太一の口からその真実を聞かされた雪は、幾分動揺していた。
何も言葉を紡げない雪に対し、太一は謝罪を口に出す。
「スンマセンした、雪さん」
けれど太一も闇雲に青田淳と手を組んだ訳じゃなかった。その理由を話し出す。
「けど傍目から見ても、最近の雪さんと青田先輩はギクシャクしてたから‥。
雪さん先輩に話すらしてないみたいだし‥だから俺話したんす。これは身の危険に関することっすから。
今はプライド云々を気にして、喧嘩してる場合じゃないと思って‥」
申し訳無さそうにそう口にする太一に、思わず雪は聞いた。
「だから青田先輩に?一体いつ?」
すると雪からの質問に、太一は記憶を辿った。
「ええと‥かなり前です。横山先輩がまたストーキングし始めた頃‥」
その太一の言葉を聞いて、雪は心が揺れた。
知ってたんだ‥。連絡さえまともに取れなかったのに‥
雪は無意識の内に拳をグッと握りしめながら、心の揺れを落ち着かせていた。
そんな雪に対し、太一は淳の弁解をする。
「それで、集めた証拠を全部先輩と共有して‥。あ、データまとめてくれたのも青田先輩です。
先輩は本当に雪さんのこと心配してますよ。だからもう仲直りしたらどうですかネ‥?」
太一がそう問いかけても、雪は俯き、黙り込んでいた。そんな雪に太一は、オロオロと再び声を掛ける。
「あ‥雪さん怒っちゃいました?その‥先輩は雪さんから言い出すまで待ってたみたいで‥。
だから俺も話さなかっ‥」 「だからアンタまでグルになって隠してたってワケ?!」
歯切れの悪い太一の説明に、聡美がイライラして声を荒げる。
太一は謝りつつも、淳をフォローする発言を続けた。
「けど喧嘩中だったから、先輩も言いづらかったのかもだし‥
なんにせよ証拠を集めなきゃいけなかったから‥」
「太一、」
そんな太一の言葉の途中で、雪は彼の名前を口に出してその流れを止めた。
「はい?」と聞き返す彼に向かって、雪は一つ質問をする。
「もしアンタの好きな人がストーカーに遭ったとしたら、
アンタどうする‥?」
そう雪が問うや否や、太一は目を吊り上げて垂直チョップのジェスチャーをし始めた。
「そりゃー勿論ソッコー駆けつけて、スイカをかち割るように頭を‥!体にも心にも致命傷を‥!」
思わず怒りが込み上げそう言った太一だったが、次の瞬間ハッと我に返って黙り込んだ。
太一の答えを聞いた雪は黙り込み、三人の間に気まずい空気が流れる‥。
雪は、乾いた笑いを立てながら口を開いた。
「そうだよね‥きっと私も‥」
その先は口にしなかったが、それが雪の答えだった。
いつだって彼の考え方は、自分には理解出来ない‥。
雪は、握った携帯に目を落とした。
今家に帰って来たところ。夜、店に行くから
そこには、先程彼が送って来たメッセージが表示されていた。
先のことなんて分からないが、今現在彼が家に居ることはきっと確かだ‥。
雪は顔を上げ、太一と聡美にくるりと背を向けた。
「私、先に行くね」
太一と聡美は慌てて雪の名を呼んだ。雪は振り返り、二人に向かって自分の気持ちを口にする。
「あ、太一。私怒ってないからね。そんなに気にしないで。
今回のことは、聡美にも太一にも本当に感謝してるよ!」
今度奢るから食べたい物考えといて、と雪は言って再び二人に背を向けた。
そして廊下を駆けて行く。
「‥ああいうトコ、二人全く一緒っすね」
太一は雪と淳の共通点を見出して、そうポツリと呟いた。
聡美は溜息を吐きながら、太一の言葉に小さく頷く。
「まぁ‥とにかくフツーじゃないわよ。むしろちょっと変‥」「何がすか?」
「先輩の対処方がよ」
聡美は腕組みをしながら青田淳を思い、そう口にした。太一は曖昧に頷く。
「う~ん‥まぁ‥若干そんな気も‥」
それでも太一は「今回の一件で先輩は自分を助けてくれたし、彼は正しかった!」と口にした。
