「ああああっ‥!!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3e/c7/e48d901ee16ad3ad3cbe5e9da209818c.jpg)
血を吐くような叫びが、周りの空気をビリビリと震わせる。
その静香の奇行に吉川は動揺し、慌てて辺りを見回し始めた。
「おい騒ぐな!人が集まって来ちまうだろうが!おい!お前はこっちのクソ女を捕まえとけ!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/14/52/18a47e19430b0a7114c57be0d821311a.jpg)
「早くしろ!!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/60/68/85561a64a1b79f07422f585587a533f8.jpg)
吉川は後ろに居る男にそう指示を出した。
悲壮な表情で男を見つめる雪と、男の目が合ったその時。
「くっ‥!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7a/8e/8da5711689f0f93ffd4b066f122099ff.jpg)
ドンッ!
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/62/79/1614d83a3685a30409ae09ec2c4065ba.jpg)
男は雪の方ではなく吉川に向かって走り、そのまま体ごと覆い被さった。
「ああああーっ」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2a/fc/0293ffec42998fc826fd158e5114691a.jpg)
未だ叫び続ける静香の隣で、目まぐるしく展開する事態に圧倒される雪。
「逃げろ!!」「何す‥っ!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/62/7d/6b946933261c8e03c6f40d6c39fe81a7.jpg)
ハッ
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/54/e2/8cef614ce612ef5ddab3ed5365d5c202.jpg)
「早く!」と男が叫ぶのと同時に、雪は静香の手を掴んで立ち上がった。
「静香さんしっかりして下さい!」「何しやがる?!離せコラァ!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/04/fe/ff14bc26a8f5a5ebe11a1d47f3bf5bb3.jpg)
吉川と男が揉み合っている横をすり抜け、二人は再び走り出した。
路地裏を抜けると、そこにタイミング良くパトカーが到着する。
「何してくれんだよ!」「くっ‥!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4b/de/66cbeddbfc48a04b09718599e0680cbf.jpg)
「うわっ!何だぁ?!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/04/93/1faf1d3c6fc56210b9b251bc458bf042.jpg)
大勢の警官が吉川と男を取り囲むのと同時に、雪と静香は角を曲がって姿を消した。
「令状持ってんのかよ?!」「この人に殴られたんです!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/57/be/d1c7b01cc932eaad88b5bd6c30cf3a7c.jpg)
その喧騒が、だんだんと遠くなる‥。
「はっ‥はっ‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/36/3b/b613e88eaf8995d8faf702d82c01bdff.jpg)
「はっ‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/44/fe/9d3998676ed59d644faa55582c67249b.jpg)
静香の手を引きながら、雪は必死で走った。
息が切れ、再び静香の足は傷だらけになり血が滲む。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/71/ad/2a977f7907581d6c630ffadcb02b0cbc.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/08/6a/3c49b4e3c0b380b802aae26876e5c859.jpg)
いつしか二人は手を離し、走るその足もやがて止まった。
よろ、とよろけた拍子に、静香はその場に倒れ込む。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/41/92/0ab8c8c3df790b185e0314b148985fda.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2b/49/55b03e8b51b0193e79988c32cc9d8e5f.jpg)
静香は地面にへたり込むと、焦点の合わない瞳で、うわ言のように言葉を発した。
「あ‥ああ‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/11/a9/b8c3da328f58c46e88b152a2997308af.jpg)
「なんなのもう‥は‥は‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0e/8f/f8fa7d72105df130934fa27b796f7c13.jpg)
「底辺じゃん‥は‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/72/8d/a76ad9c13e36bed8d99d02c2274eaf0a.jpg)
見開かれた目からはボロボロと涙が零れ落ち、いつしかそれは滝のように静香の頬を濡らす。
「うっ‥うぅっ‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/23/d6/c0e417908dae152a06fb18f91d48a33b.jpg)
「亮ぅ‥淳‥会長ぉ‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/63/a0/261f6a61eea33314dc77c44a81b0309c.jpg)
しかし、地面に突っ伏す静香の口から出たのは、この期に及んで彼らの名前だった。
それを聞いた途端、雪の胸に猛烈な怒りが込み上げる。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/11/57/3df10ecdce19d2d612f0d74d5c2929d6.jpg)
バッ!
