ホルムズ海峡で日本のタンカーを攻撃したのは、はたして何者なのか。アメリカが主張するように、これはイランの犯行なのか、それともこの主張のほうがでっち上げの言いがかりなのか。疑惑は疑惑を呼び、謎は深まるばかりである。
国連安保理は「攻撃は国際法違反だ」と非難する認識で一致したというが、攻撃の主体が特定できなければ、話にならない。安保理は一体だれを非難しているのか。一方、毎日新聞はきのうの社説で《ホルムズのタンカー攻撃 危機の回避へ国際連携を》なる論説をかかげ、「民間船舶への攻撃など安全航行の観点から許されるものではない」と主張するが、この声にしても、攻撃の実行犯に届かなければ虚しい限りである。
ネット記事《日本は、なぜホルムズ海峡で標的になったのか 安倍首相の米・イラン仲介外交は台なしに》(東洋経済ONLINE6月15日配信)を読んだ。筆者は池滝和秀氏。「時事総合研究所客員研究員」の肩書を持つ、中東ジャーナリストである。この記事は、「タンカー攻撃の実行犯は何者か」を真っ向から取りあげ、この事件の謎の構造を浮き彫りにしている。
この記事はまず「イランの関与」を主張するアメリカの見方を取りあげ、これに理解を示している。イランはアメリカに対抗し、「原油輸送の大動脈であるホルムズ海峡に対する生殺与奪の軍事力を保持していることを誇示したい」と思っている。タンカー攻撃は、こうしたイランの思惑に合致するとみるのである。
タンカー攻撃にイランが関与したとみた場合、では実行犯はだれかが問題になるが、筆者の池滝氏はこれについても、「実行犯は革命防衛隊だ」とするアメリカの見方に理解を示している。「今回の事件は、いわば革命防衛隊の『縄張り』ともいえる海域で起きている」というのがその理由である。
この記事に教えられたのは、この事件について「(アメリカとイランの軍事衝突を引き起こすのを望む勢力による)謀略説」があることである。この謀略説によれば、タンカーへの攻撃を仕組んだのは、アメリカのボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)、イスラエルのネタニヤフ首相、サウジアラビアのムハンマド皇太子、UAEのムハンマド皇太子らからなる「Bチーム」であり、彼らはアメリカとの軍事衝突によって、イランが弱体化するのを望んでいる。
なるほど、それもありかな、と思わせるが、池滝氏はこの見方には与しない。彼らが「陰謀発覚のリスクを負ってまでアメリカとイランに戦争をけしかける理由」はない、と考えるからである。
では、イラン国内の反体制組織はどうか。これも残された可能性ではあるが、「これらの組織は、革命防衛隊をしのぐような装備や技術は持っていないとみられており、犯行主体としては考えにくい」と池滝氏は言う。
こう見てくると、タンカー攻撃の実行犯はイランの革命防衛隊だということになる。「革命防衛隊は、1979年のイスラム革命体制を死守し、最高指導者を守ることが至上命題だ。穏健派のロウハニ大統領やザリフ外相ならいざ知らず、ハメネイ師の意向を無視して暴走することは考えにくい」とする池滝氏は、暴走説を否定し、革命防衛隊とハメネイ師が結託して事は行なわれたと結論する。「ハメネイ氏も権力の座にとどまるためには、保守強硬派に寄り添う必要がある。一連のタンカー攻撃はイランによる犯行の可能性が高いと考える」と池滝氏は言う。
何のことはない。ああでもない、こうでもないと言いながら、池滝氏は結局、アメリカへの追従に終始している。故意かどうか判らないが、もう一つの可能性に、池滝氏はふれていない。
賢明な読者なら、もうお分かりだろう。そう、アメリカのでっち上げ説である。「イラクは大量破壊兵器を保有している。我々は確たる証拠を握っている」。そう言って米軍がイラクに攻撃を仕掛けたのは、何年前のことだったか。結局、大量破壊兵器は見つからなかった。そんな記憶がよぎるのは、私だけではないだろう。
