Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

<雪と淳>閉講パーティー(4)

2016-05-09 01:00:00 | 雪2年(曰く~閉講パーティー)
雪は壁に手を付きながら、ようやくトイレから出て来た。

床も天井も全てが歪み、ゆらゆらと揺れている。



ひっく、としゃっくりを交えながら、雪は一人ブツブツと呟いた。

「何が良い選択よぉ‥」



「良い選択なんだよぉ‥」



「自己正当化ぁ‥」



あっちへフラフラこっちへフラフラしながら、ようやく雪は外へ出た。

揺れる地面に足を取られながら、俯き加減で揺れながら歩く。



ドン!



すると目の前に男性が居たらしく、雪はその人とぶつかってしまった。

「あ~すいません~」



その人は何も言わない。

雪は彼の顔を見ることなく、再びそのままフラフラと歩いて行く。



すると足がもつれ、視界がぐらりと揺れた。

「あっ」



「ありが‥とぉ‥」



転びかけた雪を、彼はその腕を取って支えた。

けれど雪は笑いながらその手から身を離し、一人でまたフラフラと歩いて行く。

「あ~大丈夫ですぅ‥」



「一人で歩けますんでぇ‥。私はぁ‥一人でやってけるんでぇ‥」



どれだけ酔っ払っていても、正気じゃなかったとしても、やはり雪は雪だった。

誰にも頼らず、フラフラと揺れながらも、たった一人で歩いて行くのだ。

「うぅぅ‥」



彼はそんな雪の背中に、低い声でこう問いかけた。

「本当に休学するの?」



しかし雪は振り返らない。

リアルと非リアルの境が曖昧な世界を、一人フラフラと闊歩して行く。

「私、ちゃんとまっすぐ歩いてるでしょぉ?」



「一人でちゃんとやれる子なんですよぉ、わたしはぁ‥」









その声が遠くなってからも、青田淳はじっとその場に佇んでいた。

若干の苛立ちを抱えながら。

手を貸そうと差し伸べたのに、あんな状態でも拒否されたのだ。

「一人でやっていける」と言われて。

「あ、そう」



赤山雪が、休学する。

淳の手の届かない場所へ、たった一人で、歩いて行ってしまうー‥。








閉講パーティーも終宴を迎え、ほろ酔い加減の学科生達は店の前で未だ談笑していた。

その中で淳は、一人その場に佇んでいる。



視線の先には、伊吹聡美と福井太一に介抱される赤山雪の姿があった。



淳の隣で、柳瀬健太が声を上げる。

「おーい二次会行くぞー!」



健太は、皆から少し離れた場所に居る雪達にも声を掛けた。

「お前ら何やってんだ?!淳が二次会奢ってくれるってよ!」



”淳”の名に、思わずピクリと反応する雪。

ようやく顔を上げた雪は、目を丸くしながら淳の居る方を見た。

「早く来いよー!」



淳は、”青田先輩”の笑顔を浮かべながら、じっと雪の方を見ていた。

二次会に選んだのは高いと評判の「ブルーマリン」。

彼女は食い付いてくるだろうか?







しかし雪は健太の声など耳に入っていないかのように、ただじっと淳の方を凝視していた。

少し酔いの冷めてきた頭で、先ほどぶつかった相手が誰だったかに思い至る‥。



「私パス‥」「えっ?」



「本当に帰っちゃうの?!」



雪は青田淳から背を向けると、呼び掛ける聡美にも構わず走り出した。

「雪!明日電話してね!」



雪は心の中で思っていた。

”結局、大事なことは何も言えなかった”

”青田淳、あの人の話を。私は今、あの人から逃げているということを”



