Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

<亮と静香>高校時代(12)ーニ人の関係ー

2014-09-30 01:00:00 | 河村姉弟1<幼少期~本当の家族>
「な、何するんですか?!」



淳の彼女が、声を震わせながらそう叫ぶ。視線の先には、河村静香の姿があった。

「何言ってんの?あたしが何か?何ってどーゆー意味?何ってなんなの?」

「そっちが足掛けて来たんでしょう?!」



しらばっくれる静香に対して、彼女は反論した。しかし静香は平然とした顔で、「証拠でもあんの?」と言い返す。

彼女は顔を青くしながら、静香に向かって声を上げた。

「あ‥あなたが淳君につきまとって彼の元カノさん達をいじめてたの、知っていますから!

あたしには効きませんよ?!全部淳君に言って‥」
 「ふーん。あっそ」



必死になって声を荒げる彼女の前で、静香は適当な相槌を打ちながら携帯を取り出す。

そして静香は呆れたような顔をしながら、彼女に言い返した。

「元カノ達が理由も無しに、ただサンドバックになったとでも思ってるの?

彼女の座を射止めると、ちょっと特別になったように感じちゃうのねぇ」




ふっと息を吐きながら静香が紡いだ言葉の意味を、彼女は図りかねた。

しかし彼女が口を開くより先に、静香は電話をし始める。

「もしもし?あ、淳ちゃん~。あたしちょっと身体がだるくって‥

うん、熱があるみたい。さっきまで大丈夫だったんだけど‥風邪引いたかも‥」




ケホッケホッと、静香は偽の咳をしながら淳に電話を掛けた。身体の具合が悪いという芝居を打つ。

「学校終わった後で、家まで送ってくれる?吐いたから気持ち悪くって‥」

「そんなに酷いの?」 「そんなにではないけど‥」



静香はしおらしい芝居を続けながら、悲しそうな声で淳にこう聞いた。

「あ‥でも今日約束あるのよね?彼女と‥」「いや大丈夫だよ。ちょっと延期してもらうさ」



ごめんねぇ、と返す静香に向かって淳は、淡々とした声のトーンでこう返した。

静香はそれがよく聞こえるよう、彼女の目の前に携帯を翳して淳の声を聞かせる。

「俺が上手く言っておくよ」



彼は平然と、彼女に嘘を吐くと静香に言う。何の罪の意識も感じられない、普段通りの声のトーンで。

「それじゃ後で病院連れてくよ」「うん、分かった。ありがとね~それじゃ後で~」



固まっている彼女に、静香は人差し指を出して見せた。

「ほらね、」と勝ち誇った気持ちが静香の胸の中を締める。



そして静香は電話を切ると、鼻歌を歌いながらその場から駆けて行った。

身動きも取れない彼女をその場に残して。





放課後になり、淳と静香は待ち合わせの場所にそれぞれ向かった。

先に来ていた静香の様子を、淳は疑心の込もった眼差しで見ている。



そこで待っていた静香は、およそ病人とは思えぬ様子でそこに立っていたからだ。

血色も良いし、どこか嬉しそうな顔をして、淳に向かって手を挙げる。



淳は静香に近寄ると、一言こう聞いた。

「具合悪いんじゃないの」



静香は淳の問いに対して、「あ‥」と声を漏らしたきり何も言わなかった。

淳は静香の嘘を知り、彼女のことを冷めた目で見下ろす。



淳は溜息を吐きながら、それでも彼女の芝居に付き合うことにした。

「それじゃ病院に‥」と歩き出そうとした淳の腕を、静香が両手で掴んで引き止める。



