Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

制裁(4)

2017-01-21 01:00:00 | 雪3年4部(狂った計算式〜制裁)
「これ、レプリカですから」



「は‥?どういう‥ことだ?」



淳の口から突如聞かされた真実。

目を丸くする健太と淳との間に、数ヶ月前の記憶が蘇った。

「いや〜かっこいいね。どこのやつ?高いやつなんだろ?な?」



淳が付けて来た新しい時計を見て、皆の前で大声でそう問う健太。

あの時淳はこう答えた。

「これ良いでしょう?雪と露店を見て回ってたんですが、

彼女がサプライズプレゼントでくれたんです」




それはすっかり高級ブランドのイメージが定着していた彼のイメージを覆す、わりと衝撃的な出来事だった。

彼女からの時計を嬉しそうに身に着ける淳を見て周りはざわつき、柳でさえ不思議そうな顔をしていたあの時。

「露店のってことは、高いヤツじゃねーってことだよな?」

「値段とか重要じゃないから」「お前ってマジ時計好きな〜」



それが、柳を決心させた。

「これ」



「母さんが倒れた時もそうだし、色々世話になったからこれは俺から」



前々から柳は、常々淳に”礼がしたい”と言っていた。

そしてあの時雪からのプレゼントの時計を付ける淳を見て、それをあげることを思いついたのだろう。

「お前が好きなデザインと似たやつだから!

まぁ本物じゃねーけど‥これが今俺に出来る最大限の礼だよ!」




それが、淳と柳の間にあるカラクリだった。

明かされたその真実に、健太は驚きを隠せず固まっている。

「‥レプリカ?」






次第に、膝に置いた手に力がこもり始めた。

怒りは沸々と湧き上がり、それは健太の身体を細かく震わせる。



「てことは‥」

「はい。これで十分です。本物だと思ってたんですか?」



「よく時計を見てるのでお詳しいのかと思ってましたが、

本物と偽物の区別も出来てなかったんですね」




まるで高い所から見下ろすかのように、淳は淡々とそう言ってのけた。

それが健太に火をつける。



「このクソ野郎!今なんつったこらぁ!!」



「お前わざと言わなかったな?!

俺がずっと時計代負けてくれって言ってた時も黙ってただろーが!数十万になるって脅してよぉ!!」




「そのために俺は今まで‥!」



淳の胸ぐらを掴みながら、健太はその怒りの矛先を真っ直ぐに淳に向けた。

しかし淳は全くの想定内だと言わんばかりに、微塵も取り乱さずに切り返す。

「どうして怒るんです?」



「いつもボンボンだ何だと言って、

俺が高い物ばかり身に付けると穿った見方をして来たのは健太先輩じゃないですか」




「値段とは関係なしに、

プレゼントに頂いた大切な時計だと言ったはずです」




言い終わると、淳は掴まれたその手を強い力で引き離した。

バッ!



「先輩」



身なりを整えながら、淳は冷淡なトーンで話を続ける。

「先輩だからと印籠翳して威張る前に、

雪を始めとする後輩達があなたのその浅はかな行動のせいで今までどれだけ被害を被って来たのか、

今一度考えてみてはいかがですか」




「ではこれで失礼します。仕事抜けて来てるので」



そう言って淳が背を向けようとした時だった。

俯いていた健太が、グッと拳を握ったのは。



「このガキッ‥!」



「柳瀬」



迫り来る健太に向かって、淳は低い声で呼び掛けた。

半身を残したままのその佇まいに備わった威圧感が、健太の足を止める。



「ここで一線を越えれば、治療費どころじゃ済まないぞ。お前が望む一握の恩情すら無くなる」



「よく考えろ」







淳はそう言い捨て、背を向けた。



振り上げた拳は行き場を失い、健太はただその場で項垂れる。



地面には、突き返された封筒が落ちていた。

あれだけ必死に稼いだ金が、嘲笑うかのように健太を見ている。







まるで稲妻のように、怒りは光速で健太の身体を駆け抜けた。



「この狐野郎‥っ!テメーみたいな野郎が一番嫌いだっ‥!!」



音速のように、感情は遅れて言葉になる。

しかしその言葉とて、到底淳には届かない。


「何を今更」



淳はそう言ってゆるりと口角を上げた。

そんなこと、とっくの昔から知っていた、と。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<制裁(4)>でした。

最後の「今更」!!



