Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

<亮と静香>高校時代(32)ー後日録ー

2017-02-02 01:00:00 | 河村姉弟3<向けられた背中~後日録>
あの事件から数日後のことだった。



B高校、校舎裏の片隅。

”ショパン”が傷だらけになって地面に倒れ込んでいる。



彼が顔を上げたその先には、鬼のような形相で鞄を振り上げる河村静香が居た。



静香はその鞄で、力任せにショパンを打った。彼は身を縮こまらせてされるがままだ。

「うちの疫病神の手を潰してくれて!どーも!ありがとねぇ?!あぁ?!このクソ野郎が!!」



ひとしきり打ち終えた後、静香は苛立ちを持て余しながらこう続ける。

「まぁあたしもね?」



「才能に天狗になってるアイツにムカついてはいたけど、

今や家で死んだみたいに大人しくなっちゃったわよ」




「お陰様で」



「うっ‥うっ‥ひっ‥」



静香が皮肉たっぷりにそう言っても、ショパンはただメソメソと泣くばかりだった。

その弱々しい気性が、いっそう静香の気を逆撫でする。

「何て?」



「言えよクソ野郎!」



「アンタのせいであたしの人生どん詰まりだよっ!

なぁっ?!どーすんの?!どうしてくれんだよこのっ‥!!」


「止めろよ!!」



ショパンは声を振り絞ると、静香から顔を逸して言葉を続ける。

「殴りたきゃ殴ればいい!けど僕に言ったところで何にもならない!

僕だって何もかも失ったんだよ!僕が出来ることなんて何一つないんだ!!」




その目には涙が浮かんでいた。

「僕は‥僕はただ淳君の言う通りにしただけなのに‥」



ショパンは震えながらそう言うと、うずくまるかのように頭を抱えた。

「衝動的にやってしまっただけなんだ!

まさかこのことで援助まで切られるなんて思いもしなかったさ!こんな風に捨てられるなんて!」




ショパンが口にしたその真実に、静香は思わず目を見開く。

「どういうこと‥?」



ショパンは数日前の話をし始めた。

瞼の裏に浮かぶのは、練習室でピアノを弾く河村亮の姿。



鼓膜の裏に響くのは、滑らかに響く音の洪水。

そして胸の中に渦巻く、憎しみと嫉妬‥。






自分の順番が来たのにうずくまったままのショパンを見て、淳が話し掛けた。

練習室から聞こえてくる亮の演奏をバックに、二人の会話は進む。

「大丈夫。恥ずかしく思うことじゃない」



「ピアノ、また今度聴かせてな。悩みがあるなら聞くし。俺で良ければ」



ショパンは淳のその言葉を聞いた後、嬉しくて思わず涙ぐんだ。

誰の目にも止まらない劣等生の自分に、この人は気が付いてくれるんだと。

そんな”優しい級長”に、ショパンは一気に傾倒して行く。







級長は快くショパンの相談に乗った。

囚われたその鬱屈した世界に、一筋の道筋を示しながら。

「‥腹が立ったんなら吐き出さないと。どうして溜め込むの?

泣くほど悔しい気持ちにさせた相手がいるのなら、」




「ありのままぶつければいい」





彼の狙い通りショパンは罠に掛かった。

彼に繋がる痕跡を何も残さずに。





しかし彼女は気が付いていた。

彼と幼い頃から一緒だった静香には、その思惑が手に取るように分かる気がしたー‥。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<亮と静香>高校時代(32)ー後日録ー でした。

なるほど。静香はショパン君から直接話を聞いていたのですね。

しかし淳の口から「ありのままぶつければいい」だなんて‥なんと説得力の無い‥(苦笑)

このエピソードが静香にとっての切り札だったんですね。もしやこのことも会長にチクったのか‥?

次回は再び現在へ戻ります。

<足掻き>です。


☆ご注意☆ 
コメント欄は、><←これを使った顔文字は文章が途中で切れ、
半角記号、ハングルなどは化けてしまうので、極力使われないようお願いします!

人気ブログランキングに参加しました
人気ブログランキングへ

引き続きキャラ人気投票も行っています〜!

