加藤嘉)の娘さだ子(高峰秀子)には川南隆(佐田啓二)という親兄弟も許した恋人がいた。
隆と、平左衛門の息子平兵衛(仲代達矢)は共に戦争に行っていたが、平兵衛は足に負傷、除隊となって帰ってきて、平兵衛の歓迎会の旬日後、平兵衛はさだ子を犯した。
さだ子は川に身を投げたが、隆の兄力造(野々村潔)に助けられ、やがて隆が凱旋してきたが幸せになってくれと置手紙を残し行方をくらしました。
◇第二章 昭和十九年、さだ子は平兵衛と結婚、栄一(田村正和)、守人(戸塚雅哉)、直子(藤由紀子)の三人の子をもうけていた。
隆はすでに結婚、妻の友子(乙羽信子)は幼い息子豊(石濱朗)と力造の家にいた。
長いあいだ病床にふしていた平左衛門が死に、翌日、友子は暇をとり郷里へ帰った。
◇第三章 昭和二十四年、隆は胸を冒されて帰ってきた。
一方、さだ子が平兵衛に犯された時に身ごもった栄一は高校生になっていたが、ある日、自分の出生の秘密を知り、阿蘇の火口に投身自殺した。
さだ子と平兵衛は、一そう憎み合うようになった。
◇第四章 昭和三十五年、二十歳になる直子と二十五歳になる隆の息子豊は愛し合っていたが家の事情で結婚できなかったので、さだ子は二人を大阪へ逃がしてやった。
そこへ巡査(東野英治郎)がきて、次男の守人が安保反対デモに参加、逮捕状が出ていると報せにきた。
◇第五章 昭和三十六年、隆は死の床についていた。
隆は死の間際に、平兵衛を苦しめていたのは逆に私だ、謝ってくれと、さだ子に告げた。


寸評
地主と小作人の関係は農地解放がなされるまで存在していて、僕はその上下関係を未だに感じている老人を知っている。
もっとも、その小作人は元の地主よりも土地成金となって羽振りが良くなっているのだが。
封建的な制度が存在する中で登場人物たちがもがき苦しむ。
描かれているのは人間が持っている感情の中で一番わかりやすい憎悪を抱きながら生きた人々である。
平兵衛は隆という恋人がいるさだ子を犯し、父親である地主の小清水平左衛門は小作人の草二郎を屈服させて強引にさだ子を息子の嫁にしてしまう。
さだ子はその事で平兵衛を許すことが出来ず、犯されたことで生まれた栄一を素直に愛せない。
さだ子の後ろに隆の存在を感じている平兵衛もさだ子に素直にはなれない。
一方の隆夫婦にも同じような感情が渦巻いており、どちらも夫婦関係を維持しながらも心の底に憎悪の気持ちを抱いている。
それでいながら、家に嫁いだという意識からか、それぞれに子供が生まれている。
栄一は自分の出生の秘密を知り、自分の存在が両親を苦しめていると悟り自殺してしまう。
兄の栄一を慕っていた次男の守人は、兄を自殺に追いやった母親を許していない。
母は逃亡資金を提供することで守人への愛情を示すが、守人からは許さないとのきつい言葉を浴びせられる。
さだ子は娘の直子と隆の息子豊の結婚を許して二人を大阪へ逃がしてやるのだが、その行為も平兵衛への復讐だったのだろう。
憎悪の対極にあるのが愛情であり、愛の表現が直子と豊の夫婦であったと思うが、愛と言う感情に比べれば憎しみと言う感情は、人間関係においては遥かに強いものだと思わされる。
憎悪で結びついた人々が印象的に描かれ続ける。
それぞれの憎悪を映像的に示されるのがアップで撮られた顔の中で光る目だ。
高峰も仲代も乙羽も名優としての目を見せる。
変わらぬ阿蘇の自然を背景として、人の醜さを表すようにシルエット的に撮られるショットが印象的だ。

効果的と評価する人もいるのだろうが、僕はギターによるフラメンコの激しい音楽と、唄と合いの手がどうもしっくりこなかった。
「昔一人の女が鬼になったです それはですな(それはですな) 好かん男のおかみさんいなって子供ができたったい そればってん(そればってん) 婿さんの子供も地獄の炎で火傷したったい」
などという唄は物語を補完しているのだが、どうも描かれている内容とマッチしていないような気がした。
異様な関係を表すための異様な音楽だったのだろうか。
義父を看病するさだ子の姿も憎悪に満ちていたし、亡くなった義父に浴びせる言葉も封建制への痛烈な批判に思えた。
同時に嫁と舅の確執への究極の表現でもあった。
最後はちょっとまとめ過ぎかなと思えたが、そうでもしないとまったく救いようのない映画になってしまう。
そもそも憎悪を描いているのだから、見ていて重い気持ちになるのも当然なのだが、それに耐えた高峰秀子、仲代達矢、乙羽信子は、やはり名優であった。