31話で柳から「お前健太先輩に何かした?お前のことあんなに可愛がってたのに」と言われた後、

淳が同じことを言ってました。

「何を今更」



伏線ーー!!!なんとこんな昔の伏線をここで回収するなんて‥。スンキさん、恐ろしい子!!(白目)

淳の時計を何かと見ていた健太の描写も、

 

この仕返しの伏線だったなんて‥。

このシーンなんて16話ですよ。六年越しの伏線回収に白目が止まりません‥。


いやしかし、黒淳完全復活の回でしたね。

スッキリはしますが、先輩いつか刺されるんじゃないかとヒヤヒヤです‥。

健太は自らの落ち度によっての自爆‥。これで雪ちゃんを疲弊させる人全てが駆逐されましたよ‥。ひぃぃぃ

皆さんさようなら‥

 

次回は<本意と不本意>です。


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制裁(3)

2017-01-19 01:00:00 | 雪3年4部(狂った計算式〜制裁)


真昼のオフィス街。

都内有数の大企業、Z企業ビル横の脇道に、この人の姿があった。



忙しいインターン生の彼を呼びつけた健太は、

恨めしそうな視線でじっとりと彼を睨みつける。

「来やがったか」







その手には封筒が握られていた。

健太の元に歩み寄りながら、青田淳の視線はその封筒に注がれる。

「どうも」



二人は適度な距離を取りながら話を始めた。

「何も会社の近くまで来なくても」「フン、お前にも人並みに羞恥心はあるんだな」

「こうしたかったのは俺じゃなくて先輩の方でしょう?振り込んでもらえれば済む話なのに」



ブルブル‥



常に上から目線で話を進める淳に対し、健太は怒りでブルブルと震えた。

その手に持った封筒を、力まかせに淳に押し付ける。

「ほらよ!これでいいだろうが!テメーが欲しがってた金だよ!」



淳は封筒を手に取ると、その中身をゆっくりと検め始めた。

健太はキャップを取りながら、恨めしそうな視線で淳を睨む。



やにわに健太が手を叩いた。

「いやいや〜」



「いや〜この光景!完全に守銭奴だな!振り込みじゃ満足出来ねーだろ?

言っとくけど俺ぁ、時計の中古市場調べ尽くしたからな!これ以上ビタ一文負けねぇぞ!」




精一杯の皮肉を吐く健太。するとそんな彼に向かって、淳がポツリとこう言った。

「おかしいな‥」



健太は青い顔をして、即座に反発する。

「何ぃ?!まさか足りねぇんじゃねーだろうな?!

絶対これ以上払わねーぞ?!」




健太はそう声を上げたが、淳は撤回しない。

「でもこれじゃ‥」「あぁ?!







一気に健太の怒りメーターが駆け上がった。

「そのへんにしとけコラァ!!!」







突然発せられた大声に、淳は目を丸くし健太の方を見た。

健太はハァハァと肩で息をしている。



「あーーーっ!マジ!があっ!」



頭を抱えながら怒りに悶絶した健太は、淳のことを指差し今までの不満を一気にぶち撒け始めた。

「おい!ならぶっちゃけ言ってやんよ!確かに俺は赤山に対しては非があるよ、それは認めてやる!

