Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

甘い記憶

2014-04-28 01:00:00 | 雪3年3部(太一への陰謀~甘い記憶)


家に帰ってから、雪は何度も先ほどのことを思い出した。

彼が口にした言葉の意味とその感触を思い出す度、恥ずかしさで顔が燃えるようだ。

「きゃあああ!うわああ!どうしよどうしよどうしよ!」



彼に貰ったキャンディーボックスには、無数のアメが入っていた。

雪はそれらをベッドに広げ、枕を抱えて足をバタバタさせる。

「うう‥」



胸の中がこそばゆい。それはキャンディーのように甘く、全身を痺れさせる。

彼が先ほど口にした言葉が、雪の脳裏で優しく響いた。

忘れてないよ



強張っていた心が、解れていくような気持ちだった。

彼が雪の手を包み込むように握ったのは、”悪意”の意味じゃない。



昔雪を心配して、その肩を掴んで顔を覗き込んで来た先輩。

何があったのと、自分からは本心を語れない雪の本音を、引き出してくれた先輩。



肩に掛かる重みを感じて、高い空を見上げた秋の夜。初めてのキスの後。

自分に凭れ掛かって眠りに落ちる、無防備な彼の姿。



それは”好意”に他ならない。

同じ仕草でも中に潜むその感情は、両極を向いている。

 


雪の脳裏に、振り返って微笑む彼の姿が浮かんだ。

「笑顔でいてね」



そう笑顔で口にする彼に、初めて温かさを感じた初夏。

あの時、彼に抱いていたイメージが変わったのだ。

それまで”悪意”しか感じなかった彼に、”好意”という一筋の光が差すように‥。





そして雪はゆっくりと眠りに落ちて行った。

ベッドに散らばったキャンディー達が、雪を甘い記憶の海へと誘う標となる。



甘く胸をくすぐる記憶が、ぼんやりと雪の脳裏を掠めていく。

それは川のように記憶の末端から流れ出し、やがて大海へと続いていく。


オレがぶっ飛ばしてやんよ!



