Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

囚われた虎(8)ー空っぽー

2017-03-30 01:00:00 | 雪3年4部(穴〜囚われた虎)
「ああああっ‥!!」



血を吐くような叫びが、周りの空気をビリビリと震わせる。

その静香の奇行に吉川は動揺し、慌てて辺りを見回し始めた。

「おい騒ぐな!人が集まって来ちまうだろうが!おい!お前はこっちのクソ女を捕まえとけ!」



「早くしろ!!」



吉川は後ろに居る男にそう指示を出した。

悲壮な表情で男を見つめる雪と、男の目が合ったその時。

「くっ‥!」



ドンッ!



男は雪の方ではなく吉川に向かって走り、そのまま体ごと覆い被さった。

「ああああーっ」



未だ叫び続ける静香の隣で、目まぐるしく展開する事態に圧倒される雪。

「逃げろ!!」「何す‥っ!」



ハッ



「早く!」と男が叫ぶのと同時に、雪は静香の手を掴んで立ち上がった。

「静香さんしっかりして下さい!」「何しやがる?!離せコラァ!」



吉川と男が揉み合っている横をすり抜け、二人は再び走り出した。

路地裏を抜けると、そこにタイミング良くパトカーが到着する。

「何してくれんだよ!」「くっ‥!」



「うわっ!何だぁ?!」



大勢の警官が吉川と男を取り囲むのと同時に、雪と静香は角を曲がって姿を消した。

「令状持ってんのかよ?!」「この人に殴られたんです!」



その喧騒が、だんだんと遠くなる‥。








「はっ‥はっ‥」



「はっ‥」



静香の手を引きながら、雪は必死で走った。

息が切れ、再び静香の足は傷だらけになり血が滲む。







いつしか二人は手を離し、走るその足もやがて止まった。

よろ、とよろけた拍子に、静香はその場に倒れ込む。







静香は地面にへたり込むと、焦点の合わない瞳で、うわ言のように言葉を発した。

「あ‥ああ‥」



「なんなのもう‥は‥は‥」



「底辺じゃん‥は‥」



見開かれた目からはボロボロと涙が零れ落ち、いつしかそれは滝のように静香の頬を濡らす。

「うっ‥うぅっ‥」



「亮ぅ‥淳‥会長ぉ‥」



しかし、地面に突っ伏す静香の口から出たのは、この期に及んで彼らの名前だった。

それを聞いた途端、雪の胸に猛烈な怒りが込み上げる。



バッ!



「いい加減にしなさいよ!!!」



雪は静香の胸ぐらを掴むと、その目を真っ直ぐに見つめながら言葉を繰り出した。

「どうして誰も駆け付けて来ないのか、どうしてこんな目に合うのか、その原因を考えたことありますか?!

自分がこれまでして来たことを振り返ってみなさいよ!!」




「あの二人から奪うだけで!あれだけ与えてもらっていたのに!!」



「それなのに!!」



「静香さんは何一つ返したことないじゃない!」



雪の胸中は、複雑に歪んで揺れていた。

”与えられる”ことに飢えた魂が、痛いくらいに叫んでいる‥。







涙がその頬を流れ落ちるのを、雪はただ目の前で見ていた。

胸の中に湧き上がった怒りは、未だ轟々と燃え盛っている。







二人は暫しそのままの姿勢で向き合っていたが、

やがて静香は顔を逸らし、ふっと軽く吹き出した。



「何言ってるの?どうしてあたしが?」



「あたしは‥」







「空っぽで何も返せない‥」








真っ暗な奈落の底に堕ちないように、必死に足掻いて、足掻いて、足掻いて来た。

けれど本当は気付いていたのだ。

もうとっくに自分は、何も持ってはいなかったのだとー‥。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<囚われた虎(8)ー空っぽー>でした。

雪ちゃん!!よくぞ言ってくれた!!