雪はそのまま走り去った。

彼女が居なくなったことは、僅かばかりの人しか知らないまま。







空気を掴むように走り、走って、遠ざかって行く。

終わった



雪を取り囲む残酷な運命からも、人間関係のしがらみからも、そして青田淳その人からもー‥。

本当に完全に



雪はその全てから解放されたかのような心持ちで、顔を上げ風を掴む。



終わり











雪が居なくなってからも、皆はまだ店の外で思い思いの時間を楽しんでいた。

その中には、当然淳の姿もある。



けれど彼の心はここにはなかった。

去って行った彼女の方へ、無意識に視線を流してしまう。



そんな自分を打ち消すかのように、淳は再び皆の方を向き、笑顔を浮かべた。

しかし騒ぐ胸の内を、誤魔化すことは出来なさそうだ。



彼女の休学を阻止する為の算段を、今淳は頭の中で巡らせていた。

もう傍観してばかりでは手に入らないのだと、若干の覚悟を決めながらー‥。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<雪と淳>閉講パーティー(4)でした。

閉講パーティー、終わりましたね。

物語は冒頭へと繋がりましたが、その合間が描写されてる感じですね。

さて次回は<淳と遠藤>過ちを挟んだ後の、淳の話です。

<淳>旅立ちの前に です。

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<雪と淳>閉講パーティー(3)

2016-05-07 01:00:00 | 雪2年(曰く~閉講パーティー)
「私、休学する」



ようやく雪はその言葉を口にすることが出来た。

目の前に居る聡美と太一は、キョトンとした顔で雪を見つめている。



数秒後、太一が口を開いた。続いて聡美。

「ロッカーもらうっ」「あ!あたしが言おうと思ってたのにっ。それじゃあたし教科書もらうっ」

「あんたら‥



そして物語は冒頭へと戻る。

この先は、そこに描かれていなかった詳細を辿って行くことになる。





雪、聡美、太一の会話は続いた。

「最近学費のせいで休学する人多いッスけど、もしかして雪さんも?」

「まぁね‥奨学金、ちょっとは貰えたけど、あれじゃ焼け石に水だし‥」

「うんうん、確かに学費高すぎ!あんだけ金取るならエスカレーターくらい設置しろっての!」



「てかあんたマジで学費分の奨学金貰えなくて落ち込んでんの?」

「あんた達に私の気持ちが分かる?もぉマジ疲れた‥」



雪は再び青田淳の方をチラリと見て、苛立ち、

またしてもビールを飲み干した。



そして呂律の回らない舌で、二人に向かって精一杯叫んだのだ。

その大声に、思わず淳や柳もそちらの方を向く。

「あたしゃするよ!また休学してやる!」「うわー本気デスねこれ」



彼らは聞こえて来るその会話に耳を澄ました。

「あいつら何だって?」「休学するみたいですね」

「あ、そーなの?」「誰が?赤山ちゃん?」



そんな会話が繰り広げられているとは知らない雪は、

口元を押さえながらソファに凭れ掛かっていた。

「一緒に卒業したいのにー」「それじゃまたバイト地獄デスか」



しかし”赤山雪休学”のニュースは、柳達の気を引くほどのものではなかったようだ。

彼らはメニューを開いて飲み物を吟味している。

「そんじゃもう顔合わすこともねーのか。なぁ、もう一杯頼もうぜ」

「何頼みます?」



淳以外は。

「ねぇ雪、アンタ休み中またバイトすんでしょ?どこでやるの?」

「‥XX企業に願書送っ‥」



一瞬、目が合った。しかし雪はそれと同時に吐き気が込み上げる。

「マーケティン‥グ‥ぐうぅっ‥」

 

思わず吐きそうになり、急いで席を立つ雪。慌てる聡美と太一。

「ちょ、出る!出る!」



ドタバタと駆けて行くそんな雪達の様子を、淳は白けた顔で傍観していた。

「ついてこない‥で‥っ」「ここで吐いたら休学一年で済みませんヨー!」

「すんませーん」「赤山、ありゃ吐きに行くな」



近づいたと思うと逃げられ、向き合おうとすれば、それは適わない。

物事は想像もしなかった方向へと転がって行く。

そしていつだって、彼女にとって自身は敵だった。

「どうしていつも俺を見る度‥」



そう不満気にボソッと呟いた淳を見て、不思議そうな顔をする柳‥。






「うっ‥うぇぇっ‥うぇっ‥」



雪はトイレにて、胃に入ったものをひとしきり吐いた。

洗面で顔を洗いながら、鏡に映ったその疲れ果てた顔を見つめる。

「‥‥‥‥」



蛇口から流れ出る水の音が、やけに個室内に響いていた。

まだ酔いは残っているようで、周りの風景がぐにゃりと歪んでいる。

 