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0a/f7/5cb048563b80cf068ffa24a1f6d1b26c.jpg)
「いい加減にしなさいよ!!!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/21/df/9ac96667d445dffae8d6a6bced0a9605.jpg)
雪は静香の胸ぐらを掴むと、その目を真っ直ぐに見つめながら言葉を繰り出した。
「どうして誰も駆け付けて来ないのか、どうしてこんな目に合うのか、その原因を考えたことありますか?!
自分がこれまでして来たことを振り返ってみなさいよ!!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0e/13/faf5959b2daa3cc4a515f681516da4c6.jpg)
「あの二人から奪うだけで!あれだけ与えてもらっていたのに!!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/69/f9/20118e54f328028d8ae529a877a2407a.jpg)
「それなのに!!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/65/3f/4705370169eb77fdb18d3306cce28182.jpg)
「静香さんは何一つ返したことないじゃない!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/10/30/12074d00f57b14426fd412224de23c23.jpg)
雪の胸中は、複雑に歪んで揺れていた。
”与えられる”ことに飢えた魂が、痛いくらいに叫んでいる‥。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/05/41/24b234eb0e22f8f085f72e701e28331c.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/44/8a/e8e6dc9f13d68795daca7defcdb96bf5.jpg)
涙がその頬を流れ落ちるのを、雪はただ目の前で見ていた。
胸の中に湧き上がった怒りは、未だ轟々と燃え盛っている。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/43/f9/74dfbd5ad70f33149606135e0748fbe3.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5a/2b/8592774bb7ae0637ac7e1b24f0288e4f.jpg)
二人は暫しそのままの姿勢で向き合っていたが、
やがて静香は顔を逸らし、ふっと軽く吹き出した。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4f/30/9a84b0214ba3f4c5b9dc1f25c7842250.jpg)
「何言ってるの?どうしてあたしが?」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/29/c2/cf54d6e671b9fe199e3ddadb4e63909c.jpg)
「あたしは‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/25/c3/1ddd5c7b198bda44483c5f037054d4b5.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/51/14/031c2158c56545a211fed18aba772248.jpg)
「空っぽで何も返せない‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/40/ff/ff974c9fb749cf84d94e32be5ad06ca7.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/40/0f/904fb7069678c6c0056b46fcfab754a1.jpg)
真っ暗な奈落の底に堕ちないように、必死に足掻いて、足掻いて、足掻いて来た。
けれど本当は気付いていたのだ。
もうとっくに自分は、何も持ってはいなかったのだとー‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<囚われた虎(8)ー空っぽー>でした。
雪ちゃん!!よくぞ言ってくれた!!
往年の静香に対するモヤモヤを言葉にしてくれました。
今までの静香なら殴り合いになってたかもしれませんが、こんな時だから響きましたよね。
最後に口にした静香の本音が、重たいですね‥。
そして亮の元同僚の男、「この人に殴られた」と警察に申告するも、
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/14/eb/01215b5be6cf8a82527885650646d8af.jpg)
顔、つるんと元通りやがな!
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3e/ed/e8cf6941b4ff40b2e7ada15601c4f32b.jpg)
脅威の回復力が空回り!
次回は<見えない傷>です。
☆ご注意☆
コメント欄は、><←これを使った顔文字は文章が途中で切れ、
半角記号、ハングルなどは化けてしまうので、極力使われないようお願いします!
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血を吐くような叫びが、周りの空気をビリビリと震わせる。
その静香の奇行に吉川は動揺し、慌てて辺りを見回し始めた。
「おい騒ぐな!人が集まって来ちまうだろうが!おい!お前はこっちのクソ女を捕まえとけ!」
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「早くしろ!!」
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吉川は後ろに居る男にそう指示を出した。
悲壮な表情で男を見つめる雪と、男の目が合ったその時。
「くっ‥!」
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ドンッ!