<亮と静香>高校時代(31)ーその日(3)ー

2016-03-14 01:00:00 | 河村姉弟3<向けられた背中~後日録>
「ああああああっ!!」



叫びは、空に吸い込まれた。

抱いていた夢も、希望も、期待されていた将来も、

その日、何もかもが砕け散った。






「あ‥」



「ああ‥ あ‥」



衝撃の後に走る、凄まじい痛み。

左手はまるで地獄の業火に焼かれているかのように熱い。

「おい!逃げるぞ!」「アイツおかしいんじゃねぇの?!」



その場に転がる亮とふらつくショパンを残して、岡村達は走り去った。

ショパンは青い顔をしながら、ブツブツと何かを呟いている。

「淳君の分まで‥僕が‥」







”淳”

その名を耳にした途端、亮の思考が止まった。








打ち捨てられた鉄パイプ。

目の前に広がる白い空。



砕け散った、自身の全て。








暗澹たる絶望だけが、目の前に広がっていた。

カウントダウンは終わった。何もかもが、終わったのだ。







不意に、熱を持った左手が疼いた。

自身の鼓動に合わせて、ドクンドクンと脈を刻む。



脳裏に、西条和夫と話す淳の姿が浮かんだ。

鼓動はだんだんと大きくなる。



西条はあの後、三年にシメられて入院した。

まるで見えない何かに操られているように、用意されたトラップに嵌ったかのように。



亮は、西条の噂を聞いた淳を見ていた。

あの時感じた、あの違和感。

今アイツ、笑ったか‥?



ドクン、ドクン‥





刻む鼓動に合わせて、再びカウントが始まった。

けれどそれは希望へと向かう類のものではない。

カウントが進めば進むほど、深い溝の奥底へと落下して行く類のものだ‥。







「待てやっ‥!」



全身の力を振り絞って、亮は走り、叫んだ。

傷だらけの身体を引き摺りながら、血眼になって淳を追いかける。

「そこで止まれっ!止まりやがれ!」



周りの学生達は皆、血だらけの亮を見て小さく悲鳴を上げ後退った。

しかし亮の目には周りの状況など目に入らない。目の前に居る憎きその相手しか。

「この野郎っ‥!」



ガッ!