往年の静香に対するモヤモヤを言葉にしてくれました。

今までの静香なら殴り合いになってたかもしれませんが、こんな時だから響きましたよね。

最後に口にした静香の本音が、重たいですね‥。

そして亮の元同僚の男、「この人に殴られた」と警察に申告するも、



顔、つるんと元通りやがな!



脅威の回復力が空回り!



次回は<見えない傷>です。

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囚われた虎(7)ートラウマー

2017-03-28 01:00:00 | 雪3年4部(穴〜囚われた虎)


二人は息を潜めて隠れていた。

寒さと心細さで、奮い立つ気持ちも沈み込んでしまいそうだ。







雪はポケットから携帯を取り出し、電源を入れてみた。

暗い路地でそれはぼんやりと光る。



雪は連絡先をスクロールし始めた。

今連絡すべきなのはー‥。



「淳も亮も呼ばないで。警察呼んで」



そんな雪の胸中を見透かすように、俯きながら静香がそう言った。

その真意を汲み切れずに、雪は眉を寄せる。

「‥通報ならとっくにしてます」



「じゃあここで警察来るの待つ」



小さくなった身体を震わせる静香。雪は改めて聞いてみた。

「それでもさすがに弟さんには知らせて‥」

「アイツもう番号変えてるもん。どうせ出ないわ」



「もう本当に居なくなっちゃったの」



消えそうな外灯の光が、静香のシルエットを照らしていた。

その淡く弱い光は、彼女の深く暗い孤独を浮き彫りにさせる。

「呆れたでしょ?」



「あの二人はあたしのものだったのに‥あんなに男共が群がってたのに‥」



「もうあたしが呼べるのはアンタしか居ないなんて‥」



かつて静香を、その存在を認めてくれていたもの達が、あっという間に消えて行く。

傷だらけで血が滲むその足。

かつては綺麗に磨かれた、エナメルのパンプスを履いていたのに。



雪は沈む静香を暫く見ていたが、ふとすごく失礼なことを言われたんじゃないかと思い至り、

思わずムカッと青筋を立てた。



「いやでも私にまで‥!」「アンタが来てくれたら、後は淳が全部解決してくれるじゃんよ!」

「はぁ?!」「てかアンタやってくれたよね」



「捕まったらどうすんの?あのまま大人しくしてた方がまだマシだったわよ。

このままじゃ済まないわ」


「あのままヤミ金業者と一緒に監禁されろって?!危険な目に合うかもしれないのに!」



二人は知らず知らずの内に声を荒げて会話していた。

「アンタこそ分かってない。ああいう輩は地の果てまで追いかけて来るわよ。

今逃げるのは得策じゃ‥」
 

「その通りだな」



その為気が付かなかったのだ。

吉川が、もうすぐそこまで迫っていたことに。



「クソッタレ共が‥」



吉川は鬼のような形相でゆっくりと二人に近付いた。

逆光になった暗いそのシルエットが、静香に向かって手を伸ばすー‥。



「キャッ‥!」



瞬間、立ち上がろうとした雪の目に吉川の後ろに立つ男の姿が見えた。

さっきの人‥!