けどお前に対しては何もしてねーだろ!当人の赤山じゃなくどうしてお前がしゃしゃり出てくんだ?!このクソが!!」




「お前が手を怪我したのはすまねぇと思うが、時計に関しては俺のせいじゃねぇ。

お前が走って来て勝手に転んだんだろ?!ドライブレコーダー持ち出して脅迫までするか?!」


「脅迫なんてしていません。俺は最小限の要求をしているだけです」



「最小限〜〜〜?」



超然とした態度の淳が発したその言葉に、健太のプライドが抉られる。

「その時計が最小限だと?!」



その言葉を契機にして、淳に対する不満が溢れ出した。

恵まれた環境に居るその男に対する、恨み節とも言える吐露。

「このクソ野郎が!ボンボンのお前にとってははした金かもしんねぇが、

俺にとってはそうじゃねぇんだ!お前マジで酷すぎんぞ!!」




「お前の言葉がどんだけ俺を傷つけてると思ってんだ!

その時計代が最小限?!金がどっかから湧き出るもんだとでも思ってんのか?」




「それ検索してみてどんだけ驚いたと思ってんだよぉぉ!

その金返すのに就職試験も勉強も出来ねーで、単位も諦めてよぉ!

バイトばっか何個掛け持ちしたか!学費よりも高ぇんだぞ?!」




「それをさも何でも無いことのように‥」



健太は思っていた。

この苦労知らずのボンボンに、芽吹いていたはずの未来の芽を全て摘まれてしまったと。

なけなしの未来すら奪われた健太が掘り出したのは、ずっと胸の奥底に仕舞っていた淳への嫌悪感だった。

「俺は‥俺はお前のことが昔っから大っ嫌いだったんだよっ‥!!

この恩知らずのクソ野郎がっ‥!!」








その血を吐くような叫び声は、ビルの狭間に響いていつしか消えて行った。

それでも健太の怒りはおさまらず、健太は淳を見据えたまま未だ小さく震えている。



「恩、ですか?」



淳は少しも動じることなく、逆上の中で健太が口にした”恩知らず”という言葉を拾う。

「恩だなんて、似合わない言葉使うんですね。ところで、どうしてこんなに持って来たんです?」



トン



淳は封筒の中から一枚の紙幣を取り出し、残りを健太に押し付けた。

健太は疑問符を浮かべながら封筒を手に取る。



「これで足りるのに」



淳が五千円を手にそう言った。

当然健太はわけが分からない。



「は‥?はぁ‥?」



淳はポケットの中からあれを取り出した。

文字盤の上のガラスに亀裂が入った、あの時壊れたその時計を。



「これレプリカですから」



淳はとうとうそのカラクリを口にした。

淳の頭の中に、数ヶ月前の記憶が蘇る‥。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<制裁(3)>でした。

すいません、いいところで!

最後淳が口にしたその言葉こそ、柳との間にあったカラクリです。

次回、健太との最終決戦!

<制裁(4)>です。

そして本日1月19日は、我らが青田淳のお誕生日ですーー!

おめでとう先輩!




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カラクリ

2017-01-17 01:00:00 | 雪3年4部(狂った計算式〜制裁)
翌日。



コピー室にて、柳の雄叫びが響いた。

「よっしゃー!」



「マジで俺も財務学会に混ざっていいの?」

「はい。柳先輩とは一緒に勉強会もやってる仲ですし。健太先輩と違って

私のプリントコピーしますね」
「おお!サンキューサンキュー!」



雪はそう言って、自分の持っている財務学会資料を柳の分コピーした。

柳はいつもの明るい調子で雪に礼を言う。

「さすが赤山ちゃんだよな!もう少しで冬休みだし、猛勉強するわ!