ふと、先ほどの太一の声が蘇った。

「それじゃなんでまた休学するんスか?」






水は吸い込まれるように、渦を巻いて排水口へと流れて行く。

「これからは気をつけろよ」



それを見ていると、あの日の青田淳が蘇る。

あの日そう言われる前も、こうしてトイレで一人怯えていた。



ぐにゃぐにゃと歪む床。

思い描いていたキャンパスライフは、今の視界のように滅茶苦茶になった。

あんなに頑張って大学通ったのに‥。

何がいけなかったんだろう‥なんでこんなことになっちゃったんだろう‥




思いつくのは、あの出来事しかなかった。

全ての発端は、あの時、自分が‥

嘲笑ったから?



「‥‥‥‥」



誤解だったとしても、悪意は無かったとしても、それが始まりになってしまった。

あの時以来の彼との因縁が、雪の現状を作っている。

結局全額奨学金も貰えずに、空白の期間だけが増える。

休学も無駄に二回することになって‥




ざぁぁと、水が流れる音だけが響いている。

聞こえないけれど、時間もこの水と同じようにずっと流れ続けているのだ。

理由はなんであれ、結局は‥



私は逃げてるだけだってこと‥



雪の心に、虚しさが広がる。

無駄に流れて行くとりとめのない時間を思うと、ただ言い様のない虚しさばかりが募るのだ‥。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<雪と淳>閉講パーティー(3)でした。

時系列、戻りましたね。

そしてその先は描かれていなかった隙間の描写を交え、進行していくみたいです。

じっくり読めて嬉しい半面、現在での物語の進行が気になる‥!あの保健室の続き‥!悶々‥


次回は<雪と淳>閉講パーティー(4)です。これで閉講パーティーは終わります。

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<雪と淳>閉講パーティー(2)

2016-05-05 01:00:00 | 雪2年(曰く~閉講パーティー)


雪は酔いが回った頭で、一体なぜ休学を決意せざるを得なくなったか、

ということについて考えていた。

 

先学期自身を悩ませた横山翔や平井和美、彼らと顔を合わせたくないというのも勿論ある。

けれどやはり、元凶はあの男だ。



胸の中にムカムカと憤りが沸く。

青田淳さえいなかったら‥

 

青田淳は涼しげに微笑みながらその場に佇んでいた。

自分が今どんなに青田淳のことを恨んでも、この場で彼のことをじっと睨んでも、現状は何も変わらない。

雪は彼から目を逸らし、空に近いジョッキに目を留めて考え続ける。

何なの?虚しいの?



胸の中をざわつかせるこの感情。

雪はじっとその正体について考えを巡らせた。

違う。ムカつくんだ



”虚しい”という受動だけの感情で、休学を決意するのは嫌だった。

雪は胸中にうねる感情にまかせて、テーブルに両肘を強く打ち付ける。

悔しいんだよ!



結局このまま尻尾巻いて逃げて終わりってか?!

何だっつーの?!私の今期の大学生活、こんな形で終わるの?




こんな形で‥??



身体を壊し、成績もいまいちで、経済的にも苦しい。

なぜ自分だけがこんな目に合わなきゃいけないんだろう。

顔を上げた先には、楽しげに皆と談笑するあの男の姿がある。

 

何の悩みもなさそうな顔で笑う彼の顔。

それを見ていると、雪の胸の中は黒く濁った。

ゴキゲンってか?