「ブッ殺してやるー‥」



近付いて来る吉川の掌が、暗く恐ろしい記憶の残像を蘇らせる。

それは心の奥に押し込めてあった、彼女のトラウマ。

「今日こそブッ殺してやる」



殴られる。

叩かれる。

きっと今日こそあの暗い部屋で、嬲り殺されるー‥。

「あああああああっ!!」



「あああああああーっ!!ああああ!!」



急に叫び出し、頭を抱えて地面に伏す静香。

雪の呼び掛けにも全く耳を貸さず、錯乱の中で叫び続けた。

「何だぁ?!」

「ああああっ!止めてっ!」



「殴んないで!あっち行って!」



吉川はそんな静香の姿に動揺を隠せず、思わずその口を塞ごうと手を伸ばした。

「おい頭おかしいんじゃねぇか?!」



「うっ!」「殴るの!?」



静香の目に吉川は映っていない。

記憶の中に巣食う圧倒的に恐ろしいその幻影に向けて、静香は激しく抵抗した。

「また殴るんでしょ?!やってみなよ!」



「殴ったからって叔母さんのこと怖がると思ったら大間違いだよ!?」



「はぁ‥?!」

「ねぇ、どうしてよ?!」



「あたしが何したっていうの?!」



「ああ‥っ!!あああーーーーっ‥」



絞られた瞳孔から、涙が滲んで溢れ落ちる。

そのまま地面に伏す静香のことを、ただ見つめるしかなかった。

「ああーっ!あっ‥ああああっ‥!!」



「ああああっ!!」



まるで血を吐くようなその叫びが、ビリビリと空気を震わせる‥。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<囚われた虎(7)ートラウマー>でした。

迫って来る掌を見て、静香のトラウマ発動‥の回でしたね。

吉川社長のドギマギ感‥そりゃそうなりますわね。


「もう誰も居なくなってしまった」とこぼす静香の裸足の描写ですが、



1部30話ではこんなことを言っていた静香。



どうしてあんなに靴を語るのかと疑問でしたが、まさかの六年越し伏線回収。

自分のしたことが回り回って、結果裸足になってしまったという‥。

スンキさん、恐ろしい子‥!


そして細かいクラブとしては、雪と会った時あんなに傷だらけだった亮の元同僚の男の顔が‥



つるんと元通り!



すごい回復力!!