それでなくても何かしなきゃって焦ってたんだよ〜」
「全部コピー出来ましたよ」

「あんがとー」「そこにホッチキスが‥」



そう言って雪がホッチキスに手を伸ばした時だった。

「あ、俺が‥」



トン、と二人の手が触れる。

時が止まったかのように、目を見開いて固まる柳と雪。



「赤山‥」



シャラララ‥とどこかからときめきのメロディが流れて来る。

雪の手はまるで引力に引かれるように、柳の手をぎゅっと握った。



そう、これは恋の始まりー‥


「赤山ちゃん?」




‥ではなかった。


「どうしたん?手が冷たいの?!」「!!」



柳は明るく笑いながら、目を丸くする雪と手を繋いでくるくると回る。

「寒くても他の男の手をホイホイ握っちゃダメだぞ〜!淳に言っちゃうぞ〜?HAHAHAHA!」



「メシ食いにいこーぜ!」



そう言って歩いて行く柳の後方で、雪はショックのあまり白目になって頭を抱えていた。

先程柳の手を握ったのは、全くの無意識だったのである。

え?私起きてる?何?!どうしてこんなこと?!

おかしいって!おかしいって!




そう自問自答しながら、雪は柳の隣を歩き建物から外に出た。

大あくびをする柳が、何も気にしてなさそうなのが幸いだ‥。



「‥‥‥‥」



すると、ちょうど外を歩いていた柳瀬健太に出くわした。

柳も雪もウンザリとした表情で立ち止まる。

「何スかその格好?」「それが先輩に対する挨拶か?」

「コンニチハ‥」



健太は仏頂面のまま、手に持った土産を掲げ二人に説明した。

「単位落としたから教授に挨拶だよ。

ただでさえ金がねーってのに‥」




「この後青田にも会いに行かなきゃなんねーし」

「先輩と?どうしてですか?」



そう問うた雪に、健太はチッと舌打ちをした。抱えた不満をぐちぐちと零す。

「ふざけてんのか?知らないフリしやがって。

今日あの汚ねぇ金返して終わりだっつの。覚えとけよ」




「赤山、お前にも青田にも大いに失望したぜ。

今回耳揃えて借金返済したら、お前らの顔なんて二度と見たくねぇ。絶対にな!」




「借金‥?」



その意味が分からず首を傾げる雪。すると隣に居た柳が呆れたようにこう言った。

「いやいや淳の時計壊しといて何逆ギレしてんすか」

「わざとじゃねーだろが!テメーで勝手に転んで壊したんだろ?」「うっわ、ひっでー」



「俺はアイツの時計代のせいで単位も卒業試験もポシャって、

バイトばっかで死にそうだっつーのに‥!」




ギリギリと歯を食い縛りながら、健太は拳を固めてブルブルと震えている。

しかし目の前の二人との温度差は歴然だ。

「もう家賃払ったら生活費残んねーんだぞ!」

「あのねぇ、それは先輩の事情であって俺らには関係ないスよ」



「俺らに当たんないで下さいよ。ったく!」

「わーってるよこの野郎!お前に話したところで何にもなんねーっつの」



健太はそう言い捨て、ドスドスと去って行った。

自身の知らないところで進行した柳と健太の会話に、未だ雪はついて行けていない。

「えっ何?何がどうしたって?!

「ったくやってらんねー。逆ギレしてんじゃねーよ」



「へ?柳先輩何か知ってるんですか?」「え?赤山ちゃん知らねーの?」



柳はそう言って、去り行く健太の背中を眺めながら話し出した。

「健太先輩が淳の時計壊しただろ?それを弁償しろっつったらあの態度だよ」



そこに隠された真実を。

「まぁ返済は当然だけど‥。ちょっとカラクリがね。実はさぁ‥」



それは柳と淳の間にあった、真実のカラクリ‥。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<カラクリ>でした。

おお‥!近年まれに見るイケメン柳‥!!