いつだって自分を守ってくれる、河村亮の姿が浮かんだ。

身を犠牲にして殴られたあの姿、不意に見せる温かなその眼差し‥。



粗野でがさつに見える彼の根っこは意外なほど温かで、そして真っ直ぐだ。

ねじれていた雪の家族でさえ、和やかな雰囲気に変えてしまう。



甘い記憶は嬉しかった記憶とも繋がり、続けて父親に頭を撫でられた場面が浮かんだ。

お小遣いだよ、と父から貰ったその気持ち。嬉しくてこそばゆい、あの気持ち。




雪の頭の中に、沢山の人の顔が次々に浮かび始める。


お調子者だが憎めない弟、蓮。

姉ちゃん姉ちゃんと、小さい頃からいつも自分を頼って後をついてきた蓮。




苦しい時、いつも影から手を差し伸べてくれた恵。

本当の妹のように自分を慕ってくれた。何の打算もなく、沢山沢山助けてくれた。




笑いながら手招きする、聡美と太一の姿も浮かんで来た。

大切な二人の親友。いつだって雪の味方になってくれた。




遠く離れていても、心はいつも雪の傍に居る気がする。親友の萌菜。

時折電話で励まされる。心の支柱になってくれる。彼女が笑うと、雪は安心出来た‥。




甘く嬉しい場面の数々が、大好きな人達の幾つもの顔が、ぼんやりと浮かんでは消えた。

そして滾々と流れる記憶の川は、最後に幼い頃のそれを運び出す。


蓮にバレないように、こっそり食べなさい



幼い雪が手にしていたのは、祖母から貰った一本のキャンディーだった。

それは口に含む度に、舌を痺れさせるほどに甘かったのを覚えている。

まったく‥お前はお姉ちゃんなのにまだ子供みたいだねぇ。

また何でこんなに髪がゴワゴワなのかね?母親は気にならなんだか‥じっとしてなさいな




そう言って髪を直してくれる祖母が、雪は大好きだった。

小言を言われることもあったけれど、世界で一番大好きだった‥。





いつの間にか、雪は完全に眠っていた。

平穏な寝息を立てる雪の周りには、無数のキャンディーが散らばっている。



スヤスヤと、子供のように眠る雪の寝顔がそこにあった。

甘く優しい記憶の数々が、彼女に楽しい夢を見せているのかもしれなかった。



知らない内に貰っていた、みんなからの愛情。

キャンディーボックスいっぱいの、甘く優しい記憶達‥。


雪はそのまま朝まで眠った。

瞼の裏に、幸せな夢を映しながら。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<甘い記憶>でした。

枕に顔を埋めながら、「オットケオットケ」言う雪ちゃんが可愛かったです^^

(オットケ=どうしよう の意味です)

キャンディーが良いモチーフになっている回でしたね。

しかし何本あんねん‥。これを食べきるのは時間がかかりそう‥


次回は<防御壁>です。


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騒がせるもの

2014-04-27 01:00:00 | 雪3年3部(太一への陰謀~甘い記憶)
「‥‥‥‥」



アメを一つ、という雪のリクエストに、淳はキャンディーボックスを一つ買って来た。

歩く度にゴロゴロと音がする。一体どれだけのアメがこの中に入っているのだろう‥。

「ところで‥亮はピアノ弾いてるの?」



ビタミンウォーターを飲みながら淳は、ふと亮について雪に聞いてみた。

しかし未だボンヤリの雪は「よく分かんない‥」と口にするだけだ。

あ‥叔父さんにピアノ捨てないでって言わなきゃだった‥。

そしたら河村氏はベートーベンも弾けてジャジャジャジャーン‥




雪の思考回路の本筋はストップしたまま、何となくボンヤリとピアノについて考え始めていた。

しかしハッと我に返ると、白目のまま彼の方を振り向いた。

‥って違うし!まさか本当に覚えてないの?!全部忘れたの?!



雪の胸中はざわめいていた。いっそ胸ぐらを掴んで詰め寄りたいくらいである。

てかこの状況で聞きたいことってそれだけなの?!私に対しては?!

私がどう思ったかとか!どう感じたかとか!昨日のこと思い出そうともしないっての?!

さっきの電話で全部オシマイってか?!




雪は両手をワナワナさせながら、平然と隣を歩く淳をもどかしく思っていた。

雪にとっては大事件だった昨日の出来事を、彼は全て忘れてしまったとでも言うのだろうか?

