暫し玄関先で顔を突き合わせていた雪と淳だが、
やがて淳は雪の為にスリッパを用意してやった。彼女を室内へと促す。
「上がって」 「はい‥」
雪はおずおずと廊下を進んだ。
淳はそんな彼女のことを凝視している。
「どうして‥」と口にする淳に対し、雪は下のオートロックを、他の人が通る時に一緒に入って来たと答えたが、
そういう意味での「どうして」では無かったかと思い直し、俯きながらこう答える。
「じっとしていられなくて‥大学からその足で飛んで来たんです。
ずっと待ってたから‥」
その言葉に秘められた彼女の思いを感じ、淳は沈黙した。
じっと彼女のことを見つめる。
やがて淳は、決まり悪そうに頭を掻きながら口を開いた。
「いや‥本当に忙しかったんだ。
この前一回会社を抜け出して大学に行ったことで仕事が倍になって‥。
父親からも灸を据えられて‥」
彼の言葉を受けて、雪の脳裏に先日の光景が浮かぶ。
それじゃああの日来たのは‥
あの日大学に来た彼は、「インターン先には許可を貰ってるから大丈夫」と言ったのだが、実際は違ったようで‥。
「自分からさぼったなんて言い出せなくってさ。
なんかちょっと恥ずかしくて‥」
淳はそう言いながら、決まり悪そうに頭を掻いた。
雪はそんな彼の言葉を聞いて、どこか意外な気持ちがした。先輩が会社をサボったなんて‥。
暫し何も言えない雪だったが、不意に淳がくるりと振り向いてこう口にした。雪はおずおずと答える。
「楽にして座って。何か飲む?雪ちゃん、甘いもの好きだったよね?」
「はい‥あ、でもお構いなく‥」
来ることを知っていたら何か買っておいたのに、と淳は口にしてキッチンへと向かった。
お茶の用意をする彼の後ろ姿を、雪はソファに座って眺めている‥。
やがて淳は温かいコーヒーとパイを皿に載せ、雪の前に置いてやった。
雪はコーヒーに口をつけながら、沈黙を保っている。
そして暫く経った頃、雪は口を開いた。
「話をしに‥来たんです」
雪の言葉に対し、淳は一言「何を?」と尋ねた。
雪は俯きながら、来宅の理由を続けて口にする。
「それは‥色々です。
メールに書いたように、先輩に聞きたいことや答えて欲しいことが、沢山あります」
そして雪は顔を上げ、淳に向かってこう質問した。
「あの日‥先輩は怒ってましたよね?
私と河村氏が仲良くなったから‥」
そう言った雪の顔を、淳はじっと見つめていた。
彼は何も答えない。
雪は覚悟を決めるように、一つ息を吐いた。
河村亮に対する自分の思いを、言葉に出す為に。
そして雪は再び俯き、額の辺りに手を当てながら、自分の気持ちを話し出した。
「‥そうです。かなり親しくなりました。
沢山助けてもらったし、それで私もその分だけ助けてあげたいって思って‥。
正直言うと‥河村氏に高卒認定試験も受けて欲しいし、ピアノももう一度弾いて欲しい。
そして自分なりの人生を探して欲しいと思っています」
淳は黙ってそれを聞いていた。幾分目を丸くしながら。
雪は依然として俯いている。
雪は続けた。
テーブルを眺めながら、幾分強い口調で本心を口に出す。
「そして‥先輩と河村氏、互いが持っているわだかまりが、少しでも解ければ良いと思いました」
それを聞いた淳は、目を丸くした。
強い口調で語られる彼女の本音。彼女は、淳と亮の和解を望んでいる‥。
強く言い切る形で自分の意見を口にした雪だったが、口にした後で少しそれに対して揺らぎを見せた。
気まずさを隠すように、髪の毛を触りながら言葉を濁す。
「いやだから‥絶対そうしろってわけじゃなくて‥」
「先輩と河村氏が、お互いをものすごく嫌って恨み合ってるのが見て取れるから‥。
詳しい事情も知らずに、深く口出しすることも出来ないですけど‥。
とにかく‥周りの人達が上手くいってる方がやっぱり良いですから!」
「二人の間に立つ人間」の立場として、雪は先程の発言の根拠をそう述べた。
淳は彼女に向かって「雪ちゃん」とその名を呼ぶが、
雪はその続きを待たずに話を締め括った。「河村氏に関する話は以上です」と。