さて<囚われた虎>も大詰めです。

次回<囚われた虎(8)ー空っぽー>です。


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囚われた虎(6)ー逃走ー

2017-03-26 01:00:00 | 雪3年4部(穴〜囚われた虎)
「うわあああああ!」



雪は走った。

大きな叫び声を上げて、静香の手を握りながら。

「うわあああああ!」



静香は真っ青になって振り返った。突然の出来事に頭がついていかない。

「ちょ、ちょっと!!何してんのっ‥?!」



「待ちやがれクソ女共!畜生!誰が逃げろっつったよ?!」



「逃げ切れるとでも思ってんのか!!」



吉川は雪の予想より早く建物から出て来た。そしてすごいスピードで追いかけてくる。

「待ちやがれ!!」

早い!このままじゃ追いつかれる‥



けどこの辺は飲食店街だから‥



後ろで静香が「足が痛い」と漏らしているがそんなことを聞いている状況じゃない。

雪は助けを求められそうな店は無いか必死で周りを見回した。

しかしガラスに”テナント募集”が貼られた空き店舗や、



女性一人しか居ない店しかない。



二人は、ただ必死で走るしか無かった。

「もうっ‥!!!」「待ちやがれクソ女共ぉ!!」







走って走って、二人は狭い路地の中に入った。

入り組んだ狭い路地の隙間を、死に物狂いで駆け抜ける。






いつの間にかキャップは脱げ、真冬だというのに汗が止まらない。

息を切らせながら、雪は静香の手を引いた。

とりあえず路地裏抜けて繁華街へ‥



焦る気持ちを必死に抑えながら、雪は見覚えある路地裏に足を向ける。

しかしそんな雪の後ろで、静香は苦しげに息を吐いていた。

「はっ‥はっ‥」



「もう走れない〜〜!」「ええ?!」



静香はそう言って雪の手を振り払った。

雪は立ち止まり、静香の足元に目を留める。

「あ‥」



知らぬ間に静香の足は傷つき、血が滲んでいた。走って来た道にも血痕が残っている。

「もう無理‥痛くて死にそう‥ガラス踏んじゃったみたいで‥」



静香はこれ以上進めない。けどここに残っていてはすぐさま捕まってしまうだろう。

焦った雪は周りを見回してみる。



目に入って来たその大きな室外機には、見覚えがあった。

以前路地裏を逃げ回っていた時に身を隠した、その場所だったからだ。



「こ‥こっちへ!」「あ‥え?!」



「あっ?!」



雪は静香の身体を半ば強引に引き倒した。

「痛っ‥!」







声を上げかけた静香の口を手で覆い、雪は人差し指を自身の口の前に翳す。

静香は不服そうな目付きで雪を凝視していた。



「今の状況考えて下さい。捕まったら大変なことになりますよ」



「何よ!」



静香はそう言って、雪の手を振り払った。

そんな彼女に向かって、雪は冷めた瞳で冷静に語る。

「全部知ってます。ヤミ金業者の元に私を連れて行こうとしていたことも」



「どうしてそれを‥」



静香はギクッとしながら思わずそう漏らすと、

バツが悪そうに雪から顔を背けた。

「いや‥その‥」



「どこまでも非道い人ですね、静香さんって」



呆れたようにそう口にする雪に、もう静香は言い訳しなかった。

ただ口を噤み、俯いただけだ。







真冬の寒さが身に堪える。

二人は不安な気持ちを持て余しながら、静かにその場に座っていた‥。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<囚われた虎(6)ー逃走ー>でした。

雪×静香での口を覆うシーン!



今まで色々な人同士でありましたね〜

20話での雪×淳から始まり



208話での雪×亮なんかもありましたね。



走馬灯‥。

そして思い出す174話の静香の台詞。



借金取りからの逃走‥。まさかこんな所に伏線が‥

いや〜すごいです。。

次回は<囚われた虎(7)ートラウマー>です。


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囚われた虎(5)ー連鎖ー

2017-03-24 01:00:00 | 雪3年4部(穴〜囚われた虎)
さて、時は三十分ほど前に遡る。

雪は携帯画面に表示された地図を見ながら、狭い道を歩いていた。



「メールによるとこの辺のはずなんだけど‥」



まだ夕方だというのに辺りはひっそりと静まり返っており、人っ子一人歩いていなかった。

視線の先に目当ての場所らしき建物が見えるが、電気もついていない住戸ばかりだ。

「‥‥‥‥」



雪の胸中がグルグルとざわめく。

なんか‥嫌な予感‥。てかどうして電話出ないんだろ‥

ずっと掛けて来てたのはそっちじゃんかよー‥




久々に感じる不吉な予感を感じながら携帯を睨んでいた時だった。

不意に背後から声が掛かる。

「あ、あの‥」







振り返ると、そこに一人の男が立っていた。

「君、確か亮の彼女‥」「あなたは‥」



その顔には見覚えがあった。

以前河村氏と一緒に居る時に、大学で見掛けた顔だ。



しかし今男のその顔は、痛々しいまでに傷だらけだった。

「あの、大丈夫ですか?顔‥」

「亮は一緒に行こうって言ってくれたけど、断ったらこの有様で‥」



「はい?それってどういう‥」

「君、今から亮の家行こうとしてるんだよね?」「‥?」

「だから‥亮のお姉さんから連絡受けて行こうとしてるんだろ?」「あ、はい。そうです」



「‥‥‥‥」



雪の返答を聞いて、男は俯いた。おずおずと、”亮の彼女”に向けて忠告を始める。

「な‥中には絶対入っちゃダメだよ。危険だから早く帰った方が良い。

今、亮の家の中には社長が居るんだ」
「社長さんなら‥」

「亮が持ち逃げした金を回収しに来た、元ヤクザ者なんだよ」「へっ!?」



「そ、それじゃ静香さんは‥?」

「金を受け取るまでは多分大丈夫だと思うけど‥」



「見張りするって言って出て来たけど‥

俺も今が最後のチャンスだと思って逃げようかと‥。君も逃げた方が良いよ」




「‥‥‥」



男の話を聞けば聞くほど、雪は胸の中に恐ろしいほどの不安が広がって行くのを感じていた。

とりあえず冷静に、現状を言葉にしてみる。

「つまり、今家の中に静香さんとその社長さんが一緒に居るってことですよね?