たまらず彼を見上げて、雪は声を掛ける。

「あのっ‥!ちょっと気になることが‥」



しかし雪の視線は、無意識に彼の唇へと吸い寄せられていた。

ゆっくりと振り向く彼の、その形の良い唇に。

「ん?何?」



この唇が、昨夜自分のそれに三度も触れたのだ。

雪はその時の感触を思い出し、恥ずかしさに打ち震えた。

き‥きゃあああ! 「どうしたの?寒い?」



震える彼女を見て淳は、雪が寒がっているのだと思った。

「ぼちぼち寒い季節になってきたから‥」



そう言って上着を脱ぎ掛ける彼を見て、雪は「大丈夫です」と言って首を横に振る。

しかし淳は「俺は寒いけど」と言ってニコッと笑った。雪を自分の方へ引き寄せる。

「行こっか」



なるほど二人寄り添えば温かい。

そのままニコニコと微笑む淳に、雪は少し恥ずかしく複雑だ。



淳は雪の背中に回した手を、そのまま深く回し肩を組むようにして彼女に密着した。

「それで気になってることって?」



淳の方からもう一度話を促され、雪は少し躊躇ったが口にすることにした。

「き‥昨日すごく酔ってたみたいだけど‥家にはちゃんと‥」



少し遠回しだが、雪は昨夜の出来事に触れた。

すると淳は背中に回した手を彼女の腕まで伸ばすと、幾分強く彼女に触れる。

「うん。無事帰れたよ」



その手の力を感じた雪は、ビクッと自身の身体が強張るのを感じた。

淳の手は更に深く雪の背中に回され、ゆっくりと彼女の腕を這うように動いて行く。

「遅刻もせずに済んだし、仕事も上手くいったよ」



グッと強く握り締めた雪の手に、淳の手はゆっくりと到達した。

大きな手が、雪のそれを撫でるように触り始める。



雪は背中を冷や汗が伝うのを感じたが、冷静を装って相槌を打った。

「図書館のバイトはどう?」

「お、お小遣い稼ぎ程度で‥」



しかし交わされる何気ない会話さえ、身体の強張りは心にさえ及びぎこちなくなった。

今や雪の手は、完全に淳のそれに飲み込まれてしまっている。



彼への不信が、更にその強張りを助長した。

なぜキスをしたことをおくびにも出さないのだろう。なぜ何事も無かったかのような振る舞いを?

昨夜受けたあの行為は、全て幻だったとでも?



身の強張りは、いつしか怖気となって雪を飲み込んでいた。ゾクゾクと背筋が凍るように寒い。

雪は彼の腕の中に居ながら、一人縮こまってその寒気に耐えていた。

伝わってくる体温でさえ、氷に変えてしまうような不信感と共に‥。



「運転‥気をつけて下さいね‥」



二人は少し離れた店の駐車場まで来ると、別れの挨拶を交わした。

「雪ちゃんを見送ってから出るよ」「え?いえ‥私が‥」



雪はそれ以上言葉を紡げず黙りこくった。彼の目を見ることが出来ない。

身体の方の強張りは取れたものの、心の方には未だしこりが残っていた。



淳の目には、そんな彼女がどう映ったのだろう。彼はニコニコと微笑みながら雪に近づく。

雪はそんな彼には気づかずに、目を瞑ったまま自己の考えを辿っていた。

本当に覚えてないのか‥知らないフリをしてるのか‥。

明らかに全く記憶が無いような潰れ方じゃなかった‥。




そして雪は自分の結論を出した。目を閉じ、ウンウンと納得するように一人頷く。

そうだ。そういうことにしよう。きっと先輩は私が恥ずかしがると思って‥



そこまで考えた時だった。

突如顔が上げられて、再びあの感触が蘇ったのは。

「!」



雪は目を見開いたまま、暫く何が起こったか理解出来ないでいた。

時間はスローモーションのように、二人の周りだけゆっくりと流れ行く。



じきにゆっくりと唇を離した淳は、穏やかな表情で雪のことを見つめていた。

背中越しにボンヤリと光るネオンが、彼の端正な顔を微かに照らしている。



彼女の顔に沿えられた彼の左手が、その柔らかな感触をなぞっていく。

雪は目の前の彼を見つめたまま、何も考えられずに目を見開いていた。



そして淳の手が彼女の顔から離された途端、雪はふと我に返った。あんぐりと口を開け、硬直してしまっている。

そして未だ事態を把握出来ていない雪に向かって、淳は笑顔でこう告げた。

「忘れてないよ」



雪が返事をするより先に、淳は続けて別れの挨拶を口にする。

「おやすみ」



目尻の下がった、見慣れた彼のその笑顔。

結局雪は一言も言葉を紡げぬまま、キャンディーボックスを抱えて彼の車が去るのを見送った。



排気ガスで煙るその場に取り残された雪。

そして彼女は自分の胸の中に、今まで感じたことのない何かを感じた。



胸に手を置いてみると、何かが微かにその中を騒がせている。

こそばゆく切ない感情が、今雪の胸の中に芽生えているのだ‥。




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<騒がせるもの>でした。

先輩‥やってくれますね!この慣れた感!手慣れた感じ!