背を向けたままの淳の肩を、亮は右手で思い切り掴んだ。

淳は、ゆっくりと振り返る。

「‥お前がやったのか?」



「あぁ?」



「あん時みてぇに‥」



”お前行けば?”と、西条に話した淳が意図した企みを、

その笑顔の下に隠した暗い闇を、今亮はありありと感じることが出来た。

熱を持った左手が、ドクンドクンと疼いている。

「全部‥滅茶苦茶になるまで‥」



「お前がやったんだろ!!お前が!!!」



「オレにっ‥!」



右手はゆっくりと淳の肩を滑り落ちた。辺りに響く悲痛な亮の叫び。

しかし次の瞬間耳にした淳の言葉は、恐ろしいほど冷徹だった。

「いや、」



「俺じゃない」



「お前の自業自得だろ」



ぐらり、と目の前が揺れる。亮の口からは、言葉にならない声だけが漏れた。

「お前‥」

「よく考えろ。また思い切り暴れたみたいだな。頭に来たからってそれをそのまま吐き出すんじゃない」



「全部お前が撒いた種だろ」



ピッ、と引かれた境界線が、淳と亮の世界を分ける。

目には見えないであろうそれを、今亮は絶望の最中ではっきりと感じた。



思わず力が抜け、足元がふらつく。

「な‥何を‥」



「今何て‥」



腫れた亮の左手を、淳は視線だけ流して見やった。

無言のまま、ただじっと亮を凝視する。

「ゲホッ‥ゲホゲホッ‥」



咳をすると、キン、と頭が傷んだ。

思わず亮はこめかみを押さえ、目眩を感じて瞼を瞑る。

「う‥」



そんな亮を目の前にした淳の言葉は、ただひたすらに冷淡だった。

「ボロボロだな」



「愚かな意地を張るのは止めて、病院に行け」



亮に背を向ける淳。



まるでスローモーションのようなその光景を、

今でも亮は鮮明に覚えている。



去り際の淳の、あの背中も。



あの、表情も。






「お前‥笑ったか?」



亮は掠れた声でそう問うた。

淳は目を見開きながら、ゆっくりと亮の方へと振り向く。



疑心が、恨みが、憎しみが、そのカウントを加速させた。



「お前今笑ったのか?!」



亮は狂ったように大声で叫び出した。

その尋常でない様子を見て、男子学生達が亮を取り押さえる。

「お前ぇぇぇぇっ‥!」

「落ち着け!」「誰か先生呼んで!」



淳の瞳から光が消える。

「青田、行けよ!こいつおかしいって!」



そしてそのまま、淳は亮に背を向けた。

「どこ行きやがる?!ハッキリ言えよ!」



「お前がやったんだろ?!」



「お前がっ‥!」



遠くなる背中。見えなくなる真実。

目眩と頭痛のせいで、目の前が霞んで行く。

「待てや!待ちやが‥」



「う‥」



左手が、凄まじい痛みで燃えている。

まるで業火に焼き尽くされて行くかのように。

徐々に、亮の意識は遠退いて行った。

「あううっ‥!」










これが、亮と淳の世界を分けた事件の全てだ。

深く暗い溝の奥底を、今も亮は歩いている。

カウントはあの日からずっと続き、今も途切れることはない。

いつか終わりが来るのだろうか。


この長い暗闇から、抜け出せる時が‥。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<亮と静香>高校時代(31)ーその日(3)ー でした。

これで、亮の過去回想は一旦終わりです。

最後、亮が淳に「お前、今笑ったのか?」と問い詰めますが、

本当に淳は笑ったのでしょうかね。

あくまで私個人の考えですが、淳の笑みは亮の憎しみが生んだ幻想なのかもしれない、と思いました。

そしてその幻想は今も続いている、と。

まぁ真実は分かりませんが‥。


さて次回から、再び現在へと戻ります。<呪縛>からの続きですね。

次回<解放>です。


☆ご注意☆
コメント欄は、><←これを使った顔文字は化けてしまうor文章が途中で切れてしまうので、
極力使われないようお願いします!

人気ブログランキングに参加しました
人気ブログランキングへ

引き続きキャラ人気投票も行っています~!