柳好きにとっては嬉しい回でした。ここに来て柳エンドも良いかも‥?!(今まで何やったんや)

しかし雪ちゃんの無意識に手を握ってしまう習性‥。
これは男の人誤解しちゃう!柳で良かったけど!
横山だったらめちゃ暴走しそうだな‥。

そして健太の落ちぶれよう‥。落ちぶれるとコソコソしちゃうんですね。
清水香織然り横山然り平井和美然り‥。

さて柳の口から語られる真実。
物語としては淳の口から語られます。

次回は<制裁(3)>です。

淳から健太への制裁(1)(2)はこちら〜


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その先へ

2017-01-15 01:00:00 | 雪3年4部(狂った計算式〜制裁)
長い坂道を下った所にその家はあった。

昔は毎日のようにそこへ通った。まるで自分の家であるかのように。



河村亮は、自信に満ちた表情を浮かべてそこに立つ。



目の前には青田会長が座っており、二人は向かい合っていた。

しかし会長は亮と目を合わせようとはしない。



長い沈黙の後、ペンを走らせながら会長が口を開いた。

「今更何の用だ?」



その冷徹な問いを前にして、亮はニッコリと微笑んだ。

まるで想定内だと言わんばかりに。



「はい!ちょっと頼み事がてら〜」「頼み事?」

「ここを離れる前に、一度ご挨拶をと思いましてね」



会長は仕事を続けながらそれに返答した。まだ亮の方を見ようとはしない。

「もう私の手は借りないんじゃなかったのか。今度は何の頼み事なんだね」

「ご存知でしょ?社長の吉川って奴のこと」






亮が口にしたその名を聞いた時、ようやく会長の手が止まった。

会長は顔を上げ、話を続ける亮を見つめる。

「知らないはずないですよね。

会長ならスポンサーになっていたヤツのその後の生活も把握してるはずです。

今まで黙って見ていたのはアイツを利用するかしないか、迷ってたんでしょう?」




「んなことしてないで、さっさと片付けちゃって下さいよ」







会長はペンを机の上に置いた。

そして厳しい眼差しで亮のことを見据える。



亮は笑みを崩さぬまま、持っていた封筒を差し向けた。

「ここに、吉川が今までしてきた悪事の全てが入ってます。

証人だって一人居る」




「このくらい朝飯前、ですよね?」



亮はそう言ってニヤリと笑う。

会長は眉間に皺を寄せながら、深く息を吐いた。



そんな会長を見て、亮は居直り話を続ける。

「厚かましいかもしれませんが、許して下さいよ。

自分のことはいいですけど、静香が心配で。

真面目に生きていこうとしてんのに、あの男が障害になってんだからしょうがないでしょ。

放っといたら静香に危害を加えかねないし」




「会長も静香のことは気掛かりでしょ?」







会長は亮の言葉を聞きながら、机に置かれた封筒に目を遣った。

暫しの間の後、「頼み事はそれだけか」と亮に聞く。

すると亮は臆面もなくその要求を口に出した。

「あ、出て行く前に金もちょっと工面して下さい。借金返したんで一文無しなんすよ、今」






堂々と金の無心をした亮に、思わず会長はじっとりとした視線を投げ掛けた。

会長は亮から目を逸し、呆れたように口を開く。

「結局最後まで変わらないのか。お前は結局こんな生き方しか出来ないのか?」

「さぁ‥」



亮は両手をポケットに突っ込むと、微かに首を傾げてこう言った。

「けど自分の息子を変える為に他人の子を連れて来て利用したんですから、

このくらいのことはしてもらわないと」




亮が口にしたその発言に、会長の目が見開かれる。

呆然とする彼を前に、亮はハッキリと言葉を続けた。

「金銭的にはとても良くして頂いて、それは本当に感謝してます。

けど最初から汚い意図を持ってオレらを引き取ったのは事実でしょう?」




「幼かったオレらを常に監視して、甘い言葉で操って。

けどオレらが問題を起こしたらお払い箱にしようと画策したこと、知らなかったとでも?」