静香は真っ直ぐ淳のことを見上げながら、微かに微笑んでこう言った。

「ううん、それより話があるんだけど‥」



その静香の言葉に、淳はキョトンとした表情を浮かべ、聞き返した。

「話?」



それに対して静香は下を向き、恥じらいながら言葉を続ける。

「うん‥もうそろそろ落ち着いてくれたら嬉しいんだけど‥」



しかし淳にはその意味が飲み込めなかった。オウム返しで聞き返す。

「落ち着くって?」



その淳の鈍感さに、静香はイラッとして目を開けた。



静香は腕組みをすると、幾分呆れたような表情でこう言葉を続ける。

「淳ちゃんさぁ‥いつまで知らないフリしてんの?どーせまたあの子とも別れるクセに!」



その静香の言葉を聞いて、淳はニヒルな笑みを浮かべた。

静香にしか見せない黒い微笑み。

「あ‥ちょうど今さっきね。誰かさんのお陰でさ。あんまり悪戯してんなよ」



彼女と淳が別れたことを知って、静香はククッと意地悪く笑った。

今まで淳が付き合ったどんな彼女にも、こういったことを仕掛けるとほぼ間違いなく破局する。

それを知っての静香の行動だったのだ。

静香は呆れたような表情を浮かべながら、諭すように淳に話し掛ける。

「どーせ好きで付き合ってたわけじゃないんでしょ。彼女の方が先に寄って来たのよね?」



静香の言葉が図星だった淳は、目を逸らしながら唇を尖らせた。

するとそれきり黙った淳の前で、静香も彼から目を逸らしながら何かを躊躇っている。



やがて静香は頭を掻きながら、ゆっくりと言葉を紡ぎ出した。

今まで胸に秘め続けてきた、その柔らかな純情を。

「淳ちゃんさぁ‥好きでも無い女の子と付き合わずに、あたしに落ち着いたらダメなのかな。

それならあたしも‥おとなしくしていられると思う。もう学校で問題を起こすのも止めたいし‥」




そして静香は顔を上げ、真っ直ぐ淳の方を見つめた。

彼女の本当の気持ちが、色素の薄いその瞳いっぱいに光っていた。

「あたし、淳ちゃんのこと好きなんだ」



その静香の告白に淳はキョトンとし、「え?」と聞き返した。

静香は照れたように、キャッと言いながら続ける。

「だ~か~らぁ!昔っから!」



そして静香は恥じらうように口元に手を当てながら、温めて来たその思いを口に出す。

「初めて会った時からなの‥」



静香のその表情は本物だった。言葉に出したその気持ちも。

すると淳も彼女の告白に対して、本当の気持ちが顔に出た。

「はぁ??」



淳は変な言葉でも聞いたかのように、眉を寄せながらそんな声を出した。

それは思いの込もった告白を受けた時のリアクションとは程遠いものだったが、

それが青田淳の真実の気持ちだった‥。




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<亮と静香>高校時代(12)ーニ人の関係ーでした。


静香からの告白‥。彼女もこんなピュアな表情をするのですね‥。

それに対しての淳のあの反応‥。この先、波乱の予感しかしません‥orz


そしてそして

ブログを初めてから494日、遂に本家に追いついてしまいました‥!!

ここまで長かったような、短かったような‥。じーん‥。

最初は毎日更新なんてムリだろうなと思っていましたが、どうにかここまで途切れることなくやって来ることが出来ました。

これも皆さんの励ましのお陰です。今まで温かく見守って頂き、本当に本当にありがとうございました‥(T T)