<亮と静香>高校時代(30)ーその日(2)ー

2016-03-12 01:00:00 | 河村姉弟3<向けられた背中~後日録>


岡村泰士とその仲間vs亮の喧嘩が始まった。

相手は腕っ節の強い男五人といえど、亮は全く引けをとらない。



しかし時間が経つにつれ、亮の形勢は不利に傾いた。

殴られ、蹴られ、引き摺り倒され‥。

気がつけば、地面には無数の血痕が落ちていた。



やがて亮は満身創痍で、地面に転がった。

土に頭をつけたまま、ゴホッゴホッと咳をする。



そんな亮の姿を、岡村達五人は立ったまま眺めていた。

しかし彼らも亮と同じくらい、顔や身体に傷を負っている。



亮は地面に突っ伏しながらも、目を見開いて彼らの方を見上げた。

はっ、はっ、と荒い呼吸が口から漏れる。



目に入って来た空や木々は、まるでピントが合わない映像のように揺れていた。

耳の奥からキン、と変な音がする。三半規管をやられたのかもしれない。







左手は多少傷を負っているが、無事だった。

だが身体中が痛むのと襲ってくる目眩で、暫くは立ち上がれそうにない。

「はっ‥はっ‥」



「ぐっ‥」



それでも亮は身体に力を入れて、起き上がろうと試みた。

しかし頭を上げかけたその瞬間、強い衝撃が後頭部に走る。

「うっ‥!」



亮の頭を踏んだのは城崎だった。

しかし彼はどこか嬉しそうな表情で、亮にこう言葉を掛ける。

「お前、結構やるじゃん。よくここまで持ち堪えたな。傷が治ったら連絡しろや」

「ちょ‥城崎さん!勘弁して下さいよ!」



亮を仲間にしたそうな城崎に、岡村は思わず血相を変えた。

しかし亮は城崎に向かって尚も吠える。

「消えろや!」「おーおー」



城崎が亮の頭を蹴った為、亮の顔は横を向いた。

そしてそこから見えた光景に、思わず亮は目を見開く。







その男は躊躇いながら、ゆっくりと歩いて来た。

亮をこの場所に呼びつけた張本人‥。

「お前‥ショパン‥」



ショパンはビクつきながらも、こちらに向かって歩む足を止めることはしなかった。

するとショパンに気付いた岡村が、声を上げて彼を呼ぶ。

しかしショパンのことを知らない城崎は、怪訝な顔だ。

「お?こっち来いや。良いとこに来たな~」「誰?そいつ」

「あぁ、コイツが亮をここに呼び出したんすよ」「どうやってだぁ?」



亮とそのおどおどした男との共通点が見出だせない城崎は懐疑的だが、

岡村は上機嫌だった。ショパンの肩をポンポンと叩く。

「河村をここまでヤレたのはお前の功績だな!」



ショパンの肩に手を置き、話を続ける。

ショパンにとってそれは、魅惑的な響きだった。

「つーかぶっちゃけよぉ、

同じ援助受けてる者同士だっつーのに一方的に見下されてよぉ、

どんだけ傷ついたって話だよな?だろ~?」




一言一言が、胸の中で燻ぶる火種に油を注いで行く。

「ここにいる人間の中で、一番アイツに

痛い目見せてやりてぇのはお前だよな?」
「あ、マジで?」



油は勢い良く、火種に引火した。

「よぉ、お前の持ち分だ。一発ヤレよ」



城崎は仲間に指示を出し、彼らは亮を押さえつける。

「おい、捕まえとけ」「この‥!クソッ‥離せ‥!」

「悪ぃがあと一発だけな。でもこれで終わりだ。したら連絡しろや」



「う‥」



三人がかりで押さえつけられ、身動きが取れなかった。

絶望へのカウントダウンが聞こえる。結末は、もうすぐそこまで迫っている。

「ほら、一発スッキリやっちまえよ」



「‥‥‥」



喧嘩などしたことのないショパンは、城崎の言葉を前にして思わずたじろいだ。

しかしあれほど偉そうにしていた河村亮は今や、地べたに顔を押さえられ、身動きがとれない状態だ。

「お前‥」



亮は信じられないものを見るかのように、自分の方を見ている。

そして次の瞬間彼の目に入って来たのは、憎いほど妬ましいそれだった。

自分がどんなに足掻いても手に入らぬ、輝かしい希望の左手ーーーー‥。








その瞬間、ショパンの胸の中で業火が燃え盛った。

あれさえなければ、彼さえいなければ、あの手さえ奪ってしまえば‥。



ショパンの暗い瞳の中に、打ち捨てられた鉄パイブが映った。

彼は心を焼き尽くすその炎に突き動かされ、勢いに任せてそれを握る。



「あ?」



ショパンは全力で亮の元へ走り、その腕を振り上げた。

亮の顔が驚愕に歪み、辺りには叫び声が響き渡る。

「ああああああああ!!」

「!!おい、おい!ちょっ‥待っ‥止めろ、ショパン‥」

「僕はショパンじゃ‥」



「なんだこいつ?!」

「おい!お前はそれで殴られたことないからわからんだろーが‥」「ちょっと待っ‥!」









鉄パイプが振り下ろされるのを、亮は瞬きもせず見つめていた。

カウントダウンが聞こえる。

5,4,3,2,1,


「僕はショパンじゃないって言ってるだろっ‥!!!」






‥0.

カウントが終わった。


そこには、暗澹たる絶望が広がっていた。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<亮と静香>高校時代(30)ーその日(2)ー でした。

ついに亮の左手事件の真相が明らかになりましたね。

なんとも辛い‥本当に辛い‥。

次回でその日は終わります。


次回<亮と静香>高校時代(31)ーその日(3)ー です。


☆ご注意☆
コメント欄は、><←これを使った顔文字は化けてしまうor文章が途中で切れてしまうので、
極力使われないようお願いします!

人気ブログランキングに参加しました
人気ブログランキングへ

引き続きキャラ人気投票も行っています~!

<亮と静香>高校時代(29)ーその日(1)ー

2016-03-10 01:00:00 | 河村姉弟3<向けられた背中~後日録>
その日、学校にて、静香が血相を変えてこんなことを言い出した。

静香は焦っているのか、早口で捲し立てる。

「あたし‥なんか不安になって、あのチビ追っかけたの。

そしたらアイツ、ちょくちょく淳ちゃんにチクってんのよ!」




「アイツあたし達のポジ狙ってんじゃないの?!