雪ちゃんの顔と大好きな髪に触れられて感無亮‥感無量だと思います。


それでも抱きしめるとゾワゾワされちゃう先輩‥^^;自業自得といったらそれまでですが、少し気の毒‥



次回は<甘い記憶>です。

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抜け出した二人

2014-04-26 01:00:00 | 雪3年3部(太一への陰謀~甘い記憶)
「も、もう行きましょ!」



雪はわざとらしいほど大仰にそう言うと、先輩の背を押して店の外へと歩を進める。

「先輩送ってくるから!」



そんな二人を見て、雪の母親はもう行くのかと残念がった。

お茶でも、と勧める母に対して、蓮は「この店にお茶なんてあったっけ?」と笑い、父は無口に彼らを見送る。

「それではまた。失礼致します」



淳は最後まで丁寧に頭を下げ、そして二人は店を出て行った。

笑顔で手を振る雪母と蓮、そしてムッツリと黙り込んだ雪父。早く行きましょうと急かす雪の声が外で聞こえる。



そして入り口の扉が閉まったのと同時に、蓮が大きな声で息を吐き笑った。

「いや~マジか~!淳さんって思ってたよりスペック高し?!姉ちゃんの意外な才能が!」

「‥まさか結婚するんじゃないだろうな?」

「それは知んないけどさぁ、もしそうなったらマジ玉の輿じゃん!」



「‥住む世界が違うだろ」

そんな現実問題を口にする旦那に、雪母は溜息を吐いて言った。もし超大企業の子息と結婚なんてことになったら、

私達にとっては万々歳で文句を言う立場も理由もないわ、と。

「えぇ~?父さん反対なのぉ?それじゃあ亮さんは?!仲良さげだけど‥クク」



そう口にする蓮に、両親の鉄槌が下される。

「何言ってんだ!」「バカ言わないの!」



息の合った赤山夫婦アタックは見事蓮の頭にキマリ、蓮は思わず涙目だ。

不平を鳴らす蓮に両親は、嫌ならアメリカに帰れと冷たい返事‥。







「?」



後にした店から微かに騒ぎ声が聞こえ、雪は不思議そうに何度か振り返りつつ、彼と肩を並べて歩いた。

先輩の方に向き直り、気になっていたことを尋ねる。

「お父さんの質問‥困っちゃいましたよね?」



彼の家についての、父親の直球な質問に雪は内心申し訳なく思っていた。しかし淳は首を横に振る。

「大丈夫だよ。完全に秘密にしてるわけじゃないから」



そんな彼の言葉に、「それなら良かったけど‥」と雪は口にして彼の隣を歩いた。

淳が彼女の歩幅に合わせ、少しゆっくりと歩を進める。



涼しい風が頬をかすめる、秋の夜道。

淳は雪に向かって口を開く。

「そういえば、雪ちゃん大学でもバイトだっただろう。それに家でも仕事して、大変だなぁ」



昼間電話で話をした時、彼女は図書館でのアルバイト中だった。

清水香織のことで頭を悩ませ、無くなったライオンの人形を未だ気にしていた‥。



淳は今日が記念すべきインターンの初日であり、もう夜も遅かったが、どうしても彼女が気がかりだった。

だからこんな時間に関わらず、店へと車を走らせたのだ‥。




一方雪は彼を見上げて、改めてその容姿を見つめていた。

髪を短く切りスーツを着た彼は、今までの先輩とはまた一味違って見えた。

なんかかっこいいかも‥



と思ってみた雪だが、彼の真価はそこではないことに思い至り、その考えはそこで終わりにした。

雪が本当に嬉しかったのは‥

これからあんまり会えなくなると思ったのに、こうして来てくれて‥。家も遠いのに‥



姿形の優れた点よりも、雪には彼のそんな気遣いが嬉しかった。今日一日しんどかった分、尚更だ。

雪は言葉には出さなかったが、自然と彼に近寄って笑った。そんな彼女を見て、淳も微笑む。

「あはは」「えへへ」



暫し和やかに笑い合う二人であったが、不意に雪の脳裏にとあることが思い浮かんだ。

身体がカッと熱くなり、思わず唇を手で押さえる。

!ぁああああああああ!!



蘇る記憶が、モヤモヤと脳裏に浮かんで雪は赤面した。

そうだ、先輩と顔を合わせるのは、昨夜のアレ以来なのだ‥。



改めてその事実を思い出してみると、隣で何でも無いように笑う彼が、不可思議に見えてきた。

てか‥!何でこの人こんなに緊張感が無いの?!