さてこれからは、本家が更新された週の内にその話の分の記事を、次の更新分が来るまでにアップ出来たら‥と思っております。

つまり本家更新が水曜の深夜ですので、次の水曜の深夜までにはその回の記事をアップする、と。

毎日更新は途切れますが、週単位では追いつくようにして行きますので、

どうぞこれからもご贔屓のほどよろしくお願いします‥


次回<亮と静香>高校時代(13)ー柔らかな純情ー です。


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<亮と静香>高校時代(11)ー三人の関係ー

2014-09-29 01:00:00 | 河村姉弟1<幼少期~本当の家族>
「河村教授のお孫さん達は、あたし達の子供じゃないじゃない」



マグカップを持った淳は、ふと通りがかった部屋から漏れる、母親の声を聞いた。

父と母が言い争う声が、小さく開いたドアの隙間から聞こえてくる。

「いや、それでもあの子たちを放ってはおけないよ」

「‥あなたが考えてることはあたしには分からないけど、

これだけは覚えておいて頂戴」




母はそう前置きをしてから、一つ息を吸ってその言葉を口に出した。

「あの子達は、あたし達の家族じゃないわ」



淳はその場に佇みながら、二人の話を聞いていた。

まだ彼らは会話を続ける。

「淳はまだ子供なのに、もし混乱でもしたら‥」「何を言ってるんだ。もう18だぞ」



「それに淳は、私が思っていたより遥かにあの子達と上手くやっている。それには私も驚いているんだ‥」



まだ話し合いは続きそうな気配を見せていたが、淳はそれ以上聞く気にならなかった。

スタスタと廊下を歩きながら、乾いた気持ちでこう思う。

どっちの言い分を聞けっていうんだよ‥



親の庇護の元にいる以上、どちらかの意見に従わなければいけないのは分かっていた。

そして最終的に自分がどちらの言うことを聞かなければならぬのかの結論も、淳にはもう分かっている‥。






ここは良家子女が多く通うB高等学校。

そのピアノ室から、滑らかなピアノの音が漏れている。



淳は微かに微笑みながら、その鮮やかな音色を聴いていた。

視線の先には、気持ち良さそうに演奏をする河村亮の姿がある。



亮の好きな、そして淳も好きだと言ったシューベルトのピアノ曲。

微笑みながら聴く淳の隣では、静香が面白くなさそうな顔をして座っている。



幼い頃から共に育って来た三人が、今同じ空間で同じ音を聴いていた。

滑らかに流れるピアノの旋律が、その親しんだ空気の中に溶けている。



少し手持ち無沙汰な静香は、チラッと隣に座る彼の横顔に視線を流した。

淳は大人しく亮の演奏を聴いている。






開け放した窓から風が入って、ふわりとカーテンを柔らかく揺らしていた。

風は、微笑みながら聴く淳の前髪もサラサラと揺らす。



窓から零れる午後の木漏れ日を背景にする彼は、とても美しかった。

その横顔を見ている静香の胸を、切なく締め付ける程に。



やがて最後の小節を弾き終えた亮は、幾分ふざけながら二人の方を向いた。

「タラン、タン、ターン!」

 

そして自信満々な面持ちで、淳に対してこう発言した。

「どーよ?お前ん家にあるCDよりイケてんだろ?」



そして亮は得意気に、以前淳がシューベルトの曲の中でもこの「即興の瞬間」は好きだと言っていたから演奏したのだと言った。

「耳が浄化されるだろ?」と冗談を言う亮に、淳は素直に頷いて、静香は不満げに「フン」と息を吐き捨てる。



静香は意地悪い表情をしながら、亮に向かって皮肉を吐いた。

「”蝉の幼虫もクルクル回ることは得意”ってね。どんな人間にも一つくらい取り柄があるもんよ」

「お前も暴れまくってぶち壊す才能だけはあるもんな‥」



亮と静香にとって、こんな皮肉の言い合いは日常茶飯事だ。それを淳が笑って聞いている。

この三人の、日常の風景だ。

「あっ!そーだ!」



不意に亮が声を上げた。

亮は新聞を引っ掴むと、バタバタと淳の方へと駆けて来る。

「てかお前これ見た?」「何?」「◯◯!このピアニストが来日するっつー記事があったんだよ!」



亮は興奮しながら、新聞に載っているとあるピアニストのことについて話し出した。

「オレが生きてる間はこの人日本に来るわけねーって思ってたのによぉ!

ヨーロッパ以外のツアー回ったこともねぇしさぁ!マジすっげーだろ?!」




キャッキャッと亮ははしゃぎながら、とにかく嬉しそうな顔をする。淳はそんな亮を見て、フッと息をついた。

「なんだ、それで今日はそんなに機嫌が良いのか。頼んでないのにピアノも弾き出すし」

「ウケケケ~!あったりきよぉ!オレぜってー行くんだこれ!これから嵐のようにバイトするぜ」



ゴキゲンの亮はそう言いながら、淳と肩を組んだ。

「お前も一緒に行く?まぁお前が行かねーっつっても連れてくけど!」



そんな亮の姿を見て、静香が淳の腕を取る。

「ハン!笑わせんなっつーの。

淳ちゃん知ってる?そのコンサートがある日ってアイツコンクールがあんのよ」




静香の言葉に、淳は目を丸くして「えっ?本当?」と聞き返した。

亮が顔を顰めながら、静香に文句を言う。

「あーもう!ったくよぉ!まーたお前はムードぶち壊すなよな!