ちょっとどうにかしてよ!アンタのせいでしょ?!」




それを聞く亮の視線は、静香ではなくとある人物に注がれていた。

壁の向こうから顔を出した、張本人のその彼に。



”ショパン”は、亮と目を合わせずに、小さな声でこう言った。

「お前‥授業終わったらちょっと出て来いよ」



彼が亮に敵対心を持っていることは、先日のやり取りでとうに分かっていた。

今静香が言ったことも合わせて、一度決着をつけねばならないだろう。

その契機が向こうからやって来た、そう感じた亮は、彼の申し出を引き受ける。

「おお。オレもちょっとお前に話あんだわ」

「ちょっと!こっち来なさいよ!アンタでしょ?!あの噂流したの!」



静香がショパンに向かって大声で叫んだが、彼はそれには答えず、そそくさと二人に背を向けた。

「工事中の別館に来いよ‥」



そのどこかオドオドした彼の態度を見て、静香は余計頭に血がのぼったようだ。

「ちょ‥なんなのよアイツ!!あたしと喧嘩しても負けそ‥うっ?!」



吠える静香の口を、亮は無言のまま手の平で塞いだ。

ショパンが去った方向を見ながら、チッと舌打ちする。

「うううーーっ!」



突如、嫌な胸騒ぎがしたが、行くしか道は無い。

そして放課後亮は、指定された別館へと向かった。






そこで待ち受けていたのは、想像より遥かに悪い状況であった。

岡村泰士をはじめ、腕っ節の強い五人もの男が亮を囲んでいる。



岡村が用意したであろう、恥も外聞もない今の状況。思わず亮は笑ってしまった。

「あー‥はは‥」



「副級長の兄貴まで呼ぶとはな、ご立派なこって」

「おお。手を借りたぜ。なりふりかまっちゃいられねぇ」



中心でふんぞり返っている岡村だが、その顔面は亮にやられた傷で痛々しいほどだった。

「乞食野郎が、力だけ無駄に強ぇんだからよぉ‥クソが

つーか言ったろ?俺の弟見下してんじゃねぇってよ」




「アイツの前でたっのしそーにピアノ弾いてたらしいじゃねーか」

「は?泣きながら弾くヤツなんている?」



その亮の返しに、副級長の兄‥城崎は、ウケるwと言って笑っていた。

しかし岡村は、亮の何もかもが気に入らない。



とりわけ不満なのが、亮のその態度だった。

「つーかよぉ、お前どうしてこんな堂々としてんの?」



男達は亮を囲みながら、亮の素行や態度についての文句を口にし出す。

「もうシッターもいねーことだし、ここいらが限界なんじゃねーの?

テメーがあまりにもしぶといから、こんな人数でシメなきゃいけなくなったんだからな?」


「教授だったっつーお前のジイさん、とっくの昔に死んだらしいじゃん」

「そんじゃ今までずっと青田に寄生して生きてきたんかよ」「リアルにシッターだったなw」



「つかお前、不法滞在なんじゃねーの?一回役所行って確認しねーとw」



小さい頃からいつも聞かされてきた罵詈雑言。

亮は無言のまま、繰り返されるその貧弱なレパートリーにウンザリしていた。

しかし尚も岡村は彼への中傷を続ける。

「は‥結局何も持ってねぇ乞食野郎が、今まで青田頼みで調子乗ってたっつーことだよな。

つーか俺の乞食の概念が崩壊してんだけど。

乞食って、どこでもペコペコ頭下げてへりくだるモンじゃなかったっけ?」


 

「それが世の中の道理ってモンじゃねーのかよ?」



岡村は亮に顔を近づけ、下からメンチを切った。

しかし亮は尚も無言のまま、上から岡村を見下すように睨み続ける。



‥だが実際は違った。

亮は今、ピンチに直面して焦っているのである。

あー‥クソッ 終わった



睨む姿勢は崩さぬまま、今の状況を冷静に踏まえて考える。

今日は人数も多いし、まず勝てねぇな



岡村とその仲間だけならまだしも、悪で有名な城崎とその仲間が居ては勝ち目が無い。

亮は頭の中ですばやく算段を立てた。

つーかむしろ適当に相手して負けとくか。

したら今後そうそう喧嘩ふっかけては来ねーだろ




そろそろ限界だし、手にだけ気をつけて‥



ぐっと拳を握り、その長い指を守る。

亮は岡村から顔を逸らしながら、ふぅと一息息を吐いた。

「今日こそは容赦しねーぞコラ」



岡村のその言葉が、ゴングを鳴らした。

亮は今までとは比較にならぬ程の眼力で彼を見据える。



そして岡村達五人vs亮の、最後の戦いが始まった。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<亮と静香>高校時代(29)ーその日(1)ー でした。

遂にこの日がやってまいりました。。

結論が分かっているだけに過程を見るのすら辛い。

けれどここが終わりであり、始まりでもありますね。

次回も続きます。

<亮と静香>高校時代(30)ーその日(2)ー です。

☆ご注意☆
コメント欄は、><←これを使った顔文字は化けてしまうor文章が途中で切れてしまうので、
極力使われないようお願いします!