国連安保理は「攻撃は国際法違反だ」と非難する認識で一致したというが、攻撃の主体が特定できなければ、話にならない。安保理は一体だれを非難しているのか。一方、毎日新聞はきのうの社説で《ホルムズのタンカー攻撃 危機の回避へ国際連携を》なる論説をかかげ、「民間船舶への攻撃など安全航行の観点から許されるものではない」と主張するが、この声にしても、攻撃の実行犯に届かなければ虚しい限りである。
ネット記事《日本は、なぜホルムズ海峡で標的になったのか 安倍首相の米・イラン仲介外交は台なしに》(東洋経済ONLINE6月15日配信)を読んだ。筆者は池滝和秀氏。「時事総合研究所客員研究員」の肩書を持つ、中東ジャーナリストである。この記事は、「タンカー攻撃の実行犯は何者か」を真っ向から取りあげ、この事件の謎の構造を浮き彫りにしている。
この記事はまず「イランの関与」を主張するアメリカの見方を取りあげ、これに理解を示している。イランはアメリカに対抗し、「原油輸送の大動脈であるホルムズ海峡に対する生殺与奪の軍事力を保持していることを誇示したい」と思っている。タンカー攻撃は、こうしたイランの思惑に合致するとみるのである。
タンカー攻撃にイランが関与したとみた場合、では実行犯はだれかが問題になるが、筆者の池滝氏はこれについても、「実行犯は革命防衛隊だ」とするアメリカの見方に理解を示している。「今回の事件は、いわば革命防衛隊の『縄張り』ともいえる海域で起きている」というのがその理由である。
この記事に教えられたのは、この事件について「(アメリカとイランの軍事衝突を引き起こすのを望む勢力による)謀略説」があることである。この謀略説によれば、タンカーへの攻撃を仕組んだのは、アメリカのボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)、イスラエルのネタニヤフ首相、サウジアラビアのムハンマド皇太子、UAEのムハンマド皇太子らからなる「Bチーム」であり、彼らはアメリカとの軍事衝突によって、イランが弱体化するのを望んでいる。
なるほど、それもありかな、と思わせるが、池滝氏はこの見方には与しない。彼らが「陰謀発覚のリスクを負ってまでアメリカとイランに戦争をけしかける理由」はない、と考えるからである。
では、イラン国内の反体制組織はどうか。これも残された可能性ではあるが、「これらの組織は、革命防衛隊をしのぐような装備や技術は持っていないとみられており、犯行主体としては考えにくい」と池滝氏は言う。
こう見てくると、タンカー攻撃の実行犯はイランの革命防衛隊だということになる。「革命防衛隊は、1979年のイスラム革命体制を死守し、最高指導者を守ることが至上命題だ。穏健派のロウハニ大統領やザリフ外相ならいざ知らず、ハメネイ師の意向を無視して暴走することは考えにくい」とする池滝氏は、暴走説を否定し、革命防衛隊とハメネイ師が結託して事は行なわれたと結論する。「ハメネイ氏も権力の座にとどまるためには、保守強硬派に寄り添う必要がある。一連のタンカー攻撃はイランによる犯行の可能性が高いと考える」と池滝氏は言う。
何のことはない。ああでもない、こうでもないと言いながら、池滝氏は結局、アメリカへの追従に終始している。故意かどうか判らないが、もう一つの可能性に、池滝氏はふれていない。
賢明な読者なら、もうお分かりだろう。そう、アメリカのでっち上げ説である。「イラクは大量破壊兵器を保有している。我々は確たる証拠を握っている」。そう言って米軍がイラクに攻撃を仕掛けたのは、何年前のことだったか。結局、大量破壊兵器は見つからなかった。そんな記憶がよぎるのは、私だけではないだろう。