運の悪い爺さんは

金持ちのA爺さんを見て、勝ち誇った気分になっているあなた。そうそう、B爺さん、あなたですよ。あなたはご近所のC爺さんがあなたを見て、こんなふうにつぶやいたことを知らない。「知らぬが仏」という諺もある。

「おや、あそこにいるのは、しょぼいBの奴じゃないか。あいつのヨメは、元気だけが取り柄のカンボジア人だという話だよな。娘も隣町に住んでいるのに、何をしているかわからないという話だ。娘のダンナは反社のコレものだという噂だし、娘の方もたしか十年前は、ゾク（ローリング族）のアタマを張っていたというからな。どいつもこいつも得体の知れないはぐれ者ばかりだ。
Bの奴も、べつに悪い奴ではないのだが、つくづく運のない奴だと思うよ。ホント、哀れだよなぁ。
そこへ行くと、オレなんか、カミさんは一応日本人だし、手料理も得意だ。クルマの運転もお手の物と来ている。おまけにオレの息子は、大企業に勤める将来有望なエリート・サラリーマンだものな。今は東京でバリバリやっていて、わが家にはたまにしか顔を見せないけど、まあ、そのうち結婚して子供が出来れば、盆・正月には孫を連れて一家総出で帰省してくれるだろう。
まあ、Bの奴、ーー運のないあのBの奴に比べれば、オレなんか、日々の暮らしには困らない善良な市民だものな。将来の一家団欒も一応、約束されている。まあ、そこそこ幸せというべきだろうな」

コロナ・ワクチン接種会場の、その順番待ちの列に並ぶB爺さんと、C爺さん。そんな二人を見て、A爺さんがこうつぶやいたことを二人は知らない。知らぬが仏なのである。