も、もしや酔って記憶が無いとか?!‥だって私達‥昨日‥!




ゴクッと生唾を飲み込んで、雪は昨日の出来事を心の中で言葉にしようとした。

キッ‥キッ、キッ、キッ‥!



しかし心臓がバクバクして、心の中でさえその言葉を口にすることが出来ない。

そしてそんな矢先、彼と雪の身体が密着した。



まだ薄着の初秋の季節。

触れた腕の温もりが、微かに伝わってくる。



雪は彼への強烈な意識を持つあまり、ヒッと息を飲んで身を強張らせた。

そして見るからにドギマギしている彼女に、淳が気づいて視線を寄越す。

「どうしたの?」



彼の後ろで光る街灯や店の明かりが、その瞳に映って透けるようだった。

短くなった前髪のお陰で、深く蒼がかったような彼の瞳がはっきり見える。



ドクン、と雪の心臓が一つ跳ねた。

まるでスローモーションのように、彼が自分に近付いて来る。

「雪ちゃん」



視線はいつの間にか、彼の唇へと注がれていた。

雪の脳裏に浮かぶ、昨夜のあの光景。



ドクン、ドクン、と鼓動は更に早くなっていく。

雪は彼の唇から目が離せなかった。

「は‥はい?」



昨夜自分の唇に触れたその感触が、蘇ってくるような気がした。

雪は無意識に身を固くして、高鳴る鼓動に耐えるように両手を握り締める。



ちょっと、と淳が雪に声を掛けた。

身長の高い彼が背を屈め、雪の顔近くに自分の顔を近づける‥。



「飲み物でも買って行かない?仕事疲れたでしょ?」



しかし淳は後ろにあるコンビニを指差すと、平然とそう提案した。

雪は思わずポカーンである。

「あ、ハイ」 「行こ行こ」



そう言って淳はコンビニに入ろうとするが、雪は魂が抜けたような顔でその場に固まっていた。

「何飲む?あったかいのがいい?」「いえ‥私はアメか何か‥」



深い思考はストップしたまま、雪はぼんやりとアメのリクエストをした。

やはり淳は平然と、ニッコリ笑ってそれに了承する。

「はーい」



そして彼はコンビニに入って行った。

雪はあのポカン顔のまま、暫し彼の帰りを待ったのだった‥。


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<抜け出した二人>でした。

ここの雪のお母さんの台詞↓ 直訳すると‥。

「ったくこのダンナは何言ってんだか!結婚するなら光化門の真ん中で平伏しなきゃ!」



と言ってました。

光化門、こちらですね。



*CitTさんより教えて頂きました。

この人目の多い場所で平伏(韓国式の心からの感謝を表す振る舞い)するくらい、淳との結婚は我々にとってありがたいこと、

という意味だそうです。CitTさんコマウォヨ~~!


しかし結婚を言及する父‥まだ付き合って二ヶ月なんですが‥^^;気が早いよ!