静香さんからお金を回収しようとしてるんですか?」


「うん。亮は元金は返したけど利子分は返さなかったんだ。まぁ、利子とかおかしな話なんだけど‥」

「それじゃ通報しましょうよ!監禁みたいなものじゃないですか!」



危険を感じた雪がそう言うも、男は目を逸らしてどもるだけだった。

「あ‥いや‥」



「お‥俺はもうこれ以上関わりたくないんだ!

とにかくそういうことだから、もう帰りなよ。分かったね?!」




男はそう言って逃げ出してしまった。

雪は判断を委ねられたまま、ただその場に立ち尽くすー‥。









そして時は数分前に戻る。

家から出て来た静香が、雪の前に現れた時へ。



「来たのね」



「あたし携帯壊れちゃってて、アンタからの電話出れなくって!

慌てて出て来たからこんな格好なのよ」




「うーっ寒!」



雪がチラリと上を見上げてみると、窓辺に佇む人影が見えた。明らかに監視されている。

脳裏に、先程静香から送られてきたメールの文面が蘇った。

どうして電話出ないの?あたしお金無くてもう何日もご飯食べてないんだけど。
あたしの携帯今調子悪くていつ切れるか分かんないから電話出てよ!
アンタ最後まであたしの勉強見てくれるんでしょ?
マジで頼れる人が居ないし、誰一人として電話に出てくれないの
来てくれそうなのアンタだけなのよ
お願い、見捨てないで。マジ腹ペコなのよ‥




嘘。

「とりあえず、中に‥」



真っ赤な、嘘。

騙された。



この人は私を‥



ドス黒い感情が、胸の中に渦巻いて行く。



目の前が真っ暗になりそうなその揺らめきの中で、

雪はただ無言でその場に立ち尽くしていた。



中へと促しても動かない雪を前にして、静香は曖昧な笑みを浮かべている。



雪は静香の裏切りと相対しながら、胸の中の葛藤と現状を冷静に客観視し始めた。

このまま見捨てて逃げようか?



既に警察にも通報したから、後は自分で何とかしろって言えばいい。

一緒に中に入ったところで女二人で何が出来る?私まで危ない目に合うだけだ。

一体どうして私は、こんな人相手に‥




どうしてまた繰り返すの‥



握った拳が、怒りに震える。

以前似たようなことがあったことを、否応なく思い出してしまう。

「逃げるよ!」



ホームレスに絡まれた平井和美の手を引っ張って逃げたあの時

「あんたに関係ないでしょう?そうやって出しゃばって、

良いことでもしたつもり?」




振り絞った勇気を、ぺしゃんこに潰された。

止せば良いのに深入りして、結果自分が傷ついて終わる。

そんな感情の消耗は無意味だと、あの時身を持って知ったはずだった。

そのはずなのに‥。




次に思い出したのは、平井和美からあの時のことを聞かされた時のことだ。

「あたしはあなたが危険な目に合うかもしれないって言ったのに、

青田先輩はそのまま行ってしまって」




雪は出来るだけ冷静に、あの時の記憶と感情をなぞる。

あの話を聞いた時、私はどう思ったっけ‥?







不審者と自分しか居ない夜の学校。振り下ろされるガラス瓶。

泣けない自分の感情を溢れさせるかのように、流れて行く真っ赤な血液‥。



あの時自分は、こう思ったはずだ。

危うく大事になるところだったのに、

先輩がそのまま行ってしまったことが、悔しかった。

一番助けて欲しい時に、助けてくれなかったのだと。










雪の手の中に、切れない輪があった。

それはあたかもメビウスの輪のような、重たい鎖で出来た切れない輪が。



静香の笑顔が引き攣って固まる。

家の中には、明らかに危ないあの男が待っている。







氷のように冷たい静香の手が、小刻みに震えていた。

これは必死に助けを求めて震えた、いつかの自分の手と同じー‥。



「静香さん」






「正直、もう誰を助けたところでただのおせっかいなんじゃないかって思ってたんです。

結局自分が傷つくことになるんだし‥」




「だからもう二度とそんなことしないって思ってたんです」

「はぁ?」



「何言ってんの?ほら早く‥」



「だけど‥」






「!」



「静香さん」



心は決まった。

雪はこの負の連鎖を、断ち切る決断を下したのだ。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<囚われた虎(5)ー連鎖ー>でした。

最後の方、前回の静香側からのコマも追加しました。

雪の葛藤がすごく丁寧に描いてある回でしたね。

そして結果同じ行動になるとしても、きっとそれがメビウスの輪を断ち切ることになると信じてます!