とにかく自分が話すべきことを、まずは全て口にする必要があった。
雪は鞄から携帯を取り出しながら、彼に向かってこう続ける。
「謝罪はあの時沢山したし、説明することもこれ以上ありません。
あとはもう、先輩に聞きたいことだけです」
淳は続きを待ちながら、「何を?」と口にして先を促した。
すると雪は言葉の代わりに、あの画像を表示してその意味を示す。
それを目にした淳の眉が、ピクリと動いた。
雪は彼の顔が直視出来ず、気まずい思いを抱えて目を逸らす。
そして話の内容は、静香のことへとその舵を切って進んで行く‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<対面(1)ー亮の話ー>でした。
あの日、先輩が会社をサボって大学に来ていたことが発覚‥。
せっかく若作りまでして雪に会いに来たのに、雪と亮の絆を見せつけられ、
こんなんなっちゃって‥↓
あ、ちがいましたね‥。こんなんなっちゃって‥↓
挙句そのサボったツケで仕事に追われる日々‥。
なんか哀れで泣けてきます‥なんとなく人間臭くて少し微笑ましくもありますが。。
さて雪と淳の対面、まずは亮の話から始まりました。意見の分かれる所だとは思いますが、
私の意見は、少し雪ちゃんに厳し目ですかね~‥。穿った見方をすれば、「私が気まずいから二人仲直りして」という、
自分本位な主張なのかな~と少々思ったり。。さすがに偏見ですかね‥^^;
でももし自分が雪ちゃんだったら、そう思うのかもしれません。。人というのはワガママな生き物だ~^^;
さて次回も対面続きます。
次回<対面(2)ー静香の話ー>です。
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やがて淳は雪の為にスリッパを用意してやった。彼女を室内へと促す。
「上がって」 「はい‥」
雪はおずおずと廊下を進んだ。
淳はそんな彼女のことを凝視している。
「どうして‥」と口にする淳に対し、雪は下のオートロックを、他の人が通る時に一緒に入って来たと答えたが、
そういう意味での「どうして」では無かったかと思い直し、俯きながらこう答える。
「じっとしていられなくて‥大学からその足で飛んで来たんです。
ずっと待ってたから‥」
その言葉に秘められた彼女の思いを感じ、淳は沈黙した。
じっと彼女のことを見つめる。
やがて淳は、決まり悪そうに頭を掻きながら口を開いた。
「いや‥本当に忙しかったんだ。
この前一回会社を抜け出して大学に行ったことで仕事が倍になって‥。
父親からも灸を据えられて‥」
彼の言葉を受けて、雪の脳裏に先日の光景が浮かぶ。
それじゃああの日来たのは‥
あの日大学に来た彼は、「インターン先には許可を貰ってるから大丈夫」と言ったのだが、実際は違ったようで‥。
「自分からさぼったなんて言い出せなくってさ。
なんかちょっと恥ずかしくて‥」
淳はそう言いながら、決まり悪そうに頭を掻いた。
雪はそんな彼の言葉を聞いて、どこか意外な気持ちがした。先輩が会社をサボったなんて‥。
暫し何も言えない雪だったが、不意に淳がくるりと振り向いてこう口にした。雪はおずおずと答える。
「楽にして座って。何か飲む?雪ちゃん、甘いもの好きだったよね?」
「はい‥あ、でもお構いなく‥」
来ることを知っていたら何か買っておいたのに、と淳は口にしてキッチンへと向かった。
お茶の用意をする彼の後ろ姿を、雪はソファに座って眺めている‥。
やがて淳は温かいコーヒーとパイを皿に載せ、雪の前に置いてやった。
雪はコーヒーに口をつけながら、沈黙を保っている。
そして暫く経った頃、雪は口を開いた。
「話をしに‥来たんです」
雪の言葉に対し、淳は一言「何を?」と尋ねた。
雪は俯きながら、来宅の理由を続けて口にする。
「それは‥色々です。
メールに書いたように、先輩に聞きたいことや答えて欲しいことが、沢山あります」
そして雪は顔を上げ、淳に向かってこう質問した。
「あの日‥先輩は怒ってましたよね?