そして何気に亮をすすめる蓮君。亮盛り上げ隊の皆様の祭り囃子が聞こえてくるようですw


次回は<騒がせるもの>です。

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既視感の尻尾

2014-04-25 01:00:00 | 雪3年3部(太一への陰謀~甘い記憶)
先ほどまでの和やかな雰囲気から一変、店内は妙な緊張感で張り詰めていた。

雪の父親は淳を向かいの席に座らせ、あたかも面接官のように彼に質問する。

「‥それで‥君は雪の大学の先輩だって?」



雪の父は固い表情で彼の向かいに座っていた。まるで圧迫面接のようである。

しかしそんな雪の父を前にしても、淳は怯むこと無く安定の受け答えを見せる。

「はい。四年ですが、今はインターンに通っております」



尚も圧迫面接は続く。得も言われぬプレッシャーオーラが、父の背後から立ち込めるようだ。

「それじゃあ就活生なんだね?」 「はい」

「しかしこの時間にここまで来て‥どこに住んでいるんだ?」 「家は◯◯区にあります」



雪の父は遅い時間に約束も無しに現れた点をチクチクと突いたが、淳は平然と笑顔を浮かべていた。

そんな二人の様子を見て、蓮はクスクス笑い、雪の母は夫の態度に閉口、雪は顔中冷や汗垂れ流しだ。

「この時間に家族が皆揃っていることを知った上で、ここに来たのか?」

「はい。お店にいらっしゃることは存じ上げておりました」



堂々とした受け答えに、完璧とも言える笑顔。

雪の父親は、改めて彼のことを眺めてみた。



器量良し、敬語と振る舞い良し、加えて一流大学生だ。およそ欠点が見当たらない。

そして雪の父は、その身なりがとても良いことに気がついた。



どう見ても彼が着ているスーツは、高級ブランドで仕立てたものに見えた。袖口から覗く時計も高級そうだ。

加えて先ほどの会話を思い出し、雪の父は少し踏み込んだ質問をする。

「ところで家が◯◯区だって‥?ほぉ‥。

高級住宅街じゃないか。ご両親は経済的余裕がおありのようだね」




父のその言葉を聞いて、雪はギクッとし二人の間に入る。

「お、お父さんてば何聞いてんの~!先輩が緊張するじゃない!」



しかし父はまるで動じず、「ご両親が何をされてるか聞くくらい良いじゃないか」と雪に言い返した。

淳もまた平然と、「会社運営をしています」と何でも無いことのように答える。

「何の会社だ?」続けてそう質問する父に、淳は再び平然と自分の家が運営する企業名を答えた。

「Z企業です」



その瞬間、雪の父の時間が止まった。他三人の時間もだ。

白目を剥く母、まだ把握出来ない蓮、笑顔が固まる雪、そして目を見開く父‥。



誰もが耳にしたことのある超大企業。両親がそこを運営しているということがどういうことか、聞くだけ野暮である。

赤山家はそのまま暫く固まって、淳はそんな四人をニコニコと眺めていたのだった‥。





「あ~!ちっくしょう!」



一方河村亮は、未だ苛立ちを抑えきれずその場にうずくまっていた。

グルグルと色々なことを考える中で、浮かんで来たのは先ほど雪が口にした言葉だった。

それで‥その子が何で私の真似をしたかを考えてみると‥



続いて浮かんで来たのは、雪とは全く関係のない場所の記憶だった。

長い廊下を全速力で駆けて行く映像。足がもつれそうになりながら、必死に先を目指したあの記憶。



吹き出す汗もそのままに、亮はゼェゼェと息を切らしそこに到着した。

身体は熱いはずなのに、背中の方からゾクゾクと寒気がした。



そしてそこで目にしたのは、それまで見たことのない幼馴染みの姿だった。

人目のある場所だというのに彼は項垂れ、その場で沈黙していた。



そしてその時目にしたあの眼差しを、亮は生涯忘れることは出来ないだろう。

あの形容しがたい恐ろしさを秘めた、あの瞳‥。長年一緒に居て、初めて目にしたあの怒り‥。



暗く烈しい炎のような目つきに射竦められ、亮は言葉に詰まった。

「い、いや‥オレはただ‥どうして‥」



そこで記憶は切れた。

そして再び、先ほど雪の口にした言葉が鼓膜の奥から聞こえてくる。

理由は分からないけど、私のことがうらやましくて、それで真似し出して‥



その言葉が記憶の海から掬い出したのは、自分をじっと見つめるあの視線だった。

心に引っかかっていた既視感の尻尾が、沈んでいた暗い過去をズルズルと引き摺り出す。

 