別にデカイ大会なわけじゃねーし、◯◯が来日するなんて二度とねーかもしんねー。

オレはぜってーそっち行くかんな!」


「あー!じゃあそれ会長に言いつけてやろ!」



ギャアギャアと騒ぐ姉弟の隣で、淳は一人その新聞記事を眺めている。

ふぅん、と息を吐きながら。

「てかさぁ淳ちゃん~」



すると不意に静香が淳の方を向き、甘い声を出しながら彼に腕を絡めた。

「学校終わったら一緒に‥」

「淳君!」



静香が言い終える前に、彼らの背後から高い声が掛かった。

三人が振り向くと、そこに一人の女の子が立っている。

「ここに居たのね」 



「あ、来たんだ」と淳が言うと、彼女はニコッと微笑んだ。

そして淳にこう声を掛ける。

「一緒にカフェテリア行こ!」



黒い髪と大きな瞳が美しい、淳の今の彼女だった。

淳はその提案に、微笑みながら頷く。そして彼女は亮の方へと向き直り、彼にも声を掛けた。

「亮君もこんにちは。やっぱりピアノ上手だね。廊下に居る時ちょっと聞こえたの」



亮は「おぉ」と返事をしながら、彼女に対して笑顔を見せる。

そして最後に彼女は、仏頂面の静香にも挨拶をした。

「あ‥こんにちは」



しかし静香はそれを無視した。そしてこの場の空気が凍り付かない前に、

淳が「お先に」と言って彼女と共にピアノ室を出る。



学校の後映画見に行かない? 

いいよ



カップルの会話を聞きながら、亮と静香はその後姿を見送った。

二人の声が聞こえなくなると、静香が息を吐きながらこう言う。

「リアルにムードぶち壊したのは誰だっつーの‥」

「今までアイツが付き合った子の中で、あの子がいっちばーん♪かわええ



彼女から挨拶された亮はゴキゲンだった。そんな弟を見て、静香は苛つきに顔を歪める。

「なーにがいっちばーんよ。デレデレしちゃって。「りょおくんもこんにちはぁ~」ってか?」

「もしかしてお前、また変なことやらかすんじゃ‥止めろよな」



亮は静香のそのイライラを目にして、一応忠告した。

また問題を起こすんじゃないかと推測して。

「はぁ?変なことぉ?」



静香は亮からの忠告に対して、キョトンとした顔をしてそう言った。

しかし静香はこのわずか数時間後に、”変なこと”をしでかしに先程の彼女の元へと向かう‥。



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<亮と静香>高校時代(11)ー三人の関係ーでした。

とうとう今週更新分の本家に手が掛かりました‥!

毎日更新もあと一日!どうぞお付き合い下さいませ。


さて‥前回淳の部屋に残されていたサイン入り楽譜。

そのピアニストがコンサートを行うという日は、亮のコンクールと同じ日‥。

何かきな臭いにおいがしてきましたね。

遂に亮の指事件に向かって物語が動き出すのでしょうか‥。


次回は<亮と静香>高校時代(12)ー二人の関係ーです。


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彼のコレクション

2014-09-28 01:00:00 | 雪3年3部(対面~彼のコレクション)


雪はポケッとした表情で、そこに佇んでいた。

視線の先には、見たことのない部屋がある。



雪を探していた淳も、彼女に続いてこの部屋に入って来た。

「ここに居たの?そろそろ行こうか」「一体いくつ部屋があるんですか‥一人暮らしなのに‥」



雪はこの家の部屋数の多さに驚いていた。

パッと見狭そうに見えるこの家だが、迷路のように入り組んでいて、一体何部屋あるのか今も分からない。
(前回雪がここを訪れた時は、この部屋には入らなかったようだ)