ああそうでしょうよ、アンタはゴキゲンでしょうよ。

私がいなくなったらもっとゴキゲンでしょうよ




あの狐野郎‥せいぜい良く食べ良く寝て幸せに暮らすがいいさ



雪は苛立ちを持て余しながら、ジョッキを手に立ち上がる。

私も今日は思う存分飲み食いしてここからサヨナラだ!バイバイ狐野郎!!

「え?アンタも乾杯すんの?」「止めといた方が良いデスよ」



聡美と太一の制止を振り切って、雪は勢い良くビールを飲み干す。

ぐわっ!!

「ちょっと!マジで止めときなって!」

「ちょ!俺のビール飲まないで下サイ!」



雪達の騒がしい声が、喧騒の中に溶けて行く。

そしていつしか、結構な時間が過ぎて行った。





「バイバイ‥」



テーブルの上の料理はあらかた食べ尽くされていた。もうお開きの時間が近い。

雪はソファに凭れ掛かりながら、うわ言のように何やらずっと呟いている。

「バイバイ‥永遠にぃ‥」



遠くで「そろそろ帰りたい人は帰ってねー」という声や、席を立つ人達の物音が聞こえる。

目の前には楽しそうにおしゃべりをする聡美と太一。店を出て行く同学科の学生達。

 

もう自分は休学するのだ。

彼らとも、聡美と太一とも、そして青田淳とも、バイバイするのだ‥。

「バイバイ‥」



雪の鼻から、鼻水が一筋流れている。

けれど酔いが回った雪にとっては、そんなことはどうでも良いことだった。

「アンタ相当酔ってるでしょ。つーか鼻水食ってるっつの

「もう休みに入るんだし、見逃してやりまショ」



まずはこの二人に、伝えなければ。

雪はソファから身を起こすと、二人に向き合って口を開く。

「?」



そして雪はようやく、その言葉を口に出すことが出来たのだった。

「私、休学する」



喧騒の狭間から踏み出す一歩。

まずはこの二人が、その目撃者だ。









その頃青田淳は、雪から離れた席にて顔馴染みの仲間と談笑していた。

いつものように、彼の周りに笑い声が響く。

そして彼自身も、どこか愉快な気持ちでその空間に溶け込んでいた。



これから始まる自身と赤山雪との大学生活。

どうやって彼女を捕まえようか。

淳の心は弾んでいた。





しかし次の瞬間、彼はとんでもないニュースを聞くことになる。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<雪と淳>閉講パーティー(2)でした。

最後、セピアからカラーに戻るコマ!物語が元の時系列に戻る瞬間ですねー!ゾクゾク!

そして物語は冒頭に戻りますが、この先の細かい描写がもう少し続くみたいです。

ですので次回も<雪と淳>閉講パーティー(3)です。

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<雪と淳>閉講パーティー(1)

2016-05-03 01:00:00 | 雪2年(曰く~閉講パーティー)