聡美はそんな太一に呆れ顔だ‥。
廊下を駆けて行った雪は、今駐車場の辺りを歩いていた。
早足で、真っ直ぐに前を向いて。
歩調はだんだんと早くなった。
逸る気持ちが、彼女の歩みを加速させる。
気がついたら、駆け出していた。
目的地に向かって前へ前へ、少しでも早くその場所へと。
記憶の海が揺らぎ、そこから様々な思い出が浮かび上がる。
最初に思い浮かんだのは、彼の笑顔だった。
子供のように純粋な瞳をして、自分を見つめる嬉しそうな彼。
緑道の中で、穏やかに微笑む彼も居た。
強い風が吹いて、その前髪をサラサラと揺らした。繋いだ手の温もり。芽生え始めた恋心。
ギスギスした人間関係に疲れた時、振り向くと彼が微笑んで自分を見ていた。
全て上手くいくよという彼の言葉が、その笑顔と共に蘇る。
今や雪は疾走していた。はぁはぁと息が上がる。
一秒でも早く、一瞬でも早く、彼の傍へ。
頭の中は彼でいっぱいだった。
万華鏡のように、会う度に違った面を見せる彼の一つ一つの表情が、記憶の海から溢れ出る。
優しいところも、自信家な部分も、子供みたいな面も、嬉しそうな笑顔も、狡猾な顔も、その隠された闇も、
それは全て彼だった。
青田淳という一人の人間だった。
雪は彼という人間全てと今、正面から向き合いたいと心から思った。
雪は真っ直ぐ駆けて行った。
彼の元へ。
その、心のままに。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<心のままに>でした。
自分の心のままに駆けて行く雪‥!盛り上がって参りました‥!
ただ前を見て走って行く雪の姿は、以前想いを自覚した亮さんのカットに重なりますね。
こんな風に走る日が、先輩にもやって来るのでしょうか‥。
心のままに‥。
次回は<隠れた思惑>です。
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何も言葉を紡げない雪に対し、太一は謝罪を口に出す。
「スンマセンした、雪さん」
けれど太一も闇雲に青田淳と手を組んだ訳じゃなかった。その理由を話し出す。
「けど傍目から見ても、最近の雪さんと青田先輩はギクシャクしてたから‥。
雪さん先輩に話すらしてないみたいだし‥だから俺話したんす。これは身の危険に関することっすから。
今はプライド云々を気にして、喧嘩してる場合じゃないと思って‥」
申し訳無さそうにそう口にする太一に、思わず雪は聞いた。
「だから青田先輩に?一体いつ?」
すると雪からの質問に、太一は記憶を辿った。
「ええと‥かなり前です。横山先輩がまたストーキングし始めた頃‥」
その太一の言葉を聞いて、雪は心が揺れた。
知ってたんだ‥。連絡さえまともに取れなかったのに‥
雪は無意識の内に拳をグッと握りしめながら、心の揺れを落ち着かせていた。
そんな雪に対し、太一は淳の弁解をする。
「それで、集めた証拠を全部先輩と共有して‥。あ、データまとめてくれたのも青田先輩です。
先輩は本当に雪さんのこと心配してますよ。だからもう仲直りしたらどうですかネ‥?」
太一がそう問いかけても、雪は俯き、黙り込んでいた。そんな雪に太一は、オロオロと再び声を掛ける。
「あ‥雪さん怒っちゃいました?その‥先輩は雪さんから言い出すまで待ってたみたいで‥。
だから俺も話さなかっ‥」 「だからアンタまでグルになって隠してたってワケ?!」
歯切れの悪い太一の説明に、聡美がイライラして声を荒げる。
太一は謝りつつも、淳をフォローする発言を続けた。
「けど喧嘩中だったから、先輩も言いづらかったのかもだし‥
なんにせよ証拠を集めなきゃいけなかったから‥」
「太一、」
そんな太一の言葉の途中で、雪は彼の名前を口に出してその流れを止めた。
「はい?」と聞き返す彼に向かって、雪は一つ質問をする。