そういう造りなんだよ、と淳がニッコリと笑って言う。

そして淳は雪に、自分の腕時計コレクションを見せた。

「ひゃあ‥」



それを見た雪は、思わず声を漏らした。高級そうな腕時計が、ズラリと並んでいる。

「これ全部でおいくら万円‥」



そう言って目を剥く雪に、淳は「高いのはあんまりつけないけどね」と言って、

今自分がつけている腕時計を雪に見せる。

「最近は雪ちゃんに貰ったやつばっかりだよ。どれか一つあげようか?欲しいのある?」

「いえ‥結構デス‥」



二人がそんなやり取りをしていると、不意に雪があるものに目を留めた。

「ん?」



雪はその棚に近づきながら、不思議そうな顔をして彼にこう聞いた。

「あの‥どうしておもちゃを飾ってるんですか?」



おもちゃ?と聞き返した淳だったが、飾ってあるラジコンカーに目を留めて、合点がいったという相槌を打った。

「あぁ‥。全部俺が小さい時に集めたものなんだ。

収集癖っていうか、色々なものを集めるのが好きで」




そこには、サイン入り野球ボール、蝶の入った額縁、ラジコンカーなど、実に多様な物が並んでいる。

淳は続けた。

「けど色々集めても、結局いつかは終わりが来るだろう。

だから一番好きなものを一つだけ残して、後は整理してるんだ」




幼い彼のコレクションの一片が、その棚にひっそりと飾られている。

先ほど目にした腕時計のコレクションのように、昔はきっと膨大な量のそれがあったのだろう‥。

「へぇ‥そうなんだ‥」



雪はそう相槌を打ちながら、惜しい気持ちがしてこう口にした。

「う‥でもなんか勿体無い‥」

「いいんだよ。結局自己満足なんだし」



雪はコレクション自体というより、それに掛かった費用が勿体無いと思っていたのだが‥。

それは口に出さないことにした。

「あれ?」

 

続けて雪が見つけたのは、一冊の楽譜だった。「即興の瞬間」、シューベルトのピアノ曲。

雪はパラパラとそれを捲ってみた。

「あ‥楽譜もあるんだ」



淳は雪の頭の上から、それに目を落としながら言う。

「あぁ、それね。俺の好きな曲なんだ」



そうなんですか、と言いながら雪はもう一度表紙を見ていた。

「Moment musical」と書いてはあるが、雪はそれをよく知らなかった。

「あ、サインも入ってるじゃないですか」「うん。有名なピアニストなんだよ」

 

うわぁ‥と雪は声を漏らしながら、その楽譜をマジマジと眺めた。

「先輩、ピアノにも興味があったんだ‥。

そういえば、クラシック好きって言ってましたもんね」




以前、二人は「好きな曲」について話をしたことがあった。

そういえば彼は「運転しながらクラシックを聴く」と言っていた‥。



すると淳は、少し言葉を濁しながら口を開いた。

「いやそれは‥」



「亮にあげようと思って貰ったものなんだ」



その言葉を聞いた雪は、目を丸くして固まった。

淳の口から河村亮の名前が出ると、わけもなく緊張する。

「そ‥そうなんですか‥?」「うん」



ニコッと微笑んだ淳に向かって、雪は恐る恐る問い掛けた。

「でも‥どうしてあげなかったんですか?」



淳は空を仰ぎながら、こう答えた。

雪の手から楽譜を柔らかに取り上げながら。

「‥それはもう時遅しだよ。色々な面でね」



淳は楽譜を手に取ると、そのままパラパラとそれを捲った。

雪は取り上げられたその格好のまま、彼の横顔を見上げてみる。



長い前髪のせいで、彼の表情はよく分からなかった。

しかし彼の発する空気から、今まで抱えて来たそのしがらみを仄かに感じる。



雪は彼の横顔を見つめながら、彼と亮とのことに思いを馳せた。

やっぱり二人は‥



単なる”高校の友達”程度の仲じゃなかったってことは聞いたけど‥

それよりはるかに特別な関係だったんだろう‥




彼の手元に残っている、一冊の楽譜。

有名ピアニストのサインが入っているということは、そうそう手に入る物ではないだろう。

そして今でもそれを、彼は本棚の端に残しているのだ。

どうして‥これほどまでになってしまったんだろう‥



淳と亮の関係がこじれた原因を、雪はまだあやふやにしか分かっていなかった。

そしてそんな思いを馳せる雪の前で、淳は楽譜を手に沈黙している。



じわじわと、過去の記憶が淳の脳裏に蘇る。

あの時の、暗い記憶が‥。


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<彼のコレクション>でした。

彼の部屋に残った、彼を形作った様々な物たち。

蝶の入った額縁もラジコンカーも、そのエピソードが以前ありましたよね。
(野球のボールが気になりますね‥)

そして淳の本棚に残った、シューベルトの楽譜。

F. Schubert - Moment Musical Op.94 (D.780) No.3 in F Minor - Alfred Brendel


「Monent musical」小曲集の中で、「第三番」が一番好きだと淳は以前言っていましたね‥。

さて彼らの過去に一体何があったのか‥気になります。


そして淳の時計コレクションの見事なこと!