今日で雪の、二年生最後の学期が終わる。

閉講パーティーと銘打たれたその飲み会に、ほとんどの学科生が参加した。



期末試験も終わり、これから冬季休みが始まる喜びに、皆自然とテンションが上がっている。

太一は目の前に置かれた料理を頬張り、聡美は笑顔で皆と会話を楽しんでいる。



その中で、一人疲れ果てた顔をしているのが雪だった。

皆の声が楽しそうに響く中で、まるでその狭間に沈み込んでいるかのように。



同期達が携帯を片手に何やら盛り上がっている。

目の前にはお酒もつまみもたっぷりと用意されている。



けれど何一つ、雪の心の琴線に触れなかった。

「沢山食べてね」と掛かる声にも、ただ曖昧に頷くだけだ。



隣の席の女の子が、声を掛けて来た。雪はそれに如才無く返答する。

「期末どうだった?」「うーん‥まぁまぁかな。そっちは?」「聞かないでー」



毒にも薬にもならないそんな会話を繰り返した。

店内にはガヤガヤとした喧騒が溶け、誰しもが楽しそうな表情を浮かべているように見える。

けれど雪の胸中には、最近頓に感じている虚しさばかりが広がっていた。



その穴を埋めるかのように、雪はジョッキに手を伸ばし、勢い良くそれを飲んだ。

聡美と太一は、幾分心配そうな顔をしてそんな雪を見ている。

「雪、今日はやけに飲むね?」「イヤな予感がしますヨ‥」



半分ほど空いたジョッキをテーブルに戻し、口元を拭った。

周りの会話が、否応なく耳に入って来る。

「瞳ちゃんはどうして来ないの?」「インフル再発だってさ」「げーっインフルひどいね」



「ていうかそのせいで学祭の時雰囲気メチャクチャだったじゃん?」「うんうん」

「ていうか直美さん、やっぱり青田先輩がすごすぎなんですって」

「普段から鍛えてるみたいだしね」「体力ありますもんねー」






ピクリ、と雪の肩が動いた。

今まで心の表面を滑って行くだけだった彼女らの会話が、やけに引っ掛かる。

「学祭当日はダウンしてたとしてもさ、その前まではテキパキ動いてたもんね」

「ううーっイケメン!」



青田淳の話題が、雪の心を曇らせた。

そして彼女らの会話の中に、いつしか雪の名前も挙がる。

「あの日って、雪ちゃんと二人で最後まで残ってたんだっけ?」

「あ‥」



すると直美が、思い出したかのように雪に向かって口を開いた。

「ていうか雪ちゃんさぁ、学祭の日見掛けなかった気がするけど、学校来てたの?」

「ちょ、直美さん!あの日この子超体調悪かったんですよ?!」



猜疑心の込められた目で雪を見る直美に対して、聡美がすぐさま噛み付いた。

しかし当事者の雪はというと、ただ黙ってその会話を聞いている。

「前日の準備で雨に降られて!そのこと、科代(科代表)の和美にも伝えたはずですけど?!

何なんですか今更ー」
「えーそーだったの?知らなかったから」

 

聡美の説明を聞いた直美は、コロッと態度を変えた。

「ごめんね~?大変だったんだね?ごめんね~?」

「あ‥ハイ‥」「直美さん酔ってるじゃんかーったく‥



ヘラヘラと笑いながら謝罪する直美。そんな彼女に対し、聡美はプリプリと怒っている。

しかし雪はというと、曖昧に笑ってジョッキへと手を伸ばした。

「あの人、時々妙にカチンと来ること言うんだよなー」「ハハ‥」



ぐわっ!



口や態度には出さないが、やはり雪も相当頭に来ていたようだ。

込み上げる怒りにまかせ、ガブガブとビールをかっ食らう。

すると雪の耳に、予想だにしなかった人物の話題が飛び込んで来た。

「ねぇねぇ、横山ってどうしてるか知らない?」

ぶほっ!!



思わず口からビールを吹き出してしまった。

横山翔のことなど、もうすっかり忘れていたからだ。

「知らない。音信不通」「俺も知らねー」

「ていうか、あの噂聞いた?」



そして話題は、もう一人の音信不通学科生のことへと移り行く。

「平井和美、塾通い始めたらしいって」「へぇ、何かの準備してんのかな。連絡してみる?」

「いや、最近はメールも電話も出ないよ」「えーなんでだろ」

 