でも完全に同じになるなんて有り得なくて‥だから結局焦り出して‥



あの手の人間は、一見地味な見かけをしている。しかし一度火がつくと、狂ったように燃える恐ろしい性質を持つ。

亮はあの時感じた痛みと絶望が、再びフラッシュバックするような感覚に襲われた。

心の中で警鐘が鳴っている。雪は今危険な状態にある‥。



そして昼間目にした、姉の暴行が脳裏に浮かんだ。

好き勝手暴れながら、静香は笑っていた。そのサングラスの奥でどんな目をしているか、亮には分かる気がした。

その指全部へし折ってやるから



高校の時亮に向かってキレた静香は、彼を殴った後馬乗りになってそう言った。

あの時至近距離で見つめられた、狂ったようなあの目つき‥。



あの狂気がいつか雪に向けられるかもしれないと、亮は今リアルに想像出来てしまっていた。

飛び散る血痕のイメージが、雪の横顔を赤く染め変える‥。








ハッ、と亮はそこでようやく正気に返った。

自身の左手を、改めて眺めてみる。



思うように力の入らない左手。へし折られたこの指‥。雪にもこんな災難が降りかかるとでも言うのか?

亮の脳裏に、気安く接する雪の姿が思い浮かぶ‥。



亮はバッと顔を上げ、遠くに灯る店の明かりに視線を送った。

そこには赤山家の四人と、一際背の高いアイツのシルエットが見える。



そのスペックと明晰さで、いつもアイツはあの位置だ。

本心は霧の中であっても、常に人の輪の中心に君臨する。



見慣れたその疎ましい背中を、亮は改めて眺めてまた苛立った。

自分の彼女への忠告だというのに耳も貸さなかった、その無情さに腹が立つ‥。



ちくしょう、と言い捨てて、亮はその辺に転がったゴミを蹴飛ばした。

苛立ちはおさまることなく亮を支配する。



胸騒ぎと危険を察知するシグナルが鳴っているのに、どうにも出来ない現実に亮は苛立っていた。

俯く彼を半月は照らし、秋の夜風はひんやりと亮の頬を撫でていく‥。



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<既視感の尻尾>でした。

先輩のスーツ、高いんでしょうね‥。さすが仮にも社長だった雪父、スーツを見てその経済的余裕の尻尾を掴みました。

そして尻尾といえば、雪が香織のことを話した言葉から、亮の過去へと続いていく構成を「既視感の尻尾」と名づけてみました。

<単純と複雑>の記事にも「既視感の尻尾」という言葉を使ってみてます。また見てみて下さいね^^


次回は<抜け出した二人>です。

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伝わらない訴え

2014-04-24 01:00:00 | 雪3年3部(太一への陰謀~甘い記憶)


ネオンの光がぼんやりと映る秋の夜空のその先に、半月が浮かんでいた。

しかし彼らは空など見上げることもなく駆け足で外に出ると、店の裏にて立ち止まった。

「何だ、突然」



淳はそう言って掴まれていた腕を振り払った。亮はその場でハァハァと息を切らす。

「おいっ!」



そしていきなり顔を上げたかと思うと、大音量で声を上げた。思わず淳はビクッとなる。

「マジでヤベーんだよ!テメーの女がヤベーことになるかもしんねーんだ!」



亮はキョロキョロと辺りを見回しながら、静香に見られてはしないだろうかと警戒した。

しかしそうとは知らない淳は、呑気なものである。

「何の話だ?」



そんな淳の様子に亮は焦れ、もどかしそうに身振り手振りで忠告を続けた。

「お前が静香を追い出したからこの街に引っ越してきたんじゃねーか!

アイツ、お前に女居ること知ってたぞ?!」




「それで?」と淳は両手をスーツのポケットに突っ込んだまま、続きを促した。

冷静な淳の態度に、亮は少し気持ちを落ち着けて言葉を続ける。

「お前がここを行き来するのをアイツが見でもすりゃ‥マ、マジで危険だ!」



最悪のシナリオを想定し、一人頭を抱える亮。しかし淳はそんな亮につられず、やはり冷静だ。

「一体何が?」



亮の言う”危険”が何に対するものなのか図りかね、淳は段々と顔を顰めていく。

伝わらない訴えに焦れた亮は、ついに大声で彼女のアダ名を叫んだ。

「ダメージヘアーのことだってばよ!」



亮は必死になって、その危険性を訴えた。昼間見た静香の暴力性を、あの常軌を逸した視線を思い出して。

「アイツがダメージをこのまま黙って見てると思うか?!分かんねーのかよ!

