ささやんの天邪鬼 座右の迷言

世にはばかる名言をまな板にのせて、迷言を吐くエッセイ風のブログです。

憧れるということ

2023-12-28 10:47:21 | 日記
けさテレビをつけたら、NPBオリックスの所属だった山本由伸投手が、MLBドジャースへの入団会見を行っているところだった。印象的だったのは、「きょうからは本当の意味で憧れるのをやめなければいけません。自分自身が憧れられるような存在になれるよう頑張ります」という言葉だった。


この言葉は、あの大谷翔平がWBC決勝戦に臨むチームメイトに呼びかけた言葉「きょうだけは憧れるのをやめましょう」を踏まえている。


この言葉の真意が私にはよくわかる、「憧れてしまったら、超えられない」という彼の言葉がすべてを語っている。だれかに憧れるとは、その「だれか」を自分のはるか上位におくことにほかならない。そのことですでに我々はその「だれか」を、自分には超えられない「高嶺の花」として措定してしまっているのだ。


だが、これはしょせん運動競技の世界でのことである。一瞬で勝ち負けが決まる運動競技の世界では、気迫や意気込みが物をいう。「憧れてしまったら、超えられない」というのは、そういう勝負の地平で生じる心理現象に違いない。


もちろん、そうではない場合もある。何かのテレビ番組(たぶんNHKの「バタフライエフェクト モハメド・アリ」)を見ていて知ったのだが、黒人初の米国大統領になったバラク・オバマは、黒人で最強のボクサー、モハメド・アリに憧れていた。


ベトナム戦争に反対して徴兵を拒否したため、王座を剥奪されながら、キンシャサの奇跡によってみごと復活をとげたこの黒人ボクサーにいたく憧れていた。


弁護士になったオバマは自分の事務所に、キンシャサでジョージ・フォアマンに勝利したアリの写真を飾り、米国大統領になったオバマは、アリから贈られたボクシング・グローブを大統領官邸に飾った。そのグローブは「逆境をはねのける粘り強さの象徴だ」と語っている。


もしオバマがボクサーだったら、アリに憧れた彼はこの傑出したボクサーを永遠に超えることはできなかっただろう。社会改革の活動家だったからこそ、憧れの対象だったモハメド・アリは、オバマの政治活動のエネルギーの源泉たり得たのだ。


だから、(プロ野球選手ではない)我々は、「憧れるのをやめる」のをやめたっていいのだ。ただ、山本由伸が今日の会見でいみじくも言ったように、「自分自身が憧れられるような存在になれるよう頑張」ろうとする気概は、なかなかのものだ。ヨシノブはショウヘイを超えられるかもしれない。

コメント
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