平井和美‥。先学期、横山と双璧で雪を苦しめた人物だった。雪の胸中に暗雲が立ち込め始める。

「次の学期、誰が復学して来んの?」「えーっと、井上と米田と上島先輩と‥」

「横山と平井ってまさか休学?」「いやーいくらなんでも休学まではしないでしょ」「かなぁ?」

うん‥今度の休学‥良い選択なんだ‥。



雪の脳裏に、横山翔と平井和美の姿が蘇った。

大学から離れるのは、あの人達とも離れられる絶好の機会だ。



しんどい理由が全て青田淳のせいではないけれど、

青田淳のことがなければ、あの二人ともここまでトラブることにはならなかった。




横山と和美とのトラブルは、謂わば二次的被害のようなものだった。

その全ての元凶は、青田淳その人にある‥。



再び胃がキリキリと痛み出すように思えた。

雪は俯きながら、あの疎ましい光景を思い浮かべる。

とにかく‥



青田淳‥



高級そうな靴で書類を蹴られた。

あの時自身のプライドまでもが、グシャリと踏み潰された気がした。

青田淳青田淳青田淳‥



あの男のせいで何もかもが狂って行く。

雪はまるで呪文のように、心の中で彼の名前を唱え続けた。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<雪と淳>閉講パーティー(1)でした。

ついにこの時が来ましたねー!

連載開始から6年、再び巡ってきた閉講パーティーです。

ここが終わりであり、始まりなんですね。なんだか感慨深いですね。

そして次回<雪と淳>閉講パーティー(2)で、冒頭へと繋がります!


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<雪と淳>空虚

2016-05-01 01:00:00 | 雪2年(曰く~閉講パーティー)
図書館を出てからも、二人は未だ興奮冷めやらぬ様子だった。

「近くに居たから、もしかしてと思って呼び止めてみたけどさぁ、

やっぱカンペキ分かりやすく教えてくれたぁー!そして今日もイケメンだったわー


「イェス!やっぱり生まれながらに先生の才能があるんデスね」



青田淳は、成績が良いだけではなくどうやら教えるのも達者らしい。

雪の心の中に、メラメラと嫉妬の炎が燃える。

「‥私よりも?」



その静かな怒りのこもった低い声を聞いて、二人はヒィッと息を飲んだ。

取り繕うように、彼らは雪にひっついて弁解する。

「ちーがうって!もちろんうちの雪以外で、ってこと!」

「1番は雪さんデス!当たり前じゃないデスか!



いつも通りの聡美と太一。雪の心は、二人の狭間で揺れている。

「チューしちゃおチュー

「青田先輩がどんなに上手に教えてくれたとしても、雪さんには遠く及ばナイということで‥」



胸の中に澱のように溜まった感情は、もう限界を迎えていた。

深く考えるより早く、雪の口が言葉を紡ぐ。

「あのさ‥」



三人を包む時が止まった。



雪は俯きながら、恐る恐る口を開き始める。

「私‥実は‥」



「今まで‥その‥あの先輩と‥」



口が重くて、なかなか言葉は出て来ない。

そしてそれを聞く聡美は、なんともユニークな顔で聞き返して来た。

「ん?」






その顔を見た途端、雪は急に現実に引き戻された。

もう、言葉を続けることは出来ない。

「ううん、何でもない」



それに加え、先ほど青田淳にヘラヘラしていた二人へのイライラもある。

静かなる炎(太一の言うところの「冷たいフィーバー」w)が炸裂、である。

「もういいの‥つーかどいつもこいつも‥。

色々教えて育んでみたって、結局何の意味も無し‥」




「あの先輩から教えてもらった方が良いみたいだし‥」

「ご、ご飯食べ行こ!奢ったげる!」「行きまショ行きまショ!」



「店までおんぶしてってあげマス!」「いいっつの!放せっ「い、行こ行こー!