つかオレの言うことは聞けねーってのか?!」




しかし亮がいくら言っても、淳は顔色一つ変えない。

「静香がまともな精神状態ならば、そんなことあるわけがない」と平然としている。亮は焦れ、言い返した。

「だからアイツはまともじゃねーんだって!!お前が高校の時だって、

お前の彼女のことアイツが黙って見てたか?!それとなく嫌がらせしてたじゃねーかよ!」




亮の怒号がしんとした路地裏に響く。しかし淳は、尚も冷静且つ平然と返すだけだ。

「さぁな。けどそこまではしないだろ」



亮は、自分の忠告をまるで聞き入れない淳に対して苛立った。

「このヤロ‥人が良かれと思って忠告してやってんのに‥!」



しかし淳は、その亮の物言いが気に障った。痛む頭を抱えるような仕草で、苛立ちを露わにする。

「それじゃお前がここから離れろよ。お前がこの近所に住んでることが問題なんだろ?

お前の元に静香が来たんだから。そんなことまで俺のせいにしないでくれ」




そう言ったきり、淳は亮と目も合わせようとしなかった。

そして亮はそんな淳を前にしてどこかピントのズレを感じ、言葉を紡げない‥。



するとそんな二人の元に、ひょっこりと雪が現れた。

「まーたケンカ?!」



後ろから急に彼女の声を聞いた亮は驚いた後、むっつりと黙り込んだ。

淳がニッコリと微笑んで彼女の名を呼ぶ。

「雪ちゃん」



二人の醸し出すただならぬ雰囲気を感じて、雪はジッと二人を睨み見つめつづけた。

”ケンカカッコワルイ”、無言のプレッシャーである。



そして二人は”ケンカシテナイヨ”のメッセージをそれぞれジェスチャーで送った。

ホールドアップしておちゃらける亮と、目をクリクリさせて首を横に振る淳‥。



そのコミカルな動きに、雪からのプレッシャーも少し削がれた。

そして若干気まずそうな様子で、ここに来た理由を淳に向かって口にする。

「‥あの、家族に紹介しますので‥ちょっと‥」



そう言って雪は店の方を指差した。

「分かった、行こう」と言って、淳は亮に背を向ける。



そしてそのまま二人は肩を並べて、店の方へと歩いて行った。



親しげに会話する二人の後ろ姿を見ながら、亮は怒りが込み上げてくるのを感じる。

は?!んだよアレ!全部オレのせいにしやがって、

ダメージが無事かどうかなんて気にも留めねぇってのか?!




焼けるような視線の先には、あの疎ましい後ろ姿。

無慈悲な振る舞いをしておきながら平然と彼女の隣を歩く、あの厚かましい男。

呆れた奴だぜ‥!自分の彼女が危ないって聞いても驚きもしねーのかよ‥!



自分の忠告を聞き入れない淳の態度にも苛立った亮だが、何よりも憤りを感じたのは、

淳が彼女に迫る危険を無視したという、その事実だった。

ダメージのこと、一体何だと思ってんだ‥!



亮の心の中で、怒りの炎がメラメラと燃えていた。

伝わらなかった彼の訴えは燻り続け、心の中が熱い灰で覆われていくようだ。

そしてその中心には彼女が居た。真面目で誠実で、でもどこか放っておけない存在の、赤山雪がー‥。




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<伝わらない訴え>でした。

この回で一番好きなコマ↓笑



かわいい二人‥^^


そして内容についてですが、今回も淳の子供っぽい一面が出ちゃいましたねぇ。

あの先輩の態度は、亮から雪の話が出たことや、忠告されたことに拗ねちゃった、という印象です。

最終的には「あっち行って」とつっぱねる子供のようでしたね。でもこれが彼の本性なのでしょう‥。


亮も静香が大学まで行った事実を話せばよかったですが、抽象的な話だった分その危険性が伝わりませんでした。

うーん‥もどかしいですね。


次回は<既視感の尻尾>です。

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