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/62/79/1614d83a3685a30409ae09ec2c4065ba.jpg)
男は雪の方ではなく吉川に向かって走り、そのまま体ごと覆い被さった。
「ああああーっ」
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未だ叫び続ける静香の隣で、目まぐるしく展開する事態に圧倒される雪。
「逃げろ!!」「何す‥っ!」
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ハッ
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「早く!」と男が叫ぶのと同時に、雪は静香の手を掴んで立ち上がった。
「静香さんしっかりして下さい!」「何しやがる?!離せコラァ!」
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吉川と男が揉み合っている横をすり抜け、二人は再び走り出した。
路地裏を抜けると、そこにタイミング良くパトカーが到着する。
「何してくれんだよ!」「くっ‥!」
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「うわっ!何だぁ?!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/04/93/1faf1d3c6fc56210b9b251bc458bf042.jpg)
大勢の警官が吉川と男を取り囲むのと同時に、雪と静香は角を曲がって姿を消した。
「令状持ってんのかよ?!」「この人に殴られたんです!」
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その喧騒が、だんだんと遠くなる‥。
「はっ‥はっ‥」
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「はっ‥」
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静香の手を引きながら、雪は必死で走った。
息が切れ、再び静香の足は傷だらけになり血が滲む。
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いつしか二人は手を離し、走るその足もやがて止まった。
よろ、とよろけた拍子に、静香はその場に倒れ込む。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/41/92/0ab8c8c3df790b185e0314b148985fda.jpg)
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静香は地面にへたり込むと、焦点の合わない瞳で、うわ言のように言葉を発した。
「あ‥ああ‥」
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「なんなのもう‥は‥は‥」
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「底辺じゃん‥は‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/72/8d/a76ad9c13e36bed8d99d02c2274eaf0a.jpg)
見開かれた目からはボロボロと涙が零れ落ち、いつしかそれは滝のように静香の頬を濡らす。
「うっ‥うぅっ‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/23/d6/c0e417908dae152a06fb18f91d48a33b.jpg)
「亮ぅ‥淳‥会長ぉ‥」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/63/a0/261f6a61eea33314dc77c44a81b0309c.jpg)
しかし、地面に突っ伏す静香の口から出たのは、この期に及んで彼らの名前だった。
それを聞いた途端、雪の胸に猛烈な怒りが込み上げる。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/11/57/3df10ecdce19d2d612f0d74d5c2929d6.jpg)
バッ!
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0a/f7/5cb048563b80cf068ffa24a1f6d1b26c.jpg)
「いい加減にしなさいよ!!!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/21/df/9ac96667d445dffae8d6a6bced0a9605.jpg)
雪は静香の胸ぐらを掴むと、その目を真っ直ぐに見つめながら言葉を繰り出した。
「どうして誰も駆け付けて来ないのか、どうしてこんな目に合うのか、その原因を考えたことありますか?!
自分がこれまでして来たことを振り返ってみなさいよ!!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0e/13/faf5959b2daa3cc4a515f681516da4c6.jpg)
「あの二人から奪うだけで!あれだけ与えてもらっていたのに!!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/69/f9/20118e54f328028d8ae529a877a2407a.jpg)
「それなのに!!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/65/3f/4705370169eb77fdb18d3306cce28182.jpg)
「静香さんは何一つ返したことないじゃない!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/10/30/12074d00f57b14426fd412224de23c23.jpg)
雪の胸中は、複雑に歪んで揺れていた。
”与えられる”ことに飢えた魂が、痛いくらいに叫んでいる‥。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/05/41/24b234eb0e22f8f085f72e701e28331c.jpg)
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涙がその頬を流れ落ちるのを、雪はただ目の前で見ていた。
胸の中に湧き上がった怒りは、未だ轟々と燃え盛っている。
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![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5a/2b/8592774bb7ae0637ac7e1b24f0288e4f.jpg)
二人は暫しそのままの姿勢で向き合っていたが、
やがて静香は顔を逸らし、ふっと軽く吹き出した。
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「何言ってるの?どうしてあたしが?」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/29/c2/cf54d6e671b9fe199e3ddadb4e63909c.jpg)
「あたしは‥」
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![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/51/14/031c2158c56545a211fed18aba772248.jpg)
「空っぽで何も返せない‥」
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真っ暗な奈落の底に堕ちないように、必死に足掻いて、足掻いて、足掻いて来た。
けれど本当は気付いていたのだ。
もうとっくに自分は、何も持ってはいなかったのだとー‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<囚われた虎(8)ー空っぽー>でした。
雪ちゃん!!よくぞ言ってくれた!!
往年の静香に対するモヤモヤを言葉にしてくれました。
今までの静香なら殴り合いになってたかもしれませんが、こんな時だから響きましたよね。
最後に口にした静香の本音が、重たいですね‥。
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顔、つるんと元通りやがな!
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脅威の回復力が空回り!
次回は<見えない傷>です。
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