考えてみたら分かることだ。

自分が語る真実は、他人にとっては荒唐無稽な話だってこと。

誰も理解出来ないであろうこのおかしな話を、

「王様の耳はロバの耳」みたいに叫べる先の井戸は無く




雪の心は諦めを受け入れ、沈む。

しょうがないじゃん



翌日になっても、胸の内は煙ったままだった。

廊下を歩いていると、嫌でもあの人に出くわす。

「青田先輩!」「おはようございまーす」「おはようございます!」「おはよう」



雪は彼のことを無視した。どうでもいいじゃないか、と半ば自暴自棄になりながら。

どうせ休学するんだし



そう考えると、もう彼に気を使う必要なんて無いと思った。

そして雪は一度も振り返ることなく、図書館へと歩いて行く。




ふぁぁ‥



期末の為の勉強で連日徹夜の雪は、アクビを噛み殺しながら机に齧りついていた。

ふと時計を見ると、短針は昼の一時を指している。

お昼ご飯‥



空腹を感じてそう思ってみるも、すぐさま雪はその意識を取り消した。

いいや



昼抜きも習慣になって、食べなくても平気になってきたな。

浮いたお金で来月、欲しかったあの服買える‥よしよし




財布の中は未だにピンチだが、ランチを抜くことでどうにかなりそうだった。


しかしそんな雪に、何やら昼食が回って来ている。

「はいコレ、雪さんの分。青田先輩から皆への差し入れみたいデスよ。

つーかどこ行ってたんスか?」




太一が差し出したそのパンは、青田淳が皆に配っていたものだという。

「図書館‥」



雪はそう答えた後、パンから視線を外して太一にこう言った。

「私はいいや。太一食べなよ」「イェス」



穿った考えが頭をもたげて行く。

お金持ちの先輩からのそれは、良く言えば差し入れだが、悪く言えば施しだ。

脳裏に浮かぶ、あの忌々しい光景‥。



心のどこかが、小さくひび割れて散って行く。

先輩とのことを話そうとすると必然的にしなければならない、

私のプライドが粉々になったことへの説明までは‥




敢えてする必要なんてない。

ただ、それだけのこと




聡美にも太一にも言い出せないのは、信じてもらえないだろうという理由だけではなかった。

自身ですら目を背けたいあの現実を、掘り出して晒す必要なんて無いだろうと思っただけだ。



とうとう雪は何も言わなかった。

誰にも何も伝えること無く、ただ前を向いて歩いて行くだけだ‥。







とうとう、期末試験期間に入った。

学生達は皆一様にスケジュールをこなして行き、終わると皆晴れやかな顔でキャンパスを後にする。



雪はというと、中庭のベンチに腰掛けながら、疲れ果てた顔で空を見上げていた。

静かな音楽を聴きながら、ぼんやりとした表情で。



終わった‥



蓄積した疲労と押し寄せる眠気で、身体が鉛のように重い。

そしてテストの出来を反芻すると、心まで重たくなるようだった。

奨学金‥貰えないだろうな



どんよりとした鈍色の空を見上げていると、だんだんと現実が曖昧にぼやけていく。

まぁ‥どうせ休学するんだから‥



これで全てがリセットされると思うと、心の中にぽっかりと穴が開くような気分だった。

瞼の裏に、今までのことが走馬灯のように浮かんでは消える。

あれだけ色々な事を経験したに関わらず、再び静かな日々が戻って来ている。

するとその全てが、些細な出来事であったかのように感じられた




それでも心に傷が残らないわけじゃないし、これからも度々思い出すだろうけど



今ではもう、何も無かったかのようだ



経験した苦い思いも、苦しい記憶も、全てが空へと溶けて行く。

ああ空が‥灰色にぼやけて‥



この胸の中で煙る靄も、澱のように溜まった感情も、全てが空へと昇って行く。

‥虚しい



もっと嬉しいかと思っていた。

もっとせいせいするかと思っていた。

けれど胸の中に残るのは、がらんとした何もない空間だった。

空虚だ‥



雪は暫く、そのまま空を見上げ続けた。

まるで雪の心の中を表しているかのような、何もない空だった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<雪と淳>空虚 でした。

淳の差し入れのパン‥何パンなのか気になる‥。

パンといえば、以前亮が雪によこしたパンを思い出しますね。


<仲直り攻撃>より

亮からのパンは素直に受け取れますね‥。


この頃の淳のアプローチは、まるでネズミ(雪)が通る道にチーズを置いて行くような感じですよね。

しかしこの後、思いもよらない展開(雪の休学決意)になり、直接チーズを渡すようになっていくんですね。

ということで次回からついに、あの冒頭の飲み会に繋がります。

<雪と淳>閉講パーティー(1)です。


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