「静香は最初からそのことを分かってましたけど、

オレはそれなりに傷ついたんです」




「そして淳もね」








淡々と語られる亮の告白に、会長は終始目を見張っていた。

亮はその元凶を真っ直ぐ見据えながら、自分達に掛けられた呪いを紐解いて行く。

「アンタがオレらを連れて来たことの意図を、自分の息子を変人扱いしてたことを、

誰よりも先に気付いていたのは淳だ。まさか知らなかったとか?」




会長はぐっと拳を握ると、亮に向かって反撃する。

「くだらん戯言ばかり達者だな。金欲しさに作り話か?」



「お前のようなヤツが‥」







まるで虫でも見るようなその目つきを、亮は俯瞰するように眺めていた。

亮はその口元を自虐で緩めながら、独り言のようにこう呟く。

「ほらな、オレ一人が悪者だ‥」



亮は再びニッと笑うと、その自虐を利用するように明るくこう続けた。

「いやいや、オレにそんな話作る頭があると思います?

オレは自分の人生の為に、図々しくも要求してるんですよ。

けどその反応を見ると、聞き入れて貰えそうですね」




「それじゃ、ここらでオレは失礼します。必要な金額と口座番号はメールで送りますから」



亮は口を開いたまま、会長に背を向け出入り口の方へと進んだ。

ドアに手を掛け、そこでふと立ち止まる。



胸の中に、様々な思いが一瞬駆け巡った。

その思いを胸に仕舞いつつ、亮はけじめの言葉を口にする。

「もうここに来ることもないでしょう」



「それでは、どうぞお達者で」



深々と頭を下げた後、亮は立ち去った。

会長の顔を見ることなく。







机の上に残された封筒を前にして、暫し会長は亮の背中の残像を追っていた。

もう物音は聞こえない。





長い長い坂道を、亮はまるで背負った重荷を全て下ろしたかのように軽い身体でゆっくりと上った。

怯えていた孤独の影は、もう亮の後を付いては来ないだろう。

正門を抜けたその先へ、亮は一人で歩いて行く‥。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<その先へ>でした。

亮さん‥!強くなったね‥!うおーん!



前回の青田家訪問<正門の先>では逃げるようにその門をくぐった亮さんですが、

今回の清々しそうな後ろ姿といったら!

前回と今回と良い対比になってますよね。

 

亮さんの未来に幸あれ‥!!


次回は<カラクリ>です。

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通告

2017-01-13 01:00:00 | 雪3年4部(狂った計算式〜制裁)


月も星も出ていない夜だった。

河村静香はふぅと息を吐きながら、アパートのドアに手を伸ばす。



このドアを開けても、中にはもう誰もいない。

そう思うとわけもなく帰りたくなくなって、こんな時間になってしまった。



すると背後から、不意に聞き慣れた声がした。

「静香」







静香はにわかには信じられず目を見開き、振り向いた。

まさか彼がこんな所にいるはずがないと。

「?!!」



しかし暗闇に立ち尽くす彼の姿を見つけた途端、静香は思わず息を飲んだ。

青田淳その人が、確かに佇んでいたからである。



「淳?!」



静香は狼狽しながら、キョロキョロと辺りを見回し声を上げる。

「ななな何なの?!アンタの方から会いに来たの?!ありえないんだけど!!」

「お前がうんざりするほど電話してくるから、こっちから出向いたんだ」





「はぁ?」



その淳の台詞は静香にとっては心外だった。

最近しきりに電話を寄こして来ていたのは淳の方だ。



しかし淳は淡々と言葉を紡ぐのみだった。

「時間が無いから単刀直入に言う」



「な‥」



静香の脳裏に雪の姿が浮かんだ。

まさか‥赤山雪‥アイツ結局‥?



ギリッ、と歯を食い縛る静香の前に、無言の淳が立ち尽くしている。

雪が淳に静香の弱みを密告していたとしたら、もうすべきことは一つだ。

「やだぁ〜淳ちゃ〜ん!