人気ブログランキングに参加しました
人気ブログランキングへ

引き続きキャラ人気投票も行っています~!

<亮と静香>高校時代(28)ー自信とプライドー

2016-03-08 01:00:00 | 河村姉弟3<向けられた背中~後日録>
亮はくさくさした気分で廊下に出た。

前にも後ろにも進めない今の状況が、亮の心を苛立たせる。



すると数メートル先から、亮に向かって野次を飛ばす人物が居た。

「乞食!」



亮と同じく顔中傷だらけの岡村泰士は、ニヤリと口角を歪め中傷を口にする。

「お前、今に見てろよ。シッターにも見捨てられてよぉ」



「とうとう頼みの綱も切れたな!ww行こーぜ」



亮が青田家から援助を受けているという事情が明らかになった途端、

岡村は事ある毎に突っかかり、喧嘩を仕掛けて来た。

繰り返されるくだらない悪口。

亮は何も言い返さず、息を吐いてただ前を向く。



脳裏に、こちらを向いて微笑む青田会長の姿が浮かんだ。

「私を父親のように思ってくれ」



その言葉とあの温かな微笑みを思い出すと、胸の中に自信が湧いてくるのを感じる。

そうだ。会長が居る事実は変わんねーんだ、誰が何出来るって言うんだよ。

そもそもオレのこと守ってくれたのは会長じゃねーか




亮を支える自信は、後ろに青田会長がついていてくれることだった。

そしてもう一つ、亮を支えるものがある。

それに‥オレにはこの手がある



輝かしい未来へと誘ってくれる、希望の左手。

あの野郎共がゴチャゴチャほざいたところであと少しで卒業だし、

すぐにピアノで大成功して独立出来る




最後に勝つのは誰なのか、そっちこそ見てやがれ!



皆に見下されても、どんなに中傷されても、その自信とプライドが亮を支えていた。

通りすがりの学生がヒソヒソと自分のことを話しているのが聞こえたので、亮は振り返って彼らに声を掛ける。

「は?話があんならこっち来てハッキリ言えや」



亮と目が合うやいなや、二人は逃げ出して行った。

誰が何を言おうと関係ない、自分にはこの手があるー‥。

亮はそんなプライドを携えて、一人ピアノ室へと向かった。









その日の亮の演奏は、一段と熱がこもっていた。

若干乱暴に鍵盤を叩いてはいるが、却ってそれが力強く鮮やかに響く。



仏頂面でその演奏を聴くのは、亮のことを良く思っていない岡村泰士の弟だ。

同科の友人と共に、亮のピアノを聴いている。



あの噂が流れた後だったので、泰士の弟は意気消沈している亮を期待していたのだろう。

全く予想外れの現状に、彼はイライラを持て余していた。

「おお‥むしろ何か上手くなってね?」

「るせームカつく



演奏も、亮自身も、少しも輝きを失くしてはいなかった。

その事実は、彼を妬む者達の表情を曇らせる。



ピアノと呼ばれているこの青年もまた、その一人だった。

自分より何もかも優れている亮を前にして、彼はあからさまに顔を曇らせる‥。









「あークソッ 岡村のヤツまたかよ‥」



再び岡村泰士と殴り合った亮は、傷だらけの顔を庇いながら一人廊下を歩いた。

アイツだけは最後まで必死だな。

どうせオレに殴られんのが関の山なのによ‥アイツだけシメりゃ落ち着くんだがなー‥


「お‥おいっ‥!」



突如背後から、上ずった声が掛かった。

また何か文句をつけられるのかと、気怠そうに振り向く亮。

「‥んだよ、またかぁ?」



しかしそこに居たのは、予想外の人物だった。

「お前‥ショパンじゃん」



亮は彼のことを”ショパン”と呼んだ。以前は”ピアノ”だったが。

ショパンは亮のことを精一杯睨みながら、震える声で口を開く。

「お前‥何か気づいたことは無いのか?」「は?」



「僕に対して申し訳ないとか‥無いのかよ‥」「何が?つーか何を?」



突然切り出されたショパンの話に、亮は全くついていけなかった。何しろ身に覚えが一つもないのだ。

しかしショパンはまるで積もり積もったものを吐き出すかのように、上ずった声で話を続ける。

「お前‥結局、僕と同じように援助受けてるんじゃないかよ‥どうして僕のこと無視するんだよ!」

「はぁ?いつオレがお前が援助受けてるからって無視したよ?お前が‥」

「ほらな!」



「また覚えてないだろ!お前、いつも僕を無視するじゃないか!

