横山翔は、頭の奥で何かがブチッと切れる音を聞いた。
掲示板に横山の写真をアップし、彼を貶めようとしている黒幕が今目の前に居る彼女だと知ったからだ。
お前だったのか、と横山は震える声で言いながら、地面に突いた手を固く握った。
そして肩から下げていた鞄を、勢い良く彼女に向かって投げ付ける。
「クソがあっ!!俺を弄びやがって!!」
雪は小さな声を上げ、何歩か後退った。
横山は怒り狂い、鬼のような形相で雪の方に向かって来る。
「このクソ女がぁっ!!止めねぇなら殺してやるっ‥!」
雪は目を見開くと、咄嗟に自分のポケットに手を突っ込んだ。
レコーダーと共に準備してあったそれを掴む。
そして雪は、横山の顔目掛けてそれを噴きかけた。シューッと言う音と共に、横山の絶叫が辺りに響く。
「ぐああああああああっ!!」
横山は目を押さえながら、あまりの痛みに地面に転がった。
「うわあああ!目がっ‥目がぁっ‥!!」
叫び続ける横山の前で、雪はそれのあまりの威力に驚いていた。
こんな小さな防犯グッズが、今自分の身を救ってくれたのだ。
この催涙スプレーは、先日亮から貰った物だった。
自分が傍に居ない時でも彼女を守ってくれる物を、亮は彼女に託していたのだ‥。
雪は、とにかく逃げることにした。
地面に転がる横山から背を向けて、全速力で家へと駆け出す。
すると横山は目を庇いながらも起き上がり、怒り狂いながら彼女を追って駈け出した。
「おいっ!!待てやぁっ!!」
雪は必死になって走った。後方からは、「殺してやる!」と叫ぶ声が迫って来る。
店‥店が近い‥!すぐそこだ!
この路地を突っ切れば、雪の家の食堂はすぐそこだ。
もうすぐだ‥走れっ‥!
雪は歯を食い縛りながら、死に物狂いで走った。横山の怒声が、もうすぐそこまで迫って来ている。
「待てぇ!待ちやがれ!おいっ!」
はぁはぁと息を切らせながら、雪は何とか路地を走り切った。
すぐそこに、店の灯りが見える。
雪はもつれる足を必死に前に運びながら、店の方へと走った。
すると目に入って来たのは、店の前で一服している父の姿だった。
雪は叫んだ。出来得る限りの大声を上げて。
「お父さぁぁぁぁーーーーーんっ!!」
不意に聞こえた娘の声に、父は不審を感じて声のする方に視線を向けた。
するとそこには、男に追いかけられて全力疾走する、娘の姿がある。
それを目にした途端、父は驚愕の表情を浮かべた。思わず指に挟んでいた煙草を取り落とす。
そして父は追いかけてくる男に向かって走り、大きな声で叫んだ。
「何だコイツは?!おいお前っ!」
突然現れた中年に横山はヒッと息を飲むと、
「クソッ」と言い捨てながら踵を返した。
そのまま走り去る横山の背中に、雪の父は尚も大声で叫ぶ。
「おい!どこへ行く気だこの野郎‥!」
父は横山を追い掛けようと走りかけたが、腰を押さえて途中で立ち止まった。
「うっ‥なんだアイツは‥くそっ腰が‥。狂った奴め‥!」
父親は突然の出来事に、腰を痛めてしまったようだった。
「お父さん‥」と小さく呟く雪が、心配そうに父を見つめる‥。
食堂にて、先ほどの経緯を父と雪から聞いた母と蓮は青ざめた。母は心配そうに雪を気遣い、蓮はその出来事に憤る。
「なーんでそんなに変態が多いのかねぇこの世の中は!てか一人暮らしやめても変わってねーじゃんよ!
あぁ平穏な生活を送りたいっ!」
「警察に通報しようかしら?こんな‥。大事になるとこだったじゃない‥今日に限って亮君も居ないし‥」
心配する母に向かって雪は、「特に怪我をしたわけじゃないし、あの男は元々変な奴だから」
と言って、事を荒立てない方向へと話を持って行った。
父は腕組みをしながら席に座り、立腹している。
「女なんだから、夜道は気をつけないとダメだろう!大事になったらどうするんだ!」
堂々と娘に説教をする父だったが、そんな彼の方を指差して、母と蓮は彼をからかった。
「それでもお父さんってば久しぶりに血相変えて走って‥」
「うははは!父さんってば~!カッコイイねぇ!」
雪は二人につられて笑いそうになったが、父の方を見てそれも引っ込んだ。
不機嫌そうに頬を突く父から、気まずい顔で目を逸らす‥。
すると突然、食堂の入り口から人が入って来た。
「あらッ?」
「今日は早めの閉店~~?お腹すいてるんですけどぉ~!」
現れたのはこの店の常連でもある、河村静香だった。
その彼女の登場で、赤山家はなんとなく白けた空気に包まれる‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<窮地と逆上(4)>でした。
ようやく窮地と逆上シリーズも終わりです。雪と横山の攻防、激しかったですね‥!
亮さんがくれた催涙スプレーが無かったらどうなっていたことか‥。亮さんGJでした。
そしてそしてそして
今日9月10日は、柳楓の誕生日です~~
おめでとう柳!!大好きだー!!