「もしアンタの好きな人がストーカーに遭ったとしたら、
アンタどうする‥?」
そう雪が問うや否や、太一は目を吊り上げて垂直チョップのジェスチャーをし始めた。
「そりゃー勿論ソッコー駆けつけて、スイカをかち割るように頭を‥!体にも心にも致命傷を‥!」
思わず怒りが込み上げそう言った太一だったが、次の瞬間ハッと我に返って黙り込んだ。
太一の答えを聞いた雪は黙り込み、三人の間に気まずい空気が流れる‥。
雪は、乾いた笑いを立てながら口を開いた。
「そうだよね‥きっと私も‥」
その先は口にしなかったが、それが雪の答えだった。
いつだって彼の考え方は、自分には理解出来ない‥。
雪は、握った携帯に目を落とした。
今家に帰って来たところ。夜、店に行くから
そこには、先程彼が送って来たメッセージが表示されていた。
先のことなんて分からないが、今現在彼が家に居ることはきっと確かだ‥。
雪は顔を上げ、太一と聡美にくるりと背を向けた。
「私、先に行くね」
太一と聡美は慌てて雪の名を呼んだ。雪は振り返り、二人に向かって自分の気持ちを口にする。
「あ、太一。私怒ってないからね。そんなに気にしないで。
今回のことは、聡美にも太一にも本当に感謝してるよ!」
今度奢るから食べたい物考えといて、と雪は言って再び二人に背を向けた。
そして廊下を駆けて行く。
「‥ああいうトコ、二人全く一緒っすね」
太一は雪と淳の共通点を見出して、そうポツリと呟いた。
聡美は溜息を吐きながら、太一の言葉に小さく頷く。
「まぁ‥とにかくフツーじゃないわよ。むしろちょっと変‥」「何がすか?」
「先輩の対処方がよ」
聡美は腕組みをしながら青田淳を思い、そう口にした。太一は曖昧に頷く。
「う~ん‥まぁ‥若干そんな気も‥」
それでも太一は「今回の一件で先輩は自分を助けてくれたし、彼は正しかった!」と口にした。
聡美はそんな太一に呆れ顔だ‥。
廊下を駆けて行った雪は、今駐車場の辺りを歩いていた。
早足で、真っ直ぐに前を向いて。
歩調はだんだんと早くなった。
逸る気持ちが、彼女の歩みを加速させる。
気がついたら、駆け出していた。
目的地に向かって前へ前へ、少しでも早くその場所へと。
記憶の海が揺らぎ、そこから様々な思い出が浮かび上がる。
最初に思い浮かんだのは、彼の笑顔だった。
子供のように純粋な瞳をして、自分を見つめる嬉しそうな彼。
緑道の中で、穏やかに微笑む彼も居た。
強い風が吹いて、その前髪をサラサラと揺らした。繋いだ手の温もり。芽生え始めた恋心。
ギスギスした人間関係に疲れた時、振り向くと彼が微笑んで自分を見ていた。
全て上手くいくよという彼の言葉が、その笑顔と共に蘇る。
今や雪は疾走していた。はぁはぁと息が上がる。
一秒でも早く、一瞬でも早く、彼の傍へ。
頭の中は彼でいっぱいだった。
万華鏡のように、会う度に違った面を見せる彼の一つ一つの表情が、記憶の海から溢れ出る。
優しいところも、自信家な部分も、子供みたいな面も、嬉しそうな笑顔も、狡猾な顔も、その隠された闇も、
それは全て彼だった。
青田淳という一人の人間だった。
雪は彼という人間全てと今、正面から向き合いたいと心から思った。
雪は真っ直ぐ駆けて行った。
彼の元へ。
その、心のままに。
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<心のままに>でした。
自分の心のままに駆けて行く雪‥!盛り上がって参りました‥!
ただ前を見て走って行く雪の姿は、以前想いを自覚した亮さんのカットに重なりますね。
こんな風に走る日が、先輩にもやって来るのでしょうか‥。
心のままに‥。
次回は<隠れた思惑>です。
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