おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

エジプト人

2024-04-20 08:00:37 | 映画
「エジプト人」 1954年 アメリカ


監督 マイケル・カーティス
出演 エドマンド・パードム ヴィクター・マチュア
   ジーン・シモンズ ジーン・ティアニー
   マイケル・ワイルディング ピーター・ユスティノフ
   マイケル・アンサラ ジョン・キャラダイン

ストーリー
紀元前1370年頃、エジプト第17王朝。
テーベの都に住む若い医師シヌヘはナイル河に流された捨て子だったが、有名な医師に引き取られて育った彼は多神教に疑問を持ち、神は1つであると固く信じていた。
ふとしたことから片眼の男カプターを召使いとし、また酒場の女メリトに慕われるようになっているシヌヘは、軍人志望の友ホレムヘブと獅子狩に出かけ、獅子に襲われている一神教の予言者アクナトンを救ったが異端者を助けた者として投獄された。
が、数日してアクナトンは新国王の位置につき、シヌヘは黄金の首飾りを贈られ、ホレムヘブは近衛隊長に任命された。
やがてホレムヘブは王妹バケタモンに心惹かれ、満たされぬ望みのはけ口を求めてバビロニアの女ネフェルの宴会に行った。
シヌヘも招かれ、彼女の魅力に負けて自分の財産を与えて関心を買おうとし、彼を慕うメリトを驚かせた。
バケタモンはホレムヘブをそそのかしてネフェルに贅沢な贈物をさせ、シヌヘから離れさせようと企てた。
ネフェルの変心を知ったシヌヘは怒って彼女を溺死させようとさえした。
やがてシヌヘの養父母が自殺し、彼は自責の念にかられ、90日間謹慎して亡骸を丁寧に葬った。
数年後、テーベの都は異民族ヘテ人の侵略の前に曝されていたが、太陽神を凶信する国王アクナトンはなすすべを知らなかった。
シヌヘはメリトが孤児を育てているのを知り、彼女と会って長い放浪ののちはじめて人生の幸福を味わった。
シヌヘは国王の狂った頭脳の治療を命じられたが、バケタモンから自分が先王の子で彼女とは腹ちがいの兄妹であることを知らされ、アクナトンとホレムヘブを毒殺しようともちかけられた。
シヌヘは一旦拒絶したが、メリトが太陽教徒に殺されたのに怒り、ついにアクナトンに毒を盛った。
国王の死後ホレムヘブはバケタモンと結婚して王位につき、異境に流されたシヌヘは回顧録を執筆した。


寸評
当時としては破格の、製作費500万ドルをかけた超大作であり、マイケル・カーティスの晩年の力作であることは認めるが、主人公に存在感がなく波乱万丈の物語を上辺だけをなぞっただけの奥行きのなさを感じる。
主人公を巡る物語だけは目まぐるしく進んでいく。
古代エジプトを舞台に、主人公のシヌヘが孤児から医師になり、ひょんなことから国王と親しくなるが、悪女に骨抜きにされて財産や養父母を失い、親友とも敵対し、愛してくれる女性にも死なれたが、王家の血筋を引いていることを知るというドラマチックすぎるストーリーである。

ジェットコースタ―のようなシヌヘの人生は余りにも作り話過ぎて乗り切れないものがある。
両親が貧しい人々の為に医術を捧げているのに対し、当初はそうであったシヌヘもやがて金持ちだけを相手にするようになるなど、シヌヘがきれいごとを言っても素直に共感できない人物であることも一因だ。
ただし僕は、この物語が紀元前20世紀頃書かれたと思われる古代エジプト文学の最高傑作「シヌヘの物語」が題材となっている事に驚くとともに、エジプト文明の凄さを思い知らされた。

シヌヘを演じたエドマンド・パードムには作品の雰囲気を生み出していくにはやや重荷だったようにも感じる。
この役は当初マーロン・ブランドであったらしいのだが、彼が演じていればまた違った印象の作品になっていただろうにと思わぬでもない。
そう思うと、エドマンド・パードムには気の毒なような気もする。
メリトのジーン・シモンズはこの映画のヒロインの筈だが、描かれ方に存在感がなく、したがってその死もドラマチックでない。
面白い立場と性格設定がなされているバケタモンのジーン・ティアニーの役柄にも物足りなさを感じる。
バケタモンは気の強い性格で、母から兄よりも国王に向いていると言われているのだが、その片鱗がうかがえないのは映画として淋しい。

エジプトが攻められようとしているのに、理想主義者で戦うことを拒否するファラオのアクナトンは、国王としては疑問符がつく存在で、シヌヘもついにはアクナトンの暗殺に加担するのだが、死の間際に残した彼の言葉に感銘を受け、自分がファラオになることを放棄し国外追放となる。
ここでアクナトンが告げる言葉、シヌヘが述べる言葉がこの映画のテーマだと思うのだが、その訴えもなぜか心に響かなかった。

映画はシヌヘが回顧録を書いている所から始まり、書き終わるところで終わっているが、シヌヘの召使になった隻眼の奴隷カプターと、彼が連れて行ったト-トのその後はどうなったのだろうと思う。
最後に、「イエス・キリストの誕生より13世紀前のことである」という字幕がでるが、これは意味不明で、なにが言いたいのかわからない。
キリストが誕生したことで彼らが信仰する神が滅びたとでも言うのか。
それとも、そんなに古い時代の物語だと言いたかったのか。
エジプトの超古代史劇に興味を持ったのだが、期待が過ぎたのか肩透かしを食った感じだ。