私と河村氏が仲良くなったから‥」
そう言った雪の顔を、淳はじっと見つめていた。
彼は何も答えない。
雪は覚悟を決めるように、一つ息を吐いた。
河村亮に対する自分の思いを、言葉に出す為に。
そして雪は再び俯き、額の辺りに手を当てながら、自分の気持ちを話し出した。
「‥そうです。かなり親しくなりました。
沢山助けてもらったし、それで私もその分だけ助けてあげたいって思って‥。
正直言うと‥河村氏に高卒認定試験も受けて欲しいし、ピアノももう一度弾いて欲しい。
そして自分なりの人生を探して欲しいと思っています」
淳は黙ってそれを聞いていた。幾分目を丸くしながら。
雪は依然として俯いている。
雪は続けた。
テーブルを眺めながら、幾分強い口調で本心を口に出す。
「そして‥先輩と河村氏、互いが持っているわだかまりが、少しでも解ければ良いと思いました」
それを聞いた淳は、目を丸くした。
強い口調で語られる彼女の本音。彼女は、淳と亮の和解を望んでいる‥。
強く言い切る形で自分の意見を口にした雪だったが、口にした後で少しそれに対して揺らぎを見せた。
気まずさを隠すように、髪の毛を触りながら言葉を濁す。
「いやだから‥絶対そうしろってわけじゃなくて‥」
「先輩と河村氏が、お互いをものすごく嫌って恨み合ってるのが見て取れるから‥。
詳しい事情も知らずに、深く口出しすることも出来ないですけど‥。
とにかく‥周りの人達が上手くいってる方がやっぱり良いですから!」
「二人の間に立つ人間」の立場として、雪は先程の発言の根拠をそう述べた。
淳は彼女に向かって「雪ちゃん」とその名を呼ぶが、
雪はその続きを待たずに話を締め括った。「河村氏に関する話は以上です」と。
とにかく自分が話すべきことを、まずは全て口にする必要があった。
雪は鞄から携帯を取り出しながら、彼に向かってこう続ける。
「謝罪はあの時沢山したし、説明することもこれ以上ありません。
あとはもう、先輩に聞きたいことだけです」
淳は続きを待ちながら、「何を?」と口にして先を促した。
すると雪は言葉の代わりに、あの画像を表示してその意味を示す。
それを目にした淳の眉が、ピクリと動いた。
雪は彼の顔が直視出来ず、気まずい思いを抱えて目を逸らす。
そして話の内容は、静香のことへとその舵を切って進んで行く‥。
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<対面(1)ー亮の話ー>でした。
あの日、先輩が会社をサボって大学に来ていたことが発覚‥。
せっかく
こんなんなっちゃって‥↓
あ、ちがいましたね‥。こんなんなっちゃって‥↓
挙句そのサボったツケで仕事に追われる日々‥。
なんか哀れで泣けてきます‥なんとなく人間臭くて少し微笑ましくもありますが。。
さて雪と淳の対面、まずは亮の話から始まりました。意見の分かれる所だとは思いますが、
私の意見は、少し雪ちゃんに厳し目ですかね~‥。穿った見方をすれば、「私が気まずいから二人仲直りして」という、
自分本位な主張なのかな~と少々思ったり。。さすがに偏見ですかね‥^^;
でももし自分が雪ちゃんだったら、そう思うのかもしれません。。人というのはワガママな生き物だ~^^;
さて次回も対面続きます。
次回<対面(2)ー静香の話ー>です。
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