頑張れ雪ちゃんー!

次回<囚われた虎(6)ー逃走ー>へと続きます。


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囚われた虎(4)ー道連れー

2017-03-22 01:00:00 | 雪3年4部(穴〜囚われた虎)
赤山雪、あんたを道連れにしてやるー‥。



静香はガラス戸の隙間から雪のことを窺っていた。

心の奥底にある彼女の良心が、一歩踏み出すことを躊躇わせる。



けれどこのままでは奈落の底へと落ちて行くのは自明であった。

胸の中で、静香は自分に言い聞かせるように唱える。

金借りて「今度返す」って約束するフリだけして行かせればいい!

それから今度淳に連絡してどうにかしてもらえば‥それで問題ないはず




それならいいでしょ?



言い訳と居直りの狭間で、心は決まった。

引き攣った笑顔を浮かべながら、静香は雪に向かって一歩踏み出す。



「来たのね」



「静香さん」



静香は上機嫌を装いながら、雪に向かって手を伸ばした。

「あたし携帯壊れちゃってて、アンタからの電話出れなくって!

慌てて出て来たからこんな格好なのよ。うーっ寒!」




「とりあえず‥中に‥」



冷たくなった彼女の手を握った途端、静香はそれ以上笑顔を繕えなくなった。

心の中にあるドス黒い暗闇が、ぽっかりと口を開け静香が転げ落ちるのを待っている。



けれど僅かながらに残った彼女の良心が、雪の手を引くことを拒んでいた。

白と黒の感情の狭間で、静香はただ揺れるだけー‥。







雪は強い力で握られた静香の手をじっと見ていた。

指先まで氷のように冷たいその手を。



「静香さん」



雪から名前を呼ばれ、静香は顔を上げた。

彼女は俯きながら神妙な面持ちをしている。



雪は静かに口を開き始めた。

「正直、もう誰を助けたところでただのおせっかいなんじゃないかって思ってたんです。

結局自分が傷つくことになるんだし‥」




「だからもう二度とそんなことしないって思ってたんです」

「はぁ?」



突如語られた彼女のその話に、静香は思わず疑問符を口にした。

若干の苛立ちが静香を焦れさせ、握った手に力を込める。

「何言ってんの?ほら早く‥」



「だけど‥」



それでも雪は動かない。

その場で立ち尽くす二人の姿を、吉川が怪訝そうに眺めている。

「アイツら何やってんだ?」







次の瞬間、音も無く手が伸びた。

「!」



雪は自身の左手を握る静香の右手を掴んで、もう一度彼女の名を口にする。

これは雪の賭けだった。

「静香さん」





「逃げるよっ!!!!」



「なんだぁ?!」



吉川がこの事態を目にして下りてくるまで概算三十秒弱。

雪はただ、がむしゃらに駆けた。

「うわああああああ!!!!」



静香の手を引っ張って。



オレンジ色の髪の毛が目の前で舞っていた。

突然の出来事に、静香はただ圧倒される‥。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<囚われた虎(4)ー道連れー>でした。

おおーなんという展開!

最後の雪が静香の手を引いて走る場面は、以前健太から逃げる時の場面とあべこべですね。



「逃げるよ!」の場面は、



これは相当前ですが、ホームレスに絡んでいた平井和美の手を引いて逃げる場面と構図が一緒!



時が経って変わる関係性と、時が経っても変わらない性根が対比になっている感じですよね。

いや〜すごいな〜〜

<囚われた虎(5)ー連鎖ー>へ続きます。

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