「高いのはあまりつけない」と言っていた淳を見て、一部のこの場面を思い出しました。



健太さん‥淳はガチの金持ちでした‥。。



次回は<亮と静香>高校時代(11)ー三人の関係ーです。

過去編です。

河村姉弟カテゴリーですね。


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俺と君

2014-09-27 01:00:00 | 雪3年3部(対面~彼のコレクション)


高層マンションの一室で、青田淳は一人テーブルに突っ伏していた。

しんとしている室内。






淳は人差し指で、そっとテーブルをなぞった。

つるりとした少し冷たい感触が、肌に心地良い。



淳の口元には、柔らかい笑みが浮かんでいた。

先ほど耳にした、彼女からの告白が蘇る。

”好きだってこと‥”

 

初めて聞いた「好き」という言葉。

真っ赤になって、声を震わせて、一生懸命思いを伝えてくれた。

”先輩のことが‥前より‥もっと‥”



初めて彼女の方から、自分に手を伸ばしてくれた。

”ただ、先輩を知りたいから‥”



自分を受け入れてもらうという、心地良さ。

彼女が自分の傍にいるという、この安心感‥。



淳は安らかな笑顔を浮かべながら、その心地良さに身を任せていた。

彼女の恥じらう姿や一生懸命なところが、いじらしくて堪らない。



はは、と小さく笑いながら、淳は少し頭を俯せに倒した。

腕にピッタリと付けた右耳から、自分の心臓の音だけが聞こえる。



トン、トン、トン、トン。

生まれながらに持ったそのリズム。規則的に刻む心の音。

淳は思った。

でもね、雪ちゃん。

互いに正直に話をするということは‥




頭の中に、レポート事件で言い争いになった時の雪の姿が浮かぶ。

”本当に先輩がやったんですか?” ”ありがとうとは言えそうにないです”



あの時、淳は呆然として眺めていた。

徐々に自分から離れて行き、だんだんと小さくなっていく、彼女の後ろ姿を。



あの時の記憶が淳を縛る。

そして彼はこう思うのだ。

互いに正直に話をするということは、

理解してくれるという前提があってのことだろう?




規則的なリズムを刻む身体が、秩序の保たれた部屋で一人考える。

「理解‥」



トン、トン、トン、トン。

そのリズムの中に、「理解」という単語がその秩序を乱して入り込む。

理解‥



頭では分かっていた。

その単語の意味も、必要性も、その意義も。

けれどそれを前提とさせるためのやり方が、分からなかった。

淳はその一定のリズムの中で、じっと”理解”について思考を巡らせる‥。




「先輩?」



しんとした部屋を震わせる、鈴の音のような心地良い声。

淳はその声に身体を起こし、微笑みながら振り返る。

「ん?」 「疲れちゃってます?」



そこには、彼の服を着て、腰の辺りを押さえながらこちらにやって来る雪の姿があった。

彼の顔を見て、雪はどこかぎこちない面持ちだ。



雪は照れくさそうに、時計を探しながら彼に言った。

「あ‥こんな遅くなっちゃって‥」 「ううん、大丈夫だよ」



微笑んだ淳がそう返すと、二人は顔を見合わせて黙り込んだ。

しかし次の瞬間、雪のズボンがズルリとずり落ちる。

 