僕の名前はピアノでもショパンでも無い!」




ショパンは肩を震わせて声を振り絞った。

亮のことを見上げながら、どこか不気味な笑みを浮かべる。

「でもな‥!お前ももう八方塞がりだろ?」



「お前は今から、僕と同じように‥」「あー‥」



ショパンがそこまで口にした時、亮が口を開いた。

頭を掻きながら、ウンザリしたようにポツリと漏らす。

「どいつもこいつも今がチャンス、ってか‥クソッ」



「!!」



亮は、ショパンの胸ぐらを強く掴んだ。思わず彼は目を剥く。

そして亮はショパンと同じ目線まで背を屈めると、瞳孔の絞られた瞳でじっと彼を見据えた。

「そんで?今オレは卑屈になってっか?

オレがリアルに乞食だった時だって、お前より一億倍は堂々としてたわ」




「援助受けてるって先にぶっちゃけて、ヘコヘコへりくだってたのはお前の方だろうが。

皆がそういう目で見て来んのは、オレのせいか?あぁ?

フツーに考えて、テメーがキツイからってオレのせいにすんのはおかしいだろうが?あぁ?」




間近で目にする亮の迫力に、ショパンは真っ青になって固まった。

亮はグッと歯を食い縛ると、至近距離でショパンを睨み、こう続ける。

「皆オレが地面に這いつくばんのを待ってるみてぇだが、

どんなにすげぇヤツだとしても、誰もオレを踏みつけられやしねぇ」




「分かったか?ショパン」



亮は胸ぐらを掴んだ手に、より一層力を込めた。

そのまま亮が屈めた背を伸ばすと、ショパンの身体が持ち上がる。

「お前がある日突然ピアノでオレに勝ったとしても、オレは別に驚きやしねぇ。

お前はお前で、オレはオレだからな。オレはお前のことなんて、クソほども気にしてねぇんだよ」




「オレのこと気にしてんなバカみてぇなことしてる時間があんなら、頼むからぁ、」






ショパンのシャツがギリギリと軋むほど引き寄せた後、亮は勢い良くその手を放した。

ふらつくショパンに半身を向けて、亮は最後にこう言い捨てる。

「練習しろ、練習。それがお前が堂々としていられる唯一の方法だろが」



「分かったな?」








ショパンは顔を真赤にさせながら、何も言えずにただその場に立ち尽くした。

亮はウンザリしたような声を出しながら、ショパンの方を振り返りもしない。



だから亮は気がつかなかったのだ。

ショパンの身体が、その屈辱と憎悪で震えていることに。









現在、亮はこの時のことをこう振り返っている。


人生は、幸福と転落の繰り返しだ。



滅茶苦茶に壊れた日常の狭間にも、

オレに対して好意的な人間はいつも周りに居たから


 

 

誰かがオレのことを殺したいほど憎んでるなんてこと



それはやっぱり、あの時は分からなかった‥








亮の持つキラキラと光る自信とプライドが、見るべきものを見えなくさせていた。

絶望へのカウントダウンは、もうすぐそこまで迫っている。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<亮と静香>高校時代(28)ー自信とプライドー でした。

今回、なんとも個性的な台詞がありました。

それがこちら。直訳だと‥↓

「ヒモが切れたひさごだな、お前」



ひさ‥ご‥?

私、ひさごというものを知らず「???」だったのですが、

これがひさごだそうです。



おそらく‥「ヒモが切れて落ちるひさご」=「頼るものが何もない状態」みたいな意味‥でしょう!

記事では「頼みの綱が切れる」がちょうど良いやと思ってそう訳しました


さてピアノ君改めショパン君の、亮に対する憎しみがどんどん深くなって行きますね。

次回は<亮と静香>高校時代(29)ーその日(1)ーです。

遂にその日がやって来ます。


☆ご注意☆
コメント欄は、><←これを使った顔文字は化けてしまうor文章が途中で切れてしまうので、
極力使われないようお願いします!

人気ブログランキングに参加しました
人気ブログランキングへ

引き続きキャラ人気投票も行っています~!