次回<語らぬ彼>です。
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お前だったのか、と横山は震える声で言いながら、地面に突いた手を固く握った。
そして肩から下げていた鞄を、勢い良く彼女に向かって投げ付ける。
「クソがあっ!!俺を弄びやがって!!」
雪は小さな声を上げ、何歩か後退った。
横山は怒り狂い、鬼のような形相で雪の方に向かって来る。
「このクソ女がぁっ!!止めねぇなら殺してやるっ‥!」
雪は目を見開くと、咄嗟に自分のポケットに手を突っ込んだ。
レコーダーと共に準備してあったそれを掴む。
そして雪は、横山の顔目掛けてそれを噴きかけた。シューッと言う音と共に、横山の絶叫が辺りに響く。
「ぐああああああああっ!!」
横山は目を押さえながら、あまりの痛みに地面に転がった。
「うわあああ!目がっ‥目がぁっ‥!!」
叫び続ける横山の前で、雪はそれのあまりの威力に驚いていた。
こんな小さな防犯グッズが、今自分の身を救ってくれたのだ。
この催涙スプレーは、先日亮から貰った物だった。
自分が傍に居ない時でも彼女を守ってくれる物を、亮は彼女に託していたのだ‥。
雪は、とにかく逃げることにした。
地面に転がる横山から背を向けて、全速力で家へと駆け出す。
すると横山は目を庇いながらも起き上がり、怒り狂いながら彼女を追って駈け出した。
「おいっ!!待てやぁっ!!」
雪は必死になって走った。後方からは、「殺してやる!」と叫ぶ声が迫って来る。
店‥店が近い‥!すぐそこだ!
この路地を突っ切れば、雪の家の食堂はすぐそこだ。
もうすぐだ‥走れっ‥!
雪は歯を食い縛りながら、死に物狂いで走った。横山の怒声が、もうすぐそこまで迫って来ている。
「待てぇ!待ちやがれ!おいっ!」
はぁはぁと息を切らせながら、雪は何とか路地を走り切った。
すぐそこに、店の灯りが見える。
雪はもつれる足を必死に前に運びながら、店の方へと走った。
すると目に入って来たのは、店の前で一服している父の姿だった。
雪は叫んだ。出来得る限りの大声を上げて。
「お父さぁぁぁぁーーーーーんっ!!」
不意に聞こえた娘の声に、父は不審を感じて声のする方に視線を向けた。
するとそこには、男に追いかけられて全力疾走する、娘の姿がある。
それを目にした途端、父は驚愕の表情を浮かべた。思わず指に挟んでいた煙草を取り落とす。
そして父は追いかけてくる男に向かって走り、大きな声で叫んだ。
「何だコイツは?!おいお前っ!」
突然現れた中年に横山はヒッと息を飲むと、
「クソッ」と言い捨てながら踵を返した。
そのまま走り去る横山の背中に、雪の父は尚も大声で叫ぶ。
「おい!どこへ行く気だこの野郎‥!」
父は横山を追い掛けようと走りかけたが、腰を押さえて途中で立ち止まった。
「うっ‥なんだアイツは‥くそっ腰が‥。狂った奴め‥!」
父親は突然の出来事に、腰を痛めてしまったようだった。
「お父さん‥」と小さく呟く雪が、心配そうに父を見つめる‥。
食堂にて、先ほどの経緯を父と雪から聞いた母と蓮は青ざめた。母は心配そうに雪を気遣い、蓮はその出来事に憤る。
「なーんでそんなに変態が多いのかねぇこの世の中は!てか一人暮らしやめても変わってねーじゃんよ!
あぁ平穏な生活を送りたいっ!」
「警察に通報しようかしら?こんな‥。大事になるとこだったじゃない‥今日に限って亮君も居ないし‥」
心配する母に向かって雪は、「特に怪我をしたわけじゃないし、あの男は元々変な奴だから」
と言って、事を荒立てない方向へと話を持って行った。
父は腕組みをしながら席に座り、立腹している。
「女なんだから、夜道は気をつけないとダメだろう!大事になったらどうするんだ!」
堂々と娘に説教をする父だったが、そんな彼の方を指差して、母と蓮は彼をからかった。
「それでもお父さんってば久しぶりに血相変えて走って‥」
「うははは!父さんってば~!カッコイイねぇ!」
雪は二人につられて笑いそうになったが、父の方を見てそれも引っ込んだ。
不機嫌そうに頬を突く父から、気まずい顔で目を逸らす‥。
すると突然、食堂の入り口から人が入って来た。
「あらッ?」
「今日は早めの閉店~~?お腹すいてるんですけどぉ~!」
現れたのはこの店の常連でもある、河村静香だった。
その彼女の登場で、赤山家はなんとなく白けた空気に包まれる‥。
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<窮地と逆上(4)>でした。
ようやく窮地と逆上シリーズも終わりです。雪と横山の攻防、激しかったですね‥!
亮さんがくれた催涙スプレーが無かったらどうなっていたことか‥。亮さんGJでした。
そしてそしてそして
今日9月10日は、柳楓の誕生日です~~
おめでとう柳!!大好きだー!!
次回<語らぬ彼>です。
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