「ひいっ!」と言いながら雪は、必死にズボンを腰まで手繰り寄せた。

淳が「結べばいいんじゃない」と言いながら、彼女の腰に手を伸ばす。



雪は真っ赤になりながら、「いや先輩がやる必要ないからっ!」と彼の手を拒んだ。

その強い力に押し退けられる淳。



淳は両手をホールドアップしながら、彼女を見上げてクスッと笑った。

何を今更、そんな表情をして雪を見る。



雪は淳のその顔を見て、彼の考えていることを感じ取って赤面した。

シャワーを浴びる前のあの出来事‥。今思い出しても、顔から火が出そうなのだ。



淳もまた雪の赤面を見て、彼女が考えていることが分かった。

ニコニコと笑いながら、彼女を後ろから抱き締める。

「服は持って帰って、洗ってお返ししますね‥」「んー?気にしないで。大丈夫だよ」



そして淳はその体勢のまま、雪の頬に二度軽いキスをした。

思わず雪はその姿勢で固まる。



いつまでたっても自分を離さない淳を、雪はまたもや軽く押し退けた。

「か、髪がまだ乾いてないの!髪が!」

「大丈夫だってば」



彼から抱き締められて、キスをされて、再び身体があの感触を思い出す。

雪は恥ずかしくて堪らないという表情をしながら、淳の方を振り返る。



淳はそんな彼女の反応を見て、本当に楽しそうな顔で笑った。

はは、と声を上げながら。



涼しい顔をしている淳を見て、雪は少し怒ったように彼に背を向ける。

「もう!からかわないで下さい!」



淳はポケッとした表情で、彼女の後ろ姿を眺めた。

向けられた背中、小さくなっていく後ろ姿‥。



何度も目にした彼女のそれだが、今の彼女の後ろ姿は、今までとはまるで違う。

‥耳まで真っ赤だ。



ずり落ちるズボンを気にしながら、恥ずかしさを必死にこらえながら、

今彼女は彼の部屋に居た。

彼と同じ空間の中に。



自分を受け入れてくれる存在が、自分と同じ空間の中に居る。

淳はそんな今の状況を理解しながら、雪の背中を見つめていた。

何よりも望んでいた彼女との平穏な時間が、今この手の中にある‥。



淳は雪の背中に追い付くと、彼女の肩に手を回した。もう片方の手で雪の頭を撫でる。

「髪が乾いてから家に送って行くからね。親御さんが心配されるから」

「え?いや地下鉄まだあるし大丈夫ですよ。先輩明日も出勤だし‥」



淳は優しく微笑んで返した。

「ううん、大丈夫だよ」



そして彼は悪戯っぽい笑みを浮かべると、以前彼女からされた仕打ちを話題に出す。

「絶対送っていくよ。また蹴られるのはゴメンだからね」 「あーもうっ!



淳はククッと笑いながら、雪の身体にその長い腕を回して歩く。

雪は苦々しい顔をしながら、からかってくる彼に対して仕返しする。

「先輩寝てる時歯ぎしりしてるの知らないでしょ?イビキかいてヘソ掻いて寝てるんだからね!?」(嘘 

「ククッ‥それでも足で蹴るよりいいじゃない」 「くっ‥



歩いている先から、雪のズボンはどんどんずり落ちて行く。

淳はそれを止めようとする雪の後ろから、お腹のあたりをコチョコチョとくすぐった。

「ほらほら、またもがいてる」「あっ‥!ああぁーーっ!」



二人の声が、先程まで静謐だった部屋に賑やかに響いている。

止めて止めてと、雪が笑う。そんな彼女を見て、彼が楽しそうに微笑む。



雪のことを見つめながら、淳は思った。

もし正直に話したら、きっと君はまた怒ってしまうから‥



この今の平穏な時間を、失いたくない。

彼女の笑顔を、手放したくない。

たとえ自身を、押し隠すことになったとしても。



雪と淳は二人並んで、共に歩いた。

ふざけ合いながら、笑い合いながら、二人一緒に。


けれど既に淳は、気がついていた。


もう分かってるんだ。




それは残酷で目を覆いたくなるような結論だったが、しかしそれこそが淳が辿り着いた真実だった。


俺達は、互いに別の人間だということを。





彼女を”同類”だと思っていた彼は、数々の衝突を経て今、その真実に気がついていた。

だからこそ、怖かった。

全てを曝け出すことなんて、もうとっくに出来なくなっていた。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<俺と君>でした。

もう今回の盛りだくさんなことと言ったら‥!

まず前提として「二人が結ばれた後のシチュエーション」という解釈から記事を始めさせて頂きました。

だってコーヒー零した雪が着替えるだけなら、雪がシャワー浴びる必要も、淳が着替える必要もないわけで‥。
(しかも雪ちゃん、あんまり敬語じゃなくなってる!)

とにかく二人は一線を越えたと、そう解釈させて頂きました‥!