会えて超〜嬉しくってちょっとキョドっちゃったじゃーん!連絡も無しに何よぉ!もう!」




「何しに来たか知らないけどぉ、

寒空の下突っ立ってないで早く‥」




静香がヘラヘラと笑いながら一歩踏み出したその時、淳の話は始まった。

「もうすぐ亮も居なくなる」



「俺に未練たらしく迷惑掛けて来るのは静香、もうお前だけなんだよ。

皆の為にも、ここらで俺らの関係を清算すべきだと思ってな」







その冷徹な通告に、思わず静香の笑顔が固まる。

淳は淡々と言葉を続けた。

「正直、もう完全に切り捨てたかったけど、

お前とは良い関係だった時もあったから、我慢してたんだ」




「これ以上連絡して来ることも、つきまとうことも止めてくれ。

自分自身の為にもな」




「特に、大学に来て学生のフリをして雪と勉強するのも止めろ」



淳のその言葉を聞いて、静香はギリッと歯を食いしばった。

は?知ってたの?



雪に対して憎らしい思いが膨らんで行く。

淳は静香を見据えながら通告を続けた。

「そうやって面倒事を起こそうとしてるのも、全部分かってる。

俺を困らせようとしておかしなことを企んでるんだろ。こんなこと一度や二度じゃないからな」




淳がそこまで言った時、静香が割って入った。

「ちょっと!違うってば!NONONO違う違う!

淳ちゃ〜ん、すっごい勘違いしてるよ?そんな意図全然ないから!」




静香は手に持ったテキストを掲げながら、自身の現状をかいつまんで説明する。

「確かに初めはちょっとそう思ってたけどぉ、

でも今学校行ってるのは授業が面白いからだし、就職しろって言う周りの声も聞いたりしてるし、

あたしなりに勉強してんのよ。今度こそあたし本気で‥」




静香がそこまで言った時、淳は息を吐き捨てた。

嘲るような表情を浮かべながら。







その顔を前にして、思わず静香は目を見張った。

淳のこんな表情を初めて見たからだ。

「何‥?その顔‥」「は‥ははは!」



淳は笑い、そして言った。

乾いた、多少自虐的なその響きで。

「お前だったらその話信じるか?」






問いのような呟きのようなその言葉が、静香に重くのしかかる。

「亮の怪我の原因が俺だと、

父さんにそう告げて俺を追い込んだお前を?」




「どうやって信じろって言うんだよ」



「俺が」



「お前達姉弟を」








あの高校生の時に見た花火の光が、チカチカと瞼の裏で光って消えた。

それは胸の中にあった、羨望の光ー‥。








仄かに灯っていたその光は、父への密告を知ったあの時に完全に消えた。

淳は闇しか映さないその瞳を、その真犯人に向けながら二人は向かい合う。






初めて知る淳の気持ちを、ただ持て余して静香は立ち尽くした。

やがて淳はフイと静香に背を向ける。



「もういい加減目を覚ましてくれ。俺達はもう昔のようには戻れない。

これが最後のお前への配慮であり、警告だ。

俺達は互いを傷つけ合う関係にしかなれない。自分の人生を探して、それぞれ生きて行くしか」




「頼む」



背を向けた淳が、掠れた声で最後にそう言う。

立ち尽くす静香を残して、淳を乗せた車は走り去った。






月も星も出ていない夜。

微かに思い出せた昔の淡い光は、淳の通告によって完全に消えた。

静香の胸中に、雪への憎しみの炎がちらちらと燃えるー‥。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<通告>でした。

ありゃりゃー‥

雪が前へどんどん進んでるのに対して、淳が昔のままなのが良くないですね。

静香も雪の力で変わっていってるのに。

淳は昔の通りで原状回復出来ると頑なになってしまっているからなぁ‥。

そんな登場人物達のボタンの掛け違いが印象的ですね。

次回は<その先へ>です。

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