そして淳のモノローグ。

ここの内容が、3部27話の後の「特別編」の雪のモノローグと重なります。

(ブログ記事はこちら→<特別編 あなたと私>

”私達は完全に別の人間だから”という、あの時の雪の結論と淳の結論が今回重なったわけです。
(2部最後の方で変態男に言った、「俺とあの子は同類だから」という淳の考えがそこから変わったことが判明しましたね)

けれどその先で二人が取っている行動が全く違う。

雪が正面から淳にぶつかったのに対し、淳は雪が「去って行く」のを恐れて自分を押し隠す。

幼い頃、父親から「おかしな子供」を見るような目で見られた傷が、まだ彼の中に残ってるわけです。

雪が不器用ながらに家族とぶつかって良い方向へと道が開けたように、この先彼も自分の手で扉を開けなくてはなりませんね。

埋めてきたコアを、自分を変えるのは、自分しかいないのですから。


物語が、佳境に入って来ましたねぇ‥。


さて次回は<彼のコレクション>です。


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待ちぼうけ

2014-09-26 01:00:00 | 雪3年3部(対面~彼のコレクション)


初冬の夜空に、ネオンの灯りがぼんやりと反射して鈍く光っている。

赤山家はただ今、時計を睨んで家族会議中だった。

「どうしてこんなに遅いんだ?連絡もしないで!」



時刻は夜九時二十五分。

雪の父親は先ほどからずっと時計と睨めっこをしている。そんな彼を見て、雪の母親は溜息を吐いた。

蓮が父に軽い口調で言葉を返す。

「え~今更?大学遠いんだから、元々遅いじゃんか」

「あと少しで十時じゃないか!」 「まだそんなに遅い時間でもないじゃない」



呑気に構えている母と蓮と、次第にイライラが募って行く父。

すると蓮は携帯を取り出し、そんな父に声を掛ける。

「待ってて父さん!俺電話掛けてみる!」



亮は店の外で、そんな赤山家のやり取りをそっと窺っていた。

亮の胸中もまた、ザワザワと騒いで落ち着かない。

「ったく‥どうせこんなこったろーと思ったよ!催涙スプレーまで買ってやったってのによぉ!

てかなんでこんなにおせーんだよ‥」




亮もまた、警戒心があまりないように思える雪を歯痒く思い、連絡の無い今の現状が気がかりだった。

昨日雪がイタチ男に追いかけられたことを先ほど赤山家から聞いたのもあって、ずっとソワソワと落ち着かない。

「亮さ~ん。電話したけど出ねーわ。

メールしてみるから、亮さんからも送ってみてくんない?」




あぁ?と聞き返す亮に、蓮は父親からの指示なんだと言った。

店の中では、父と母がまだ言い合いを続けている。

「変態に囲まれてメールも出来ないのかもしれないぞ?

どうしてこんなに警戒心が無いんだっ!」
 

「子供じゃあるまいし‥別にそんな遅くもない時間じゃないですか」

「遅いじゃないか!息子じゃないんだぞ!女の子がこんな時間まで‥」



まだガミガミやっている二人の間に、蓮が「はいはいストップストップ~」と仲裁に入った。

亮は携帯を眺めながら、未だ連絡の無い雪のことを考える。



危険な目に合っていなければ良い。もしかしたら淳と一緒なのかもしれないし‥。

そう考えると亮の胸中は、複雑な感情が渦巻いて揺れる。



空を見上げてみた。

ネオンが反射してぼんやりと光る空。星も月も見えない空。

車の走行音に混じって、木枯らしが吹き抜けて行くヒュウウという音が聞こえる。



亮はその風の冷たさに身震いした。

身体に腕を回し、空を見上げてポツリと呟く。

「あー‥さっみぃ‥」



それでも亮は、店の中には入らなかった。

寒さに身を震わせながら、彼女が帰って来るのを待ち続ける‥。



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<待ちぼうけ>

今回短い記事になってしまってすいません~。その代わり次回が長めなのでお許しを‥!

赤山家+亮が皆雪に待ちぼうけを食らわされる回でした。

横山を実際目にしている父は落ち着かなくて、話だけ聞いただけの母はのんびり‥という違いがまた‥^^;

仲裁に入る蓮といい、赤山家は良いまとまりが出て来ましたよね。


次回は<俺と君>です。

(次回は完全私の解釈で書いちゃってます‥!ご了承よろしくです‥!!)

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